らい
2015-09-27 23:01:02
2993文字
Public りついず
 

世界で一番おいしいよって笑ったら多分、怒ると思う

瀬名受けワンドロ・ワンライ企画様/テーマ「クッキー」/りついず+Knights


 Knightsのリーダーである月永レオの帰還を祝うため、ささやかな歓迎会が開かれることになった。貸し切った会場は、ちいさな教室ではあるけれど―――簡素な折り花と、ちょっとした菓子は並べてあるし、近場の百均でクラッカーも調達してある。多少こぢんまりとしているが、祝いの準備はひととおり整ったはずだった。

 ところが本来の主役であるレオは、作曲に夢中になっていた。床に突っ伏して、ひとりで鼻歌を奏でている。嵐と司の共同作業で作ったクッキーだけが、テーブルにぽつんと置かれたままであった。


「Leader!私たちがせっかく作ったのですから、そろそろお召し上がりになって下さい!」
「司ちゃん、そんなに怒ったらカワイイ顔が台無しよお」
「ちょ~っと待って!キてるキてる!宇宙から解き放たれしインスピレーションがおれの脳髄を刺激する~~~!!!」


 自由奔放なリーダーに痺れを切らす司と、そんな後輩をなだめる嵐。ふたりの心中など気にも留めずにペンを振りかざすレオ―――ごった返している三人をよそに、凛月と泉は、数分前からまるで放ったらかし状態になっていた。隣同士の椅子に腰掛け、テーブルに頬杖を突きながら、その様子をぼんやりと眺め続けている。


「あいかわらず自由だねえ」
「くまくんがそれ言うの?まぁ俺もアイツの王様ぶりには、ほとほと呆れてるけどぉ」
「おんなじセリフを返してあげる。どっちかっていうとセッちゃんも『あっち側』なんじゃないの」
「はあ?アイツと一緒にしないでよ」


 泉が腕を組みながらそっぽを向く。ほら、そういうところが王様っぽいっていってんの。凛月がニヤリと笑うと、泉は「う、ざ、い!」と凛月の頬をつねった。


「セッちゃん、いたい。あう。あう。いたい。ギブ」


 半目の状態でお手上げポーズを取ると、泉がようやく手を離す。「思い知った?」と言わんばかりのドヤ顔で見つめる泉に、凛月はおもわず笑いたくなった。夜になったら泣くほど思い知らされているのはそっちのくせに。だが、その言葉は口に出さずに飲み込んでおいた。うっかり喋ると、返り討ちに遭いかねない。


「っていうか、せっかくお祝いに来てあげてんのにさあ。あいつがあの調子じゃあ、ここに来てる意味ないよねえ」


 泉はハア、と短い息を吐いて、自分たちの目の前に置かれているクッキーを手に取った。レオを祝うために作られたものであるのに、未だに待ちぼうけ状態となっているそれは、ほのかに甘い匂いを放っている。


「セッちゃん、それ、食べるの?」
「まさか。太るでしょ」


 なるくんとかさくんには悪いけど。そう言いながら、泉は凛月の目の前でクッキーをちらつかせる。


「くまくんは?食べないの」
「こういうのってリーダーから食べるのがセオリーでしょ」
「とは言っても、あいつ作曲に夢中だしね。クッキーのことなんか眼中にないんじゃない?」


 凛月はふたたび三人の方向を見やる。無数のルーズリーフを床に広げて、インスピレーションがどうのこうのと騒いでいるレオ。マイペースを貫くリーダーにガミガミと説教を続ける司。困ったものねえ、と頬に手を当てている嵐。事態の収束を待っていたら、いつまでも食べられなさそうだ。


……うん。……食べちゃお」
「それじゃあ、はい」
「え?」


 凛月はポカンと口を開けながら、少しばかり驚いた。なぜなら手に持っていたクッキーをそのまま差し出されたからである。


これって、俗にいう”あ~ん”?」
「はぁ?うざい。……とっとと取りなよ」


 愛想のなさは天下一品といったところである。しかし泉の手はぶれることなく、凛月に向けられていた。なんだかんだでリーダーが帰ってきたことが嬉しいのだろうか。今日はわりと機嫌がよいほうなのかもしれない。それじゃあ、お言葉に甘えて―――凛月は誘われるように、泉のクッキーに顔を近づけた。
 レオの叫び声が響き渡ったのは、その瞬間だった。


「できたーっやったーっ!!!稲妻の如きインスピレーションが生まれる!!!そしておれの宇宙で光瞬く星となる~!!!やっぱり、おれは天才だ~っ!!!!……おお!セナ、なんだそれ!!!うまそーーーじゃん!!!いただきまーーーーす!!!」


 訳のわからない台詞をワンブレスで投入しながら、レオが飛び出してくる。泉と凛月のあいだにすっぽり埋まったレオは、何の躊躇いもなくクッキーをぱくり、と食べた。それも、泉の指ごと。

 泉は目を見開きながら「ちょっと!あんた何してんの!?」と狼狽し、司は「話はまだ終わっていません!」と激昂している。そして嵐は、「もう~っ何なのよ~っ!?」と呆れ果てていた。凛月はそんな四人の姿を憮然と見つめる。やがて、クッキーを喉の奥に押し込んだレオが、「ぷはー、おいしー!」と上機嫌にほほ笑んだ。


「おお、リッツよ!”王様”よりも先にクッキーを食べてしまうとはなさけない~!」


 わっはっは、と特徴的な高笑いを飛ばしながら、レオが凛月の肩をバンバンと叩く。


「このクッキーは筆舌に尽くしがたいほどにうまいなっ!胃という名のブラックホールに、革命という名のビックバンが起きたぞーっ!リッツ、セナ、ナル、ありがとなーっ」
「ぐぐぅ!Naturalに私を無視するとは!」
「そうよ、ひどいわぁ。このクッキーはアタシと司ちゃんで作ったのよぉ」
「ほう、『新入り』にしてはよくやるじゃん」
「『新入り』ではありません!『朱桜司』です!」
「どっちでもいいんだけど!っていうかマジでやかましいんだけど!チョーうざぁい!」
「も~っ、王さまのバカバカ。泉ちゃんが怒っちゃったじゃないのよ」
「お~、よしよし!セナが奏でる怒号の狂詩曲、おれは大好きだっ!あいしてるぞ!」
「ちょっと!気安く触らないでくれる!?」


 一般人には理解できない言語を乱発しながら、レオはがさつに泉の頭を撫でる。凛月はむう、と頬を膨らませた。
 セッちゃんがくれたクッキー。王さまに、食べられた
 凛月はそろりと腕を伸ばして、泉からレオを引っぺがす。レオは満面の笑みで凛月に向き直った。


「おお、なんだリッツ!?」
「だめ」
「何がだ!?」
「セッちゃんにベタベタしていいのは俺だけっていってんの」


 王様だからって、やっていいこととわるいことがあるんだから。―――凛月はそう呟くと、泉の唇をはむ、とついばんだ。やわらかい感触のそれを充分に楽しみながら、凛月はふと思う。クッキーもきっとおいしいけど、俺はやっぱりセッちゃんを丸ごといただくほうがすき。


「そうでしょ、セッちゃん」


 ちゅ、と音を立てながら顔を離すと、泉は手の甲で唇を拭いながら「馬鹿じゃないの、意味わかんない!」と顔を背けた。その光景に、「私、もう無理です。Help me」とふらふら倒れる司。「あらまぁ、司ちゃんったらキャパシティ越えちゃったのね」と心配そうにつぶやく嵐。そして、「おおっ、まぁたインスピレーションが舞い降りてきたぞー!?このおれを倒さぬかぎりおれの作曲魂は何度でも復活するーっ!!!」とその場に座り込むレオ―――今日もKnightsは、通常運転である。