らい
2015-09-19 23:02:08
2212文字
Public りついず
 

仮面を取ったら勝ち

瀬名受けワンドロ・ワンライ企画様/テーマ「体育祭」/りついず


 『体育祭』―――毎年、多くの生徒たちが闘志を燃やしている伝統行事である。スポーツが得意な者は存分にパフォーマンスを発揮し、そうでない者も、クラスメイトや部活仲間、ユニット間の親交を深めるために参加する。普通科の女子生徒も交えて行われるため、学院全体は青春の二文字に浮かれきっている。男だらけのアイドル科にとっては、ささやかな光のようなイベントといっても過言ではないだろう。

だるい。ねむい。かえりたい)

 “体育祭は楽しい”と盛り上がることができるのは、あくまで一般的な男子生徒の場合である。凛月にとっては、睡魔と倦怠感の戦いを強いられる苦行のイベントであった。一致団結の空気感が嫌いというわけではないけれど、強制参加となると話は別である。睡眠スケジュールを見事にぶった切られ、眠りのひとときを妨げられるのだ。せめて真夜中に開催してくれたらいいのに、とぼんやり望んでみるけれど、どうやらこの世界は昼間を中心軸に動いているらしいので叶いそうにない。

 体育祭は一人一種目以上の参加を義務付けられている。凛月の出場科目は玉入れである。球を放り投げるだけ、極端に言えば立ち尽くしているだけで終わる。「とにかく楽だから」という理由のみで決定したものであった。
 幼なじみの真緒が手を回してくれたおかげで、最小限の種目参加に留められたことは幸運といっていい。ま~くんに今度、パンでも奢ってあげよ~っと。今頃、バスケ部で奮闘しているであろう幼なじみを思いながら、凛月はグラウンドに向かった。

 100メートル走の最終予選が行われているグラウンドは、生徒たちの歓声がひっきりなしに乱れ飛んでいる。
 そこで顔見知りに会った。



「セッちゃん、おっす〜」


 瀬名泉の後ろ姿を見つけて、凛月は左手をヒラヒラと振った。競技待ちの上級生が並んでいるなかで、律儀に屈伸をしている泉が振り返る。「二年生の後輩が、三年生のゾーンに気安く入ってこないでよねえ」と開口一番に棘を向けられた。同い年であるのに、シャツの色が青というだけでこの対応である。年上のお兄さんぶるの好きだよねえ。凛月は心の中で笑いながら、泉に歩み寄った。


「どしたの、セッちゃん。まじめに準備体操なんてしちゃって」
「別にどうだっていいでしょ」
「うわ。冷たい」
「っていうか、くまくんは?どうせ玉入れでしょ」
「うん、あたり。セッちゃんは?まさか玉入れ?」
「玉入れで準備体操するとか、馬鹿じゃないの。守沢じゃあるまいし」
「だよねえ」


 それじゃあ、なに?そう問い詰めると、泉は「リレーだけど」と答えた。


「へえ。セッちゃんがリレーねえ
「どういう意味?」
「いや。どうしてリレーなのかなあって思って」
「リレーに出る予定のヤツが、風邪で来れなくなったんだよねえ」


 だから、ソイツの次にタイムが早い俺が、繰り上げで選ばれたってわけ。泉は「やってらんなぁい」と吐き捨てながら、靴紐を結び直した。シャツから伸びる泉の腕を見据えながら、凛月は切り返す。


セッちゃんが本気で走るところって、初めて見るかも。セッちゃん、何番目に走るの?」
「第一走者」
「へえ。いちばんめに走るの。責任重大じゃん」
「そりゃあねえ」
「一位狙い?」
「当たり前でしょ。やるからにはトップにならないとねえ?」


 さすがは負けず嫌いの性分である。あれだけ文句を並べておきながら、目指すは一位と豪語しているのだから興味深い。
 モデルに心はいらない。飾り物の人形さながらに、冷ややかな視線で言い放つこともあるけれど。こうして喋っているときの瀬名泉には、どう考えたって心が宿っている。だからこそ、ちょっかいを出したくなるのだ。


「セッちゃん、緊張してる?」
「はあ?んなわけないでしょ」
「さっき、入念に屈伸してたでしょ。普段のセッちゃんなら、別にあそこまで真剣にやらないじゃん」
「なにそれ、チョーうざぁい!俺のことを知り尽くしてますみたいな雰囲気で喋らないでほしいんだけどぉ?」
「セッちゃん」
「なぁに!?」
「リラックスこうげき〜〜〜」


 えいっ、と声を出しながら、凛月は泉のシャツの隙間から手を入れる。両手で円を描くように上半身をまさぐると、泉は焦ったように「ちょっと、やめてよ」と頼りない声を漏らした。
 周囲に立っているクラスメイトたちが、目のやり場に困り果てた様子で視線を逸らす。顔見知りの集団にしっかりと目撃されていることに気恥ずかしさを覚えて、泉は目を吊り上げながら凛月を振り返った。その目元はわずかに赤くなっていた。


「ねえ...っくまくん、...っ!」
「どーお?からだほぐれそう?」
「ん、冗談、よしてよ...!」


 こんなところで、とお約束のセリフを口走るので、泉の耳元で「こんなところじゃなかったらいいの?」と囁いてみる。そこで泉はようやく本気を出して、凛月の両手首をはたき落とした。


「馬鹿じゃないの!?」


 泉は片方の手首で顔を隠しながら、もう片方の腕を持ち上げて凛月を指差した。凛月は口角を上げて、にやりと笑う。
 体育祭もいいけど、こういう顔を引き出すことのほうがよっぽど楽しいよねえ。


「それじゃあセッちゃん、がんばってねえ。この続きは、こんなところじゃない場所でよろしく~」