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らい
2015-09-12 21:07:19
3148文字
Public
りついず
one summer day
瀬名泉受けワンドロ・ワンライ企画様/テーマ「夏」/りついず
昼間はたいてい眠っているから、校内なんて滅多に歩き回らないはずなのに。肝試しの一件で反省文の提出を余儀なくされた俺とセッちゃんは、メガネの先生を探すのにあちこちを探索する羽目になった。職員室、生徒指導室、保健室とスタンプラリーみたいに巡り歩いて、ようやく見つかったメガネの先生は講堂にいた。どうやらライブの予行演習に興じている新生ユニットのパフォーマンスを見てあげていたらしい。
反省文を提出してハイおしまい、と順風満帆に行かないことぐらいは分かってた。分かってはいたけど長すぎた。その場に立ちっぱなしで延々と説教タイム。まさかの二次会。マジでありえないでしょ。おかげさまで昼休みは潰れちゃって、あとは数分しか残っていない。まったくひどい話だよねえ。
講堂から教室に戻るには一旦外に出なきゃならない。まるで高校球児が駆けだしてきそうな雲一つない青空から直射日光が照りつける。けたたましく鳴きわめく蝉の声がわずらわしい。これだから夏は好きじゃない。暑くて寝られないしうるさくて寝られない。セッちゃんもそう思うでしょ、と尋ねようとしたまさにその時だった。
「わーっ、ごめんなさいなんだぜーっ」
隣を歩いていたはずのセッちゃんが消えた。と思いきや、次の瞬間には盛大な水しぶきが飛んで、ダイヤモンドが散らばったみたいにキラキラと落ちていった。ふと振り返ると、絵に描いたような元気印の少年が申し訳なさそうに謝っている。セッちゃんはというと、ちょうど横切ろうとしていた噴水のなかにドボンしていた。うわあ、とテンション低めの声をひねり出しながら、状況を整理する。ダッシュダッシュだぜー!と猛スピードで駆けてきたこの全力少年に突き飛ばされたセッちゃんは、見事にバランスを崩して、ゆらゆら揺れる水の底にダイブしたというわけだ。セッちゃんは鋭い視線を全力少年に向けながら、水面上にようやく膝を出す。ちゃぷちゃぷ、という清らかな水音とは不釣り合いの超ご立腹モードだ。
「やっほー、セッちゃん平気?三奇人のあの人みたいなことになってるけど」
「平気なわけないでしょ」
「わ、わざとじゃないんだぜ
…
」
「セッちゃん、わざとじゃないって。めでたしめでたし」
「わざとだろうがわざとじゃなかろうが、超サイアクな事実は変わらないんですけどぉ?」
目元を歪めながらセッちゃんが立ち上がる。制服のシャツは水びたし、ベストに隠れていない部分は色が透けて肌色が見えていた。ぽたぽたと垂れる水滴を引きずりながら噴水を這い出たセッちゃんは、奇異な視線を向けるギャラリーを尖ったまなざしで一蹴する。切れ味のよい眼光に怯んだ生徒たちは慌てて撤収し、そこには俺とセッちゃんと全力少年しかいなくなった。
「
…
これ、どうしてくれるわけ」
「本当にごめんなさいなんだぜ
…
」
「
…
どっかで見たことあると思ったら、なずにゃんのユニットにいるヤツじゃない。名前は知らないし興味もないけど」
「そこは覚えていてほしいんだぜ~!オレは1年B組の天満光!」
「はあ?んなこと一言も聞いてなぁい」
「わーん!ひどいんだぜー!」
全力少年、もとい天満光が空を仰ぐ。何なのこのコント。帰っていい?
「
…
どうでもいいけどさあ、とっととカラダ拭くもの取ってきてくんない?」
「カラダを拭くもの?」
「あのねえ、おにーさんの日本語ちゃんと理解できてる?っていうか理解できる脳みそちゃんとある?」
「うーん。国語は苦手なんだぜ
…
」
「
…
チョーうざぁい。全身ずぶ濡れのカッコで校内に入れるわけないでしょ。俺の言ってる意味わかる?わかったなら早く行って来てよ。ちょう・う・ざ・ぁ・い」
「わわっ!りょーかいなんだぜー!」
そう言って、天満光はあさっての方向に走っていった。タオルがどこにあるか知ってんのかな。保健室だよ保健室。まぁどうでもいいか。天満光が遠くに消えて、そこには俺とセッちゃんだけになる。そして昼休み終了のチャイムが鳴った。貴重な睡眠時間よさようなら。
「
…
マジでサイアクすぎるでしょ
…
」
セッちゃんはシャツの端っこを握って、水を絞り出す。こぼれ落ちた水のかたまりが地面を跳ねた。それと同時にセッちゃんの口からくちゅん、とクシャミが飛びだした。
「
…
今のちょっと、かわいかったかも」
「はあ?」
「いや、こっちの話」
そんなことより上から下まで濡れまくりだねえ。興味本位でセッちゃんの尻ポケットを指先でつまむと、すぐに「ニンニクぶつけられたいのぉ?」と手を払われた。相変わらずガードだけは固いんだからセッちゃんは。
「
…
くまくんも戻ったら?」
「えー?」
「午後の授業、どうするわけ」
「なぁに、心配してくれてんの?」
「馬ッ鹿じゃないの」
「はいはい。
…
んーと、あと三回。今日入れてあと二回までならサボっても大丈夫。ま~くんには怒られると思うけど」
「
…
あっそう」
「それにさあ。びしょびしょのセッちゃんを放っておけるわけないよねえ」
おもむろに近づいて、細っこい首筋の水滴を舐める。セッちゃんは「ん」と短い息をこぼして、わずかに身じろいだ。
「
…
ちょっと。
……
くまくん」
「なぁに」
セッちゃんの背中に腕をすべらせて、ベストの中側に手を差し込む。ひとさし指で背中をなぞると、水分をたっぷり含んだシャツ越しに肌の感触があった。セッちゃんは、「シュミ悪すぎ」と毒を吐く。
「冗談よしてよ」
「やだって言ったら、どうする?」
「ゆうくんに見られたら、どう責任とってくれんの」
「うわ、出た。ゆうくん」
「ゆうくんって気安く呼ばないで」
「遊木真」
「フルネームで呼んでいいのも俺だけだって、言ってんでしょ」
ああもうめんどくさい。ゆうくん見られたら、ってどういう意味なの。見られるもなにも俺たちそういう関係なんだからもういいじゃん。誤解もクソもなくない?そう返すと、ゆうくんにはカッコいい俺だけを見せたいわけ、とか訳のわからないことを言い始めた。さすがにイラついた。
「セッちゃんには俺だけだって言ってるの」
セッちゃんの腰を抱きよせて、顎をクイッと持ち上げる。嘘でしょ、って顔をしながら目を見開いてるけどもういいや。どうにでもなぁれ。
―――
顔を斜めに傾けた瞬間、”あの”能天気な声がした。
「いっぱい持ってきたんだぜー!」
セッちゃんは「ばぁか」と吐き捨てると、俺の鎖骨を目がけて両手をグッと押し返した。天満光は満面の笑みで走ってくる。帰ってくるの早すぎだよねえ。俊足にも程があるでしょ。
「言われたとおりにタオルと、あと特別大サービスで、着替えも持ってきてあげたんだぜ!えっへん!」
天満光の腕いっぱいに、タオル数枚と着替えらしきものが抱えられている。ワイシャツ(上だけ)やら夢ノ咲学院指定衣装やらKnightsのユニット衣装やら、なぜだか流星レッドとやらの真っ赤な衣装もある。何このラインナップ。どこから取ってきたの。っていうかなに、着替えってここで着替えろってことなの超うけるんだけど。
「
…
馬鹿にしてんの?」
言うまでもないだろうけどセッちゃんはとうとうキレた。遊木真も裸足で逃げ出す鬼の形相で天満光に近づくと、真っ白い腕を天満光の首に回して技をかけ始めた。このクソガキ、と罵倒を浴びせながら、セッちゃんの表情が紙芝居みたいに踊る。今日もいきいきとした表情を浮かべることができて良かったねえセッちゃん。いつの間にか身体にまとわりつく不快な暑さも消えていて、たまには、こういう夏も暇つぶしには悪くないと思った。
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