長月ユウ
2024-02-11 19:27:06
1477文字
Public 岱+莉
 

【キャプション必読】空を奪うと決めた日

※馬岱が色々と酷い+怖いので、そういうのがダメな人は読まない方がいいです。

岱莉の両想いが瓦解する話。
友人が書いてくれた庶→莉SS のラストに書かれた「君は、俺の為の人ではなかった」に脳を灼かれたのですが、「これ徐庶だけではなく、馬岱にも当てはまるのでは?」 と思って勢いで筆を取ったら、とんでもないものができてしまったという……。

「馬岱様……?」
 自宅の裏でひと仕事終えてため息をついた瞬間、背後から声がして振り返る。
「うわっぷ、気配がないからびっくりしちゃったよー。お帰り莉杏、遠くまでおつかいを頼んだのに、戻ってくるのが早かったね」
 声の主……莉杏の顔は青ざめていた。良かった若じゃなくて。こんなとこを見せたら、顔を真っ赤にして怒りそうだし。
「何を……しているの……?」
「何って『お仕事』だよ」
 震え声で聞いてくる莉杏にいつものノリで返しながら、ついさっきまで生きていた下女の腰から手を離す。すでに事切れて冷たくなった肉の塊は、鈍い音を立てて地面に落ちた。
「彼女、敵軍の間者だったんだよ。馬騰殿に「間者を見つけ次第、こっそり始末してほしい」って頼まれたから、気のある振りをして近づいて始末したってわけ」
…………
 死体なんて戦場に立っているから見慣れてるはずなのに、莉杏の顔はこわばっている……多分、彼女にそんな顔をさせてるのは死体じゃなくて、
「頼まれたから、その人を抱いたの?」
 殺す直前まで、俺と下女が抱き合っていたのを察したか、見てしまったから。
「抱いてって頼んできたのは馬騰殿じゃなくて彼女からだよ。その方が相手も油断して殺しやすくなるから応じただけ。もしかして嫉妬してる?」
……助けてもらった私には、馬岱様が誰を娶っても、誰と仲良くしても口を出す権利はないよ……ないけど、教えて。こんなこと、ずっと前からやっていたの?」
 乱れた服を整えながら、無意識に二度目のため息が出る。
「情報操作や偽の書簡を代筆をやらせたことがあるのに、今更聞いちゃうの、それ?」
「ああいう事なら誰だって普通にやるでしょ!? でも、こんなの……!」
「してたよ。俺は生き残るためなら、俺を必要としてくれるなら頼まれたことは何でもする。それが俺の存在理由だからね」
 君にも言ったよね?「莉杏のためなら何でもしちゃう」って、「立場上は捕虜だけど、そんなことは気にしないで」って。君は力仕事以外は何も頼んでくれなかったけど。
 暫しの沈黙の後、莉杏が口を開く。
 
……だめだよ」
 予想だにしなかった一言に、俺は目を丸くした。
「だめだよ、自分の存在理由を人に委ねるなんて。ホントの姿を隠して、独りになりたくないからってこんなことを続けてたら……いつか馬岱様は壊れてしまう」
 
 ああ、本当の俺をよく知らない若もきっとそう言うんだろうけど、親も故郷も奪われて、俺以上に孤独な君に言われるのがこんなにきついなんて。
 
……君は、俺を否定するんだ?」
「違っ……!」
「捕虜のくせに、俺がいないとどこへもいけない、人以下の存在なのに、そんなことを言うんだ?」
 莉杏の言葉を遮り、淡々とまくし立てる。
「ご、ごめんなさいっ……そんなつもりじゃなくて――
「何もわかってないね、君は。がっかりしたよ、こんなに頭が回らない娘だったなんてね」
 血にまみれた両手で、彼女の頬を包む。恐怖で今にも泣きだしそうな翡翠色の瞳に映るのは、昏い笑みを浮かべる俺の顔。
「俺がいつか壊れる? その「いつか」なんてないよ」
 何故なら、俺はとっくに壊れてるから。

……君は、俺がいないと生きていけないの、わかってるよね?」

 違う。君を壊してでも傍に置いておかないと孤独に耐えられない、生きていけないのは俺の方。
 君だけは俺の孤独を癒してくれると思ったのに。
 俺が望む癒しをくれると思ってたのに。

 

 ……君は、俺の為の人じゃなかった。
 
 

end.