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倉木
2024-02-11 13:45:30
2823文字
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集合場所としていた路地裏に一番最初に来たのはドナテロだった。
西陽がちょうど入らない角度のようで、壁に手をつくと吸い付くような湿り気。
雨が降ったのは二日前な筈だが、このまますれば数日後にはカビでも生えてきそうだ。
「レオとマイキーは?まだ帰ってないのか」
続いて戻ってきたのはラファエロが地響きでも起きそうな重厚さで着地し、辺りを見回す。
喧噪を避けて郊外の場所に指定したこともあり驚いて逃げていく猫以外、周辺は静寂に包まれていた。
「どうせ寄り道してるんだろ」
散開していたものの問題自体は解決していたし、この地点から一番遠くにいたのはラファエロだった筈だ。
その間残りのふたりがいないのはおかしな話だった。
元々ペアで動いていた訳で、単純にふたりでどこか遊びに行ったと考える方が妥当なところ。
「気になるなら迎えに行けば?それとも位置情報見てみようか」
心配を貼り付けた顔で未だ辺りを探している様子のラファエロに、そう言い捨てる。
居場所特定ならそんな難しいことじゃない。
ラファエロは唸るように身を縮こませ、そして肩を落とした。
「
………
いや、こないだ怒られたばかりだし」
ミケランジェロに過保護すぎると散々怒られ、しばらく口を聞いてもらえなかったことを未だに引きずっているらしい。
普段ならそのまま出かけるにしても(レオナルドならまだしも)ミケランジェロであれば連絡のひとつでも入れてきそうなものだが、その時の腹いせが少なからずあるのかもしれない。
レオナルドが一緒なことは懸念事項になりそうなものだけど、ひとりじゃないことが及第点みたいだ。
まあ、あの時のミケランジェロの怒りは相当なものだった、その矛先が自分じゃなくてよかったと思うくらいだ。
「
……
はぁ、俺達は先に帰ろう」
溜息が聞こえるのは頭上から。
息遣いすら聞こえそうな距離が思ったより近いな、と思う間もなく不意に浮いた足元。
巻き付いた腕は固くて、重さなんて感じさせないような軽快さだった。
肩に乗せられると突き出た背の甲羅が尾を圧迫させてちょっと痛い。
「
…
あのさぁ、ラフ」
大して座り心地も良くない中、歩を進める度に揺れる足が腹甲にぶつかる。
固い感触は自分のものと違い、踵で一定のリズムを打った。
「過保護なのはマイキーだけにしてくれない?」
手元を擽っていた後頭部の、赤い尻尾を引っ張る。
そう言ってようやく、今の状態に気付いたらしい。
目をぱちくりさせたラファエロが慌てて手を離す。
そのせいでかろうじて肩に引っ掛かっていた尻がずり落ちて、急激に重力が押し寄せてくる中なんとか着地した。
「ご、ごめん
……
つい、無意識で」
あわあわしている様子は他意がなさそうで、そんな様子それ以上攻める気も失せるというもの。
突然後ろから抱き上げられ、突拍子もなさ過ぎて反応し損なったドナテロにも否がなくもない。
……
いや、やっぱりラファエロが100パーセント悪いかも。
「どうせラフに比べたら貧弱だよ」
人通りのないところだからまだこの程度で済ませてた、誰かに見られるなんて冗談じゃない。
だからって自衛できていないわけじゃない、自虐に近い嫌味の言葉にラファエロは一層焦ったように眉を下げた。
不機嫌を隠さないドナテロに、ラファエロは大きな指先を目の前で突き合わせ、まごつく。
「だってほら
……
恋人は大事にしたいし」
鉢巻と同じくらいに真っ赤になった顔。
「
……
また持ち上げれられちゃたまんないし、先歩いてよ」
そう言いながら背を押した。
ラファエロは返答を待つようにちらりとこっちを見たが、それ以上何か言い返すこともなく大人しく前に向き直った。
気恥ずかしさが伝染して熱を持っている頬は、多分見られていなかったと思う。
仮にも恋人同士になったのはつい最近のこと。
たかだか関係性にひとつ肩書が追加されるくらい、そうたかをくくっていた節はあった。
距離感を考えあぐねているのはドナテロだって同じだ。
先を歩かれると道を覆うように視界が塞がれ、代わりに覆う背中に目がいく。
普段隠しているドナテロとは違って、ラファエロのものは背中からはみ出るくらいに大きなものだ。
一部欠けているよう棘の部分。
ひび割れしそうなささくれに手を伸ばしたのは、ほぼ無意識だった。
かさついた感触は砂岩を触れているような触覚なのに、どこか温かいような気がする。
熱伝導というよりは、彼の体温がもともと高いせいで皮膚との籠った熱が伝染しているのだろう。
抱きしめられると腹甲越しでも熱を感じることを、ドナテロは知っている。
そんな藪蛇に思い出させてしまって、変に気分を乱されることに腹が立った。
(ほんと、バカらし
…
)
それは何に対しての苛立ちなのか、自分でもわからない。
端っこが欠けているのが見えて、そこを軽く擦る。
気が付いたら直っていると言うので、損傷が死活問題であるドナテロにとっては考えられない話だ。
それでももう少し強度を上げるコーディングが必要かもしれない。
「ドニー
…
」
家にある薬品の組み合わせを考えていたところで、突然戸惑った声が降ってきた。
いつの間にか立ち止まっていたラファエロがどことなく困った様子で見下ろしていた。
「その、あんまり触られると、ちょっと変な感じになるっていうか
…
」
図体にそぐわず恥じらう姿、なのにどことなく違う熱が篭っているように見えて。
それが何なのか読み取れないのに、背中をぞわぞわとした感覚が滑り抜けた。
最近、ラファエロのこんな顔を見るようになった。
その劣情に名前を付けるには、ドナテロはまだ恋愛というものに未熟だった。
ただどことなく目が離せなくなるような熱に、今はまだ震えて息を吐くことしかできない。
その熱を逃がすように、手に力が込もった。
パキ。
そんな軽快な音がして、手元に欠片が落ちてくる。
「あ」
ラファエロも驚きに目を見開いていた、ドナテロも多分同じ顔をしている。
彼の様子を見るに痛みはなさそうだが奇妙な沈黙が訪れる。
歪な三角の欠片、指で摘まんでようやくそしてそれを眺め。
「ど、ドニー?」
「なに?」
「その、返して欲しいんだけど」
「なんで?」
「え、いやその、」
ポシェットに詰めてラファエロを追い越し先を歩く。
「強化コーディングする為に使うだけ。現物あった方が実験しやすいし」
「そ、そりゃ、ありがとう?」
先程の様子とは一転して随分とご満悦な様子に、ラファエロは何か言おうとしているが言葉が出てこないようだ。
そんな彼を見捨てて、近くのマンホールから日陰に飛び込んだ。
薄暗さは一気に増して、着地した時に跳ねた水が足元に纏わりつく。
我に返ったラファエロが追いかけてくる少しの間に、見えないように彼の一部に唇を落とした。
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