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スサ
2024-02-09 09:18:00
1447文字
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【ゲ】克典が水木と出会って始まる
克水ではないけど、克典社長が初見からミズキクンを気に入って声かけて…みたいな妄想の話です。どれかの資料で見た乙米様が水木くんと目元似てね…?と思った妄想に基づいています。
「帝国血液銀行の水木と申します」
その声はそれなりに騒がしかったはずの、しかもいくらか距離があったはずの、通り過ぎるだけだった克典の耳にまで入った。けして大きな声だったわけではない。ただ、よく通る声だった。そして、耳に触りの良い声だった。
克典は思わず足を止めた。応接室でもない、エントランスホール入ってすぐの所で担当者と名刺交換をしている男に視線を送る。社長?、と隣で本日のスケジュールを説明していた秘書が訝しむ。克典は軽く手で制し、視線でエントランスホール隅の二人を示す。慌ただしく入ってきた克典に順次その場の社員達が気づいてそれぞれに目礼などをする中、その二人は反応が遅れていた。名刺を交換してそのまま挨拶をしていたからだ。だが、彼らも克典に気付いた。社長、とどうやら龍賀の社員らしき男の口が動いたのがわかった。克典は目がいいのだ。するとその隣というか、正面で向かい合っていた男が横を向いたのに合わせて横を向いた。担当者より小さな顔の中、大きな目がこちらを見、瞬きの後微笑んで深く一礼。引き合わされているわけではなく、距離もある。克典は明らかに目的があって歩いて来て、ゆっくり話す余裕もない。そう判断したのだろうし、それは正解だ。あの顔は克典を龍賀製薬の社長と(周りの声を聞いたからではなく)わかっている顔だ。本来なら売り込んで来たいだろう。克典はくっと口角を上げた。ミズキ、と名乗っているのが聞こえた。
突然爪先の方向を変えた克典に、社長!?と秘書が声を上げる。渋滞のせいだったが、既に会議の時間には遅れている。秘書の声に少々の苛立ちが含まれていても無理はないが、ただ、克典はこの場において誰に気兼ねする必要もない立場だった。
遠目に見ても若い印象だが、近づいてみればさらに若い。目が大きいせいだろう。
そして近づいてみて気付いたのは、左目の上に走る傷と欠けた耳。聞くまでもない。戦地で受けたか、空襲によるものかまではわからないが、大戦でできた傷だろう。それらが、目の前の男のどちらかといえば甘い顔立ちに男らしさを添えていた。
──克典は戦争に行っていない。端的にいえば、もう龍賀に婿入りしてていたからだ。その事実が時折感情に影響を及ぼすことがある。たぶん、この時もそうだった。
「ミズキクン、といったかな」
大きな目が見開かれる。キラリ、と青が光る。ほとんど顔を合わすことのない妻の瞳が思い起こされ、ああ、と克典は密かに息を吐いた。
瞳の色だけではない。この男にはなぜか、どことなくという程度だが妻の面影がある。血縁なぞありもしないはずだが。
克典は唇を歪めた。ミズキ──水木が驚いたのは一瞬で、すぐに完璧な営業スマイルというやつを顔に貼りつけた。それですっかり克典はこの帝国血液銀行の男を気に入ってしまったのだ。
本来の担当者を飛び越し、紹介があったのでもなく、まさに「見初めた」としか言いようがないきっかけから龍賀製薬のトップ、一族の実質表の経営者の担当営業となった水木はその日から上司や同僚からやっかみもこもった特別な目で見られることになるが、その時はまだそんなことになるとは水木自身夢にも思わなかった。さらにいえば、まさか山奥の村まで行って死線をくぐり、ついには墓場で赤子を拾うようになるなんてことは。
だが、あとから振り返ればその日が始まりだったと言えるだろう。
※なおこの後龍賀製薬内で玄宗が息子の妃・楊貴妃を奪った故事で擦られるようになる
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