のま
2022-12-15 18:29:39
6602文字
Public 冬駿
 

【サンプル2】僕らのかたち、それから

冬駿/R-18/新刊サンプル
付き合って半年後の夏デート+初夜すけべ話
全年齢部分+R-18部分

(前略)

 今年もまた、夏が来た。
 信じられないくらいの猛暑が連日続いていた。ニュースでも「記録的な暑さです、熱中症に警戒を」なんての毎日のように言っている。
 うだる暑さに茹で上がりそうな日々の中、あいつから一つのメッセージが届いた。
 ──来週の花火大会、久しぶりに行きませんか?
 添付のURLを開いてみれば、地元の花火大会だった。川で打ち上げるその大会は小規模ながら、そんなに特徴のないこの街では珍しいイベントだ。小さい頃は、冬居と揃って親に浴衣みたいなものを着せられて毎年行ったな、と思い出す。スマホに手短に返事を打ち込んだ。
 ──大会前だろ、いいのか?
 すぐに既読を知らせる印がついて、新しい返事が来た。
 ──その日、午後は体育館清掃で練習できないから
 ──あと、息抜きもしたくて
 あいつ、ちゃんと練習やってんのかな。冬居が奥武のキャプテンとして最後の大会に臨むユニフォーム姿を思い浮かべる。厄介なOBにはなりたくないから練習を見に行くことは卒業してからしてないけれども、たぶん、俺とは違う堅実さとかそういうものを活かしてやってるんだと思う。
 ──りょーかい
 返事の五文字を打ちこむ。そういえば、付き合うと言ってから、こういう何か特別なイベントに誘われるのも初めてだ。夏、花火大会、恋人……そこから浮かんだ連想は、俺たちに似つかわしくないほど甘くて、いや、何考えてんだとかぶりを振った。
 冬居のことだ。別に何かしてくるわけじゃないだろう。いつもの去り際のうかがうような視線を思い出して、スマホを握り直す。手の中でピコンと電子音が鳴る。
画面には、返事がわりのヘンテコなうさぎのスタンプが踊っている。なんだか気が抜けるようなそれがやけに憎たらしくて、じっと睨めつけてからスマホを投げた。
 
 日ももうすぐ暮れそうな午後六時。花火大会当日の待ち合わせ時間だ。
 霞家の前に立ち、インターフォンを押した。別に直接玄関を叩いてもいいのだけれども、今日はなんとなく憚られる気がして玄関前でしばらく待つ。
ややあって、がちゃりとドアが開いて、男の影が現れる。
……山田さん」
「よ、冬居、元気にしてるか?」
 手を上げて声をかければ、「まあ普通ですかね」といつもどおりの返事が返ってくる。今日の冬居はよく着ている動物モチーフのTシャツじゃなく、シンプルな薄ピンクのTシャツを着ていた。悪くはないけど、なんでその色なんだ、普通に無難な色を選べばいいのに、と感想が出かかるが、いつもよりははるかに普通なので黙っておいた。
 じゃ、行くか。そうですね。まだ暑いな。まあ、夏ですから。そんなしょうもないやりとりを交わして連れ立って、歩き始める。
 河川敷に設けられた花火大会の会場へは歩いて二十分ほど。そこまで遠くない道のりだ。角を曲がった大通りは、いつもより多い人でさっそく賑わっていた。甚平を着せられた子どもたち、じゃれあう男子中学生の群れ、制服のカップルたち。静かな住宅街であるこのあたりも、今日のイベントに既にざわめきたっている。
「あ、待って。山田さん」
 周囲のガヤガヤに囲まれる中、後ろから声をかけられる。
「そっちじゃなくて、こっち」
 こっち行きたいです。そう言って冬居はみんなが行く道とは違う、角を曲がる道を指差した。そこは河川敷に向かう道とは正反対で、あまり人のいない小高い山に繋がる方向のはずだ。
「ん、なんで? そっちじゃねーだろ」
「川からじゃなくて、昔行った神社から見たいんですけど……あっちの方が空いてるし、上から見られていいじゃないですか」
「神社? あの神社って……確か坂登って、そっから階段結構上がるとこだよな? うわ、めんどくせえ」
「うん、そっち行きたいです。……だめですか?」
 そう言ってデカい図体に似つかわしくなく、こてんと首を傾げる。坂を登ったところにある神社は、距離は花火大会の会場と同じくらいだけど真反対に位置している。今日みたいな暑い日にわざわざ行くのは、正直言ってめんどくさい以外のなにものでもない。
 それでも、不安と期待のようなものを少しすかした瞳にじっと見つめられると、なんとなく断れなかった。
……俺の寛大さに感謝しろよ」
 そう言うと、冬居はパッと嬉しそうな顔を見せた。その反応があんまり現金なものだからちょっとムカついて、後でなんかおごれよと言い放つ。大学生が高校生にたかるんですか、かわいそうな僕……とかわざとらしい悲しい声で抜かしてくるので、調子のんなと思いっきりケツをしばいてやった。

 額からだらだら流れ落ちる汗を拭って、落ちてきた前髪をかき上げる。最後の一段を上がって、後ろを振り返ると街はすでにかなり下に見えていた。
「あっちい……結構登ったな。ここ来るの何年ぶりだ?」
「ここ、山田さんの小学校の友達が教えてくれた場所ですよね。最後に来たのはもう……十年くらい前なんですかね」
「記憶より坂も階段もきつくなかったな、あちーけど」
「ですね」
 冬居も俺もだいぶサイズが変わったし、こんなことでバテるような鍛え方はしていない。記憶との感覚とのずれに、年月が経ったなあなんて当たり前の感想が漏れた。
 緑が生い茂る境内に踏み入れると、ちらほら数人がそこにはいた。誰も俺たちのことにも目もくれず、ただそれぞれの時間を過ごしている。ざわめいた近所とは違い、ここだけがいつもどおりの夏で、日常だった。木々が揺れて、夕暮れ独特のまどろんだ空気が全身を包む。
「お参り、しましょうか」
 財布をまさぐって小銭を探す冬居に合わせ、俺もポケットから財布を取り出した。見つけた五円玉を賽銭箱に投げ入れて、手を合わせる。二つの柏手がぱらぱらと夏の夕暮れ空に響いた。
 何を祈ろうか、目を閉じてからふと悩む。自分のことで祈ることはしないけど、このポーズを取ると何か言わなくてはいけない気がしてくる。
 ──隣のこいつが、良い夏を過ごせますように
 咄嗟に思い浮かんだ言葉はそれだった。神仏をやたらめったら怖がるこいつとは違って、俺は神なんているかいないかもわからないと思っているのに、こんな時にまで冬居のことを考えてしまった。
 一呼吸置いてから目を開けると、当の本人は珍しく先に目を開けて、こちらをしげしげと見つめている。
「山田さんにしてはめずらしく長いお参りでしたね、何か願いごとでもあったんですか?」
……バカ、お前に合わせてやっただけだろ」
 覗き込まれた顔にふと気恥ずかしくなって、足元の砂利に混じった小さな石を軽く蹴った。不確かな神に、こいつの未来をうっかり願ってしまうなんてまったく馬鹿げている。
「おら、行くぞ。あとちょっとで花火始まるんだろ」
 蹴った石がすとんと飛んだ方角につま先を向け、一人先に歩き出す。
 湿った風が吹いて、昼間の灼熱の太陽に温められた砂利を巻き上げる。むわりと熱が全身を包んで、一瞬、息が詰まりそうになる。
 俺はこの感覚を知っている。ちょうど去年の夏──高校最後の夏がそうだった。とにかく暑くて、今みたいな暑さに息もできなくて、ずっとずっと苦しかった。とにかく暑さから逃げたかった。でもあの大会の中でわかってしまった。苦しみから解放されるたった一つの方法は、苦しみ続けることなのだと。だから俺はまだカバディに食らいついている。自分はこれでいい。自分で決めた人生だから。
 それでも、冬居の高校最後の夏は、結果はどうであれ気持ちのいいものであってほしかった。
 ねえ、と後ろから追いついてきた男の顔も見ず、告げた。
「冬居、今年はぜったい勝てよ」
……いきなりなんなんですか。言われなくても勝ちますよ」
 思いの外、勝気な言葉が返ってくる。いい意気じゃねーか、と気持ちよく笑った。
 鬱蒼とした茂みの間をすり抜けて、街を眺められるように端の方にいくつか設けられたベンチを目指す。ひぐらしがうるさいくらいに合唱している。
 夏ももう、ほとんど終わりに近い。

 並んでベンチに座ると程なくして、一発目の花火が打ち上がった。
 まだ暮れきっていない薄暗い空に、鮮烈な光が閃いた。すこし遅れて、ドン、という空気を揺らす音が響き渡る。
 少し触れた冬居の肩が、ビクとちいさく跳ねた。
「お、結構よく見えるな、もっと小さいかと思ってたけど特等席だな、ここ」
「うん、天気も風も問題ないですね」
 視界にちょうど収まるサイズのそれは、文句の付けようがなかった。
 そのまま次々と花火が上がるのを黙って見つめる。低いところで白く飛び散る花火や、暖色の光が垂れ下がる花火。それらが眼下に見える育ってきた街につぎつぎ光を落としている。多分、左の視界の端ぐらいが俺らの家だ。火薬のけぶるようなにおいがすこしずつ漂ってくる。
 夏だな、と意味もない言葉をポツリと呟く。そうですね、とゆっくりと返される。そんななんでもないやりとりが、なぜだかすごくしっくりきた。ざわめく世界から、自分たちだけが切り離されていて、何を話しても誰にも聞かれることはない。この花火も俺たちしか見ていないし、誰も俺たちのことさえ知らない。そんな錯覚に陥る。互いの規則正しい小さな息遣いだけがやけに大きく聞こえた。
 ただ息をして花火をじっと見つめていると、ベンチに置いた右手に、上からそっと湿った体温が重なってくる。
 ──冬居の手だ。

(R-18部分)

……こういうことがしたかったんじゃねーの?」
 部屋の隅のベッドを指差す。冬居がいつも寝ていて、何回も転がったことのあるシンプルなベッド。
「えーっと……あの、キスしたいな、くらいで……いや、全然それ以上もしたいですけど……いいの?」
 見上げると戸惑いと欲を隠したような瞳が、こちらを見ている。それ以上してもいい、と言えば、どんな顔が見られるんだろうか。好奇心と下半身の熱に動かされる。
 半端な位置をさまよう骨ばった手首を捕まえた。そのまま手の甲を自分の股間に導いて押し付ける。
「なあ、冬居、俺も同じだからさ……ちょっと触ってくれよ。お前のも触ってやるし」
……うん」
 冬居が迷ったようにこくりと頷いたのを確認して、ベッドに手を引いて、並んで腰掛ける。
夏用のハーフパンツのボタンをはずして、ウエストをくつろげた。隣に座る冬居もベルトに手をかけているが、うまくいかないのかずっとカチャカチャ音を立てている。耳障りなその音が、心底じれったくて鼓動を一層速めた。
 ようやく緩められた細身のジーンズのウエスト。そのチャックの間から、ファンシーなくまの柄が覗いていた。中心がその柄を押し上げて膨れているからひどくアンバランスなことになっている。
 おそるおそるそこを確かめるみたいに触れると、すっかり硬くて熱かった。
「うわ、まだなんもしてないのにもうがちがちじゃん」
「ぅ、ちょっと、いきなり」
 あつい塊になったそこを布越しに掴んでゆっくり撫でてさすってみると、冬居は必死に息を詰めている。
「ッあ……う」
 どんどん主張を増して、下着の布に先端の形がくっきりと浮き出てきた。掴んだ布も心なしかじとりと湿気をまとってくる。快感を雄弁に語るそこからふと視線を上げると、目はかたく瞑られて唇が半開きになっている。
……気持ちよさそうだな」と囁いてやれば、あ、あ、と弱々しく声をあげて時折身をよじる。布の下の熱はどくどくと脈打っていた。
「あ、も、やめて……
 触る手首を引き剥がすかのようにがっちりと捕まえられた。負けじとそこを握り込んで、そのまま耳元で吹き込んだ。
「なあ、お前さあ……もしかして、ずっと俺とこういうことするの想像して一人でしてた?」
「は、はあ⁉」
 途端に顔が真っ赤に染まる。違うよ、そんな、僕、やだ、なんで今、とか文章にならない単語が羅列された。視線はおろおろ彷徨っている。
「いいっていいって」そう言って、肩を軽く叩いた。「冗談だよ。お前があんまりガチガチに緊張してるもんだからさ」
 いじわる、少し目が潤んでいてじとりと睨まれたから、まあ、いいじゃん、と適当にいなした。別にちょっと、言ってみたくなっただけなんだ。
「そんなことよりさ……こっち触ってくれよ」
 留守になっている冬居の手首を掴んだ。意外と萎えない自分の下半身に、冬居の手を引っ張っていく。ボクサーパンツのゴムもくぐり抜けて、中の勃起したものを触らせる。自分から触らせたくせに、他人の体温が生のちんこに当たる感覚に、う、とすぐに声が漏れてしまった。パンツの中で手が蠢いて、おずおずと冬居の手が俺のものを掴むと、そのまましごかれた。
「ん、あ、きもちいいなこれ……
 いまいちものたりない動きかと思えば、突然気持ちいいところをいきなり容赦なく触られて、その緩急のひとつひとつに頭がパチパチと弾ける。自分で触るのとは全く違う快感に、思わず息が漏れてしまう。
「あ、先のとこ、ぬるぬるしてる……ねえ、駿君、きもちいいですか?」
 溢れた先走りを絡めてにゅるりと裏筋をこすられる。腰の奥底が快感が溜まってどんどん重くなっていく。
「う、気持ちいいにきまってんだ、ろ、ッ……
 時折先っぽをぐりぐりされながら上下にしごかれると、自分じゃないみたいな声が止められなくなる。ふう、ふうと息が上がっていく。
「ね、僕のもちゃんとさわって……
 切なげな声に目を開けると、冬居の目は熱に侵されたようにゆらめいている。自分のことばかりですっかり忘れていた。「ん、あ、ごめん」
 ジーンズをあたふたと引き抜いてやり、パンツに手をかける。手を下ろすと先端がゴムに引っかかって、ぶるりと震えて勃起したものが現れた。赤みを帯びた先端からは透明な液体がこぼれおちていて、とろりと濡れている。
「なんか……」デカいな、と口に出しかけたが、すんでのところで引っ込めた。「お前も男なんだな」
 今更なんですか、と冬居は少し顔を赤らめて隠すように手を股間に当てる。
「ちょっと……そんなに見なくてもいいでしょ」
 その様子がなんだかやけに殊勝なもんだから、肩を軽く押してマットレスの上に転がり込んだ。むき出しになったそこをぐ、と握り込む。先端からこぼれた先走りを親指で拭って絡めながら扱くと早速、う、う、と呻いている。
 冬居も大概の男とおんなじだ。気持ちいいことには勝てない。なんだか感慨深くなっていると、仕返しのように俺のちんこが掴まれた。そのままぐりぐりとしごかれて、痛いほど張り詰めて痛くなっていたものは、たちどころに快感を訴えた。
「あッ……くそ、きもちいい」
 こちらも負けじと同じリズムで手を動かして、冬居の前を刺激する。そうすると冬居の手で気持ちよくなってるのか、自分の手で気持ちよくなってるのかわからなくなってくる。擦り上げる手は汗か先走りかわからないものでもうぐちゃぐちゃだし、何がどっちのものなのかも、とっくにわからなくなっていた。もう早く出したくて、でもこの快感をもっと味わっていたくて、頭もぐちゃぐちゃにひっかきまわされていく。
冬居もそれは同じなのか、腰までかくかくと揺れている。挿れたい、と訴えるような動きは、あまりに性欲に負けた男そのものみたいで情けなくて、かわいかった。
「う、あ……は、とーい、腰動いてんじゃん。なに……挿れてーの?」
「えっ、あ、そりゃ、挿れたい……よ」
 すっかり茹だってバカになった脳みそで囁いてやれば、挿れたい、挿れたい、と冬居もうわ言のように繰り返した。
「あッ、は、挿れてえんだ」挿れたいということは、俺が挿れられるってことだな、と快感にスパークした頭がほんのすこし理解する。「う……しゅんくんに挿れたい、僕が抱きたい……っ」
 寄せられたあまりにストレートな願望に、ずくんと心の片隅が疼く。こんな冬居、ぜったい誰も見たことがない。もう一ミリも欲望も隠せていない男は、たぶん俺だけにこの取り繕えていない姿を見せている。そう思うと信じられないくらいの満足感が心に満ちていく。
「ふ、ァ、いいなお前。俺に挿れてーんだ……いいぜ」