のま
2022-09-05 01:04:40
1718文字
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お題「霞冬居」

ワンドロワンライ用に書いた、冬居くんのお部屋のぬいぐるみ視点の話。健全。

 僕がこの家にクリスマスプレゼントとして初めて来た時、君はわあ、と心底嬉しそうな顔で僕を抱き上げてくれた。
 少年の名前は、冬居くんといった。
 「パパ、ママ、ありがとう! すっごくかわいい!」
 そう言って、冬居くんは僕に頬ずりをしてくれた。それが、僕と冬居くんの出会いだった。

 冬居くんと僕は、ずっとずっと一緒だった。朝は、お母さんに起こされるのを隣で見ていた。幼稚園から帰ってくれば、僕と遊んでくれたし、お母さんから絵本を読んでもらったりもしていた。君の膝は僕の特等席だった。夜は、毎日僕におやすみと言って、抱きしめて寝てくれていた。
 
 君はどんどん大きくなったね。

 ぴかぴかのランドセルが部屋に来てからは、部屋には大きな勉強机が置かれて、君は学校から帰ってくると一番に僕の顔を見て、嬉しそうな顔をしてくれた。
 頻繁に部屋に遊びにくる幼馴染の少年──しゅんくん、と冬居くんが呼んでいた──も、僕のことを大事にしてくれた。しゅんくんは結構やんちゃな少年らしく、頭に葉っぱをつけたり、変ながらくたみたいなものを持ち込んで、時折冬居くんのお母さんをぎょっとさせていたりした。それでも僕に対しては、たまにこわごわと頭を撫でるくらいで、とっても大事に扱ってくれていた。
 小学生って、びっくりするくらい毎年毎年大きくなるんだね。冬居くんの読む本も、絵本のようなものから、次第に分厚くなっていったし、種類も変わっていった。君は誕生日占いの本とか、そういうものが好きでたくさん読んでいたね。そして、たまに僕のことをいっぱい抱きしめて寝てくれた。多分嫌なこととかがあった日だったのかな。まだ必要とされてるんだと、とっても嬉しかったな。

 中学に上がると、君はめきめき身長も伸びて、「カバディ」というスポーツを始めたみたいだった。
 僕はカバディのことは知らないけれど、練習から帰ってきた冬居くんは、よく怪我を作っていて、ちょっと泣きそうな日もあったね。続くのかな、と僕はこっそり心配していたけれども、杞憂だったみたい。しばらくして、JAPANの文字が入ったユニフォームが壁にかけられた。それを君が、ちょっと誇らしげに見ていたのが忘れられない。
 カバディに打ち込みながらも、勉強も頑張っていたね。入りたい高校があるから、と眠たい目を擦りながら机に向かう君のこと、応援していたよ。

 念願の高校に入って、学ランを身にまとった冬居くんは、すっかり大きくなった。もう冬居くん、なんて呼んだら怒られてしまうかもしれない。
 部活にもいっそう励んでいるみたいで、部屋はがらりと様子を変えた。思い出の写真や、かわいい柄のカーテン、昔読んでいた本とかは一掃されて、かわりに新しいシューズ、トレーニング用品、エナメルバッグ、スポーツ用のTシャツやサポーターなんかが部屋の多くを占めるようになった。部屋に帰ってきてからも、せっせと筋トレしたり、プロテインを飲んだり、多分君はカバディをすごく頑張っていたんだと思う。
 それでも相変わらず可愛いものは好きなようで、すっかりスポーツマンになった君に似合わないTシャツが、ちょっとおかしかった。僕のことを抱き上げてくれることも、ほとんどなくなった。

 ある日、ダンボールを部屋に持ち込んだ冬居くんが呟いた。
「このダンベル、置く場所ないな」
 冬居くんはキョロキョロと部屋を見渡して、僕と目が合う。君は、昔みたいに優しい笑顔で微笑んで、僕を抱き上げて愛おしむみたいに撫でてくれた。
 僕の役目は多分終わりなんだな、と分かった。
 冬居くんは僕を抱き上げて、クローゼットへ向かう。
 今までにない高さまで持ち上げられて、上の棚にそっと置かれた。こんなに高いところ、いつのまにか届くようになっていたんだね。

 クローゼットの引き戸がゆっくりとしまった。君の顔が見えなくなる。暗闇が身を包む。

 冬居くん、ありがとう。君と一緒にいられた時間は、とっても楽しかったな。君の少年時代は終わったんだね、これからの冬居くんの人生が幸多いものでありますように。

 祈りをこめて、僕は君にさよならを言った。