のま
2022-08-29 08:46:01
2282文字
Public みすだてみす
 

secret chain

高校卒業後、伊達と水澄が、お互いにピアス開け合う話。あまり痛い描写はないです。
付き合っているけど、だてみすでもみすだてでも読める、と思います。
文庫ページメーカーで上げたもの。

 段ボールに囲まれたがらんどうの部屋。左の耳元でばちんと大きな音が響いた。
「うっ……!」
 衝撃が頭蓋骨を直接震わせる。反射で、力んでいた体が跳ねた。
「ん、ばっちり狙い通りできたわ。逆もすぐやるから、そのまま動くなよ、真」
 水澄は、思ったより痛くねーだろ? と言いながら、俺の耳朶を確かめるみたいにそっと触れてきた。じわじわ広がる灼けるような熱さと痛みに、父さんが見たらなんて言うかな、なんて罪悪感が今更ちらりと頭によぎる──たかがピアスだ、大学に入る時くらい、ちょっと浮かれてやってみてもいいじゃないかと何回も探した言い訳を思い出して、詰めていた息を吐き出した。

 部活も引退し、数ヶ月間得意ではない勉強に打ち込み、水澄も俺もこの春から同じ大学に入学することが決まった。今は、卒業式を一昨日終えて、寮の引き払いと引っ越しを明日に控え、高校生活にいよいよ別れを告げようとしている。
 そもそもだが、俺は自分でピアスを開けたい、と思ったことは一度もない。痛そうだし、自分の体に穴を開けてまで耳に何かつけたいと思う気持ちが分からなかった。

 そんな自分がピアスを開けることになったきっかけは、水澄がピアス穴が塞がったから、もう一度開けて欲しいと申し出てきたことだった。聞けば、二回目は一回目と位置を少しずらさなければいけないから、自分では不安だ、という理由らしい。他人の体に穴を開ける行為はごめんだ。でも、やらなきゃ他の奴に頼むしかない、と水澄が言うから、仕方なかった。他の誰かにそんな行為をさせることの方が嫌だった。
 
 水澄の要求はそれだけに留まらなかった。「なー、もう高校生じゃないんだし、真もピアス開けようぜ!」という一声で、今こんなことになっているのだ。
 初めはもちろん断っていたが、塞ぎたい時にやめれば大丈夫! 俺も現に塞がってるわけじゃん? 真にピアス、似合うと思うんだよなー俺、という押しに、一回くらいやってみるかと思ったのは、新生活前のぐらついた気持ちゆえだったのかもしれない。もともと、休みの日に一緒に出かける時に水澄が付けていたきらきら光る赤いピアスは、どことなく大人の象徴みたいだなと思っていた。自分がやりたいかは置いておいて、憧れのような気持ちがあったのかもしれない。

 そんなわけで、俺たちはピアッサーなるものを四つも買い込んできている。
 「右いくからな……
 もう一度、ばちんと衝撃が走った。左耳を先にやったからか、二度目の衝撃はそれほど怖くなかった。少なくともカバディでゴリラみたいな攻撃手を迎えるときより、断然怖くはない。
「ッ……! なんだかじんじんするしびっくりするな……うまくいったか?」
「ばっちり、思ったよりいい感じかもしんねーわ」
 にっかり笑顔を見せて、親指を立ててくる。水澄がそう言うんだから、きっとそうなんだろう。早く確かめたい。

 次は俺の番、と二つのピアッサーを渡された。事前に二人で予習した使い方の手順を、もう一度、頭の中で思い起こした──消毒して、裏側の部品を耳に密着させて、事前に付けたマーキングの位置に尖った部分を貫通させる。よし、いけそうだ。
 散らばって跳ねる髪を耳にかけ、ふっくりとした右の耳朶を指先で掬って、消毒液をティッシュに含ませてなぞった。くすぐったいのか、気持ちいいのか、水澄はちょっと身を捩る。
「こら、気持ちよくても動くなよ。危ないからな」
「ばっ……気持ちよくねーよ! くすぐってえだけ!」
 やけになる水澄が面白いが、これからは真剣な行為だ。深呼吸し、マジックでマーキングした箇所をよく狙って、親指と人指し指を勢いよく縮めた。スプリングが縮んでぱちんと音を立て、柔らかな耳朶に人工的なピアスがあっけなく埋まった。その様子に、何か取り返しのつかないことをした時のような感覚に襲われる。
「ン、久しぶりだわこの音、舌ピより全然痛くねーわ、やっぱり」
 対して水澄は余裕そうに声を上げている。ここで引くわけにはいかないから、左側も同じように丁寧に耳を拭い、パチンとスプリングをもう一度唸らせた。
 正面から出来を確かめるように、水澄の顔を覗く。両耳を彩るそれは、久しぶりに見てもやっぱりよく似合っているなと思った。

 ほら、できたぞと声をかけて立ち上がり、洗面台に向かう。鏡に映るのはいつもの自分だが、ほんの一点の小さな赤が異様に際立って、今までの自分が全然違って見えた。
 水澄が並んで、鏡に映りこんでくる。
 「お、俺とお揃い。どーよ?」
 四つ同じ高さに並んだ赤い点。自分たちの関係が見て分かるようなそれは、気恥ずかしいような嬉しいような複雑な気持ちだ。

 「……これで俺もカックイイ、ってことになるか?」
「へえ、ピアスのことカックイイって思ってたのかよ、真?」
「いや……こういうのはチャラついた輩がやることだと思っていたから、俺はよくわからないけどな。でもお前が付けてるのはいいなと思っていたぞ」
「ふーん、それならもっと早くやればよかったな。なんか真にピアスって、カックイイっていうより、ハイトクカン、って言うの? そういうのあるな……
 まじまじと見つめてくる水澄を、ハイトクカンってなんなんだ、と小突く。でも俺も、そういうの感じたな、とちょっと思い、鏡越しに目を合わせて笑い合った。

 明日いよいよ寮を引き揚げて始まる、新しい生活に不安もあるけれども、この赤いピアスが水澄と自分を繋ぐ何かになればいいなと、柄にもなく願ってしまった。