カスミカスミカスミカスミカスミ私がシドの元でお世話になって数ヶ月くらいが過ぎた。
私はヴァリスゼアの世界についてシドたちから教わりつつ、隠れ家の雑用を手伝っていた。
シドの仕事を手伝うこともあり、トルガルと一緒に外へ出かけることも増えていた。
ある日のこと、シドがトルガルと共に私のところにやってきた。
私は、料理長が作った食事を注文した客たちへ食事を運んでいるところだった。
「
カスミ、これから一緒に来てくれ」
「はい
……いいですけど、まだ仕事が終わってないんですが」
「ああ、俺が料理長に言っておいた。それを渡し終えたら入り口に来てくれ」
「ワン」
「トル
……ワンちゃんも一緒なんですね」
「ワン!」
ついトルガルと言ってしまいそうになって、思い留めた。
トルガルは特に気にしてないようで、尻尾を振りながら鳴く。
料理長も近くにやってきては、「これは俺が運んでおくから、早めに上がっていいよ」と手に持っていた食事を取り上げられてしまった。
表情は少しひねくれているような気がするのは気のせいだと思いたい。
また、シドが無理矢理私を連れて行くと交渉したんだろう。
たまに、仕事中にシドがやってくるなり出かけるぞ、と外に連れ出してくれることが増えたのだ。
シドの指名なので、料理長も反対出来るはずもなく。
(料理長、ごめんなさい。またお手伝いしますので
……!)
シドもシドだ。私の一日を把握してるくせに、無理難題にねじ曲げてくる。
料理長も色々と苦労しているんだろうなと思う。
部屋に戻り、出かける身支度を調える。
隠れ家にお世話になってからは、私物は自室に置くようにしていた。
異世界の服では怪しまれるし、外の世界に出かけた時に無くしたら嫌だから。
シドの元へ向かうと、準備が調えたらしく腰にかけていた剣を収めているのと、それを座って見守っているトルガルの姿があった。
「おまたせしました」
「おう、そんなに待ってないぞ。仕事中にすまんな」
「いいえ。とはいえ、料理長とはもうちょっと仲良くできませんかね」
「これでも仲良くしてるつもりなんだがな」
「料理長も、一日中仕事の手伝いしてくれると思って今日過ごしてたと思いますけど、急に駆り出されるとあんなふてくされた顔もしたくなりますよ」
「へいへい、あとであやまっておくさ」
バイトは人員が大事だ。一人いなくなるだけでどれだけ負担がかかるか。
そういう意味を込めて目で訴えるとシドも頷いた。分かってくれればよろしい。
シドとトルガル、私はシドの仕事を手伝うため隠れ家を後にした。
* * * *
今回は今までとは違う場所を歩いているようだった。
初めて見る光景がずっと続いている。
「シドさん、今回はどこに行くんですか?」
「ちょっとな
……カスミ、戦争を見たことがあるか?」
「何を唐突に」
いいから答えろ、という鋭い目でいうので、どう答えようか考える。
確かに私の生きる世界では「戦争はあった」。だが私の生きる場所と時代では「戦争はなかった」。
つまり、別の国では戦争はしていた。あとは、遠い昔に。
戦争の歴史はある程度は知っているが、それを実際に体験したことはない。
そういう意味では、私は以前シドが言っていた『箱入り娘』というのはあながち間違っていない。
「戦争の歴史は学びましたけど、実際は体験してませんよ。私の生まれた国では戦いは終わって、戦争しているかしていないかでいえば、平和でした」
「なら、これから行く場所は
カスミにとって初めての戦争風景になるわけだ」
「?どういうことです?」
「仲間から通達があってな、以前説明しただろ?この世界にはマザークリスタルがあって、そのマザークリスタルを巡って、各国が争っていること。特に各国には召喚獣の力を宿すドミナントが戦うこともある」
「
……ああ。『召喚獣合戦』でしたか?」
「近々、鉄王国とダルメキア共和国が戦を始めると聞いてな。予定を変更して、鉄王国のドミナントと合間見ればと思ってな」
鉄王国のドミナント
――記憶が正しければ、ジルだろうか。確かシヴァの継承者だった気がする。
ダルメキア共和国は、タイタンの継承者であるフーゴ。
それはゲームの冒頭に流れるムービーで見たことがあった。
もしかして、その冒頭の時期に今来ているんだろうか。
「鉄王国って確か、ドミナントというかクリスタルの使用を禁止している宗教団体がいたとかなんとか?」
「ああ。ドミナントは戦争の道具として扱われる。いい噂は聞かないね」
「だから、ドミナントと接触して助けたいと?」
「そうだ。できれば無駄な争いせず、話し合いで決着できればいいんだがね」
初めて会うから、成功するかどうか分からんがなとシドは歩いて行く。
辺りはどんどん砂漠に景色が変わっていく。
そして、所々男の人の声が聞こえてきていた。
シドのことが正しければ、その戦場がこの場所なのかもしれない。
そして、ここでしばらく待機だとシドに言われて大きな岩の影に隠れて様子を伺う。
遠くを見ていると、両側に兵士か騎士のような男性達がたむろっているのが見えた。どう見ても戦争風景だ。
「もし、辛いなら無理して見なくていい。人同士の殺し合いほど惨いものはない」
「それは大丈夫」
そんなことくらいで怖じ気づくなら、そもそも別世界に飛ぼうなど思っていない。
未知の世界に飛ぶくらいの覚悟はある。
……まぁ出来れば見ないで済むなら見ない方がいいんだけど。
そして、ワーと男達の轟きが響き渡る。戦争が始まったのだ。
倒していく者、倒れていく者、私は静かに見届けた。
隣で密かに必死に耐えているトルガルを見て、軽く頭を撫でてやる。
トルガルは、相棒のクライヴはいない
――死んでいると思っているだろう。
だからこそ、人の争いは見たくないのかもしれない。
「
……はて」
なんか、大事なこと忘れている気がする。
ジルとフーゴが戦うのは分かる。圧倒的なスケールで魅了されたくらいだ。
しかし、何かを忘れている。その『何か』が分からない。何故かトルガルの様子ばかり見てしまう。
トルガルを見ていたら何かを思い出せそうなんだけど、あと一歩が出てこない。
ふと周囲を見渡す。とくに怪しいところはない。
そして、地響きが聞こえた。なんと、巨大な人間の姿
――タイタンが顕現したのだ。
(あれが、タイタン
――めっちゃでかっ!)
正直言うと、それが感想だ。感動とかそんなこと言ってる場合じゃない。
何メートルもある巨大な人型が立ったり歩いたりすれば地上はどうなるかなんて想像に容易いだろう。
つまり、さっきから土地が揺れているのだ。小石がばらばらと下に落ちていく。
「相変わらずでけぇな
……!」
「戦ったことあるんですか?」
「いや、どうだったかなっと
――」
シドは土砂が崩れたのか、構えの姿勢から崩れてしまう。
しかし、身体能力は抜群なのかすぐに立ち直る。
それに対し、鉄王国の陣営からは宙に舞うシヴァの姿が顕現した。
その姿は、あのクライヴと一緒にいたヒロイン
――ジルの表情と似ていた。
あの綺麗な可愛いジルの顔ではなく、どこか憂いを帯びた、何かに疲れ果てたかのような冷たい表情だった。
シドの言うとおり、鉄王国では丁重に扱われていないということなのかもしれない。
「
カスミ、これが召喚獣合戦だ。見惚れるのもいいが、自分の身は自分で守れよ!」
「わ、分かりました!」
私は、大きな岩を土台に支えつつ、彼らの戦いを見守る。
召喚獣同志の戦いは思わず見惚れるほどだ。それと同時に、騎士たちの悲痛な悲鳴も響き渡っていた。
あんな大きな生き物が好き勝手に動いて魔法を使われたら、周囲にいる騎士たちが生き残る保証などない。どう見ても死ぬのは確実だ。
これだけのために鍛えられ、騎士になった彼らが哀れに思えた。
「ワン!
……ワンワン!」
「あっ、トルガル
……!」
抱きかかえたトルガルが、急に私の手から離れた。
思わず名前で呼んでしまったがトルガルは聞こえていないのか、そのまま走って行ってしまう。
私も、後を追いかけていく。
「おい!どうした?」
「ワンちゃんが急に行っちゃったので、後を追いかけます!」
「って、ちょっとおおい!!」
私が走ってトルガルの後を追う。
背後で、シドが叫ぶ声が聞こえるけどこのままではトルガルの行方が分からなくなる。
だが、後ろからシドも走ってくるのが見える。
* * * *
トルガルの後を追って向かった先は、予想外の光景だった。
目の前には銀の鎧を深く被った図体のでかい騎士たちが多数倒れている。
とある木に倒れ込む綺麗な女性。
それを庇うように立つ一人の青年。
そして決着がついたのか、彼と対峙していた青年がゆっくりと倒れていくところだった。
これは
――そう。主人公のクライヴがあのフェニックスの事件からザンブレク皇国でベアラーとして生きた姿。
ゲーム上では過去編を除き、最初に操作する大人になったクライヴの姿そのものだった。
そして彼が庇っている女性は、先ほどシヴァとして顕現していたジルだ。
ところどころ傷が酷く、気を失っているようだ。
これは、物語の始まりの場面だ。
「ちょっと、ワンちゃん!」
「ワンワン!ワンワン!」
トルガルに追いついたと思ったら、また走り出して彼の元へ走って行く。
クライヴは敵かと身構えるも、じっとトルガルを見ていると何かを思い出したのか剣を収めていた。
「トルガル
……か?」
「ワンワン!!」
「お前
……生きてたんだな!」
「ワンワン
……クゥン」
そうか、駆けだした理由はクライヴの気配か匂いに気づいたからのようだ。
ずっと探し続けていた飼い主が近くに居るとなれば、そうなるのも無理はない。
クライヴが懐かしむようにトルガルをこれでもかと頭や体を撫でる。
それを嬉しそうに鳴くトルガル。
ずっと見守っていたい、と思ったがここでいったん止めるべきだろう。
彼らも深い傷を負っている。
「あの
……」
「
……誰だ!」
私が勇気を振り絞ってクライヴに声を掛けた。
そりゃ初対面ですし、彼からすれば鉄王国の敵でもあるしザンブレク皇国の裏切り者でもあるので、警戒心マックスだろう。
「え
……えっと、そのワンちゃんが急にここに走ってきたから、えっと」
「
……」
「ワン!ワン!」
しまった。どう説明して登場しようかまったく考えずに声を掛けてしまった
――!!
警戒心マックスですよね。悪い人じゃないですよって言われても信用できるかって思いますよね!?
「何か、争ってるみたいですし早くここから離れた方がいいですよ」
「それはアンタもそうだろう」
「わ、私はとある人と仕事で付き添っていて」
「
……その連れは?」
「あ
――」
後ろに振り返ると、来てるはずだと思っていたシドさんがいなかった。
どこかで見失ってしまったか?
やばい、私戦える術まったくないんですけど。
トルガルもいるけど、この場合おそらくクライヴ側に付いちゃいますよね。
私、死亡フラグたっちゃった?
「それより、怪我大丈夫ですか?そこの、女性の方も」
「ああ
……気を失っているだけだ」
「なら、応急処置程度でいいなら薬と包帯を」
「何が目的だ?」
「目的はないんですけど、連れの人が見つけてくれないと私も帰れないんで」
「目的がないなら放っておけばいいだろ」
「連れの人が言ってたんですよ、『困ってる人がいたら手を差し伸べる。そのためにこの活動をしている』と」
だから助けますよと言った。そう言うとクライヴは驚いた表情で私を見る。
それも仕方ないかもしれない。ザンブレク皇国のベアラーの扱いも鉄王国での扱いと同じくらい奴隷度が増している。
「
……なら、ジルを
――彼女を先に手当てしてやってくれ」
「はい」
苦渋の決断だったのだろう、そっぽ向きつつジルを私に見せるように体を避けた。
私は、腰に付けていた医療用カバンを手に触れつつ、必要な道具を取り出していく。
ジルは全体的にズタボロ状態だった。可愛らしい服もこれでは台無しだ。
傷口を塞いでいくと、今度はクライヴへの手当てを始める。
しかし、彼は顔を背けた。
そういえば、ベアラーの刻印を刻まれていた気がする。
彼もまた、ベアラーという奴隷の刻印を刻まれ、それだけで酷い扱いをされてきたのだろう。少し怯えているように見えた。
「私たちの活動は、人間だろうがベアラーだろうがドミナントだろうが関係ないですよ。だから、顔を見せてください」
「だが」
「治せる怪我も治せなくなります。ワンちゃんが心配なままでいいんですか?」
「
……」
「クゥン
……」
トルガルも彼の傷を見て不安げな表情と鳴き声を発する。
それに負けたようで、彼は素直に顔を見せる。
彼もまた、これだけの沢山の人を殺めたのもあり苦労したのだろう。
ゲーム上ではどん底に落ちた人生からのスタートで、最終的には立派な大罪人(語弊有)シドとしてヴァリスゼアを救う英雄だ。
……んでもって、めちゃくちゃイケメンだ。
傷の手当てが終わると、彼が小さく「助かった」とお礼を言う。
私は、どういたしまして、と言う。
「これからどうするんですか?」
「とにかく、安全な場所に彼女を連れて行きたい」
「なら、うちの所にきたらどうです?なんだか、ワンちゃんと知り合い?っぽいですし」
「
……トルガルの世話をしてるのか」
「私も最近お世話になったばかりですけど、良い人ばかりですよ。ワンちゃんもちょっと前に連れの人に拾われたって聞きましたし」
「お前、よく無事で生きていたな」
「ワン!ワン!」
「
――おっ、
カスミ。やっと見つけた!」
「シドさん、遅いですよ」
「ワンワン!」
「仕方ないだろ、グツに道案内してたんだよ」と言って、グツさんも背後からやってきた。
そういえば、偵察の後に仕入れのために出かけていたグツさんのお迎えもあったんだった。
慌てて、クライヴに「大丈夫です、私の連れたちです」と言うと、警戒していた彼は少しだけ解いてくれた。
シドは周囲を見渡し、やがてクライヴと意識を失っているジルを見る。
「確かに、シヴァのドミナントだな」
「!ジルに手を出すな!」
「いや、手は出さないさ。行くところがないならこれから付いてこい。それからどうするかはこのお嬢さん次第だが。グツ、お嬢さんを背負ってくれ」
「ええっ!で、でも
……」
グツは睨みつけられるクライヴを見て怯えてしまう。
今すぐにでも噛みついてしまいそうな勢いだ。私とトルガルが彼を宥める。
「大丈夫、シドさんはああ見えて私を拾ってくれた変な人ですから」
「変な人ってなんだ!?命の恩人と言ってくれ」
「はいはい、命の恩人さんです」
「心がこもってねぇ!」
「カローンお婆さんがそれくらいで十分だって教えてくれたんですよ」
「あの婆さんめ
……」
シドはクソッ、と悔しがる中私とグツは影で笑いを零す。
そんな雰囲気を見せられているクライヴは戸惑いつつも、襲いかかる敵ではないことは認識してくれたらしく、ジルには一切手を出さないことを条件に、私たちはシドの隠れ家に向かうことになった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.