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2024-02-07 04:03:17
2136文字
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突発バレンタイン短文

休載絵が 休載絵が あまりにも


 大柄な、たくましい身体をみっしりと、隙間なくプレゼントで埋め立てて――そして叶はスマートフォンの画面越しに、その光景を見た。
「おー、悪くないぞ敬一君」
「本当に撮るのかよ……
「撮らないでどうするんだ」
 全部敬一君宛なのに――そう言って叶はカメラ機能を調整する。
「まだ終わらないのか?」
 叶の後ろでは、カーペットの上に行儀よく正座をした村雨が、クッションを抱えて口をへの字に曲げていた。
 ここは叶の私室――正確には、リスナーたちに私生活を見せる為の、撮影用の私室である。カメラの外にはまだまだプレゼントが積み上げられており、その大半が叶宛の、リスナーからのバレンタインデープレゼントであった。
 レイメイチャンネルには最近、レイメイの「友達」が時折登場するようになった。彼らの強烈な個性は再生数を順調に伸ばしたが、その中でも特に人気なのが、今、まさにプレゼントに囲まれている獅子神敬一なのであった。
 金髪碧眼、筋骨隆々、わかりやすくイケメンで、世話焼きぶりなども透けて見える二十代の、いい服といいキッチンを持った男――人気が出ないほうがどうかしているような、超優良物件だ。
 当人は、自分自身の肉体的な美しさを自覚しているものの、どうして突出して人気が出てしまうのかは今ひとつ理解できないらしく――確かに、顔の造型からすれば客観的に真経津のほうが美しい――、山のようなプレゼントに囲まれて、どうにも面はゆげな顔をしている。
「納得いかねえ……実質村雨宛みたいなのもあるじゃねえか」
「礼二君は何をしても許されるんだ、イチゴつまみ食い妖怪ちゃんだから」
「そういうことだ。私はイチゴつまみ食い妖怪ちゃんだからな」
 獅子神は甘いものは食べないだろうということで、「れいじくんにあげて下さい」というメッセージカードがついたものも散見される。「れいじくんに食べられないよう頑張って下さい」に至ってはもう、熱湯の前で「押すなよ」と言うがごときもので――それらのメッセージを過大解釈し、ここに並んでいるチョコレートはすべて私が食べてもよいものなのだ、と村雨はまさに、シャッターが降りた瞬間にバリバリ包装を開けてやろうとスタンバイしているのであった。
「これオレのアカウントで上げるからな、いい顔しな」
「いい顔って、モデルでもねえのにできるか」
「ぶつくさ言っていないでもっとありがたがれよ。オレのチャンネル経由なんだから、これ全部、実質オレからのプレゼントだ」
「そういうもんか?」
 獅子神は己の周囲を埋め尽くす、高そうなラッピングを眺めやる。
「ほら敬一君、オレのカラコン見ろ、ちゃんと見ろ。でオレに向かって『ありがとう』ってな!」
「なんだよ……
 オレに向かって、と言われた獅子神の表情が、ふっとやわらかくなる。
 そして彼は照れくさそうに口元をむずむずとさせた。
……ま、そういうことなら、ありがとうな」
「もう食べていいか?」
 シャッターの音が鳴って、即座に村雨がそう口を挟む。
「うーん……
 叶は難しい表情で画面を眺めやった。村雨が立ち上がり、叶の背後から背伸びをして、その画面を覗き込む。
 そして黙って眉を寄せた。
「え、なに」
 獅子神は不安そうな声を上げる。叶は考え込むように視線をさまよわせ、そうだ、とつぶやいた。
「ちょっとオレサングラス取ってくる」
「サングラスって、え、オレがすんのか? お前のサングラスオレの顔の形に合わねえだろヤだよ」
「ちゃんとオマエに合うのもあるよ。いいからオレの言うとおりにしろ」
「それがいい、獅子神」
 生真面目な顔で村雨が頷く。
「もう一回撮り終わるまで待ってやるから、叶の言うとおりにしろ」
「お前が目の前のチョコ我慢するとか不気味なんだけど。マジで何なの、オレなんかまずい顔したか?」
「礼二君この写真要るよな?」
「送ってくれ。……見ろ」
 村雨は己のスマートフォンを取り出し、獅子神にその画面を向けた。
 獅子神は画面を覗き込み――その頬がじわじわと赤くなる。
「な、なんか……こっぱずかしいなこの写真……
 映っているのは豪華なプレゼントに囲まれて、甘えるような上目遣いでこちらを見ている男の姿だ。
「まったく、カメラの前で気を許しすぎだ」
「だって叶があんなこと言うから!」
「ほら、このサングラスならいいだろ敬一君、撮り直すぞ」
「そこまでして撮らなくてもいいだろもぉ~照れくせえんだよ!」
 リスナーの好意に埋もれた獅子神は暴れることもできず、不自由に脚をじたばたさせる。ぐうう、と腹を鳴らしながら村雨が言った。
「早く撮り終えて紅茶を淹れろ。ただし、最初に食べるのはあなたの作ったガトーショコラだ」
……失敗してても文句言うなよ」
「安心しろ、万が一失敗していれば我々が大いに笑ってやる」
「ほーら敬一君、サングラスにそのオレたち限定の甘えたお目目を隠してチーズ!」
「う、うるせぇ!」

 おそらくレイメイのアカウントには、顔をスタンプで隠した写真が上がることになるのだろう――
『デレデレし過ぎだよケイイチ君』という、呆れ顔の絵文字つきのコメントと一緒に。