望月 鏡翠
2024-02-07 00:18:58
949文字
Public 日課
 

#1258 「煙」「法律」「衝立」

#毎日最低800文字のSSを書く

 まずは喫煙所を探す場所から始めることにも、悲しいかな慣れてきてしまった。
 案内図を見なくても場所は大体わかる。玄関や表通りから見える場所には、ないものだ。大抵は駐車場や裏口やゴミ捨て場の近く。屋根がある場合もない場合もあるが、ともかく人に見えにくい場所だ。
 場合によっては自動販売機の近くにあって、休憩所らしく作られていることもある。
 ともかく喫煙所があるなら、こちらの方だろうというなんとなくの感覚というのがあるのだ。
 それは我々のような人間特有の嗅覚だ。近くに行けば、実際に臭いがするからわかるようになる。何が悲しくて、煙草を吸わないのに身につけなければいけなくなったのだろう。
 私は非常階段から外に出て、探していた匂いを嗅ぎ当てた。おそらく喫煙者にはわからないのだろう。自分がどれほど強い匂いを発しているのかということは。
 煙草の臭いが漂ってきている。階段を降りていけば、蛍のように暗がりに火を瞬かせているそいつの姿があった。
「この建物は禁煙では?」
「ここは屋外だ」
 果たして、そうだろか。非常階段も建物の敷地の中だと思うが。
 隣に言って煙を手で払う。衝立一枚たてたくらいでは、煙は防ぐことができない。階段から外に出れば、数階上にいてもすぐ慣れた。
「受動喫煙」
「屋外に関しては、法律違反じゃない。条例ではどうだったかな」
「ここは屋外なのか」
「屋根の下ではあるかもしれないな」
 それ以上言及しなかったのは、私が詳しくないからだ。スマホのロックを解除して、検索窓に関連項目を打ち込めばわかる程度のことを、私は調べない。だから法律で禁止されていることを理由に彼に禁煙を促すことはしない。
 もしそこに相手もスマホを取り出して、そこにこちらに都合が悪いことが書かれていたら面倒だし、仮に法律で禁止されていたとしても、彼はみんなやっているし、私が口を閉ざせばそれですむことだと言ってくるに決まっているからだ。
 万が一、本当に訴えたとしても治りはしないだろう。
 彼は血管の中にニコチンが流れている類の人間なのだ。格好いいからという理由で吸い出しただけの癖に、それが頭脳労働に欠かせないとでもいうかのように、格好をつけて吸っている。
 大人とは、そういう生き物だ。