望月 鏡翠
2024-02-06 19:25:02
862文字
Public 日課
 

#1256 「斜陽」「妖怪」「ジュークボックス」

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 きっと世界の終わりまで、その街では陽が傾いて赤い光が街の全てを照らして建物の影との間にコントラストを作っているのだろう。
 斜陽の街は世界から切り離された場所にあった。時間も空間も別だから、我々が暮らす世界が朝になり夜になって天体を回し、季節が巡って夏になり冬になっても変わることはなかった。
 人はそこに出入りする手段を失って直ぐは、話題になった。なんとか取り戻す手段を探した。世界の一部が切り取られてしまうというのは、いつの時代も人にとっては大事件だ。
 だが人が忘れてしまうだけで、それは定期的に発生することだ。
 それは大災害ということになった。街一つ消えるほどの、大きな事件だった。世界が切り離されたという真実だけが、あとに残らなかった。そうして火山に沈んだ街や、海に沈んだ大陸などが今まで失われてきたのだ。
 斜陽の街もその中の一つに加わったに過ぎなかった。
 歴史に残るような街ではなかったから、何年も経つうちにそんな場所があったことすらもすっかりと忘れ去られた。
 そうした場所は人の世界に居場所がなくなった者たちの住処である。日本の土地の一部だった街は、日本に住まう妖怪たちが集まって住処になっていた。
 新しく世界が切り離されるたびに、彼らの元に最新の人の文明が届けられて、楽しむのだ。最新の人の文化に触れて、学習したあと妖怪たちは人の世界に出ていくこともある。
 特に気に入っているのは、喫茶店に残されたジュークボックスである。妖怪たちはよくそこに行って、流行の音楽を楽しんだ。もちろん、ひと昔前の流行の音楽である。
 斜陽の街では、今日も音楽が流れている。時が流れないから、今日なんて括りはないのだが。そうして音楽のことがとても好きになった妖怪が考えた。人の世界に行って、新しい音楽を手に入れてくるのはどうだろう。今度はもっとたくさん聞けるのがいい。それならいっそ自分たちで作るのはどうだろう。
 楽器を持ってきて、練習を始めた。
 だから斜陽の街では、近頃拙い楽器の演奏の音が聞こえている。