梶木鮪
2024-02-06 03:58:45
4755文字
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きさらぎ駅を出禁になるWBの話

タイトルそのまま。
BGMはWii版マリカのココナッツモールがおすすめです。
ギャグです。


きさらぎ駅。
それは、普段使っている電車に乗っていると辿り着くことがあるという無人駅の名。
某インターネット掲示板で一躍有名になった、都市伝説の呼び名でもある。
ネットの海を介して瞬く間に広がった伝承は、やがて自ら人を招き入れるほどの自我を持った。
人々の恐怖心を煽り、そして自分を決して忘れ去られないようにするため。
今日もまた二人、新たな贄となるべき人間が殺風景な駅の構内に招かれた。


***


と、ここまで散々おどろおどろしく語ったが、残念ながら今回の二人はまともではなかった。
見た目は、片方が帽子で髭、もう片方が黒髪蓬髪と特におかしな箇所はなかったが、中身が真人間ではなかった。
彼らが生まれた瞬間に神様が頭から倫理観をごっそり抜き取って、そこに悪魔が危ない虹色の薬を流し込んだとしか思えないレベルでまともではなかった。
現にこの二人は、現実世界で世間を騒がせているお尋ね者だ。
強盗恐喝詐欺etc……あげればキリがないが、悲しいことにきさらぎ駅は彼らが生粋の犯罪者である事を知らない。
そして、この二人もまた、この駅が日本で有名な都市伝説である事を知らなかった。

「なあ、キッド。俺たちって確か地下鉄に乗ってたよな」
「そうだなブッチ。これが幻覚症状でもなけりゃ、地下鉄に乗ってたな。お前、昨日か一昨日ヤってた女、妙に薬臭えって言ってなかったか?」
「あー、言った。やべえな、巻き添え食らっちまったか」

止まった電車から降りて「きさらぎ駅」と書かれた掲示板を見上げ、ブッチと名を呼ばれた蓬髪の男が答える。
その横でタバコに火をつけながら、キッドと呼ばれた男が後の電車をチラリと見て呟いた。

「乗客も運転手もだーれもいねえし、一体どうなってんだ?」
「知らねー。つか、あの掲示板見る限りアメリカでもなさそうだぞ」

面倒臭そうに欠伸をしたブッチが、自身の頭上の掲示板を指差した。
彼らにとってはどこの国の言語かわからない文字の羅列に、キッドの眉間に皺が寄った。

……読めねえな。どこの国の言葉だ?」
「俺が知るわけねえだろ」

パチンパチンと微かな音を立てる消えかけの蛍光灯の下、二人の男が若干困惑した様子で掲示板を見ている。
それもそうだ、いきなり知らない国の存在しない駅に飛ばされては、誰だってこうなる。
通常の人であれば、ここで警察などに連絡をするのだろう。
だが、この男たちは札付きで、しかも再三言っているように頭のネジが少々緩んでいた。

「なあ、相棒。俺ちょっといいこと思いついたんだけど」

掲示板を見上げて何かを考えていたブッチが、何か閃いた様子で隣にいたキッドの肩を叩いた。
すると、叩かれた側のキッドはあからさまに嫌そうな顔をした。

「お前がその呼び方する時は大体面倒ごと思いついた時だって、俺知ってんだからな」
「なんだよ、いいだろ乗れよ水臭え。まぁ聞けよサンダンス、イイコのお前なら気付いてると思うがここはフツーの駅じゃねえ。おまけに電車も止まっちまってるから、行くことも戻ることもできねえ。お手上げだ」
「だろうな。最初っから気づいてた」

ウンウンと神妙な顔で頷いたキッドに、ブッチはさらに言葉を続ける。

「だろ? だったら、こんな辺鄙な場所に迷い込んじまった俺たちは、何とかしてここから自力で脱出しなきゃならねえ」
「そうだな」
「で、緊急事態に脱出の手段を選んでる暇はねえだろ」
……何おっ始めるつもりだ? 相棒」

胡散臭そうな目で相手を見つめ、しかし酷く面白そうな声色でキッドが尋ねる。
すると、ようやく乗り気になってきた相棒ににっこりと笑顔を返して、ブッチはさらにこう続けた。

「ここ、全部ぶっ壊しちまおう」


***


そこからしばらくして、二人は線路の上を歩いていた。
進行方向には大きなトンネルがあり、彼らは読むことができないが「伊佐貫」と地名が書かれている。
そして、そこを目指して歩く彼らは、駅構内で見つけた刺股やら警棒やら、果てはバールまで持ち出していた。
夜道で出会ったら真っ先に命乞いをしたくなる風貌だったが、しかし二人の目は輝いていた。
そんな、絶対に関わり合いになりたくない様子の二人に、この駅の中で初めて声をかける者がいた。

「危ないから線路の上を歩いちゃダメだよ」

優しそうな、しかしどこか機械じみた声でそうかけられた言葉に、二人がパッと振り向いた。
振り向いた先、薄暗い線路の上には、一人の老人が立っていた。
だが、その姿を見て、二人は瞬時に相手が生き物ではない事を察した。
その老人には、片足が無かったのだ。
だというのに倒れることもなく、線路の上に直立している。
現実の物理法則を無視した老人の出現に、二人は恐怖——するわけなどなく。
ニコニコと人のいい笑みを浮かべた老人がまた口を開くより先に、ブッチの振りかぶったバールが老人の頭蓋を叩き割った。

「第一駅人発見!! もう死んでるみてえだけどな!!」
「おー、ナイスショット。近年稀に見るフルスイングだったな」
「危ないから線路の上を歩いちゃダメだよ」
「見事腹に命中すれば10点!! 頭を通り抜ければ50点!!」
「ゼロ距離でタコ殴りにしといて点数も何もねえだろ。あと良く喋るなこのジジイ」
「危ないから線路の上を歩いちゃダメだよ」

ゲラゲラ笑いながらジジイの腹と頭を交互にバールで殴るブッチに、一周回って冷静さが勝ったのかキッドが淡々と返す。
そのまましばらくブッチは老人を殴っていたが、老人の体の半分が砂利に埋まったあたりでその姿が消えた為、暴力はお開きとなった。

「あっ消えちまった」
「大方殴りすぎたんだろ。先急ぐぞ」

バールをくるくると振り回して名残惜しそうにしているブッチを宥めて、キッドはまた歩き出した。
その時、駅から持ち出していたストーブ用の灯油の入ったポリタンクの蓋を開け、線路沿いに灯油をばら撒いていった。
とっとっとっ、と一定のリズムで流れ出ていく灯油に、夜風の中に独特の匂いが混じる。

「なあキッド、お前まさか……
「お前も聞こえてんだろ、このシャンシャンドンドンやかましい音」

駅出たあたりからずっと、どこかから聞こえてくる鈴や太鼓の音。
それが、キッドは酷く気に入らなかったらしい。
煩くて仕方ねえし、かといって姿も見えねえから、派手にパーっと一掃しようと思ってな。
ハッとした様子のブッチにニヤッと意地の悪い笑みを返して、キッドはポリタンクを近くの草むらに投げ捨てた。
そして、懐からライターを取り出すと、それを今まで撒いてきた灯油の上に放り投げた。

——ゴウッ!!

瞬間、夜の闇の中に現れた橙色の炎に、さすがのブッチもうわっと声を上げ飛び退いた。
メラメラと夜の闇を焦がす炎はあっという間に夜風によって燃え広がり、辺りのススキを全て燃やしていった。
その途中、ぎゃあっと何かの悲鳴が聞こえて鈴も太鼓の音も聞こえなくなったが、二人にはその悲鳴は聞こえていなかった。

「何がいたかは知らねえけど、これで少しは静かになんだろ」
「うわ、あちっ、お前これ熱気すげえぞ!? あと火の粉こっちまで飛んできてる!!」
「そりゃあ当たり前だろ燃やしてんだから。まだ寝ぼけてんのか?」
「人のこと言えた口じゃないけど、お前も大概クレイジーだよなぁ〜」

少し引いた様子のブッチに「全部燃やした方が早くカタが着くだろ」と返すキッド。
そうして、お互いにお互いがまともじゃないと言い合いながら歩き続け、いよいよトンネルを通り抜けた。
ろくな明かりもない中、一本だけぽつんと立った街灯の青白い灯りの下に、日本で良く見る黒塗りのタクシー車が止まっていた。
その近くに、タバコを吸っている運転手らしき服装の男が一人立っている。
その男は、二人の姿を目にすると、にこやかに手を挙げ——そのまま目を見開いた。

「ようオッサンいい夜だなお前も死んでんだろだったらタバコ寄越せオラァ!!」
「ギャッ」
「ほらそこどけオッサン、どうせ車も使わねえだろ? じゃあ俺たちが有効活用してやるよ」

突進してきたブッチのフルスイングバールが運転手の顎をとらえた。
そのまま、振り抜いた鉄製のバールの力のままに、運転手は宙を舞った。
車体に当たりバウンドした運転手の体はズザーっと砂利の地面の上を滑り、そしてそのまま動かなくなった。
その体を足で蹴って退けながら、キッドが車内に荷物を放り投げ運転席を覗き込んだ。

「うげぇ、この車右ハンドルかよ」
「あっマジ? よし頑張れサンダンス」

助手席に乗り込み、ダッシュボードからタバコを見つけたブッチが、上機嫌のままにキッドに運転を任せた。
そんな相手に舌打ちを返して、運転席に乗り込んでキッドは車のエンジンをかけた。
静かな闇の中に車のライトのオレンジ色の明かりが灯り、ブゥーンというエンジン音が響く。
とことん右ハンドルに慣れていないのか、キッドがハンドルの具合を試すように車を前後に動かした。
すると。

——ドゴォッ!!

「グギャッ」

一瞬バックミラーに人影が写ったかと思いきや、後退した瞬間にそれに当たってしまったらしい。
がこんと車が大きく揺れた後に車下から伝わってきた何かを踏む感触に、二人は思わず顔を見合わせた。

「なんか轢いたな」
「誰かの間違いだろ」

つーか、あのオッサンだろ。
また人を殺めちまったなぁキッド、とタバコを吸いつつ言ったブッチの言葉に何も返さず、キッドはアクセルを踏んだ。
またがこんと車が揺れたが、車はスムーズに発進した。
そのまま窓ガラス越しに流れていく景色を見ていくと、徐々に橙色の大きな光が見えてきた。
ああ、駅に近づいてきたのだと二人が理解すると同時に、前方に奇妙な人影が見えた。
足が欠けているのに直立不動の姿に、キッドはハッとした様子で声を上げた。

「おいブッチ、また前方にジジイいんぞ! どうする!!」
「よし、撥ね飛ばすか!!」

そのままアクセルベタ踏みで突っ込んじまえ!!
高笑いしながら出された指示に、キッドは同じように笑顔を浮かべて素直に従った。
アクセルを思いっきり踏むと、ギューンとエンジン音が大きくなり体にかかる負荷が強くなっていく。
まるで車の耐久実験のような速度でトンネルを飛び出した黒塗りのタクシー車は、的確に片足の老人を跳ね飛ばした。
老人の体がぶつかった車の箇所がベコッと音を立てて凹み、フロントガラスにヒビが入った。
そのまますれ違い用の線路に抜けていく車の窓に、空高く舞い上がった片足の老人の姿が映る。
くるくると木の葉のように優雅に舞う老人の細い体が、満点の星空に映えていてなんとも美しい。
だが、車を運転している二人は、そんなことはつゆ知らず。

「あれ、まだ出られねえな?」
「ホームの中も突っ走ってみるか?」

未だ様子の変わらない夜のホームに首を傾げ、さらなる破壊活動を重ねようとしていた。
それだけでなく、「またあのジジイ出てきたら、今度は車に乗ったまんまバールで頭殴ってみようぜ」と楽しそうに話している。
ここでようやく、二人の様子を見ていた「きさらぎ駅」という名をもらった怪異は痛感した。
「こいつらやばい」と。
そう理解した瞬間、きさらぎ駅はすぐに二人をこの世界からつまみ出し、もう二度と入って来られないように呪いをかけた。
こうして、アメリカ人二人の健闘により、きさらぎ駅は大きなトラウマを植え付けられ、だいぶ行動がおとなしくなったのであった。

めでたしめでたし。