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g_g_i_i_e_e
2024-02-04 13:49:59
2115文字
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異界より、ぬい
突発もち短文
銀行賭場が一時閉鎖されて、既に二ヶ月が経過していた。
「まともな顔色になってきたな」
「まあ二ヶ月も経ちゃあな」
己の自宅に、ここ半年唯一のセックスパートナーを
――
つまり村雨礼二を迎え、獅子神は溜息をついた。
「お前のほうの職場、どうよ」
「ネットで調べた知識で医者にもの申すマヌケは、以前からいたものだ。とはいえ
……
」
ソファにどさりと腰を下ろし、テレビをつける。この二ヶ月、どこかのチャンネルでは常に流れている光景がまた、大画面に映し出された。
「
……
これを見てしまうとな。さすがに多少の同情は覚える」
海上に展開する巨大な霧のドーム、空に浮かぶ漆黒のオベリスク
――
「身体に管を繋いだまま退院していく者が、後を絶たん」
「あそこに行きゃなんとかなるかも、って思うわけだ」
ビッグ・アップル、ゴッサム、眠らぬ街
――
いくつもの愛称で愛憎を受けていた、かつて世界一の都市と呼ばれていた紐育は、一夜にして消滅した。
代わりに現れたのは結界とやらによろわれた霧の魔界、ヘルサレムズ・ロット
――
人智を越えた科学と魔術、数百メートルを超えてなお自重で潰れもせぬ個体、触手に覆われた二足歩行のキノコ、そんなものが、申し訳程度の人類に混じって我が物顔で闊歩する、異界と現世の境界都市。
「あれ見た時は正直、株価と同じぐらいオレの血の気も懐も引いたが
……
最近はコツも掴めてきたぜ。どうせあのドームのこっち側には出てきやしねえんだし、金づるの一つだと思やぁいいんだよ」
今日も今日とて、異界技術の持ち出しに成功したと噂の義体メーカー、高騰したその株を売り抜けたところだ。化物を利用しようとすればどうなるか、獅子神はよく知っている。噂の時点でさっさと売り抜け、また悲惨な結果になって大暴落すれば、己の慧眼を誇ればいい。そして稀にあるように、その企業が人界技術とのすり合わせに成功して、株が万馬券どころか億馬券になったら
――
それを悔しがるのは間違いなく、破滅への第一歩だ。
投資家としての獅子神は、別にギャンブルを楽しんでいるわけでもない。
「たくましいことだ」
物憂く映像を眺めてそう言ってから、村雨は手に提げていた紙袋を、己の膝の上に置いた。
「手土産じゃねえの、それ」
「ある意味そうだが」
取り出したのは、手の中に収まる程度の
――
二つの、俵型の物体だ。
獅子神はぽかんと口を開ける。
「
……
は?」
村雨の繊細な手の上でころりと転がるそれを、獅子神は一度凝視し、まばたきをして、それからもう一度眺め直した。
「え、おま、
……
はぁああ?」
「まずは話を聞け、マヌケ」
ソファの上に丁寧にそれを鎮座させて、村雨はうんざりしたような顔で言う。
「これはあそこから来たものだ」
顎で指したテレビ画面を見て、獅子神の表情は一気に引き締まった。
「
……
異界技術か?」
「そうだ。と言っても、別にこれが世界を破滅させる爆弾だというわけではない。向こうのちょっとした店なら、当たり前に購入できる
――
何だ、使い魔? とでも言うものらしい」
「それが何でここにお前」
「素体の所定の場所に、対象となる人間のDNA
――
たとえば毛球つきの頭髪などを入れ、所定の儀式を行うことでこうなる、らしい」
「
……
何となくオチが読めてきたな」
獅子神はそれを眺めて渋い顔をする。村雨は憂鬱そうに頷いた。
「その通り、特五だ。チケット欲しさに我々のDNAを入手し、これを作って客どもに売りつけようとしたところで、宇佐美が突き止め阻止した。債務者落ちしていないギャンブラーのDNAは、売買を禁じられているからな」
当該の特五行員が生き地獄に落ちたであろうことは疑っていないので、なるほど、と獅子神は頷くにとどめた。
「賭場が閉鎖されているのは、今のところ、どう足掻こうがあの現実以上の『面白さ』を提供しようがないからだが
……
こういった事態に対して規則をどのように明文化するかで、行内が揉めているということもあるようだな」
「
……
待てお前、さっき使い魔って言ったよな」
獅子神は俵と村雨を見比べる。
「ってことはこれ
……
まさか
……
」
「あの街では生き物のように動くらしい」
「うそだろ」
ぞっとしたような顔をする獅子神に対して、村雨は首を横に振ってみせた。
「こちら側ではそこまでの『動力』が得られず、新たにDNAを入れてやらん以上は、やがて素体に戻るそうだ。それまでは多少不自然な転がり方をしたり、側に置いていた食べ物が不自然に消えたりするぐらいで」
「不自然で済むか充分気持ち悪いわ! 食ったもんどこに入ってどこに消えるんだよ!」
「気持ち悪いなら『客』にくれてやるか? どう自我があるかすらよくわからんものを、『客』がどう扱うか考えてもみろ」
「うっ
……
」
獅子神は改めてそれを眺めやる。
手の中におさまるようなサイズの、俵型の
――
フェルトめいたぬいぐるみ。
金髪の、パリッときめたウェストコート姿の人間と、黒髪の、ご丁寧にフェルトで作った金縁眼鏡をかけた人間の。
つまりそれは、獅子神敬一と村雨礼二のぬいぐるみであった。
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