パーティータイムはいちご仕立てで

暁子さんから頂いた【ティータイムは星の花を添えて】二次SSです。
学園祭の後夜祭。初めて参加するマルガはそわそわと落ち着かなかった。パーティーの開始時刻が迫っているのにパートナーがやってこないのだ。





 やっぱり派手だったかな……
 マルガは肩をすくめながら自分の二の腕をさすった。正確には、生成り色の薄絹に金色の小花の刺繍が入った袖を。うつむくふりで横目に見下ろせば、うっすらと腕が透けて見える。
 それに対して彼女の身体を覆うのは光沢のある繻子サテンの赤。袖と同じ生地で出来た胸元のリボンは可愛くて気に入っていたが、煌々と輝くランプにシャンデリアの黄金の光は、どうもこの服の赤と相性がよすぎる気がする。
 夜のパーティーは昼間と同じ明るさで考えちゃダメ。これくらいの方が色が映えるのよ。
 母が自信満々に言うのでマルガもこの服がいいと思ったのだが、無数の炎の灯りに包まれていては赤すぎる気がした。派手だし、なんだか子供っぽい赤に見える。スカートの丈は遠慮した膝下で、それもまた幼稚ではなかろうか。
 会場に集まった同世代の女の子達も、皆これでもかというほど着飾っていた。ぴったりとした身体の線を見せるドレスや、大胆に肩や背中を開いたドレスを着ている子もいる。色硝子の連なったイヤリング、首筋の肌を美しく見せる細い鎖のネックレス。普段つけられない紅い口紅は、この日のために買って秘蔵してあったものだろう。
 学園祭の後夜祭。参加が許されるのはマルガ達の学年からで、ちょっぴり大人のこの催しは、実のところ学園祭そのものより楽しみにしている生徒が多い。もちろん、男女問わずだ。
 みんな、今夜はめいっぱい大人っぽくおしゃれしてパートナーと腕を組んでいた。
 兄と一緒に参加することになっている、兄のクラスメイトのお姉さん然り。きれいに巻いた彼女の髪には不思議なキラキラした粉がまとわりついていて、彼女が首を動かすたびに髪と一緒に輝いた。
「遅いね。もうパーティーが始まっちゃうのに」
 と、心配そうに呟く兄もかっこよく決まっていた。青みがあるダークグレーのジャケット、中に着ているシャツの襟には控えめだが金糸で刺繍が入っている。ジャケットと同系色のタイには黄色い色硝子がはまった金色のピン。
 どうやら、兄と兄のパートナーの女の子のドレスコードは金色らしい。隣にいる彼女も、紺色のビーズを散らした黒のドレスの胸元に金色のブローチを着けているから。
「マルガも中で待ちましょうよ。受付なんてあとでも平気だわ」
 兄のパートナーは少し首をかしげ、足許で視線をうろうろさせていたマルガを覗きこんでそう言った。半分は本当の親切だが、もう半分は早く会場に入って兄と一緒に友達のところを回りたいのだろう。
「私、ここで待ってます。お兄ちゃんはもう行って」
「でも……
「いいの! 始まっても来なかったら先に入るから」
「そっか、じゃあ」
 兄は眉尻を下げて笑うと、さっきからずっと女の子と腕を組んでいるのとは反対の手でマルガの手を引き、玄関ポーチの灯りの下まで連れて行った。パーティーの開始時間が迫っているとあって、そこを通り過ぎる生徒の姿はまばらだ。
「ここなら絶対にすれ違いになるなんてことはないでしょ。始まったらまた様子を見に来るから」
 今日はパートナーの女の子のことを一番に考えていればいいのに、この人はいつまで経っても妹は小さい子供だと思っているらしい。
 呆れたが、一人で待つのも本当は心細いのでその気遣いは嬉しかった。
「まったく、女の子を待たせるなんて〝チャラリッド〟の名が泣くわね。珍しいことをするから大事なときにトラブルが起きるんだわ」
 兄の隣で、お姉さんが大げさに肩をすくめながら笑う。
「待っててあげたら、これはひとつ貸しにできるわよ、マルガ」
 つやつやした唇の端を面白げに吊り上げて、彼女はぱちりとウインクしてくる。
 彼に貸しを作ったところで何かいいことがあるとも思えなかったので、応じるマルガの笑顔は変に引き攣ってしまった。



 後夜祭のパートナーは、クラスや学年を超えて選んでもいい。
 単純に仲のよい友達を誘う場合もあれば、恋人を誘ったり気になっている異性を誘ったり。事前にパートナーを決められなかった人は会場で同じ境遇の参加者を探すか、きままに一人で楽しむか。
 実際、このイベントのあとに生まれる恋人達の噂を多く耳にするところを考えると、気になっている相手を誘うケースが一番多いのではないだろうか。
 さてマルガはというと、多分、どれにも当てはまらない。
 誘ってきたのは兄の友達(?)で、マルガにとっては、年寄りくさい言い方だが『茶飲み友達』だ。学園内のカフェで時々一緒に甘いものを食べる、ユール。
 彼に対して最初に抱いた軟派な印象はどうにも拭えないが、この頃あの軽いノリにも結構慣れてきて、愛嬌があっていろんな話題を提供してくれるちょっと面白い先輩、くらいには思えてきた。
 そうして学園祭の準備が大詰めを迎えた頃、校内で偶然すれ違ったユールに呼び止められた。またお茶のお誘いかと思ったら、
「あー、お茶はまた今度で。今は学園祭の準備で手一杯だろうし。というかその、マルガちゃんは今年から後夜祭に参加できるよね」
 なんだか歯切れの悪いユールを思い切り不審の目で見上げていると、彼はさらに決まり悪そうに視線を泳がせてわざとらしくうなじを掻いた。
「一緒に、行かない?」

 マルガは断った。



 だって、ユールは顔が広い。特に女の子を相手に。マルガ以外にもたくさん声をかけたはずだ。
 マルガには、多分二十番目くらいに声をかけたに違いない。
 相手が見つからなかったからといって飾りのように連れて行かれるのを想像したら、ものすごく腹が立った。
 しかし。
(ほかの人に誘われても、断ってたって聞いたら……
 ターニャ曰く、ユールを誘ったけど断られた、と言っている先輩がいたということだ。ほかにも、ある女子生徒は「今年は相手が決まってるから」と言われたとかなんとか。
 又聞きと、又聞きの又聞きのような情報だが、それを知ってマルガはそわそわして仕方がなかった。ユールなら女の子に誘われれば二つ返事で快諾しそうなものなのに。
 それに、相手が決まっているならどうしてマルガを誘うのだろう。
 その疑問にとらわれて二晩ほど過ごし、再び顔を合わせたユールにはまたパーティーへ誘われた。
「相手の人、いるんじゃないんですか……?」
「え? いや、いないよ! 今年はマルガちゃんが受けてくれないと一人で行くことになるかな……
 最後の方はごにょごにょ言っていてよく聞こえなかったが、マルガの質問への答えは最初の一言で十分だった。
「それなら、別にいいですけど……。お兄ちゃんもクラスの女の子と行くって言ってたから一緒に参加できないし、会場で探すよりは……
 マルガの声も後ろの方はごにょごにょになってユールにはよく聞こえなかったらしいが、とにかく彼はほっと胸をなで下ろした。
「じゃあ、後夜祭の会場前で待ち合わせね。噴水の近くに大きな三日月の彫刻があるの、分かる?」
「はい」
「そこで待ってるよ」
「あ、あの、目印は……?」
 絶対のルールではないが、後夜祭にカップルで参加する時は、大抵同じ色のものを身につける。アクセサリーだったりハンカチだったりといろいろだが、これも大人の社交を真似した生徒達の楽しみだった。
「誘うのに頭がいっぱいで考えてなかったな……
「え?」
「何でもない何でもない。じゃあ、マルガちゃんが今日着けてるそれ!」
 ユールに指さされた髪を撫でる。今日はストロベリーブロンドの髪を編み込んでいた。使っているリボンは確か繻子織の濃い緑色だ。常になく金色の縁取りがついていたのは、授業と学園祭の準備で疲れてきた気分を持ち上げるために、よそゆきのちょっといいリボンを選んだからだ。
「大人っぽいし、きらきらしてて可愛いよ。後夜祭のパーティーにしててもすごくおしゃれだと思う。俺もそういう色のものを着けてくるから」
 「分かりました」と言いつつ、マルガはリボンの端をいじりながらつんと顔を逸らしていた。
 可愛いとか、簡単にそういうことを言うんだから。



「マルガちゃんっっ!!」
 突然響いた叫び声に、マルガだけでなく会場へ入ろうとしていたほかの生徒もぎょっとして振り返った。
 玄関ポーチの前にある噴水の前で、両膝に手をつきぜいぜいと肩で息をしているユールがいた。
「ごめ、遅れ……っ」
 どこから走ってきたのだろう。彼はそれだけ言うのにも息が続かず激しく咳き込んでいる。
 人目も気になったので、彼を落ち着かせるべくマルガはユールに駆け寄った。
「大丈夫ですか……?」
「へーきへーき。ごめん、ほんとに。出かける直前になってうちの使用人がさ、タイのしわをきちんと伸ばし直すって言い出して、まあそれはよかったんだけど、火熨斗アイロンがちょっと熱すぎて、タイが焦げて、」
 それから途切れ途切れにユールが言ったことを要約すると、着けようと思っていたタイが使えなくなったため、代わりを探していて家を出るのが遅くなった、ということらしい。今日は馬車の乗り入れも学園の門前までで規制されているので、そこから全力で走ってきたそうだ。
 マルガは素直にすごいと思った。
「別にどれでもいいじゃないですか、タイくらい」
「ダメだって。今日の約束の色なんだから」
 ユールはそう言いながら、走っている間に乱暴に緩めたと思しきタイを締め直した。そうして背筋を伸ばすと、なかなかかっこいい。まあ、お兄ちゃんと同じくらいには、ですが。
「この色、俺が着けてると変?」
「いえ、ただ、せっかくおめかししてるのに髪がボサボサだなと……
「う、」
 悔しげに髪をなでつけ大人しくさせたユールが、不意にこちらを見下ろす。視線はドレスコードの緑のリボンに――今日は耳の下でリボンの端が揺れるように編んで貰った――に向けられた。
「やっぱり大人っぽくて、でもきらきらしてて可愛い。それになんか……
「なんですか?」
 ユールは急に口ごもる。彼の視線が玄関ポーチへと泳いだのでマルガもそちらを窺うが、別に何もない。単に目をそらされただけらしいが、マルガが首をかしげた拍子に影が動き、束の間ユールの顔がオレンジ色に照らされた。それにしては赤いような気がしたけれど、彼はやはりふいとそっぽを向いたので顔色はちゃんと確かめられなかった。
「いや、ドレスが赤いからかな。こう、苺みたいで美味しそうだなって……
「なっ……!」
 目を見開くマルガは、首から上に血が集まってくるのを感じた。本当に苺になっていそう。
「か、可愛いって意味だよ! ほら、俺甘いものが好きだし! パフェの上に乗ってる苺って可愛いし!」
「人を食べ物に例えないでください!!」
 慌てて弁解するユールを突き飛ばさんばかりにどやしつけ、マルガは苺のようなドレスを翻して彼に背を向ける。
 もう、もう。
 本当に軽くて恥ずかしいことばっかり言う人なんだから!
 地をとよもすような足取りで会場に向かうマルガを、ユールは必死の様子で追いかけてくる。
 謝ったり褒めたりしてくる彼を無視しながら二人分の受付を済ませ、きらびやかな会場に入る。
 黄金の灯りの中でマルガのドレスはやはり鮮やかさを増したが、まあ、パートナーのユールが気に入ったならこの色でよかったかな、と密かに思った。









***

暁子さんとはお互いの創作キャラについて「この子にはこんな服が似合いそう〜」などとよくお話しさせてもらうのですが、先日も楽しくお喋りさせてもらったところ翌々日にこんな素敵すぎるSSが送られてきました。
なんと全集中で書き上げてくださったそうです……
楽しすぎて、脳内再生も余裕すぎてお腹抱えて笑って、私も全集中でイメージイラストを描いてみました。
突発的なコラボ作品になりました!

私、何度読んでも絶対おんなじところで吹くんですが!
断ったか〜〜(笑)(笑)まあ断るよね……(笑)

食べ物に例えるのは実は照れ隠しだったりするのか!?なユールはもはやヘタレ男子疑惑(笑)
お兄ちゃんと同じくらいだからねってツンを発揮してるマルガ……ブラコンが見て同じくらいってそれもう株が爆上がりしてませんか??ふふ。
そしてレンレン〜〜〜〜パートナーのお姉さんは一体誰なのっ!(笑)
多分、早い者勝ちで声をかけた子なんでしょうけども。
「今年は一緒に行きましょうよ♪」って誘われたら深く考えることなく「うんいいよ(・∀・)」と答えそう、とは暁子さんの言ですが、まったく異論ありません(笑)(笑)
そしてメイン三人もさることながら、うきうきマルガママのファッションショーやユール&使用人のドタバタ劇、「ヤバイ! 遅刻!」と焦りまくるユールなどなど、お話の外側にも思いが馳せられてさらに妄想が捗る!
マルガママはきっと自分が体験してみたかったのもあるんだろうって思うのよ。
想い人と一緒に過ごす後夜祭ってなかなか青春ですよね。(マルガはそんな関係じゃないと言い張りそうだけど)
ふふふふとっても楽しい〜!

ツンツン女子とじれじれ展開を書かせたら暁子さんの右に出る者はいないなっと、ワタクシ勝手に思ってるんですが(笑)
何よりも暁子さんの文体が大好きなので!
うちの子のお話が読めてとてもとても嬉しかったです。
素敵なSSを本当にありがとうございました!!



暁子さんの個人サイトはこちらから。
荘厳で重厚な異世界恋愛ファンタジーあります。
異能を持つ黒髪ツンツン女子と有能な金髪イケメン王子、ともに愛し愛されたいと願うふたりの物語!