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無窓居室
2024-02-03 23:35:20
1787文字
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追儺
👹ちゃんお誕生日おめでとうございます。
自分には相変わらず中途半端な😈👹😈しか書けませんが、精一杯お祝いの気持ちを込めました。
これからもBCと😈👹😈を楽しんでいきたいと思います!
暖冬と人間達が騒ぐ年でも二月初旬の深夜は刺すような寒さだった。
夕暮れ時から町中を歩き回って探した相手の姿を、ほとんど偶然に橋の下の河原に見つけたときの彼の気分をなんと言おう。
背中の翼も魔力も使わず、人間と変わらない歩みの足ひとつで辿り着きたいと拘ったのは、人の心を操ることなど容易い悪魔である彼が、あくまで人間達の意志によって結んだ契約の末路を自分と助手が撮影した動画でバズりたいという意志の固さに似たところがあった。
「アカネさん」
橋の影の暗がりに、浮かぶように溶けるように佇んでいた赤い影に声をかける。川の流れが映す町の明かりを反射して彼女の目がルビーのように煌めいた。
意外そうな様子はさほど見えない。気配も石を踏む音も消していなかったので、少し前から気付かれていたのかもしれない。
「ブラック」
ひそめられた声が応える。彼にとって囁かれるより怒鳴られることの多いその声は、秘密のうちに響くときこそ、その爪や牙を首筋に立てられるような冷たい気配を帯びるのだった。もしも人間や並の魔物がこんな風に呼ばれれば身動きが取れないだろう。
彼女の服装は普段と変わらない。タイツを履きパーカーこそ羽織っているものの、短いタンクトップの襟と裾から鎖骨も臍周りの肌も真冬の夜気に晒して、当たり前のような顔をしている。その身は人のものではなかった。
「鬼さんが見張っているなんて、ここは賽の河原でしたか」
「見張ってるんじゃないよ、見つからないようにしてた」
「鬼さんが誰と鬼ごっこを?」
「人間」
二人は見つめ合って笑った。
「節分に鬼がうろうろしてちゃ、不安になったり嫌な気分になる人間もいるだろ
……
元々季節の変わり目で体や心が不安定になりがちな時期なんだって聞いてる。アタシや青鬼ちゃんが何もしなくても、何かのきっかけになるのは嫌なんだ」
「せっかくの誕生日に」
「ひめ達には昨日お祝いしてもらったよ、日をずらす理由も分かってくれたし」
「でも魔界には帰らずこんな所に?」
「節分に鬼がいないのも絵にならないからな」
寸前まであどけない少女のようだった表情を異形のもののそれに変えて呟く。人の目を避けながら、彼女は確かに何かを見張っていた。
人間達の風習に、例えば鬼瓦というものがある。脅威である鬼の姿を敢えて屋根の瓦に刻んで他の災いを遠ざけるためのものだそうだ。そして節分は冬から春に転じる変化の大きさ故に、厄災が起きやすい日だとされる。
「──お人好しなことで」
「人に頼まれたんじゃない、アタシが好きでやってるんだよ」
彼女ほどの鬼が睨みを利かせていれば、少なくとも今夜この町で凶事を働ける怪異はまずいないだろう。そんな気配を少しも感じさせずに彼女は肩を竦める。横顔はいつもの屈託のない女の子ものに戻っていた。
橋とは〝端〟だ。世界の端と端とを繋ぐもので、異界との境界でもある。季節の境の日に生まれた人ならざる者が、人の世界のために境目の場所に立っているのは、ひどく脆くかつ頼もしいものに見えた。
「いくら強いアカネさんでも、朝まで寝ずの番は大変でしょう。ここらで一息入れませんか?一緒に温かいものでも
……
お茶請けもあります」
彼が片手を閃かせると、懐にも、ましてや服のポケットにも収まるはずのない水筒と包みが、もう片腕に抱えられる形で現れた。彼女は目を丸くし、心なしか頬には仄かな赤みが差す。
「アタシのために
…
?」
彼は頷いて見せた。
「はい、ホット豆乳ラテに鰯チップス、きな粉のクッキーもありますよ!」
「ふざけんなーーッ!!」
先ほどまでとは違う意味で顔を真っ赤にしながら、河原の石を蹴散らして彼女が追いかけてくる。彼は今度こそ背中の翼を広げて空中へ逃れた。やはり、こうでなくては面白くない。
彼女が人のために尽くすのは、人間に調伏され服従しているからではない。彼女自身の意志で人間に寄り添ったのであり、きっかけは悪魔の自分を追って人の世界へ来たことだ。それが何故こんなに自分を満たすのかと彼は思う。
すぐに答えが出てしまうのが惜しいので、彼は翼をはばたかせて橋の上まで逃れた。水筒と包みの中に詰めてきた、熱い日本茶と雷おこしをいつ渡そうかと考えながら。
2024/02/03
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