スサ
2024-02-03 23:14:53
1896文字
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【ヴィク勇ワンドロワンライ】パジャマ

同居している師弟の話です。裸族が裸族を卒業する日。


 勇利は真剣だった。
「僕が勝ったらわかってるよね?」
 対して、ヴィクトルはといえば余裕の表情どころか、若干飽きていそうというか、あくびをかみ殺している。眠いのかもしれない。
「ちょっと、聞いてるの?」
「聞いてる聞いてる、ポーカーで勝ったら言うこと聞くんでしょ」
「なんか微妙にはしょってるな、僕が勝ったらヴィクトルはパジャマを着ること! ていうか、僕が勝たなくても着て」
「やだ」
「裸で寝てたら地震とか火事があった時困るだろ!」
「別に
 ──もはや第何次になるのかもわからないが、その夜も勇利による「ヴィクトル、パジャマ着て」とヴィクトルによる「やだ」の攻防が繰り広げられていた。
「俺、締め付けられるの嫌いなんだよ。寝てる時くらい生まれたままの姿でいたいじゃないか」
「ヴィクトル自由すぎるよ。人間は毛深くなったり皮膚を硬くしたりしない代わりに急所を守るために服を着るんだよ。服はね、人間の叡智なんだよ?」
「勇利が服について語るなんて面白い冗談だね」
 ふふ、とヴィクトルが笑う。確かに、日頃は衣装以外はほとんどジャージで過ごしているのではないかという疑惑があるのが勝生勇利だ。さすがにそんなことはないし、最近はヴィクトルが強制的に着せ替え人形にするため、意外と衣装持ちになってきたが。
「僕はいつも服きてるだろ」
「いや、俺も着てるけどね?」
「寝てる時以外はっていうんでしょ」
「寝てる時だってパンツは履いてるよ」
「それ服着てるにカウントする?」
 勇利は腕組みをして、目をそらすことなく突っ込んでくる。今日は結構しつこい。
「わかったよ。でも、俺強いよ、カードゲーム」
「勝ってから言いなよ」
 勇利はふん、と鼻を鳴らし胸をそらした。強気だ。実際のところ、確かに戦績はヴィクトルが上だが、勇利が一度も勝ったことがないわけでもなかった。
「僕は絶対ヴィクトルにパジャマを着せてみせる」
………
「なに?」
 ものすごく微妙な表情をしたヴィクトルに勇利は食ってかかったが、いや、とコーチは煮え切らない返事をしただけだった。この強気がいつも試合に生かされていればと思ったなんて、そんなことはけして言えない。いや、言ってもいいのだが。
 勇利は慣れた手つきでカードを切っていく。
「勇利って、手がきれいだよね」
「なに急に。油断させようとしてる?」
 あはは、とヴィクトルは笑った。
「そんなことしなくても俺が勝つのに?」
っ、言ってなよ」
 舌打ちしそうな顔で言う勇利に、ヴィクトルは目を細める。彼の手がきれいだと思っているのは本当のことだが、言い争うようなことだとも思わなかった。
「なんでそんなに俺にパジャマ着せたいの」
……いつも言ってるだろ。もし非常事態が起こったらそんな格好じゃ逃げられないだろって」
「パジャマ着てたからってあんまり変わらないんじゃない?」
「肌の露出は少ない方がいいに決まってるでしょ。滑って落ちるやつ、なんだっけなんかあるだろ、避難する時の。ああいうので滑って摩擦おこして火傷するとかさ」
……
 想像力が豊かだな、とヴィクトルは思った。やや感心している。ただ、心配しすぎではないか、とも思った。ヴィクトルの方が勇利より倍以上楽観的なせいもある。
 ──まあ、負けなければいいのだ。
 実は、勇利がそこまで望むなら着てもいいかな、という気持ちもヴィクトルの中にはあるのだけれど、素直に従うのも癪というか、頑張る勇利が可愛くて見るのが楽しいというか
 ヴィクトルは肩をすくめた。勇利が満足いくまでつきうのはやぶさかでないけれど、早く寝たいな、という気持ちもある。何より、わざと手を抜いて負けるようなことをしたら、勇利はきっと怒るだろう。

 ──結果はすぐついた。
 予想通りというか、ポーカーなどなどのカードゲームにはヴィクトルが勝った。しかし、悔しそうに肩を落とした勇利の口から「パジャマ用意したのに」の独り言がもれたことで大きく事態がひっくり返った。もう既に勇利が買って用意してくれていたヴィクトルのパジャマが勇利とおそろいだったのである。
 ヴィクトルはあっさりと締め付けが嫌という主張を引っ込め、おそろいのパジャマで写真撮ってSNSに上げる! と顔をとかして言ったものだ。勇利は微妙に納得のいっていない顔だったが、受け入れる覚悟はもとよりついていたのだろう。そもそも、結果だけを見ると、勇利の勝ちでもあるから。
 ヴィクトル・ニキフォロフは、その夜裸族の道と決別したのであった。