柩木
2024-02-03 18:05:47
2916文字
Public 崩壊:スターレイル
 

丹穹|互いが知っていればいい

チラリズムにドキッとする丹恒×ガードゆるゆるな穹

鱗淵境を荒らすものを追い払って欲しいというのが今回受けた依頼だった。次々に襲ってくる敵をバットの横薙ぎで一掃させた穹は攻撃が止んだことを確認すると一気に脱力する。降りかかる火の粉を払うことなど最早慣れたものだが、数の多さはただ面倒でしかない。
適当に選んだあの日からすっかり手に馴染むようになったバットを支えにその場へとしゃがみこむ。正直に言うと、立っているのも辛いくらい疲弊していた。体も疲労で所々軋む上に目蓋も少し重い。

「大丈夫か?」
「少し休めば、なんとか。なぁ、一度列車に戻らないか?」

穹を気遣って声をかけてきた丹恒は涼しげだ。穹と同じ様に戦っていた筈だが、彼は汗ひとつ流していない。これが列車の護衛として乗車している男か。そりゃ夜も潰される訳だと心の中で状況に見合わない現実逃避をする。
列車に戻って、何か食べて、一眠りしたらこの疲労感もマシになる筈だ。頭の中で今後の予定を依頼者への報告から列車での休息に置き換えていると、丹恒が何も言わないことに気付いた。
 
「丹恒?」

ぼんやりと地面を見つめていた穹が視線を持ち上げれば、なんとも言い難い表情をした丹恒がこちらを凝視しているのに気付いた。眉間に強いシワを刻み付けて苦々しい表情をしている割りに、肌の色はほんのりと血色がいい。
不自然な丹恒の様子にぎょっとして身動ぐと、更に表情が険しくなる。

「え、何」
「服は、ちゃんと、着てくれ」
……普段通りじゃないか?」

丹恒に言われて自分の格好を確認するが、何らおかしいところは見受けられない。普段通りのインナーとコート。パンツと靴である。戦闘を終えた後なので乱れてはいるがそれだけだ。新調したアイテムを使って流行に乗るなんて事もしていないので、穹の頭の中には疑問符ばかりが浮かぶ。
困惑するばかりの穹に、絞り出したような声音で丹恒は唸る。それから穹が着用しているインナーの襟元を軽く整えると、分かりやすく溜め息をついて手を離した。そこには呆れも安堵も含まれている気がして、ますます穹は困惑する。

「お前は無防備が過ぎる」
……そう?」

疲労により思考の稼働率を最低限度にまで落としていた穹は特に言及することはせず、丹恒が言うならばそうなんだろうとしか思っていなかった。差し出された丹恒の手を素直に取って立ち上がり、列車に戻ろうと言う彼の後を追ってこの日は終わった。
――そんなことがあった数日後。自室で鏡をみた穹は、丹恒が言わんとすることをようやく理解し、足早に資料室へ向かった。
ノックもせず入室した穹の姿を確認した丹恒は、特に何か言うでもなく再びモニターへと視線を落とした。許されているのか諦められているのか判断に迷うが、今はそんな事を気にしている暇はない。穹は丹恒の傍まで足早に距離を詰めると、少しだけ勢いを付けてくっつき、その肩にもたれた。急に抱きつかれた丹恒から「うっ」だのと聞こえたが気にしない。

「どうした急に」
「やっと丹恒が注意した意味が分かった」
……待て。何のはな、し──」

丹恒と穹の身長は概ね同じである。だから、そんな彼の肩にもたれたなら互いの顔が近くなるのは必然だ。
鏡で確認した限りでは、おそらく胸元がはだけて見えるだろう角度だ。今はもう薄くなってしまったが、数日前につけられた赤い痕も丹恒からは見える筈である。

「丹恒ってもしかしてこういうの好き?」

あの時、丹恒が言いたかったのは、首周りがゆったりしている穹のインナーでは乱れ方によって胸元が丸見えになってしまうぞという事だったのだろう。
あの注意された日であれば、赤い痕ももっと色鮮やかだった筈だ。
丹恒の瞳を覗くように見つめれば、彼はそれ以上何か言うでもなく唇をワナワナと震わせている。泳ぐ目は恐らく答えを探しているのだろうが一向に言葉が出てこないところを踏まえると、どう答えるべきかを悩んでいるようだった。

「好きなんだ」
…………っ」
「ははっ、いいよ、無理に言葉にしなくても」

肩口にもたれているのをいいことにグリグリと頭を擦り付ける。丹恒はやめろと言うが、止めようとはしない。穹の気が済むよう受け入れてくれる。

「俺のどこが好きーとか丹恒からあんまり聞かないからちょっと悪戯しただけ。気を悪くしたならもうしない。ごめん」

穹が丹恒の傍から離れようとすると、それを防ぐように腕を掴まれた。ぐっと引き寄せられてたたらを踏む穹を、丹恒は難なく支える。

「好きだから、心配になるんだ。……色々と」

腕を掴む手とは反対の人差し指が顎に沿わされ、首筋を辿り、肩を撫でて鎖骨にまで降りてくる。少しだけインナーの首元を下げて、だいぶ薄くなってしまった赤い痕に親指の腹を沿わせた。割れ物を扱うように優しく撫でられると、くすぐったくて身を捩ってしまう。
丹恒の口から聞きたかった単語の筈なのに、穹は顔をひきつらせた。なぜだろう、今すぐこの場から逃げ出したいような恥ずかしさが込み上げてくる。丹恒の顔を見れない。

「えっと、触り方、が……。なんか、――ん」

急に身を屈めた丹恒は穹の鎖骨に柔らかく触れた。形を唇でなぞり、あるところでちゅう、と吸い上げる。恐らくは薄くなった痕があった場所で、穹は自分の頬が熱くなるのを感じ取っていた。
キスで上書きされると同時に数日前の情事が頭の中に呼び起こされる。果てた時に晒した首を、まるで喰らうように軽く歯を立て食む丹恒。固い感触が肌の上をなぞっていくのに体が震えたのを覚えている。確か、その時に付けられたのがこの鎖骨付近の痕だった筈だ。
顔を上げた丹恒は先程見せた動揺を感じさせない程に真摯な眼差しで穹を見つめ、それから少しだけ笑った。悪戯しに来た筈が、逆にやり返されているようで悔しい。

……丹恒はいいよな。隠せる服だから」

丹恒のインナーはハイネックだが、伸縮性のある布が使われている訳ではない。なので、着脱しやすいよう首元にジッパーが二本付いている。穹はその内の一本を下げ、首元の布を捲ると彼の肌を露出させた。さっきの今で何をされるか分からない筈がないのに、丹恒は制止する素振りも見せない。どうぞと言わんばかりに構えている。
ならば好きにさせてもらおうと、丹恒が先程撫でていたところと同じところへ唇を寄せ、二回、三回と吸い上げた。唇を離してきちんと赤い痕が付いているのを確認すると、強い高揚感がじわじわと押し寄せて来る。この痕を付けたのが自分で、丹恒はそれを許してくれたのだと思うとむず痒い。
ただ痕を付けるだけの行為に散々感情を乱されている。それなのに、またジッパーを上げてしまえば見た目には何の痕跡もなくなる。普段通りの丹恒がそこにいるだけだ。

「こうしたらもう分からない」
「俺達が分かっていれば充分だ」

穹が乱した丹恒の服を直したように、丹恒も穹の襟元を正す。見た目には何の変化もないが、得て与えたものは確かにあった。

「お前が俺に痕を付けた時、何を感じたか。それを忘れないでくれ」

自身の胸元に手を当てて、丹恒は微笑んだ。