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柩木
2024-02-03 18:03:51
8549文字
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崩壊:スターレイル
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丹穹|一人寝の夜に慣れた訳じゃない
部屋がない穹が暫く丹恒の部屋を間借りする話。安定の独自設定。
低糖度。知り合ったばかりの距離感。
「客室の用意が間に合わなかった?」
一生の不覚とでも言うようにパムの耳がしなだれた。
穹が列車に乗ることを決めた日というのは、穹が目覚めてはっきりとした記憶が始まり、自身の体に星核という厄介なものが埋め込まれているのを知って、宇宙ステーションの危機を救い、その他諸々色々あって数日後の事だった。
星穹列車も宇宙ステーションで起こる問題の解決に尽力していた。
つまりは混乱を極めていた。次々やってくる厄介事のオンパレードに、特筆するような信念もないまま穹は反物質レギオンに向かってバットを叩きつけていた。皆、自身を守るのに必死だったと言える。
この可愛らしい車掌がその混乱の中で列車をどう守っていたのかは憶測することしか出来ないが、きっと大変だったのだろう。なのか曰く、車掌の毛並みは見ただけで分かる程荒れているらしい。
「普段ならすぐに客室を用意してやれるんだが、空き部屋は急遽搬入した資材を仮置きしていて空いてないのだ。新しく加わった穹に不便な思いをさせるのは心苦しいが
……
」
「俺は平気だよ。ラウンジとかで寝てもいいならしばらく部屋がなくても」
「くぅ、そう素直にされるのも辛い
……
! すぐにひと部屋用意するから待っておるんじゃ!」
穹は宇宙ステーションの廊下で気を失っていたのだから、寝る場所にはこだわりはないタイプの筈だ。記憶がないので確証は持てないが多分どこでだって寝られる。そう思って気を遣わなくていいと言ったつもりだったのだが、パムの受け取り方は違ったらしい。
涙ながらにラウンジから出ていったパムは、おそらく資材を仮置きしているのだろう部屋へと走っていった。この列車がどのように運営されているのかは知らないが、無茶だけはしないで欲しいと思う。頑張りすぎて腰を痛めたりしては本末転倒だ。必然的に穹が部屋を手に入れられる日も遠退く。
小さな背中を見送って、とりあえずラウンジのソファに座った。ビロードの赤い座席は座り心地がよく、あとは枕にしても問題ない高さと柔らかさの何かがあれば十分寝られる。列車内は空調も問題なく機能しているので、今着ているコートでも上掛けとして機能するだろう。
「部屋が用意できないなんて思いもしなかったよ。ね、丹恒。今までこんなことなかったよね」
「そうだな。それだけ今回の件はイレギュラーだったんだろう」
「つまり俺の運が悪いってことか」
「違うよ! えっと、たまたま。たまたまタイミングが悪かっただけで
……
!」
「なの、それではフォローにならない」
なのかのフォローでは穹の運が悪いことには変わりない。しけし、不器用にも慰めようとしてくれる彼女の優しさを感じとれて苦笑する。
とりあえずはここが今日の寝床かと考えていた穹は、なのかの隣で何か考えている様子の丹恒が不意にこちらを見たので視線を移した。
「俺の部屋を使うか?」
「えっ」
突拍子もない提案に思わず戸惑いの声が出る。
まだ知り合って間もない人に自分の部屋を明け渡そうとはどういう事だと疑問に思う。丹恒の意図は。なにか見返りでも要求されるのかという戸惑いは、恐らくだが丹恒にも伝わったらしい。言葉が足りなかったと言って「部屋が確保できるまで場所だけを貸そう、という意味だ」と補足された。
「部屋そのものを譲る訳じゃない」
「だよな。驚いた」
「俺は資料室に籠っている時間の方が長い。私物も少ないし、自室に戻らない日もある。だから問題なく使えると思うが」
丹恒の口振りから察するに、資料室を私物化しているのだろうか。彼らしからぬ行動のように思うが、より効率を重視した結果だと言われたら納得してしまう妙な説得力がある。
「資料室に籠りきりって、いいのか?」
「もっと言ってやってよ穹。丹恒ってば本当に資料室を二つ目の部屋みたいに使ってるんだから! マットレスと上掛けまで持ち込んでるんだよ。絶対ベッドで寝た方がちゃんと寝られるし、疲れだって取れると思うんだけど」
呆れた様子のなのかは少しだけ声を大きくして指摘するが、対する丹恒はどこ吹く風である。もう言われなれてしまったのかもしれない。
丹恒の提案は穹に取ってなんら悪いものではない。ちゃんとした場所で寝られるのならばそれ以上の事はないだろうし、知り合ったばかりの人と同じ部屋で寝るという点についても丹恒ならば気にならない。ここ数日のやり取りで彼についての人となりはなんとなく理解出来ている。
そもそも家主が殆んど不在ならば心配するようなことでもないかもしれないが、穹なりに色々考えた末の結論は至ってシンプルだった。
「それじゃあお言葉に甘えようかな」
こうして臨時の寝床として丹恒の部屋にお邪魔することになったのだった。
部屋を間借りさせてもらう上での簡単な約束事を決めると、穹は早速丹恒の部屋にマットレスと上掛けを運び込んだ。パムは相変わらず忙しそうにしていたので、必要な寝具を自力で運ぶ。
丹恒の部屋を一目見た感想は、いたってシンプルの一言に尽きる。星穹列車を紹介するパンフレットがあるならば、客室の一例として掲載されていそうな程に無駄のない部屋。つまりは、殆んど何もない部屋だった。備え付けの収納スペースにはなにか入っているのかもしれないが、公共の物として居住区に設置されたゴミ箱と、プライベートを守る為に扉がついている収納棚の区別くらいはつく。流石に漁ったりはしない。
「見ての通りだ」
「
……
ホントに何もないんだな」
「必要なものは揃えてある。支障はない」
ざっと部屋の中を案内してもらって、どこに何があってどんな設備があるのかを把握した。星穹列車の客室がどんな作りなのかさえ初めて見る穹にとっては新鮮で楽しいルームツアーとなった。
「ーーこれで説明は全部だ。なにか質問は?」
「多分大丈夫。シャワーとかは借りるけど、俺も寝に戻るくらいだと思う」
そもそも星穹列車の設備が良すぎるので、自分の客室がなくても案外暮らせてしまうのだ。食事をするなら食堂車があるし、服を洗うならランドリールームに行けばいい。唯一困る問題が寝床なのだ。
パムがいう客室が用意出来るまでの期間だって、そう長くはかからないだろう。かかっても二、三日がせいぜいだ。
「短い期間ですがよろしくお願いします」
「急にどうした。悪いものでも拾い食いしたか?」
「俺だって世話になる人に挨拶ぐらいできる。こういうのって大事だろ」
まぁ確かにな。そう言った丹恒は微かに微笑んだ。
あまり感情が表に出ないんだと思っていただけに、彼の感情が少しでも読み取れるようになってきたことを嬉しく思った。
/
別にどこでも寝られる。そう思っていた穹だが、この寝床問題はそこまで単純な話ではなかった。
丹恒の部屋に間借りさせてもらったその日の夜。穹は一向にやってこない眠気を抱えどうしたものかと考えながら天井を眺めていた。運び込んだマットレスの上に横たわったものの、どうしたら寝られるのか分からない。
ただ過ぎていく時間がもったいなくて、穹はスマホだけを手に取る。普段着ている上着は大雑把に畳んだそれをそのままに、ラフな格好で部屋を抜け出した。少しぐらい散歩したっていいだろう。
夜を走る列車の照明は乗客の体内時計が狂わないよう配慮されており、光量を最低限にまで押さえられている。廊下と扉の位置が分かる程度の淡く優しい光を辿って、穹はラウンジへとやって来た。ここ以外に来る場所がなかったとも言える。何せ穹はこの列車の内部をあまり把握できていない。
適当な座席に座って窓を眺めるが、どこまでも星の海が広がっているだけだった。列車の直ぐ近くを通りすぎようとしてる惑星をしばしぼんやりと眺めてから、唯一持ってきたスマホの画面に視線を移す。いつも遊んでいるゲームを起動して、とりあえず今やれそうなことをこなした。スタミナの消費。期間限定のイベント。キャラクターの育成。武器の育成。煮詰まっていたダンジョンの攻略。やることはいっぱいある筈なのにそのどれもに身が入らない。
「
……
はぁ」
結局、穹はスタミナの消費を適当にこなしてゲームをやめた。スマホを見るのさえやめて再び窓の外を眺める。無数の星が白く瞬く暗黒の海は目に見える変化はない。それでもつまらないだとかそういう事は思わなかった。ただぼんやりと窓の外を眺め続けて、頭の中を空っぽにする。
「──穹」
呼ばれてハッとした。声のした方へ振り向くと丹恒がすぐ傍に立っていた。元々あまり変化しない彼の表情が、この時は少しだけ強ばって見える。
通常、ラウンジに誰か入ってきたらドアが開く音がする。結構大きい音なので、誰か来たら分かる筈だ。なのに足音すら気が付かなかった。そんなに気を抜いていたつもりはないのだが、それらの考えを否定するように丹恒はここに立っていた。
「丹恒? 資料室で作業してるんじゃなかったのか?」
「机仕事はたまに歩かないと体が固まる」
「ああ、なるほど」
どうやら気分転換に列車内を歩いていた所にたまたま出くわしたらしい。短いやり取りの後は空白の時間が続いた。丹恒も何も話さないし、穹もこれと言った話題を持ち合わせていなかった。共通の話題なんでものがあるのかすら分かってはいない今、他愛のない雑談は高難易度過ぎる。
とりあえず穹は丹恒に座るよう促した。穹が選んで座ったのは半円を描くようにカーブする長いソファだ。丹恒の後に十人乗客が来ても全員が座れそうなそこを、眠くなったら横になればいいかと思って選んだ。
意外にも丹恒は促されるまま、素直にソファへ腰掛けた。もしかしたらここへは本当に歩きに来ただけで、すぐ資料室に戻ってしまうのではないかと思っていた穹は兎に角真正面を見つめた。それは丹恒も同じで、二人揃って真正面の大きな窓の外を見つめた。瞬く星が無数に存在する宇宙空間は美しいと思うが、果てのない暗闇にはほんの少しだけ不安を煽られる。
これは何か話した方がいいのだろうか。話すとしても何を話せばいい。これっぽっちも良い案が思いつかないまま数分が過ぎた頃に、丹恒が口を開いた。
「
……
部屋に何か不都合なことでもあったか?」
何を言い出すかと思えば、意外にもそんなことを気にしていたらしい。意外とお人好しなのかもしれないなと、丹恒に対する印象が穹の中で変わった。
「全然。寝るだけだし、そんなことないんだけど
……
」
穹は唸る。自分のこの感覚をどう説明すれば丹恒に伝わるだろうかを考えるが、不自然に切った言葉の続きを待っている丹恒の視線が刺さる。
「眠れなくて。というか、どうやって寝たらいいのか分からない、的な?」
「ただ目蓋を閉じて大人しくしていれば眠気が来るだろう。それもないのか?」
「うーん。多分?」
「眠るという感覚は分かるか」
「いまいちピンと来ない」
「そこからか」
腕を組んで二人で唸る。知識豊富な丹恒であっても上手く説明できない事はあるらしい。
「お前の記憶喪失は思い出に干渉するものという見立てだった筈だが」
「でも分かんないものは分かんないんだよなぁ。丹恒はどうやって寝てる?」
「俺、は」
そこで丹恒は不自然に言葉を切った。それ以上は何も語らず長めの沈黙が続く。おや?と穹は隣の丹恒に視線を送り、さっきまでと立場が逆だ、なんて頭の片隅で思った。
「
……
口で説明するより実践した方が早い。部屋に戻るぞ」
「分かった」
お互いが一人で歩いてきた廊下を今度は二人で歩く。道中短い雑談をしたが、話が盛り上りを魅せる前に部屋へ戻ってきていた。
部屋は穹が出てきた時と変わらない。整えられたまま使われた形跡のない丹恒のベッドと、抜け出したままの形で残った穹のマットレスがあるだけだ。
「寝転がって目を閉じる。これが基本だ」
「そりゃそうなんだけど問題はそこから先
……
」
「基本と言っただろう。とりあえずは横になれ」
丹恒に促されるまま穹は床にそのまま敷かれたマットレスの上へ横になった。スマホに充電コードを繋いで、上掛けを身体にかける。
丹恒はマットレスの横までやってくると床へ座った。自然と彼に見下ろされる形になる。
「なんでもいい。何か話をしよう」
「話をすると眠くなるのか?」
「スマホを見るよりは寝られる筈だ」
「ふーん」
スマホの画面から発生するブルーライトには覚醒を促す作用がうんぬんかんぬん。穹が眠るまでの間、丹恒の豆知識から始まった雑談をぽつりぽつりと続けた。きっかけさえあれば会話は続くもので、ラウンジでの沈黙が嘘のように色々と話をした。
絶対に目は閉じたままにしろと言われたものの、穹はそれを忘れてすぐに丹恒を視界にいれてしまうので最後には丹恒の手で視界を遮られた。
アイマスクにしてはひんやりしている丹恒の手のひら。はじめは冷たいと思っていたが、穹の体温と交わって次第に人肌程度の温かさを持つようになった。
そのじんわりとした温かさが気持ちいい。一人でなんとか眠ろうとしていた時間が嘘のように意識が遠退いて──。
「
……
ん、?」
──今、意識が途切れていたような。
直前まで何をしていたのか思い出せない。目蓋の重みと目の奥にある抗いようのない不快感。折角浮上した意識を再び沈めようとする体の意思。成る程これが「眠い」という感覚なんだろうか。
体の意思にしたがってこのまま眠ってしまえばいい。そしたら次は朝まで眠れる気がする。眠る前と同じく天井を見つめていた穹は引き寄せようとした上掛けに重みと抵抗を感じ、それを押さえている何かに視線を向けた。
「おっ、
……
と」
想定していなかった顔の距離に思わずのけぞった。なんだろう、前にも似たようなことがあった気がする。
「
……
たんこー?」
マットレスの上で眠る穹に添うように丹恒が床で眠っていた。それだけなら思うことはないが、穹が驚いたのはその距離感だ。互いの息がかかるであろう近距離で丹恒は眠っていた。睫毛一本の生え方に至るまで観察出来る丹恒の寝顔。
そういえば直前まで彼と他愛のない話をしていたのだ。穹はいつの間にか眠ってしまったが、もしかしたら丹恒もそうだったのかもしれない。
胸が緩やかに上下し、ゆっくりと呼吸が繰り返されているのが分かる。拳一つ分あるかどうかという距離からじりじりと後退し、起こさず距離を取れたと安堵する。
「床じゃ流石に
……
」
このまま放置すれば体が固まるのが目に見えている。とは言え彼のベッドまで運ぶ気力がない。加えて穹と丹恒の体格は同程度。これが体の小さい子供であればベッドに寝かせてやろうと思えたが、意識のない人間というのは完全に脱力しているので重いのだ。
「
…………
。」
逡巡し、心を決めた穹は丹恒の体をマットレスの隅へ乗せる事にした。穹の睡眠を手伝ってくれた立役者を固い床で寝かせるのはよろしくない。
とりあえずは丹恒の肩を揺すって起きないことを確認すると、その体をくるりと回転させた。穹と向かい合うように眠っている丹恒の体は回転に伴いマットレスの縁に乗り上げ、無事に思惑通りの形に寝かせる事が出来たのだった。
背中がこちらへ向くように丹恒を寝かせるのは、振り向いたら彼の顔が至近距離にあるかもしれないという可能性を排除する為である。心臓に優しくしなければ。
「よし」
上掛けは穹がかけていたものを横にして使うことにした。ついでに背中合わせになってしまえば丹恒は恐らく寝返りをうてない。先程のように寝て起きたらお互いの顔が至近距離にあるという事故は防げるはずだ。
丹恒と自分の腹部を覆うように上掛けをかけてひと心地つくと、穹はようやく目を閉じた。今まで眠り方が分からないと嘆いていたのは何だったのかと問いかけたくなるくらい、すんなりとした入眠だった。
/
丹恒が資料室から出てきたのは自室で眠っているだろう穹の様子を見る為だった。まだ列車に不馴れだろう彼に何か不都合がないか、あるならばそれを解消しようと思っての事だったのだが、予想に反して部屋には誰もいなかった。
いると思っていた者がいないというのはそれなりに心がざわつく。丹恒はそんな心に従い、消えた穹を探そうと自室を後にした。
列車の中で穹が向かうとしたらどこだろうと考え、心当たりがある場所を幾つか見てまわる。彼は今日初めて列車に乗ったので行こうと思える場所は少ない筈だ。
そうして辿り着いたラウンジに穹はいた。丹恒がやって来たことにすら気付いていないようで、ぼんやりと窓の向こうを見つめている。暇さえあればスマホでゲームに興じているのに、今はそんな様子がない。
なぜだか胸の内側がざわついて、思わず声をかけていた。
丹恒に気付いた後の穹は居たって普段通りで、眠れないから
――
蓋を開けてみれば眠り方が分からないという回答に困る悩みだった
――
ここで窓の外を眺めていたのだという。
それについて一般的な知識を持ち合わせていた丹恒だが、説得力のあるアドバイスは出来そうにないと判断した。何せ自分も睡眠は苦手だ。
そう、思っていたのに
――
。
――
目が覚めた。少し横になるつもりが思い切り眠ってしまっていたらしい。しかも穹が眠るマットレスの端で。
どういう訳か、丹恒は穹と背中を合わせるように一つの寝床で眠っていた。しかも上掛けまできちんとかけられていて戸惑う。今の今まで丹恒が眠っていたのなら、勝手にこのような体勢になったとは考えられない。そうなると一番現実的な可能性は、穹の仕業であるという一点になる。
丹恒が寝落ちた後に穹がマットレスの端に丹恒の体を移動させて、上掛けまで被せてくれたのだろうか。背中が温かいのは穹と背中合わせで眠っていたからだとして
――
そこまでされたのだと仮定して
――
起きなかった自分自身が信じられなかった。
──だが、久々にぐっすり眠った気がする。
悪夢を見なかった。今までだったら見ていた筈の過去の残滓。不快な汗を流して飛び起きてきたのに、それと無縁の目覚めはいつぶりだろうか。
睡眠を取ってスッキリと目覚めるなんてこと、片手で足りる程しかないかもしれない。
「ん、
……
あ、たんこうおきた?」
今まで背中を温めあっていた温もりが消えたからか、穹も起きてしまったようだ。元々眠り方が分からないと言っていただけに浅い眠りだったのかもしれない。
「悪い。起こしたな」
「いーよ。なんか、わかった気が、する
……
し。あり
……
が、と
……
」
仰向けになって一瞬丹恒と目を合わせた穹だが、琥珀色の瞳は目蓋の向こうへと隠れてしまった。
わかった気がする、というのは眠り方が分かったという意味だろうか。寝起き特有の掠れた声では語尾の感謝の言葉もおざなりだ。そのまま夢の世界へ旅立っていった穹の体に上掛けを掛け直す。
少し寝たお陰でだいぶスッキリした気がするが、今夜は作業を切り上げてこのまま寝直すのも良いかと思えた。
最後に使ったのがいつか分からないベッドに場所を移す。
横になる直前、視界に入った穹の寝顔はとても安らかだった。
/
穹に付き合って依頼をこなした丹恒は、まだ少し用事が残っていると言って走っていった穹よりひと足先に星穹列車へ戻ってきた。時刻は既に深夜と言っても差し支えなく、そう認識した瞬間にどっと疲れが押し寄せた。
依頼中に見つけた文献が幾つかあるので資料室に向かうものの、未処理のものとして最低限のラベリングだけをすませて直ぐに部屋を出る。
――
今日は部屋で寝ろよ。依頼人に報告だけしたら俺も直ぐに行くから。
つまり穹が言いたいのは「部屋で待っててくれ」である。
睡眠時間を削るために資料室に籠っていた時期もある。だが、今ではそこまで身構えずとも眠れるようになった。悪夢を見なくなった訳ではないが、分かりやすく変化があったことだけは確かで。
「丹恒~」
過去と今で矛盾した行動を取っている自分。それについて考えていた丹恒の思考を止めたのは、軽いノックの音だった。お伺いを立てるマナーはあるのに部屋の主が返事よりも早く扉を開けて中に入ってくるのは穹くらいなものである。
丹恒もそれを知っているので何も言わない。苦言を呈したところで素直に聞きはしないと分かっている。
「待った?」
「そうでもない」
二、三やり取りをして二人でベッドに潜り込む。シングルベッドに男二人は確実に狭いのだが、今となってはもう気にならない。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
穹は、丹恒と眠ると入眠がスムーズだから。
丹恒は、穹と眠ると悪夢を見なくてすむから。
一つのベッドを共有し背中をくっつけて眠る。男二人では窮屈だと分かっているが、穹は懲りることなく丹恒の部屋を訪れたし、丹恒もそれを拒まなかった。双方にメリットがある添い寝なのだから問題など何もない。
穹も丹恒も、一人眠る夜に慣れた訳ではないのだから。
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