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柩木
2024-02-03 18:01:49
2898文字
Public
崩壊:スターレイル
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丹穹|半面の向こう側
過去を憂う丹恒×デートに誘いたかった穹。スタレの世界観にハロウィンはなさそうなので似たような祭りを捏造してます。
金人港に呼び出された丹恒は人の多さに目眩がした。
穹から金人港の復興に協力したという話は聞いていたものの、丹恒が想像していたよりもずっと賑わっている。噂に聞く美食街という触れ込みだけでここまで人が集まるものだろうか。
そして極め付きだが、老若男女問わず道行く人の多くは仮面をつけて歩いている。主に動物や創作物によく出てくる幻想上の生き物など、モチーフは様々だ。
今ここで何が行われているのだろう。丹恒は上着のフードを深く被り直し、よく分からないまま人の間を縫って歩く。待ち合わせに指定された飲食店は金人港入り口からさほど離れていないのに、妙に遠く感じた。
やっとの思いで店の敷地まで辿り着くと、人の流れがだいぶ少なくなった。一度呼吸を整えた丹恒はその時初めて店の全容を落ち着いて眺めることが出来た。テラス席で談笑中の客。注文を繰り返す店員。料理の匂い。成る程この店は人気店らしく、空席は見当たらない。
人々の中に穹の姿を探すが、彼は思いもよらない場所で、姿で丹恒を出迎えた。
てっきり座席のどこかで待っていると思っていた穹は店員として働いていた。客から注文を取り、メモを持って店まで戻って、料理を持ってまた客席を歩きだす。
そうやってきびきびと働く格好も今朝送り出した時とは違う姿だった。グレーに黄色が映えるあの見慣れたコートではなく、仙舟の者がよく着ている民族衣装を当たり前のように着用している。普段着と同じグレーを基調とした服は、より濃い糸で刺繍を施すことにより品の良さが感じられた。また、スリットが入る事で俊敏性をあげ、その下にゆったりとしたズボンを履くことで接客がしやすいように考えられているようだ。
そして仮面。幾何学模様が描かれた目元だけを隠す半面を、道行く人達と同様に穹もつけていた。
「
――
穹?」
誰も彼をもあやふやにする穹の格好に声をかけてから迂闊だったと後悔した。これでもし違う人だったら
――
。
「あっ、丹恒! もうそんな時間か。ごめんもうちょっと待ってて!」
穹は丹恒の姿を確認すると心底嬉しそうに笑っていた。丹恒の後悔など消し飛ばすそれにぐっと喉が鳴る。
言いたいことだけをさっさと伝えて慌ただしく客席から去っていくその様は嵐のようだ。
「なんなんだ、一体」
穹からメッセージが来てから今まで何一つ理解できないまま、丹恒は穹が改めて呼びに来るまでおよそ十分、人の流れを見て暇を潰した。
/
戻ってきた穹は両手に料理が入った袋を下げており、その両方を丹恒に持ってくれと頼んできた。訳も分からず言われた通りにすると、穹は自由になった手でどこからか仮面を取り出した。人々がつけている半面だ。穹と同じデザインだが、色は違う。
「丹恒のも用意しておいたからつけてあげよう」
丹恒が断る暇もなく手が伸びて、視界を遮っていたフードが外されていく。両手に料理を持たせたのはこの為か。
穹は素早く丹恒の顔に半面を押し当てると、向かい合ったまま紐を結びだす。後ろに回った方が結びやすいだろうに全く気にしていないようだ。周囲の視線を気にすることなく
――
なんなら鼻唄でも歌い出しそうなくらい上機嫌に
――
丹恒を抱き締めるような格好で紐を器用に結んでいく。
丹恒に仮面をつけて満足そうに笑うと、持たされていた料理の片方を持っていった。その代わり、空いた手は穹のそれに絡め取られる。
「おい」
「皆食べ物に夢中だから平気。顔も隠れてるし」
本当に平気なんだろうか。顔が隠れているから気が大きくなってるだけなのでは。悪戯っ子のように笑って穹は先を歩く。手を繋いでいるので丹恒もそれにつられて歩きだした。金人港を迷いなく歩いていく穹を見ていると、先の復興でどこに何があるのか概ね把握してしまっているのだろうなと思う。
金人港の大通りから外れて裏路地。露店が少ない場所に穹と丹恒は席を取って座った。人通りもあまりなく、休むには最適の場所である。
「あー、流石に祭りの金人港は混むなぁ」
「平常時の混み方ではないだろうとは思っていたが、やはり何かある日だったのか」
「うん。更なる街起こしの起爆剤になれば~って、毎年恒例になるような祭りの企画作りを手伝ってたんだ。今日はそのお披露目」
「なるほど。
……
人の流れをみる限り大成功のようだ」
「大成功過ぎて俺まで接客に回されたけどな」
穹はあくまでも裏方担当のつもりだったらしいのだが、知り合いの店があまりにも人手が足りておらず、丹恒との待ち合わせ時間まで接客をしていたのだと言う。その時、普段着のコートでは接客にあまり向かないと判断され、今着ている服を着るように言われたらしい。
「そうしていると仙舟人のようだ」
「似合ってる?」
「
……
ああ」
服の裾を摘まんでニッと笑う穹。ゆったりとしたコートとインナーで隠された体のラインがある程度はっきり見えて、普段と違う穹の雰囲気に少しだけ落ち着かない事は黙っておいた。
「
……
まさか仙舟でお前と祭りなんてな」
列車に乗る前の丹恒の過去は、あまり思い出したくないもので溢れている。覚えのない罪。前世の罪。丹楓の、罪。それら全てから逃げるように仙舟を後にし、その先で列車に乗った。
どこでもいいから遠くへ行くことを望んで乗った列車は奇妙なことに丹恒を仙舟へと導き、良い思い出などないこの地を踏ませた。踏み出さなければ後悔すると分かったから。
「もっと早く出会えていたら、俺の過去も少しは良いものに思えたのかもしれない。無い物ねだりだが」
もしあの時、あの瞬間に穹が傍にいてくれたら。そんなもしもを考えたことがないと言えば嘘になってしまう。
「今からでも良いじゃん」
がさごそと料理が詰め込まれた袋を漁りながら当たり前のように穹は言ってのけた。テーブルの上にテイクアウトの容器が三つ。ドリンクが穹と丹恒の前に一つずつ置かれる。
「過去のことは変えられないけど、今から先は自由に開拓すればいい。俺達はナナシビトなんだから」
話しながら穹はテーブルの上を料理で彩っていく。
祭りのコンセプトは一応収穫祭ということになっており、安定した食料の供給を願うと共に、今食べられる事への感謝を示す、というのが目的だ。その為、穹がテイクアウトした料理には旬の野菜が多く使われていた。
「今回のデートだって俺が丹恒としたいから来てもらったんだし」
「これ、デートだったのか」
「なのと最近話題のバーガーショップに行ったって聞いてから羨ましかったんですー。
……
俺だけ仲間外れにしてさー」
「あれはお前に急用があったんだろう」
「そうだよ。だから今なんだ」
あの日一緒に時間を共有できなかったから、未来でその埋め合わせをする。今は丹恒で、次はなのかと。過去に出来なかった事を悔いるより、今をどれだけより良くするか。穹はそう考えているらしい。
「丹恒もたまにはおねだりしてよ。できる範囲で付き合うからさ」
半面の向こう側、金色の瞳はどこまでも無邪気な子供のようで、丹恒はつられて笑った。
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