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饗李
2024-02-02 01:27:16
3529文字
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クリスマス
跡部夢、名前変換有。クリスマスに生徒会室で逢瀬をする話。
饗李
饗李
饗李
やけに寒いなと外を覗けば、空からゆっくりと雪が降っていた。時期を見計らったかのように降っているそれは、見る人が見れば喜ぶのかもしれない。
――
ホワイトクリスマス。特に意味もないけれど、きっと十二月二十五日に降ったことに意味があるかもしれない。
身体を冷やさないように、カバンからカーディガンを引っ張り出した。ストーブがついていると言えど、換気をする際に一気に冷え込んでしまうから。ブレザーの下に着込めば、先程よりはマシになったかもしれない。
生徒会室の、ソファーの端に座り込む。いつもは部活で賑やかな外は、雪遊びをしている生徒たちでいっぱいだ。
それもそのはず、クリスマスパーティを企画していた部活も多いから。吹奏楽部はコンサートが近い故に今日も普通に部活だったが、いつもより早く終わった。その足で、生徒会室に来たわけだ。
……
もちろん、テニス部もクリスマスパーティがある。そう、樺地くんから聞いた。それはきちんと頭に入っているはずなのだけど。
手元にあるメッセージカードに視線を落とす。誕生日パーティのときに着ていたドレスのリボンに挟まっていたそれと似たようなカードには、丁寧に「Keigo」と刻まれていた。
「
……
生徒会室で待て、って」
メッセージカードにあった文字を、そのまま読み上げる。あの時は待っている、だったけど、今回は待たされている。それには確かに理由があるはずなのだけど、部室だか何処だかでパーティをしている景吾先輩はここに来れないはずだ。
答えの見えないようなそれに頭を悩ませていても仕方がない。そのままソファーに寝そべって、天井を見上げた。行儀が悪いかもしれないが、いまだけは許して欲しい。ひとりだし。
……
去年のクリスマスは、どうやって過ごしていただろうか。まだ付き合ってなかったから、部員の子達とファミレスで色々していた気がする。
今日だって、皆より先に部屋を出ようとしたら「彼氏とデート?」なんて言われて。適当に誤魔化したけれど、思い出すだけで照れてしまいそうだ。
「
……
もう、突然呼び出して。期待するじゃないてすか
……
」
「
饗李
」
ぽつりと呟いた言葉に呼応するように、扉あるが開いて景吾先輩が入ってきた。慌てて体を起こせば少しだけ笑われる。
「なんだ、寝てたか?」
「ね、寝てないです! ちょっと寝そべってただけで!」
なんで私は寝そべってたんだろう。髪の毛を整える時間もなくて、慌ててしまって。先輩の前では可愛い私で居たいのに。
立ち上がって先輩にかけよれば、扉を閉めた景吾先輩が鍵を閉めた。
「
……
なんで鍵を?」
「さぁな」
そのまま、私の頬を撫でる。擽ったくて恥ずかしくて、思わず目を瞑ればまた小さく笑われる音がした。
「相変わらずすぐ照れるな」
「
……
三ヶ月くらいじゃ慣れません」
「慣れてもらわないと困る」
あまりにも真剣にこちらの目を見ていうものだから、ぶわりと全身が真っ赤になってしまったような気がする。慣れてもらわないと、って、付き合い始めたのは九月だし今まで照れるからと逃げ回ってた私がそんなすぐ慣れるわけないだろう。
愛おしいというように私を見る景吾先輩の顔を見てられなくて、目を逸らした。なにか話題を、と考えて、ふと思い出したことを口に出す。
「テニス部のクリスマスパーティには行かないんですか
……
?」
「もう顔は見せた。帰る前にまた見に行く」
「
……
? もう行ったんです
……
?」
どういう事だろうか? そのまま最後まで居ればいいのに、なんて口にしようとした時、グッと先輩との距離が近付いた。
驚いて思わず先輩の方を見る。キスが出来そうなくらい近い、なんて思った時には、既に唇が塞がれていた。突然のことで、目をつぶる暇もなくて。真っ直ぐな景吾先輩の瞳が私を見据えている。
そっと離れたあともそのままで、私は何が起こったのか上手く理解できなくて。ぐるぐると、さっき起こったことを頭の中で繰り返す。
先輩の方を見たら距離が近くて、それで、唇を、
「
……
え、あ
……
」
「鈍感すぎるんじゃねーの」
ぶわり。顔が、手が、熱くなる。
いつの間にか腰に回されている先輩の腕が、もっと近くに引き寄せた。少しでも距離を離したくて先輩の胸に両手を置いて押してみるけど、ビクともしない。
さっき、キスをされて、その後にこんな距離感。無理に決まっている。微笑みながら私を見る先輩の顔は見たことないくらい優しくて。顔を逸らそうとすれば、もう片方の手が私の顎に触れて。ぐ、と簡単に先輩の方を向かされる。
「けいごせんぱい
……
っ」
「クリスマスくらい、我儘を通したっていいだろ?」
「わ、わざわざパーティ抜け出して来たんですか
……
!? 私と、会いたいから
……
!?」
「十分な理由だろ? 勘づいた奴が着いてきて邪魔をされても困るからな」
分からなかった先輩の行動が、どんどん分かり始めていく。
最初から私とクリスマスに会いたくて、でもテニス部のパーティもあって。最初に顔を出して、そのまま抜け出して来たのだろう。今日は生徒会室を使う役員も居ないから、私を事前に呼び出しておけば二人きりになれる。私と景吾先輩は付き合っているから、理由をつけてパーティを抜け出しても勘づく子は分かる。だからこそ、何もされたくなくて早々に扉の鍵を閉めたのだ。
そんな事実が分かってしまえば、もっと体温は高くなる。それに、こんな至近距離で景吾先輩を見つめることもまぁないから尚更。離れたいけど、力では勝てない。顎に彼の手が添えられてるから顔も背けられない。目線を逸らせばいいのに、先輩の瞳に吸い寄せられてしまったようにそれも出来なくて。
……
そうなることも、わかっているのだろうか?
「やっと気付いたか?」
「っ
……
」
私が言葉に詰まれば、次は頬に唇を寄せられる。ちゅ、と軽いリップ音が部屋に響いて、更に私の体温を上げた。
「これからは俺だけの時間だ。なぁ
饗李
?」
「う
……
近い、です」
「アーン? 慣れてもらわねぇと困るって言ったばかりだろ?」
「そ、そうですけど、そうですけど
……
!」
喉の奥をくつくつと鳴らして笑う景吾先輩は、私をからかう時のそれだ。何したって勝てないことが悔しくて、体温を下げたくて。また手に力を込めるけど、やっぱり動かない。頬に額にキスを何度も落とされて、ありえないくらい愛されてると実感してしまって。
「
饗李
」
「せん、ぱ
……
」
顎に添えられていた手が、後頭部に回る。逃げられない、って思った時には、目を瞑っていた。まるでこんなの、あの人を待ってるみたい。
……
そう、だとは思うのだけど。
不意打ちじゃないキス。一瞬唇と唇が触れ合って、離れた。先輩って、こんな大胆だっただろうか。いや、別に大胆ではあったけど、こんな風ではなかった。大胆というより、積極的だ。クリスマスだからさせる、魔法みたいなものだろうか?
「可愛らしいな」
「あう、その
……
」
いつもより心臓がうるさい。寒かったはずなのに、全く寒くない。照れてるのか、景吾先輩に抱き締められているからなのかは分からない。
「今日は一緒に帰るぞ」
「
……
はい」
小さく頷いた。満足そうな景吾先輩が、また頬にキスを落とした。
……
こんなご機嫌な先輩、見た事ない。
今日くらい、クリスマスにあやかってもいいのかもしれない。照れた顔も見られたくないし、理由はある。胸元に置いていた手を先輩の背中に回して、顔を隠すように体を預けた。
「何だ、いきなり積極的だな?」
「顔、見られたくないだけです」
ぎゅう、と抱き締める。先輩の手も、同じように私の背中に回された。
教室に静寂が訪れる。遠くから聞こえる音楽は、テニス部のパーティの音楽だろうか?
「先輩、好き、ですよ」
「
……
愛してる」
「っ
……
」
照れ隠しにもう一度ぎゅうと抱きしめた。大きい愛を返されてしまって、どうしたらいいか分からない。また強く抱き締めてみれば、それに答えるように簡単に持ち上げられて、お姫様抱っこをされた。
「せ、せんぱい
……
っ!?」
「誰も見てねぇからいいだろ?」
「う
……
」
抱きしめている時とは別な距離感で、ドキドキしてしまって。ふと、思い出したように先輩が口を開いた。
「プレゼントも用意してある」
「え、待ってください、私何もなくて
……
」
「俺が渡したいと思ったから用意しただけだ」
「
……
明日用意します」
「なら楽しみにしておかないとな?」
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