饗李
2024-02-02 01:24:35
1249文字
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だきしめたいの!

跡部夢、名前変換有。抱きしめたいから不意打ちを狙う話。

饗李瑠梨瑠梨饗李饗李さんは、跡部様にハグをしたことがあるのですか?」

 数分前の、瑠梨ちゃんの言葉が脳内に過ぎる。
 ハグ。抱きしめるってことだよね? なんて聞き返せば、何を言ってるんですの? なんて顔で見られてしまった。
 ハグとは、簡単に言えば抱きしめること。そこまで思考が回ってから、ぼん、なんて音が聞こえそうなくらい顔が熱くなったのを覚えている。

 したこと、ない。少なくとも、私からは。

 そもそも付き合い初めて一ヶ月も足らずに跡部景吾に近寄れるか、という話だ。
 ……無理、だろうな……顔を合わせるだけであんなに照れるんだから。
 でも、したくないなんて言うのは嘘。触れ合ってるのは大好きな方だし、何となく安心するし。でも、人肌ってそういうものなのだろう。
 はぁ、とひとつ溜息を吐きながら廊下を歩く。今日は特に予定もないから帰ろうかな、なんて見知った生徒会室までの道を歩きながら考えていた。
 ハグ、とかそんな。そんな距離感、なんてまた考えていれば、少しだけ頬が熱くなった気がした。

「(……あ)」

 いつものように生徒会室を通り過ぎようとした時。誰かが教室に入ろうとするのが見えた。誰だろう、なんて視界をあげれば、呆れるほど見慣れた人の後頭部で。
 ……景吾さん、だ。瑠梨ちゃんに言われた言葉が脳内をよぎる。……今、なら、もしかして……

 気持ちがはやってしまったら、考えずに行動してしまうのが私の悪い癖。思わず走り出す。足音は聞こえてない、のだろう。ならば都合がいい。

 相手が振り向く前に、ぎゅう、と抱き締めた。

 腕を前に回して、見られるわけが無いのに隠すように背中に顔を埋めて。
 こうすると、いつも見上げてるけど大きい彼の背中だとか、体格差だとか、色んなものを実感して動悸が早くなった。

……饗李?」
「あ、えと、なんでもないです!」

 名前を呼ばれてハッと我に帰る。なに、してるんだ、わたし!?
 そのまま離れて走って逃げればなんとかなるかな!? なんて思って、離れようとしたとき。

……!」

 振り返った先輩に腕を掴まれ、引き寄せられる。そのまま生徒会室に足を踏み入れればぐるりと位置が入れ替わって、先輩は器用に足で扉を閉めた。
 足癖が悪いなんて珍しい、なんて頭の隅で考えるが、強く抱きしめられていることを自覚してしまって。

「せ、せんぱ、先輩……っ!?」
「随分大胆だな?」
「あ、いやあの」

 片手で顎を掬われて、上を向かされる。ちゃんと彼の顔を見なくてはいけなくて、動悸がもっと早くなった。
 先輩が私を抱き締めているのは片手だから離れられるはずなのに、ビクともしない。

「あの」
「したのはそっちだろ?」
「そ、そうですけど、そうですけど……! いやあの」

 もごもごと言い訳を重ねようとするけど、多分言わなくてもいいことも言ってしまう気がして。もういいや、なんて顔を見られないようにぽすりと体を預けた。