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饗李
2024-02-02 01:19:13
2095文字
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初恋
跡部夢、ネームレス。恋を自覚した話。
初めて彼を見たのは、入学式のとき。
在校生代表の生徒会長として、祝辞だか何だかを言っていたような気がする。一個違うだけなのに会長なんて凄いなぁ
……
と漠然と思ったのは覚えている。
次は、部活動紹介の時。200人以上のテニス部を纏める部長として登壇していた。耳をつんざくような歓声が体育館を包んだのを覚えている。その時は、なんでこんなにチヤホヤされているのか分からなかった。
次に意識したのは、9月、生徒会選挙が終わったあとの、新生生徒会の顔合わせのとき。昨年に引き続き会長をやる跡部景吾、と名乗ったのを聞いて、初めてそこで名前を覚えた。
……
常々単語自体は出ていたはずだ。意識すればクラスメイトの女子の大抵の子が騒いでいたから。ただ、興味が無いことに関しての情報は、あんまり頭には入らないタイプで。顔合わせの時も、この人と関わることが増えるのかなー
……
なんて思ってたくらい、だったのに。
ふと、顔を見れなくなったのはいつだっただろうか。綺麗だな、なんてぼんやりと思ってしまった時からだったと思う。何となく顔を見て話せなくて、でも仕事の時は頑張らないとって思って。
そもそもその時はプライベートで話すことなんてなかったから、別に良かった、のだけど。
……
一年の、冬の時期。その日の部活もなかったからと落ち葉の掃除をしようと箒とちりとりを持って歩いていた。
テニスコートを通りかかった時、黄色い歓声が聞こえてきた。相変わらずテニス部の人達はモテるなぁ、なんて思いながら至極突然のようにそちらの方を目線を向けたのだ。
そこに居たのは、我らが生徒会長の跡部景吾。いつもは制服姿しか見てなかったから、氷帝のジャージを着ているのは初めて見た。
……
そもそも、部活をしてるところ自体も初めてみたのではないか、と思う。
……
テニスラケットを片手に持っている彼から、何故か目が離せない。思わずぎゅ、と持っていた法規の柄を握りこんでしまう。
正直、テニスのルールは分からない。部長って言うくらいだから、跡部先輩がいちばん強いのだろうなぁ
……
とぼんやり思っているくらい。
でも、でも、何故か目が離せなかった。ずっと見たいと、思ってしまった。
真剣だけれど、どこか楽しそうにテニスをする彼を見続けたいと思ったのだ。テニスのルールは全く分からない。でも、一球一球打ち返す先輩の顔が、仕草が、楽しいのだと滲み出る感情がヒシヒシと伝わらせてくる。どんどん早くなっていく心臓は、一体どういうことなのだろうか。
ふと、先輩がこちらを見た。否、見た
――
と錯覚したのかもしれない。でも、彼の口角が上がったのが目に入った。どくん、と心臓が高鳴って、その場を逃げるように離れてしまった。
…………
それから数日。どんな顔で会えばいいか分からなくて、でも冬休みに入ってしまう前の事務仕事は舞い込んでくるばかりで。毎日のように、放課後生徒会室で顔を合わせることが多くなった。嫌でも話さなくてはいけなくて、よく分からない動悸はバレたくなくて、書類で顔を隠しがちな癖をこの時ばかりは感謝した記憶がある。
あの日も、そんな日だった。
職員室で先生の確認をもらって、会長の跡部先輩に渡すだけ。生徒会室に居なかったからどこにいるのかな
……
なんて廊下をうろついていた時だった。ふと、見慣れた背中が目に入る。
「
……
跡部先輩!」
思っていたよりも大きい声が出てしまって、思わず手で口を抑えた。何事もなかったかのように振り向いてくれた先輩に心の中で感謝しつつ、パタパタと小走りで近寄る。
……
ほんとに、仕事で話しかける分にはなんとかなるんだな。
「どうした」
「これ、頼まれていた書類です。期日がギリギリになってしまった人もいて
……
まだ揃いきっていないのですが」
「あぁ、助かった。後は俺が処理しておこう」
「あ、残っている方は私が責任をもって集めます!」
そんな、他愛もない会話をしていたはずだった。必要なことも伝えて、それで終わりなはずだったのに。
ぽん、と頭に何かが乗る感覚。一拍遅れて少しだけ目線を上げた。
「せ、」
「無理はするなよ。いつも助かってるが」
頭を、撫でられている。
そう気付いたときには、体の体温が一気に上がる感覚があった。
「っ
……
し、つれいします
……
!」
逃げるように、彼に背中を向けて走り出す。慌てて駆け込んだのは、少し遠目にあった女子トイレ。鏡に映る自分の顔は、紅葉に負けないくらい真っ赤だった。少しだけ乱れた髪は、確実に先程の出来事が嘘ではないと語っていた。
ずるい、ずるい、ずるい!
あんな優しい顔で、優しい声で、大きい頼りになる手で頭を撫でて。いやに優しい彼の笑顔が、忘れられない。
そんなの、好きになってしまうじゃないか!
分かってる。私以外にもそうしてるのだって、分かってる。でも、それでも。
10月も半ば。残暑のせいにするにはもう難しいこの時期、どうやら私は転がり落ちるように恋をしてしまったようです。
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