望月 鏡翠
2024-02-01 21:14:01
910文字
Public 日課
 

#1252 「海藻」「食べる」「絵の具」

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 朝早く、波が静まっているうちに村人総出で海に出る。海藻を収穫する季節なのだ。昔は魚を取る網に絡まるし、養殖の生簀にわくように生えてくる非常に厄介な存在でしかなかった。
 生簀や網についた海藻を、そのままにすると腐敗して酷い臭いを放つようになるから捨てるにも困る。一応食べることもできるが、勧んで口にしたいものではない。厄介なものでしかなかった。
 しかし、近年その海藻から、非常に美しい染料が取れるということがわかった。発展した科学技術あってのことだが、目新しい技術は人々を魅了した。光のあたりかたに寄って海の浅葱色から夜明けの薄紫の空への切り替わるような、不可思議な色だった。
 以来、多くの人が漁をすることをやめた。
 絵の具を作っている方が、よほど簡単でお金になった。年に一度、収穫期に労働するだけで一年暮らしていくことができるほどだった。
 収穫した海藻は、塩抜きをするために河口に晒して洗う。その後、容器に入れて特殊なバクテリアを加え発酵させる。その上澄から美しい絵の具ができるのだ。
 工場ができ、村人の労働は海藻取りとその工場での勤務が大半になった。
 上澄を掬ったあとの発光した海藻は、分解されて朽ちてドロドロになっている。相変わらずあまりいい匂いではないので、乾かしたあと肥料にする。遠くに運ばれることもあったが、大抵は近くの森で使われた。
 海が豊かになれば、海藻はより大きく育つ。
 数年はそうやって森と海と人のよい関係が続いた。だが、それも長くは続かなかった。人は飽きる。
 発砲直後は人の興味を引き寄せてやまなかった色彩も、さまざまなところに使われすぎて人々が飽きて、最初ほど売り上げが伸びなくなった。
 工場は古くなり設備を新しくしなければいけなくなった。
 最新設備を新しくするほどの売り上げは、もう絵の具工場では見込めなかった。
 だから村人たちは再び海に戻った。そこで驚かされた。しばらく人が手をつけず、餌を与えるだけだった海の生き物はまるまると太って今まで見たことがないほど、大きく育っていたからだ。
 しばらくは売るときに値段をつけるのに困るほど、立派な魚介類がとれた。