店員さんとお客君+②【物好きな人】

延々お客君について考えてる店員さんの小話です

「質問多すぎて無理ですううううう!!自分でお考えくださいいいいい!」

バンッ!!と勢い良くドアが閉じられた。どうやら俺はまた人の機嫌を損ねてしまったようだ。聞くのが手っ取り早いと思ったのだが、矢継ぎ早は法月さんには逆効果らしい。

「結局何故法月さんは俺が好きなんだろう」

想定しようにも、仲良くなるきっかけなど記憶にない。法月さんは確かに客として俺が勤めているスーパーによく来てくれる。しかし、他の客にだって似たような条件の人はいる。お喋りが好きな客とはそれとなく差し支えないよう喋ることはあるし。対応を求められれば勿論マニュアルで習った通りの接客をする。法月さんにも求められたことを返したことしかない、はずだ。正直何も覚えてないけど。特別扱いしたこともないのに何故だろう。

「惚れやすい人でたまたま俺が対象だったとか?んー。わからん。この世はわからんが多くて困った」

自分の部屋は外の環境音が時折聞こえるほど静かだ。独り言を言えば少し反響している気もする。腕を組んで首を捻って考えるのはいつものことで、大抵結論は「わからん」という不毛である。

「あの時、やっぱり好きと言っていたのだからそれ以前に何か好感を得る言葉を己が放ったはずだ。どれだ……普通のことなら色々言ったけど……

そういえばまず法月さんがよく来るようになったのはいつからだったか。
いや、俺が入った頃からちょこちょこ見かける気はしたけど最近は特に毎日のように接客している気がする。
法月さんはいつもおにぎりとお茶だけぽつんとカゴに入れて持ってくる。スマートなんだなあと思いながら会計してたけど、毎日となると相当好きなんだろう。毎日同じ食事を敢えてとる人もいるらしいので、法月さんも同じくなのかもとぼんやり考えていた。
しかしこの間の食事では置いて行かれそうだから多くが食べれないという理由なことが発覚した。色んな人がいるものだ。
食事にそんな気負う場面が今までなかったので不思議だった。マイペースにすぐ食べ終わってしまう側であり、家族とや集団生活の規則くらいでしか席を共にすることがなく周りなど見ずに行動していたからひょっとしたら法月さんのように俺が勝手に動くことでストレスを感じる人も周りにいたのかもしれない。今更気づいてもこれから改善する以外に道はないが。
俺も客も皆人間だ。人生があり個性がある。
それはメリットでもデメリットでもなく当たり前なのだ。
法月さんのことはやはりまだよくわからないけれど、とても他者を慮ろうとするところを見るにきっと悪い人ではない。
かと言って魅力もまだ知らないので良いとも言えないが。

「あ、でもそれなら法月さんには俺が良い人に見えているのか」

店員などいくらでも良い人のフリをする職種だというのに、純粋な方だ。
しかし自分の魅力とは何だろうか。今後履歴書とかに長所を書く時に使えそうだからやはり聞きたい。
先輩にも言われたことだが、俺はどうも人らしくないようだ。正真正銘人間と人間から産みだされたホモサピエンスなんだが。
ロボットとか宇宙人と呼ばれるのには聞き慣れている。それはデメリットの意味合いで使われているはずなので自分の良さはわからない。

……あれ」

仕事中にもあった、頭が意思を聞かず急に傾く感覚。一瞬の目眩なので大したことではないはずだ。頭を使いすぎて熱でも上がったのかもしれない。考え過ぎも良くないか。
思考しすぎると熱が出る点は確かにロボットっぽいかもしれない。でもそれ自分に限らなくないか?
考えてもわからないし、法月さんとまた会ったら改めて自分の良いところは聞かせてもらえばいいか。
疲れてなのか眠いし、お風呂に入ったら寝よう。


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暫くしてやっと熱だったのがわかった。
幸い1日休んだらすぐ治ったので翌日には仕事に復帰できた。
連絡先を交換してからは法月さんからよく携帯にメッセージが飛んでくるようになった。

『具合はどうですか?良くなりましたか?心配です』

母親にもこんなに心配された記憶はない。
もう熱も下がったので大丈夫です、と返信すれば

『無理はしないよう気をつけてくださいね、私店員さんがお店にいないと寂しいです……。』

とすぐ返ってきた。いないと寂しいのか。
こういうのも珍しいのでどう感じればいいのかいまいちピンとこない。そういえば、今日は昼に法月さんを見かけなかった。仕事が忙しい時なのだろうか。たまに見かけない日がある。あれ?でもそれならすぐメッセージが返ってくるのはおかしい?

『法月さん今日はお休みですか?お店でお会いしませんでしたが』

しかし、さっきまですぐ返信が返ってきていたのに返ってこなくなる。丁度同じく休憩時間とかだったのかもしれない。納得。
俺も仕事を頑張らねば。

「やっほー、おつかれ〜。いーくんなんだか楽しそうだね〜!」
「そうですか?」
「あ、噂のいーくんのこと好きな子とやり取りでもしてたんでしょ?でしょでしょ!」
「はい」
「きゃーっ!にしても、いーくんに惚れちゃうなんて相手の子も物好きだよね〜」
「俺を好きだと物好きなんですか?」
「だって普段のいーくんクセ強いじゃん。プライベートでやり取りできるってことは普段も許容してくれてる訳でしょ?相当好きなんだよ!早くちゃんと好意を理解できるようになるんだぞ、可哀想でしょ相手が」
「はあ、わかりました」
「いーくんのこういう時のわかりましたはわかってないのよ」

法月さんとやり取りしてる俺は楽しそうに見えるようだ。誰に対しても自然体で同じように付き合ってるつもりだが、ひょっとしたらいつもより気楽に接してるのかもしれない。

「ってことは俺も好きなのかな」
「えっ!?」
「ん?なんですか?」
「今……恋心自覚した!?」
「すみませんが恋というのがよくわかりませんので自覚してないと思います」
「やっぱまだロボットか……

人間になったと感じかけたが、残念ながら恋も愛もなんも理解ができぬ俺に先輩は一瞬で冷めた顔をする。そもそも好きがわからないのにそのレベルは遠い。
人を自覚して好きになるってどうすればいいのだろう。法月さんと過ごしていればいつかわかるだろうか?