店員さんとお客君+①【あなただけが私の側に】

一緒にご飯食べるお話のおまけストーリーです。
仲良くしろ

本当に私は何をするにものろくて、そんな自分は他人の背中を遠くから見るばかりでした。私だけがぽつんと遠く離れた椅子に座って、皆は仲間と笑い合いながら絆を深めていく。輪の中に入れないのだと分かると自分の手のひらが透けて見えます。手のひらが透けたかと思うとどんどんそれは体中に広がって透明人間に仕立て上げてしまうのです。
晴れた青空に手を翳せば笑う陽の光が私を焦が尽くしてしまいそうで。
なら、私は孤独を許してくれる影の中が良い。このまま暗い暗い影として交わってそのまま消えてしまえばいいのにと。月すら照らさないような黒の中でーーー。

「法月さん」
「ひゃい!?」

少量なのに減らない不思議なご飯を無心で食べていたら、声が呼び戻してくれたようです。
ええ、勿論目の前にいる鷦鷯さんの声。

「な、ななななんでしゅ、すか!!あ、食べるの遅いですよね本当に本当にすみません!が、頑張って食べてるんですけど不思議なもので減らず……!」
「ですから別に謝らなくていいんですよ」
「う、あ、何度も謝ってすみま……うう……

鷦鷯さんは喜怒哀楽に偏らない淡々とした声色に平常心と言う言葉がとても似合う静かな表情で私を止める。
迷惑など感じていないのは言われる度にわかっているけれど、染み付いた罪悪感は拭えない。
何故食事に誘ってしまったのだろう。己が苦しむ為に人に迷惑をかけてしまうのは30年も生きていればすっかりわかりきったことでしょうに。

「法月さん、今すごく具合悪そうに食べてらしたので一応声かけた方がいいかなと。しんどそうなら残してもいいんですよ」
「え、えと、う、その、残すのもったいないですし、私お腹いっぱいではないので、だ、大丈夫です」
「そうですか」
「はい。大丈夫ですので、はい」
「そういえば、お昼おにぎりとお茶だけいつも買われてますけどお腹減りませんか?」
「じ、時間かかるの嫌なので……あ!今はて……鷦鷯さんとおしゃべりできるので別ですよ!普段のことに戻りますが、お弁当1個食べるのでもお昼休憩の時間間に合うかわからないので怖くてあまり食べれないんです」
「なるほど、でも栄養取らないと危ないですよ。健康診断とか」

健康。私みたいな人間には目指し難いもの。偏った食事に運動も不得意なので引っかかる項目は何個もありました。けれど野菜が嫌いなわけではありませんので野菜スティックを晩御飯にしたりはしています。もっといっぱいバランス良く取らないと結局間に合いませんが。現状抱えた食事へのプレッシャーには勝てません。

「バランス栄養食とかは?」
「え?」
「ほら忙しい人向けに〜とかであるじゃないですか。法月さんああいうのは食べられないんですか?小さいですし法月さんみたいな人こそ良いのでは」
「あ、そ、えっと、確かに……!選択肢にありませんでした。私おにぎり好きなのでついおにぎり買いたくなってしまって」
「おにぎり好きなんですね」
「は、はい!特にプレーンな塩おにぎりが好きです!鮭も梅干しもおかかも、ツナマヨなども好きですが!」

ふーんと興味なさそうに鷦鷯さんは聞いている。しまった、ついくだらない自己アピールなんてしてしまった。

……鷦鷯さんはおにぎりで好きな具とかありますか」
「こだわりは相変わらず特に無いです、変なものでなければなんでも美味しいです」

鷦鷯さんは何事もあまりこだわらない人らしく、デッキの好きなもののお話が通用しません。コミュニケーションって難しい。唸りそうになります。
でも、そうやって何かに滅多に偏らないからこそ私にマイナスを一切向けない鷦鷯さんがきっと好きなんですが。

……せ、せっかくなので次ご来店する時は栄養食試してみます」
「はい。と言っても結局ちゃんとした食事は取らないと意味はないでしょうが」
「すみません……。置いて行かれそうで怖くていっぱい食べれないので……
「置いて行かれそうとは?」
「わ、私が一生懸命食べてると不意に前を向いたら、例えば鷦鷯さんとかもういなくなっちゃってたりしてそうというか、いつもそうだったので……早く食べないと一人で寂しく補習みたいになっちゃうのが嫌なんです」
「俺は生理現象とか以外ではどこも行きませんよ、約束しましたし」
「はい、鷦鷯さんはそうですね、へへへ……。で、でも、鷦鷯さんみたいにのんびり待ってくれる人に限りませんから、世の中。置いて行かれちゃうんです」

集団生活というものに混じる幼稚園の頃からそうでした。その頃の私は自分のペースが遅いことは知らなかったので今よりは小さなお弁当1箱は食べれる位の食欲はあったのです。人より咀嚼をしっかりしないと飲み込めないので、いつも通り食べていたのですけれど夢中になってふと気づいたらざわつく声は外へ、遠くへ行ってしまっていました。
急ぐと喉に詰まってしまってむしろ先生を困らせてしまい、それからは食事時はいつも先生が隣で見守るようになりました。「慌てなくて大丈夫」「頑張ろうね」と優しく声をかけてくれることはとても親切でしたが、かえって私にプレッシャーを生んでいたようです。結局ずっと最後に残る様は何年も変わらず、大人になるほどむしろ馬鹿にされる機会も増えていきました。
私を知るものはあいつは昔から食べるのが遅いからほっとけ、と。知らない人も知ると申し訳なさそうに、もしくは迷惑そうに去っていきました。
壁の隅でぽつんとご飯を食べる私はとても滑稽だったでしょう。時々ちらちらと感じる視線が胸に針を少しずつ食い込ませていくのです。だから、こうして人と食事をするのは正直苦手です。



「周りがせっかちなだけでは。俺も待ってくれと言われなければ多分さっさと行っちゃいますし」
「も、もしかして本日もご飯食べたら帰るおつもりですか……?」
「え?いえ、さすがにお会計まではいますけど。一緒に入ったんですし。でも学生の頃などにみんなで集まって食べようみたいなことあったら大体適当に帰ったりはしてました」
「私……私は………そういうのまず呼ばれたことありません………
「気にされてるなら行かなくて良かったのでは」
「あ、う、はい、そうかもしれません…………
「んー。考えてみたんですが、むしろ早く食べてしまった俺にも問題があるかもしれません。会話をしようという趣旨があるにも関わらず、あれもそうだったんですねきっと。もっと勉強します。」
「わ、いえ、ですから鷦鷯さんは悪くないですよ〜!」
「いいえ。趣旨があるならばそれに見合った楽しみ方をした方が得だったなと言う話です。自分を攻めているというよりもったいないことをしたかもしれない、次回からはそうしたいなと思ってです」
「つ、次ですか……?」
「はい、もしまた機会があったらそうしようと思います」
「ひょ、ひょっとしてわ、私とまた来てくれたりするんですか!?」
「え?あ、まあ。いいですけど」
「わ、へ、へへ、にへへへへ……!!嬉しい、嬉しいです………!にへへ……店員さんとまたおでかけ………
「大丈夫なんですか、苦手なのに」

一緒に行くということにだけ引っ張られましたが確かにまた来るにしても相変わらずこの惨状をお見せするのはとても心苦しくはあります。
………しかし、鷦鷯さんは約束してくださいました。「置いていかない、待っている」と。
それに鷦鷯さんとならきっと私、少しずつでもこの苦手を克服できるような気がします。

「鷦鷯さんなら、安心できますから。む、むしろ鷦鷯さんとまたお食事ご一緒させてほしいです。今日本当に、私幸せにご飯食べれましたので………
「そうですか、法月さんが幸せならそれがいいですね」
「はい。なのでまたこんな幸せな時間を私に与えてくださいませんか?私ももっと鷦鷯さんも楽しめるように色々勉強しますから!」
「いいですよ」
「約束ですからね!」

指切りげんまんまでしたくなってしまう子供心を抑えて、高鳴る気持ちを目の前のご飯に向けていたらいつもよりとても早く食べ終えることができました。

「さ、鷦鷯さん!すごいですよ!私いつもより早く食べれました!!私史上歴史的レベルです!」
「法月さん」
「はい!」
「口の周りソースですごいことになってますよ、ピエロみたいで面白いですね」
「あ、はい……

全然違うことで心なしか楽しそうな雰囲気の鷦鷯さんは最後までなかなか掴めませんでした。
不思議な雰囲気をまとった方です。
けど私、鷦鷯さんに出会えたことこれからもずっと感謝していくと思うんです。
あなたみたいな人は生まれて初めてで、これが最初で最後だから。