審神者業をして、雑務もして、現代での平穏を保つため近侍の山姥切長義との
散歩を今日もこなしていく。
彼はもう準備が出来ているようで、家から出た私を玄関で待ってくれていた。
(今日も散歩開始、と)
端末を取り出し、アプリを起動させる。
そして、毎日散歩での課題を見直す。今週分の課題はもうクリアしている。
だが、もう日常化となっているせいか、課題が終わっても変わらず任務をこなしている。
ある意味、勤勉というか真面目というべきか。
長義も「それが貴女らしくていいじゃないか。いくらでも付き合うさ」と言ってくれる始末。
……近侍として、指摘してくれてもいいんだけどなぁ。
「あっ」
それは、ふと口に出た。
端末で、散歩を始める前に開始を知らせる。
それはいい
――が、課題だったり、刀剣男士
――近侍の情報も一応みている。
彼らにも時の政府から寄せられている課題があるらしい。
口出しはしないものの、端末で見守る形で成果を見ているのだ。
長義がこなす課題
――近侍ポイントが終わりを告げたのだ。
散歩をすることで、刀剣男士にもポイントが配布される。
それがある一定のポイントを獲得すると、政府から特別なバッジがもらえるらしい。
そして、そのバッジが最後になった。
綺麗に輝く虹色のバッジだ。
「どうかしたのかな?」
「長義、これ見て」
私の声に応える長義に、私の端末を彼に見せる。
それを見て、長義は少し目を見開く。
そしてどこか寂しげな表情を向いたかと思ったらすぐに「へぇ」といつもの凜々しい表情で答えていた。
「なるほど。俺もついに最後のバッジを贈呈されたということか」
「そうみたい。おめでとう、長義」
「ありがとう、と言っていいのか反応に困るんだが
……一応気持ちは受け取っておこう」
長義は苦笑しつつも、祝いを受け取る。
確かに、散歩のバッジを手に入れたところで何も恩恵はない。
誰かに自慢したいわけでもないし、政府からの彼への待遇をよくしてくれるわけでもない。
それを見届けた私にも何かあるかというと、特別何もない。
だから、長義が曖昧な返事をするのも無理はない。
強いていうなら、ここまで平和を守ったという軌跡を残せたくらいだろうか。
あとは、私と長義で行ってきた思い出とも言える。
これは素直に嬉しいかもしれない。
なんせ、ここまで来るのに長い期間かかった。
その間ずっと、長義と一緒に散歩をしてきたという証だから。
「で、俺は最後のバッジを手に入れたわけだが」
「ん?」
「これからどうする? 近侍を代えてその者と散歩するか?」
山姥切長義のバッジは受け取った。
何度も見たけど、次の課題がないのだ。
最近では、敵を撃退して経験値が蓄積できるように政府が力を解放してくれたばかりだ。
だからまだ修行に出られない刀剣男士の唯一の救いだった。
しかし、散歩についてはポイントを蓄積する機能は解放されていないようだ。
その証拠に、次のバッジの指示も次のバッジを手に入れるまでのポイント数の表示がないのだ。
つまり、本当に「終わり」が来たのだ。
私は、効率よく進める派だ。
敵との遭遇時に、経験値が溜まらないのなら無理に戦場に行かせない。
その経験値が彼ら自身の力になれないのなら意味がない。
人によっては、愛があれば経験値が無駄になっても構わないという人もいるだろう。
あいにく、私はそういうタイプではない。
少しでも多く、早く、極めた刀剣男士を強くさせてやりたいのだ。
それを長義は知っている。必要がなくなればすぐに切り替える人間だということ。
だからこそ尋ねてきたのだろう。
あくまで「近侍」として。
「正直いうと、悩んでる」
「? 何故悩む必要がある?」
「さっき、悲しい顔してたでしょ。隠してたつもりかもしれないけど、見えてたんだから」
私がそう指摘すると、図星だったようで長義は口をつぐんだ。
何年一緒にいて、散歩してきたと思ってるんだよ。
「はぁ
……政府も早く蓄積解放かさらなる課題を増やすかすればいいのに」
「主?」
「そうすれば、こうやってまた長義と散歩任務できるのにね」
行こう、というように私は長義の手を取って家を出る。
長義は「待て」と言いつつも、私の手を引っ張られながら着いてくる。
本来の私ならすぐに長義を近侍からはずして次の刀剣男士との散歩を施すだろう。
でも、なんでだろう。
まだ、長義と一緒にいたい
――なんて。
少し歩いた先で、私は彼の手を解いた。
「
……私はまだ見てないから」
「え?」
「長義はまだ任務が終わってません。政府からの任務が終わったなんて聞いてませんし、見てません」
「主
……」
「まだ、長義に見せたい場所とか一緒に行きたい場所、行けてないの」
「だが、俺が御供にいたら
――」
「長義は、私との散歩を終えたい?」
長義にとって、この質問は酷だろう。
私も分かっていて、少し意地悪を言った。
彼は優しいから「そうだ。終わらせたい」なんて、思っても思ってなくても言わないだろう。
その甘さに私はつけ込む。
(悪い主だ。私も)
「
……そうだな。主の為に、俺は近侍から下りないといけないんだろう。本当なら、貴女の近侍として刀剣男士として指摘して、俺自ら近侍と御供を下りるべきなんだろう」
「長義?」
「でも何故か、俺も貴女と同じのようだ。まだ散歩を終えたくないんだ。近侍も、下りる気はない」
「じゃあ
……!」
「主がいいなら
――貴女がもういいというまで、傍にいよう。俺も、貴女が連れて行きたい場所に、行きたい」
「うん! じゃあ、政府が次の課題を出すのサボってるんだから、私たちで課題を作ればいいね!」
「ふふ
……それもそうだな。さて、今日はどこに連れて行ってくれるんだ?」
「んー、長義が行ってみたい場所はないの? 今日は連れて行かれたい気分」
たまには、彼に行きたい場所に行くのも悪くない。
彼は少し考え込み、しばらくするとこちらに向いた。
「少し、小さなカフェでもどうかな? 任務の途中で見つけた例のカフェだ」
「ああ、なんかちょっと古めなカフェ?」
「そう。そこで貴女とお茶を飲みたい」
「え、それだと散歩っていうより
……」
「分からない? どうせ御供と近侍から下ろされる宿命があるなら、そうなる前にもう少し貴女と寄り添いたいと思ってね」
「つ、つまり
……?」
「今の関係より、もっと進めたい。だからまずは、俺の散歩任務が終わった祝いとして、あそこのカフェで一緒に飲もう」
彼はそう言って、少し含みのある笑みを浮かべていた。
私は少し恥ずかしくなって、彼から視線を反らした。
長義は「何で俺を見ないんだ?」と視線を向けさせようとするも、私は全力で顔を隠す。
今の私はとても、人前に出られるような顔じゃなくなっているだろうから。
「まぁいい
……続きは、カフェで」
今度は、長義が私の手を引いてエスコートする。
私は、されるがままに付いていくのだった。
私たちの散歩任務は、まだ続く。
政府たちの課題が終わったからなんだというんだ。
私たちが好きなように任務をこなせばいいんだよね。
とりあえず、散歩任務お疲れ様。長義。
【END】
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