熱せられた鉄瓶が沸騰するお湯の動きに揺られて、カタカタと小さな音を立てている。冬の夜、雪が降り積もった世界では全ての音が吸い込まれて静かだ。だから二人の間に存在する音はそれだけだった。
「あなた珍しい名前をしているんですね」
自己紹介でお互いの名前を告げたあと、自然にそういう流れになった。
私たちは、たまたまここで出会った。雪で凍えて行き倒れかけていたところを彼女に拾われたのだ。つまり命の恩人となったわけだが、あいにく今は返すべきものを何も持ち合わせていない。雪が止んで麓に降りることができるようになるまで、足止めされている。
彼女もこの家の住人ではないらしい。同じく峠を越えようとしたのだが、冬になってしまった。ちょうど空き家を見つけて、春になるまでここを借りの住まいと決めたらしい。長らく人のいなかった場所を、冬を越すことができるように整えてくれたのが、彼女だったらしい。
そして話は冒頭に戻る。
「私の名前に、虹が入っているから?」
「そうです」
「縁起がいいもののようです。私が生まれた日に見えたと」
「縁起がいいのですか。なるほど。国が変われば文化も変わりますね」
女性は納得したように頷いた。
その一言で、彼女がこの国の人間ではないということがわかった。冬山の過ごし方に詳しいのも、もしかするとそれが理由なのかも知れない。どうしてこんなところにいるのか、過ごすうちに知ることはあるだろうか。語るかどうかは、彼女次第だ。
彼女の国では、虹は特に女性に対して不吉なものであるようだ。だから彼女は虹が人の名前に使われていることに驚いたらしい。どうして不吉と言われているのか、私は聞いてみたくなった。それを聞くのが当然の会話の流れであるようにも思った。
「どうして不吉なのですか?」
「ではとある花嫁の話をしよう」
どうして彼女は、私に虹の話を訪ねさせたのだろう。いや、これは私が虹の名前を背負っていたからだ。どういう因果でこうなったのだろう。
異郷の女が語る不吉な花嫁の話。それはとても不気味なものに感じられたのだ。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.