世界の果てに、先があることを教えてくれたのは一羽の海鳥だった。その鳥はまだ誰も見たことがない海の向こうからやってきた。人類は長らくその先に別の大陸があると夢見ていたが、たどり着くことができたものはいなかった。常に新天地を探しているのは、いつか土地が狭くなり人が溢れてしまうことをわかっていたからだろうか。あるいは好奇心が人類の本能なのかも知れなかった。
幾度も船を見送った。早ければ数日や一週間あるいは数ヶ月も経ってから、壊れた船の破片が浜辺に流れつくのを見て、試みが失敗したことを知るのだ。
やがて人は諦め、海の向こうを目指すのは、夢見がちな馬鹿のすることと言われるようになってしまった。
海鳥を見つけたその男は、海の向こうに憧れていたわけではなかった。
ただ長い退屈を潰し生活の足しにするために、日長一日海に釣り糸を垂らして過ごしていたのだ。
海には、ここが世界の果てであることを示す境界が敷いてあった。
無鉄砲な若者が、旅立って命を散らさないように。そして漁に出た船が不幸に見舞われてしまわないように。
そこを越えてもいいのは、命を捨てる覚悟を決めた者のみと決まっていた。男は釣りをしにきただけだから、海に踏み込むどころか船に乗ることもなく、境界の浮子が浮いたり沈んだりするところを眺めていた。
そこに一羽の鳥が止まった。海に海鳥がいるのは珍しくない。魚を横取りするために、釣り人の側に近づいてくることも、珍しくはない。
ただその鳥の毛色が見たこともないものだったので、目を引いた。知らない鳥が一羽。確かに海の方からやってくるように見えた。それこそが、誰も知らない場所からやってきた海鳥だったのだ。
そして彼は新種の発見と、新大陸の存在の示唆以上に重要な意味を持っていた。
今はもう信じる人間はいないが、かつて予言で語られていたのだ。
新天地を告げるもの。それを発見したものこそが、古い世界を作り変えて新たな世界の統べる支配者になる。
そんなことなど、知る由もなく男は呑気に海に釣り糸を垂れて、海鳥を美しい鳥だと思いながら見守っていた。
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