ひさね
2024-01-24 22:54:52
1533文字
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腐れない肢体を眺める話

燃えない、溶けない、腐れない。3つ揃ってやや愉快な話。ケンラトの死体(?)埋めss。ただ訳が分かるのは本人達だけなので描写は不親切。ケント視点。

「確かここじゃなかったですっけ」
「ん、もう少し右だぞ。後三歩ぐらい」
「あっありました。あはは、ちょっと草が薄い。良く見つからなかったな」
 ラトネィは呑気に笑いながらスコップに足をかけた。ぼくはしゃがんで穴の中を今か今かと待ちわびながら眺めるだけだ。
 朝焼けで赤らむ空の下、森の土をわざわざ掘り起こすのも変な話だ。人が来たら通報されるんだろうな、とぼんやり考えながら、かき出された土の中に白い幼虫がいるのに気が付いた。それからまた土に埋もれて見えなくなった。可哀想に。
 黙々と彼女は縦に長く穴を掘り進め、とうとうそこに埋まっていたものが顔を出した。
「おー、出てきたな」
「結構深い所に埋めてましたね。やっと顔が出てきたけれどもう少し掘らないと上体、起こせないかも」
「そんな全身確認する必要あるのか?」
「何か変わっている可能性もあるから、見ておきたいなあって」
 こんなものかな、と言って、スコップを横に置く。
 それからラトネィは穴の中で横たわる体を取り出した。
 体に虫が湧いている様子もなく、腹が裂けている様子もない。髪も抜けていない。
 出てきた肢体は埋めた当時の姿のままだった。
 彼女は服に泥がつくのも躊躇わず抱きかかえて、顔や四肢についた土を丁寧に拭っていく。そして関節としての役割を確認するように肢体の腕を掴んで横に軽く揺らす。それに合わせて力なく手がぶらぶら揺れている。
「それに結構綺麗じゃないですか?」
「複雑過ぎるんだぞ」
 無邪気に笑って宣う彼女に、乾いた笑いを返すしかなかった。自分の身体をおもちゃの人形のように扱っているのを見せられれば、誰でも何とも言えない気持ちになると思う。
 ぼくの気持ちも素知らぬ風で、彼女は異変がないかを確かめるように、肢体の胸から腹にかけてゆっくりさする。こそばゆい気持ちになって、感情を無理矢理引き摺られた様な気分が上回ってきて面白くなくなってくる。
「絶対燃やして欲しかったんだぞ」
 毎回お馴染みの恨み言を口にすれば、くすりくすりと益々楽しそうに言う。
「燃えなかったから仕方ないじゃないですか。燃えないし溶けない。腐れもしない。呪いの人形みたいですね」
「その手の人形だって燃えるもんだぞ」
「あはは、確かに。じゃあ人形どころじゃない、変な存在になっちゃいましたね」
 返す言葉もないので黙る。腹の中で何とも言い難い感情が渦巻いていたけれど。
 よいしょ、と一通り確認が終わったのか、彼女は肢体を穴の中に戻す。それから服についた土をぱんぱんと払う。顔にも付いていたが、本人は気がついていないようだった。そのままスコップを持った彼女に立ち上がりながら教えると、ふわりと笑った。
「じゃあ取ってください」
「仕方ないなあ」
 素直に顔を差し出して来るのに毒気を抜かれて、また面白くないなと思いながら指で拭ってやる。頬の温かさが手に染みるようだった。
 泥も取れて、手を離すついでに確認の結果を聞いてみるに、特に何も異変はなかったようだ。
 ラトネィはスコップで土を戻しながら「次は何時来ましょうね」と言う。
「別に何時でもいいぞ。半年後でも一年後でも」
「流石にスパンを空けすぎですよ。掘り起こされたら困ります」
「ここ、禁足地だから誰も入ってこないと思うんだぞ。頻繁に出入りする方が目立つぞ」
「それはそうですけど。じゃあ三ヶ月後位にしましょうか」
 それでもまだ頻度が高い方だと思うが、結局誰にも見つからずに着けば問題ないかと考え直す。ぼくも彼女もそういうのは得意だった。
 再び埋めた時には、ちゅんちゅんと雀が鳴き始めていた。帰り際に何か朝食でも買おうかと話しながら、帰路を辿る。