HAZURE_Mapo
2024-01-21 23:52:25
864文字
Public SO2文章 物語を彩るモノたち
 

物語を彩るモノたち【芸術品】

SO2に出てくるモノ視点の話。登場キャラはアシュトンとクロード。※物が喋ってます

 自分は今、冷や汗をかいている。

 いや厳密にはかいていないのだが、人間はこの状況をこう比喩することがあるのだろう。自分が普段居る場所から聞こえてくる人間達の会話で、老若男女問わずこの表現は使われている。故に緊張したり悪い方向へ向かいそうな状況になる場合が人間には多いのだな、大変な生き物だなと俯瞰して観察していたが、まさかその人間によって自分がそのような状況に立たされるとは思わなかった。この砂埃舞う乾燥地帯に存在する片田舎に一軒だけある街酒場の入り口に、風景として完全に同化している自分には。
 しかし何故であろう、この人間はとても澄んだ瞳で自分を凝視している。その瞳に輝く光に澱みが一切なく、逆にこちらがこの者に備わっている2つの翡翠色に目が奪われそうである。ここはクロス大陸屈指の宝石の産出地であるが故、近くの宝石店で彼女にプレゼントするアクセサリーを買ったやら、私が貰った宝石の方が大きいやらと酒場でやんややんやと我が宝石を自慢している人間は多いが、そこで見る宝石よりこの者の瞳のほうがよほど綺麗だ。


「どうしたんだ?アシュトン。何をそんなにまじまじと見ているんだ?」

「やぁクロード。君も見てみるかい?この樽の美しさを。この木目、丸みの角度、擦れ具合……ボクも各地を巡ってきたんだけど、中々ここまで美しい樽は見かけなかったよ。ほら、ここ見てよ。どこも美しいけど、やっぱりボクはこの絶妙な丸み加減が一番好きかな。それにこの留め具との相性も最高じゃないか!木と留め具の色合いも絶妙にマッチしているし、この一寸の緩みもない嵌り具合……芸術品と言っても過言じゃないね!」

「へぇ……そうなんだ……(話しかけない方が良かったかな……)」



 冷や汗をかく状況にしておきながら良く言ったものだ。
 だが風景の一部としてしか見なされていなかった自分にこれほどまで熱い視線を送ってくる人間がいるとは俄かに信じがたいが、長い長い人生にもこういう日があるのだから、樽として生きるのも捨てたモノじゃないなと思っている。