あけみ
2024-01-21 17:14:37
3510文字
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巡り廻る血の家系(加茂先輩と虎杖・脹相と虎杖の話)

書くつもりはなかったのに、ちょっとアニメを二周目してたら、京都校との加茂先輩とのやりとりとか、本誌のあれこれを知って。つい。出来心で。連ねました。原作は25巻まで読みました。

「加茂先輩、野球競技で三振してましたけど、あれってわざとですよね」
 高専の京都校との交流会で、お互い初対面の印象は最悪だったと聞く。だが、外部から侵入した呪詛師と呪霊との戦闘で共闘せざる得ない状況下は、東京と京都の生徒たちにとって本当の意味での交流会となった。互いの能力と戦闘スタイルを知る機会となり、二日目に行われた野球競技は呪術高専の姉妹校交流会としては穏やかな緩い交流だったと言えよう。まるで普通の学生が競技する項目だった。
 悠仁は野球競技で捕手をしていたが、加茂憲紀が打者に回った時彼は悠仁に何故呪術師になったのかと問い、見送り三振となった。わざわざ野球競技中に問わなければならないものでもなかっただろう。悠仁は憲紀がわざと三振したように思えたのだ。

 五条悟が提案した姉妹校との立食会で悠仁は憲紀の傍に寄ると冒頭の問いを投げかけた。
 皿に盛った食事を頬張りモゴモゴしながら声をかける問いではなかったが悠仁は少し気になっていたのだ。
……私は最初、お前を殺すことに賛同していた」
 想像していた返答ではない言葉が放たれ悠仁は少し困惑する。
「けど、それは京都校の学長が命令したって……
「いや、命令がなくとも私は君の暗殺が妥当だと判断した」
 憲紀はそう言い放つ。京都の呪術師だけでなく、これは東京の学長より上の位にいる者たちのほとんどが同じ考え方だ。悠仁も散々聞いてきた。もちろん、悠仁も生き長らえるつもりはない。宿儺の指を全て腹におさめた後は、死刑を受け入れている。それまでは大勢の人を救う。そう決めた。だから呪術師をやっている。今はまだ死ぬわけにはいかない。
……それは、正しいよ」
 憲紀の考えを肯定した悠仁は、その後に続く憲紀の言葉に目を丸める。
「私は間違っていた。お前を知りもせず本気で殺そうとしたことは愚かだった……すまない」
「えっ、何で先輩が謝るの? ん? それでわざと三振したの?」
「いや、お前と話をしたかった。私が問た返答で虎杖悠仁を少しでも知れて良かった」
 つまり、真面目に会話をした結果だという。それにしても、あそこでする会話ではなかっただろ。悠仁は肉団子を飲み込んで苦笑する。
……はぁ、先輩てクソ真面目ですね」
 その後、一言二言話しをしてから悠仁は立ち去ろうとしたが、東堂に肩を掴まれ存在しない記憶の話を持ち出される。変な奴だと思いながらも悠仁は、笑って東堂の話に乗た。しばらく京都校の生徒たちと話をした後、伏黒たちがいる場所に戻る頃には、「お前って、誰とでも仲良くなれるコミュニケーションお化けだよな」と、伏黒から告げられる始末。悠仁は首を傾げる。
「加茂先輩、意外と良い人だったよ。京都校の皆、愉快な奴らばっかで面白いじゃん」
「たぶん、向こうはお前が一番愉快で面白い奴だと思われてんぞ」
 憲紀とまともに会話が成り立たなかった伏黒にとって、悠仁のコミュニケーション能力に少し引いているようだ。悠仁は頭をかいて照れた仕草をしたが、伏黒は「珍獣だと思われてるんだよ」褒めてねぇぞと、言い加えた。けれど、悠仁はどちらでも良かった。生き返って伏黒と釘崎と再会した最初の日が交流会で良かったと感じていたし、東堂のおかげでもう一段階強くもなれた。
「皆、良い人たちだよな」



 そんなことをふと、思い出してから廃墟となった渋谷のビル街で雨除けとなる屋根が辛うじて残っている一室で休んでいた。渋谷に着いて五条悟が封印される事態になった後、現場の混乱の中、メカ丸が援助してくれたことも、ボロボロになった精神力の悠仁の前に駆けつけてくれたパンダと京都校の皆。悠仁にとっても心強かった。
 そして、今は彼――
「悠仁、コンビニで食べられそうな食品を取ってきた……少しでも腹に入れておけ」
 そう言って顔を俯かせしゃがみ込んでいる悠仁に声を掛けたのは脹相だ。
「ん……ありがとう」
 顔を上げ、脹相からおにぎりを受け取る。

 脹相は悠仁と釘崎が以前倒した九相図の受肉体、壊相と血塗の兄である。出会い頭に悠仁を殺す気で向かってきた道理も理解している。兄弟の仇は憎かろう。けれど、今は悠仁を弟と呼ぶ。羂索が放った呪霊の残党狩りをする中で、ようやくこの状況が奇妙だと思い始めた。悠仁は脹相に「俺はお前の弟じゃない」と言い放つも脹相は首を振り「俺には分かる。虎杖悠仁、お前は間違いなく俺の弟だ」と返されるだけだった。
 おにぎりを頬張りながら、悠仁はチラッと脹相に視線を向ける。彼はじっとこちらを見つめていたので、ばっちり目があったが悠仁も視線を逸らすことはしなかった。目つきが悪いところも、羽織っている衣服も彼のアイデンティティだろうか。やはり、少し加茂先輩に雰囲気似てる。悠仁はそっと思った。
「アンタも、クソ真面目だな」
 悠仁はそう言った。
 会話は成り立たないくせに真面目に相手の言い分を聞いてあげるところ。強い意志で相手に向ける殺意を隠さないところ。間違いを認めるところ。あとは――存外、優しいところ。
 脹相は眉を怪訝に歪め「も、とは?」と、聞き返す。
「あー、……先輩にいるんだよ加茂家の。脹相が話してたじゃん。あの場にいた加茂先輩も、脹相みたいにクソ真面目でさ」
「俺は加茂家の人間が嫌いだ」
 心底嫌そうに言い放つ脹相の言い方に悠仁は一瞬、目を丸めたがすぐに苦笑する。
「あー、そうだよな、脹相にとっても、悪い親なんだっけ」
 悠仁の言いたいことを理解できない脹相は、ますます顔を歪めたが次の言葉で納得したらしい。
「その先輩も同じことを言ってた。加茂家の人間は嫌いだ、て」
 案外、二人は気が合うのかもしれない。
「俺は呪術師と慣れあうつもりはない。だが、悠仁が望むなら」
「俺のために自分の意志を曲げることはないよ。嫌なのに無理やり付き合わせることも俺はしないから」
……今は悠仁の傍にいたい」
 脹相の真っすぐな視線は、彼の意志の強さを物語っていた。悠仁は眉を寄せ黙って頷くことしかできない。本当に自分は誰かの助けでやっと立ち上がれるだけの精神力しかないのだと思い知らされる。
 脹相が傍にいてくれなかったら、真っ直ぐに自分のやるべき事を見通せていただろうか。背筋を伸ばして立っていただろうか。
 手元にあるコンビニのおにぎり。脹相の手にも握られている。彼は半分受肉している呪霊なので食べなくても平気だと言ったが、悠仁のために共に食べてくれる。食事は誰かと共にする方が良いだろう、と脹相が言ったのだ。
 泣きたくなるのを堪えた。
(お兄ちゃん……か)
 こういうのて、良いものだな。


 それからしばらく経って。

 隣に脹相がいる。もう左隣には加茂憲紀がいる。悠仁は以前、二人はきっと気が合うだろうとは思っていたが、まさか二人に赤血操術を習う日がこようとはあの日、思いもしなかった。

「君のお兄さん? の方に教わった方が良いんじゃないか?」
 憲紀が悠仁の傍に寄ると、少し遠慮するような素振りでそう悠仁に声をかける。
「いや、俺の兄じゃ……うん、まあ、いいや。さっきも言ったように加茂先輩の教え方の方が俺に合ってたからそれは本当」
 背後から脹相の視線を感じながら悠仁は憲紀に笑みを向ける。
(加茂先輩と脹相、似てると思ってたけど、やっぱ全然違うかもな。脹相って大人げないところあるし)
 悠仁は離れた場所で脹相がこちらの様子を窺っているのを察した。
「脹相! そんなところで見てるなら近くにいろ! 気が散るから!」
 振り返って怒鳴ったが、少し気恥ずかしかった。脹相がサッと悠仁の傍に寄ったからだ。表情もどこか嬉しそうに見える。兄弟がどういうものか悠仁は分からないが、兄貴はこういう感じなのだろうか? 分からん。
(たぶん、違う気がする)
 そう思うのは、憲紀が興味深そうに悠仁と脹相を見ているからだ。
「加茂先輩、こいつのこと気にしないで赤血操術のこと、教えてください」
 悠仁は何故か顔が熱くなるのを感じた。先輩に過保護すぎる身内を紹介しているようで居たたまれない。憲紀と脹相に挟まれ、悠仁は眉を寄せる。
(なんか、これ……
 正月の席で親戚と会合してる感じだよな、たぶん。悠仁は家族といえる存在は祖父だけだったが、この微妙な空気感は理解した。更に、自身が脹相と兄弟であると無自覚に受け入れている事実が悠仁の羞恥心を駆り立てる。
(巡り廻って妙なことになったな……
 悠仁は憲紀と脹相に向き直る。
「二人ともよろしくな」




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