望月 鏡翠
2024-01-21 11:09:15
877文字
Public 日課
 

#1245 「ベーコン」「呪い」「豚」

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 豚の恨みは深かった。
 生まれてすぐに親から引き離されて、悲しい思いをした。画一的でつまらない味の食事を毎日与えられて、ろくに動き回ることもできない狭い部屋に閉じ込められていた。
 お腹いっぱいご飯が食べられて安全ならそれで幸せという豚もたくさんいたが、その豚は納得していなかった。やがて肉にされる瞬間を悟り、激しく人を恨んだ。必ず報復してやると決意して、そのまま恨み深き呪いのベーコンとなった。
 見た目は普通のベーコンと変わらないまま、出荷されて切り分けられてパッケージされてラベルを貼られ、商品棚に並び購入された。
 最初の一切れは、カルボナーラになった。黒胡椒とともにパスタに味を添え、卵と生クリームに混ぜ合わされた。
 二切れ目は、ステーキにされマッシュポテトと合わせて、テーブルに並べられた。
 三切れ目は、ポトフになり家族に提供された。
 それぞれのベーコンはそれぞれと形で料理になり、全てが誰かの口に入った。そして食べられたあとに強力に効果を発揮した。腹痛から始まる謎の体調不良が相次ぎ、倒れた人間が共通してとある店でベーコンを買っていたことが明らかになった。最初はありがちな食中毒ではないかと思われた。残ったベーコンは残らず回収され、詳細な調査がなされたが、なんの菌も有害な物質も発見されなかった。
 当たり前だ。現代の科学で原因がわかるわけがない。人の体を害しているもの恨みで、それは今のところ観測も証明もできないものだった。
 結局、人はそれが豚の恨みだということに気づくことはなかった。恨みをわかってくれる人がいないので、豚の恨みは晴れないままだった。
 しかしそれ以降、豚が人を恨んで猛威を振るうことはなかった。恨みはまだあったが、回収されたあとに食べられもせずに調査に使われ捨てられて、思い直したのだ。
 どうせ死んでしまったのならば、食べられた方がマシだ。だからせめてこれ以上人を恨むのは、全てが食べられてからにしようと決意したのだ。
 しかし、残念ながら一度研究用に回収されたベーコンが再び食卓に上ことはなかった。