スサ
2024-01-21 00:53:37
4048文字
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【創作】バーの話/クッキーの話

創作BLっぽい何かです。※構想的には他の短い話が連作になるようなやつです。まだ書けてませんが…。
元々友達と飲んでる時に「たとえばさ~」と話してたらなんかまとまるのでは?となったもので、友達2人にしか見せたことがない…。不安…。

 卒業する時はこれからもちょくちょく会おう、なんて言っても、大体それは実現しない。誰でも、どんなグループでもそうだ。一週間、一ヶ月、三ヶ月、半年、数年。段々間隔が開いていくのは、新しい生活があればごく自然なことだろう。
 それでもやっぱり気が合う者同士の仲というのはそれなりに続くもので、メンバーを減らしたりしつつも、高校の同級生である青井と野川はその晩いつもの二次会(か三次会の店)にいた。専門学校に進み、今は整備士をしている青井と、大学進学の後一般企業に就職してサラリーマンになった野川は、進路どころか好みも性格も異なるが、なぜか不思議と昔から気が合った。
「おれさぁ、今度車買おうと思ってて」
「いいじゃん、何買うんだよ」
「なんか……かっこいいやつ」
 ふわっとした回答に、青井は酒を吹き出しそうになった。
「なんだよ、もう酔ってんのか」
「もうって、ここに来るまでにいっぱい飲んだじゃんか」
「サラリーマンて飲み会とかあるんじゃねえの。大丈夫なのか」
「あるっちゃあるけど、うちはそんなに。皆あんまり飲み会好きじゃないっぽいし」
 へー、と青井は相づちを打った。
「かっこいいって? SUV?」
「んー、黒か青」
「色かよ」
 職業柄、青井は車には興味がある。対して野川は学生時代からあまり興味を示していなかった。自転車でも二回くらい軽い事故を起こして怪我をしたり(自転車を)廃車にしたりしていたので、乗り物と相性が良くないのかも
「竜二、免許持ってたっけ」
 青井は高校卒業と同時に免許を取ったし、普段周りにいる人間に無免許はいない。だが野川竜二は違った。
 案の定、しゃっくりと共に野川は首を振った。青井はため息をつく。
「先に免許取らないとだろうが」
「でも、車がほしいなって思わないと、免許とりに行かなくない?」
 青井は言い返そうとして、結局何も言わず、ハイボールを口に運んだ。もうだいぶ氷がとけてしまった。
 店内を満たす週末の賑わい。それは心地よい無干渉とセットになっている。
「教習所どこに通うんだ? 合宿は無理だろうし」
 なんで学生の時取らなかったんだよ、と今まで何度か聞いたことを口にしたところ、だって青井が先に一人で取っちゃったし、とよくわからないことを言ってくる。
「俺はすぐほしかったし、免許」
「車好きだから?」
「乗れた方がいいだろ。なんなかったけど、営業とかだったら車乗れた方がいいこともあるだろうし、うちは親父も兄貴も車好きだったから」
「キョーイチにいちゃん元気?」
「元気元気。全然帰ってこないけど、北海道で元気にしてる。全然鮭とか送ってくんねえけど」
「鮭!」
 何が面白かったのか、野川が復唱した後けらけら笑い出す。
 青井はため息半分、つられて笑ってしまう気持ちが半分。
「北海道つったら鮭じゃん?」
「えー、トウモロコシとかジャガイモとかあるじゃんあとお菓子
「おかし」
「えっ、なんだよ、変なこと言った?」
「おかしって。なんか言い方がガキみてーだと思っ、いたっ」
 突然すねを蹴られて、青井は軽く悲鳴を上げた。
「そんな痛く蹴ってないし」
 つん、と横を向く同級生の顔が、なんだか年の離れた妹のように見えてしまって青井は苦笑した。
「おまえチィみたい、うちの」
「え?! ちぃちゃん五歳じゃん!」
「いつの話だよ、千都も十歳になったぞ」
「小学生じゃん!」
「そう。でも竜二はちょっとチィみたい」
 むー、と眉間にしわを寄せた後、ふは、と野川は息を吐いた。ふわっと前髪が揺れて、そういえばこいつの髪ってぬいぐるみみたいにやわらかそうだな、と青井は思った。
「お菓子さあ」
「お菓子かよ、なんだよ」
「最近塩味のクッキーにはまってて
「しょっぱいってことか? せんべいじゃん」
「ちっ、ちっがう、クッキーなんだって、ほろほろ~ってしてて、甘くて、でもちょっとしょっぱい」
 力説する野川が昼間オフィスビル的な建物の中でパソコンをたたいている(たたいていないかもしれないが)姿はこうしていると全く想像できない。こいつ本当にサラリーマンしてんのかな、青井の脳裏にそんな疑問がよぎったが、酔っ払いだからということで片がついた。それもまた一瞬。
 両手を広げて「ほろほろ~」、ぎゅっと自分を抱きしめるようにして「ちょっとしょっぱい」と言っている様子などを見ていると、製菓の道を目指すという進路もあったのでは、と思ったが、自転車の運転も危なっかしい同級生がホットケーキに挑戦して火事を起こしかけたことを思いだし、ない、と青井は自分にだけ首を振った。なお、熱弁を振るう野川は気づいてもいなかった。
「かーちゃんが最初買ってきたんだけどさ。うまくていっぱい食べちゃって、怒られたからまた買ってきた」
 青井は素直に笑った。怒られている様子が目に浮かぶようだったからだ。
「笑うな」
「笑うだろ。小学生か」
「ちがうんだって、ほんとにうまいんだって」
「ふーん」
「ふーん、じゃねーし」
 地団駄を踏みそうな顔でイーッ! とした後、野川は盛大なため息をついた。
「で、それが結構限定とかがあって」
「限定?」
「スーパーの限定みたいなやつ。うちの会社の近くのスーパーえっとナイスにあったんだけど、つまりさ」
「つまり?」
「他のスーパーにもあるんじゃないかと思ってて」
 心底どうでもいいな、と青井は思ったが、真剣に話している友人を見ているのはそんなに悪いものでもない。
「あんじゃね?」
「はやいはやい」
 もっとちゃんと考えて! と理不尽な注文をつけるのは酔っ払いゆえか。青井は笑って、わかったわかった、と口先だけ言って、席を立った。
「あっ、にげんな」
「なんでだよ、ションベン」
老化による頻尿?」
「おまえと同い年だよ!」
 あほ! と容赦のないデコピンをして、青井は席を立った。
 小学生みたい、というのは言動のイメージの話で、野川は本当にいたいけな小学生ではないので(当たり前だが)少し一人にしたところで何の問題もない。
 ──ないはずだった。
 青井の姿が見えなくなった時、「限定、ナイス以外もありますよ」と唐突に隣の席から野川に声がかけられるなんて、青井でなくても考えない。
……え?」
 意味もなくスマホで明日の天気など見ていた野川は、一瞬遅れて声のする方を見た。週末ということもあって、カウンター席は埋まっていた。野川の隣に座っていたのは、細いフレームの眼鏡をした、スーツ姿の男だった。野川より年上に見える。落ち着いているせいかもしれない。顔もちっとも赤くなっていない。
「ありますよ。ナイス以外にも」
へぁっ、ありがとうございます
「すみません、聞えてきたので。僕もあのクッキー、好きなので」
「えっ」
 野川は目をまん丸にした後、子どものようにふにゃっと崩して、酔っ払いの無軌道さでもって右手を差し出した。
「いっしょです!」
 ふん、と鼻息も荒い様子に声をかけてきたサラリーマン、品の良いネイビーのネクタイをした男は瞬きをし、それから笑って手を差し出し返してくれる。そのまま握手をかわし、「あれうまいですよね」と仲間を見つけた野川はすぐに人なつっこく口を開いた。

 青井が席に戻ってみると、同級生はなぜか隣の席のサラリーマンと意気投合していた。たまたま集合ビルのトイレが店から離れていたこと、清掃中だったりして少し時間がかかったことなどが重なり、席を少し長めに(平均より)開けていたのは確かだが
 頭をひねりつつ戻れば、クッキーの話で盛り上がっているらしいことに気づき、苦笑する。
「おい、知らない人に迷惑かけるな酔っ払い」
「おかえり。長かったな。腹壊した?」
「こわしてねえし」
「あと迷惑かけてないし」
「かけてんだろ。すいません」
「いえ、本当です。こちらから声をかけたので」
 こちらから声をかけたので?
 二人連れの客の片方が席を立った隙に声をかけてくると言うのは、一般的にはナンパに類するものではないだろうか、という疑念が青井の脳裏をよぎった。同級生とはいえ、時々年の離れた妹と同じくらいの年と錯覚してしまう友人が相手となると、若干保護者めいた気持ちで接してしまっているところが彼にはあった。
「ナイス以外にも限定クッキーあるって教えてもらった」
「マジ? あ、そういうやつ? あー、えと、なんかすいません
「なんでタツが謝んの……?」
「いや、だっておまえなんか小学生みてーだから絶対迷惑をかけたんだろうと
「だからおれ社会人だから。会社員。株式会しゃ
「わーーーーバカ名乗るな名乗るな」
 今日日何が起こるかわからない。プライベートなことをこんなところで話すものではない、という常識が青井の仲で働いた。
「仲がいいんですねえ」
「え、いやあ、高校の同級生で
 少し年上らしいスーツの男は、なんというかいかにも仕事ができる男という印象で、青井は少し苦手意識を持った。なんというか、偉い人かヤクザかどっちだろ、という警戒心を抱いたというか。
 この人、本当にクッキーなんか食うのかな、とも思った。
「黒川さん、うちの会社の隣のビルの会社なんだってさ」
 いつの間にか名前を名乗り合っている。
 野川はそこまで積極的な性格ではないので(酔っ払っているせいはあるかもしれない)これは相手の黒川氏とやらの手腕なのだと思う。ますます青井は困惑した。困惑したが、彼もまた若い酔っぱらいではあったので、近くの会社に友達? ちょっと年上の先輩? できんのもなんか良さそうだしな、と最終的に気にしない方向にシフトしてしまった。

 ──まさかその三ヶ月後、そのサラリーマンが友人の恋人になっていようなどとは、夢にも思わなかった。