陸生の亀は、太く頑丈な手足で地面を踏みしめながらゆっくりゆっくりと進んでいく。旅人はその背中に、仮の拠点を作っていた。彼らは力持ちで、穏やかだった。自分の足くらいの大きさしかない小さな人間という生き物にあまり興味がないとも言える。馬よりもずっと持久力があり、たくさんのものを積んでもへこたれないくらいに大きくて力強かった。
それに足は遅いが、危険なものや崖を見つけたら避けるくらいの知恵がある。狩りをする生き物ではないから、突然駆け出したり空を飛んだりもしない。
テントを張るにはぴったりの場所だったのだ。
だが困ったことが一つだけあった。
亀は足が遅いものだと思っていると、想像よりも早い。躾ができない生き物だから、声をかけても止まるわけがない。だが動かなかったら動かなかったで、小さな丘にしか見えず、風景に紛れてしまう。
だから道具を置きっぱなしで用を足すために降りたときや、水を汲みに行ってふと顔を上げたときなどにひやりとする。自分の財産全てが亀に持ち去られて消えてしまう可能性があるのだ。
旅人はそれをどうにかする必要を感じて、少しばかり悩んでいた。しかし離れるには亀は便利すぎた。
買い出しが必要なときは、なんとかして足を止めてもらわなくてはならないが、幸いそれはさほど苦労しなかった。亀の足を止める必要があるのは、亀の背に乗っている旅人ではなく、亀に踏み潰される街道や家や畑の持ち主であったからだ。
人手さえあれば、亀の方向を変えさせることは可能だと周りの人間に説明し、彼らが四苦八苦している間に、買い物をすればいい。
そうして街に出かけている最中、旅人は素晴らしいものを見つけた。音がよく通るオルゴールである。旅人は亀から少しだけ離れる用事があるときには、ネジを巻く。
そうすると、音楽がどのくらいはっきり聞こえるのかを頼りに、どのくらい離れてしまったのかに気づくことができるし、どちらに歩いて行ったのかもすぐに見分けられる。
実に素晴らしい装置だった。
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