副官は、上官に口答えしていることにならない程度に、遠回しな表現で早く戻った方がいいと訴えていた。戦地の黒煙が雨雲を呼んだのか、それとも死者の怨念がそのまま雲になったのか、空はひどい有様だ。
夜になる前に雨が降り出すだろうと思っていたが、その通りになった。血が染み込んだ地面を大粒の雨が穿つ。あたり一体の悪臭が増した。
嵐はどんどんとひどくなり、やがて雷が鳴るほどの豪雨になった。
わがままで留まるのも限界だ。私は私自身を待つ部下たちのために、先陣に戻らなくては無らなかった。雨は残った兵たちの体力を奪い、指揮を下げるだろう。
寝床が濡れていないか、戻ったら確認に回らなければいけない。風が強くなれば、仮説の陣は壁や屋根が飛んでしまう。
それらの確認が終わったら、最も重要なこと、これからの戦略について頭を悩ませなければならない。それは誰にも任せることができない孤独な作業だ。
それらの問題から目を逸らしたいから、私は戦場でいつまでもだらだらとしていた。
そろそろ諦めなければならない。
ここは、本来戦場になるべきではない場所だった。戦とは関係がない人々が暮らしていた。巻き込まれるなどあってはならないことだった。大勢が死んだだろう。だがここには死体が多すぎる。弔っている余力は傷ついた隊にはないし、格好の攻撃の的になってしまうだろう。
それでも彼らのために何かするべきなのではないか。
謝罪かそれ以外のことを。だが、意味がない。何も見つからなかったし、彼らは死んでしまったという事実は揺るがないからだ。
帰ろうとした私の足の下に、柔らかいものがあった。水を吸って湿っていた。
足をのける。雨で血や泥が洗い流されてそれがなんなのかわかるようになった。ぬいぐるみだ。
それ以外の痕跡を見つけられなかったから、それを持って帰った。持って帰ったはいいものの、どうすることもできなかった。
だから今でも、部屋の隅に転がっている。部下はそれを君が悪そうに見たが、何も言わなかった。
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