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無窓居室
2024-01-11 18:46:26
4028文字
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缶コーヒーブラック加糖
WEBイベント「何でもアリアリ即売会5」用作品。
YouTubeアニメ『ブラックチャンネル』のブラック×アカネ短編です。
アニメ版【BREAKING THE WALL】
https://youtu.be/DPJkyv-1yxc?si=arF9G3oLRwKNzEAP
の後という設定で、戦いの後なのに朝陽が残ってたり嘘ばっかりの世界線でブラ→アカ程度。
楽しんでいただけたら幸いです。
戦い
BTW
の
主催者
黒幕
────
異界の神
クリエイター
が消えた後。闘技場に残ったブラックは、さとしに後で戻ると告げてから、半壊した施設の医務室へ気を失ったままのアカネを運んだ。
各世界の主人公達が召喚された闘技場は〝クリエイター〟の威信を誇示するためか形ばかり立派にできており、入れる予定がなかったはずの客やスタッフのための設備も作りつけられている。少なくとも見た目上は。
アカネは意識を取り戻さない。この異空間を出てからの手当ても可能ではあるが、迅速な処置が必要なことをブラックは直感していた。体を無機質なベッドへ横たえると、長い髪は赤くシーツの上に広がった。
張りぼての室内には医療機器も医薬品も無い。しかしもとより必要なのはそんなものではなかった。冷静な手つきでアカネの体を
検
あらた
める。旭川朝陽による千の光の剣で貫かれたはずの肌には、ほんの軽い傷と汚れしか認められなかった。
(なるほど)
いったん離した指を己の顎先に当て、悪魔は内心で舌を巻いた。純度の高い魔力で生成された剣は、アカネの肉体を傷つけず〝命〟のみを正確に攻撃していた。アカネの全身を循環する生命エネルギーの流れは無数の箇所が寸断され、命の源がとめどなく流失していく。鬼の底なしの生命力で保ちこたえてはいるが、いずれそれが尽きれば息絶えるだろう。それでいて体にそれらしい負傷は見えない。つまり、手の施しようが無いというわけだ──常識的には。
(さすが、恐ろしい技ですね)
感心した表情のまま、しかしブラックは少しも動じない。アカネの体に手を翳し、自身の魔力を彼女の生命エネルギーに同調させる。原理としては治癒魔法に似ているが、悪魔の力の性質には向かない。どちらかといえば相手の命を侵襲するように、力と力を溶け合わせていく。
馴染んだ魔力を通じてブラックはアカネの生命力へ語りかけた。お前の主から離れるな、彼女の内へ止まれ、と。同時に傷ついたエネルギーの流れの修復を試みる。切断された所を塞ぎ、細かく刻まれてしまった部分は放棄して新しい路を繋ぐ。
リスクの低い作業ではない。僅かでも加減を誤れば、ブラックの魔力がアカネの脆くなった命を破壊してしまう。かといって
徒
いたずら
に時間をかければ、反動も負担も両者にとって大きくなっていく。困難な手当てを、ブラックは素早く的確に行った。無事に流れを正し終えると、アカネの内から自分の魔力の影響を引き上げる。ここが一番繊細なところだった。強制的に癒着させたものを剥がすのだから、どうかすると二人共が危険に晒される。
けれども全てを終えたとき、アカネの顔には血色が戻り、苦しげな表情は和らいでいた。長い睫毛が動いて瞼が上がる。もう数瞬早ければ、ブラックの方も自然に口元を綻ばせたのを見ることができただろうが、アカネの視線が合う頃には、悪魔はもういつもの本心の読めないニヤニヤ笑いを顔に貼り付けて彼女を見詰め返していた。
「ブラック
……
」
「アカネさん」
「勝って
…
くれたのか」
「ええ」
アカネの視線が、状況とはあべこべにブラックの全身を気遣わしげに確かめる。
「怪我は?」
「ありません」
「よかった
……
」
安堵して閉じられようとした美しい瞳。そこへ浮かんだ微かな誇りに水を差すように、黒い手がアカネの手首を掴んで意識を引き戻した。
「褒められたことではありませんよ。オレちゃんが多少の攻撃じゃやられないのは見ていたでしょう?なぜあんな無謀なことをしたんです」
静かな、しかし強い口調で問われてアカネは眉を寄せる。
「言ったろ、黒幕に勝って欲しかったから、あんたにはダメージの無い状態で戦って欲しかったんだ。
……
それに、やられなきゃいいってもんでもないし
…
」
「オレちゃんを信じてくれていたのか、無茶をして庇わなければ勝てないと思っていたのか、どっちなんです」
「万全を期すために自分に出来るかぎりのことをする。戦いの場で間違ってるか?」
意地悪く追撃したブラックを、アカネの厳かな口調が黙らせる。しかしその目はすぐ寂しげに移ろって逸らされてしまった。
「
……
迷惑だった?アタシ、足手まといだったかな
…
」
「そうは言ってないでしょう」
「勝敗は、もちろん大事だったよ。アンタやさとしやこの世界のみんな
……
他の主人公達の世界の行方までかかってたんだから。でも、それよりも
…
ブラックが目の前で傷つくのをあれ以上見たくなかった」
ブラックが続ける言葉を選んでいるうちに、アカネは再び目を閉じる。休ませてやるべきだと考えながら、もう一言だけ問いかけた。もしも〝次〟こんなことをされたら、そのときは引き戻せるとは限らないのだ。
「アナタより強いオレちゃんであっても?」
「強いとか弱いとか、関係ないだろ」
「友人だから?」
「誰でも。アタシの前で、理不尽に傷つけられるなんて
……
」
それきりアカネは答えず、やがて静かな寝息が聞こえてきた。戦場で勇猛果敢に剛力を振るっていた姿とは、あまりに落差のあるあどけない寝顔。
息遣いが安らかなことを確かめてから、ブラックは手首から離した指で乱れた髪を整え、静かに鬼の少女の耳元へ囁いた。
「アカネさんが例えば火事に巻き込まれた人間のような、無力な方を放っておけないことは分かっていましたよ。でも、まさかオレちゃんが守ってもらえるとは思っていなかったので。
……
ほんの少し、動揺しただけです」
外へ出るとカメラちゃんが待っていた。心配そうに「じーっ」と纏わりついて来るので、肩の上へ乗せて微笑みかける。
闘技場の下層は〝クリエイティブ〟との戦いの影響で損壊が激しかった。瓦礫を避けての散歩も億劫になり足を止める。これ以上撮影すべきものも見当たりそうになかった。
最強の悪魔であるブラックは大抵のことを容易に成し遂げられるが、だからといって消耗しないわけではない。熱いカフェインでも欲しい気分で崩れた壁の向こうに広がる異空間を眺めていると、背後から足音が聞こえてきた。
視界に入る端正な若い男の姿。旭川朝陽だ。他の主人公達と同じタイミングで自分の世界へ帰還したと思っていたが、残っていたか戻って来たかしたらしい。
「大丈夫なのか?あの鬼の女の子」
近くまで来た朝陽は少し決まり悪そうに尋ねた。ブラックは気さくに応じる。
「気になるなら手伝って下さっても良かったのに。ほんの少しだけ苦労しましたよ」
「めちゃくちゃ入りにくい雰囲気出してたのはお前だろ、医務室の前まで行ったんだぜ俺は」
言外に相手の技への賞賛を込めて語れば、すぐに会話が打ち解ける。そもそも殺し合いと共闘を続けて行ったばかりなのだ。お互い、距離を探る段階にはない。
「状況が状況だったとはいえ、俺の攻撃がお前の彼女に怪我させちまったのは悪かったと思ってる」
それにしても踏み込みの強い朝陽の言いようを、ブラックは魔界の王らしく鷹揚に許した。
「この俺があんなベタなラブシーンの引き立て役になるとはな。なかなか新鮮な体験だったぜ」
「なにか早とちりしてらっしゃいますね、そんなんじゃないですよ」
「照れるなって」
「本当に違うんです。アカネさんがオレちゃんを庇ったのはご本人が言っていた通り、オレちゃんがあの時点で一番マスターを倒せる可能性
……
正確に言えばその糸口を掴める可能性が高かったからですよ。朝陽さんにその力と意志があり、かつ危機的状況に陥っていたとしたらアカネさんはあなたの方を庇ったでしょう。オレちゃんをこの戦いから助け出すためにも」
「そんなもんかねぇ」
さすがに朝陽が神妙な顔をする。むやみに達観したような喋り方と、気取らずにいようとするあまり気障になってしまっている雰囲気の落差は、彼の本来の年齢を感じさせた。
「手当てしたとき少し話したんですが、よく分かりました」
「それでお前はここで黄昏てたってわけか。こりゃ話の持っていき方をまずったな」
異世界転生ライトノベルの主人公として幾多の物語ジャンルのあるあるを見続けてきた朝陽には、どうも他人同士の関係性やその先行きを決めつける傾向がある。勝手に〝失恋気分に浸っている男キャラその1〟にされてしまった。
しかしブラックにとってはそれが物珍しくて面白い。ちょうど目の前の朝陽と同じように。
「なのでオレちゃんに謝罪は不要です。どうしても気が咎めるならアカネさん本人に」
「俺が直接?いいのか、他の男と接点なんか作って」
転生勇者のハーレムぶりからすれば無理もない疑問なのかもしれない。意味だけ取れば思い上がりとしか取れない台詞には少しの嫌味もなく、巻き込まれ体質の彼はモテるが故のトラブルにも見舞われ続けてきたのだろうと察せられた。
アカネと会えばまず立つのは手合わせフラグだろうが、それ以外──あるいは以上──のルートもあり得るのだろうか?なかなかに興味をそそられる。
「カカカッ!」
思わず漏れた笑いをどう解釈したのか、朝陽も応じるように破顔した。転生者の戸惑いも、チート能力を得た者の重責も、いっとき、ほんのいっとき今だけは、忘れたような年相応の朗らかさで。
「惚れ直したんだろ?諦めるなよ」
相変わらず早合点の台詞を残して去っていく。別れ際、やや強引に押し付けられたものを見れば缶コーヒーだった。会場内のまだ動く自動販売機で買ったものだろうか。
BLACKと書かれていたのでありがたくプルタブを切り口をつける。思わぬ強い甘味が舌に乗り、缶を見返せば大きく〝加糖〟の文字があった。
「
……
調子狂いますね、色々と」
一人で干すには甘過ぎる缶を肩へ差し出す。カメラちゃんが意味深にレンズをきらめかせて笑っていた。
2024/01/12
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