昼間の屋上で馬鹿騒ぎが始まる。違う顔が同じような下卑た笑みを浮かべている。何が始まるのか、期待で一杯と言いたげな表情に無邪気ささえ感じる。楽しそうで何より、世界は今日も俺だけに残酷だ。もう説教してくる昔馴染みはそばにいない。敬人にとって俺はもう、説教するにも値しない存在でしかない。自分から手を放しておいてまだ諦めていないことに気づき嫌気が差す。これから起こる未来の予想図を頭の中で容易に描けるくらいには世間の俗物より優れた生を受けたこの身でも、実際に経験するまではわからないことだらけだ。簡単に切り捨てられると割り切っていた自分を笑い飛ばしたい。失ってから気がつくなんて陳腐な言葉、失う前から理解していたはずなのに、こんなにも息苦しいなんて知らなかった。
騒ぎを聞きつけたか、屋上以外にも人だかりができ始める。高い場所からグラウンドを見渡すと、見知った顔に惹きつけられる。不安そうに曇った顔のつむぎと、その隣には陽光を反射して煌めく金髪の痩身。アンバランスなコントラストを描く病的な顔色と、意志の強そうな表情。人だかりの中でも自然と目立っている。俺とは違って敬人の大事な幼なじみ、病弱な天祥院英智くん。こいつを巻き込んで一騒ぎ起こせば、流石に敬人も説教しに来るかもしれない。悪魔のような考えが頭を過ぎる。もう自分がどうなろうが興味は失せていた。どうせあとは退屈な人生を消費するだけなのだから、ここで終わらせるのも悪くない。ただ、心から悲しんでくれる人はいるのかが気がかりだった。俺がこの世界からいなくなったら、敬人はどう思うんだろうな。これはただの好奇心。過去の因縁も何もかも手放した俺に残された唯一の楽しみだ。
あのとき敬人が俺と心中を選ばなくて良かった。俺の甘言に惑わされるほど彼の精神は弱くなかった。だからこそ彼と一緒に世界から消えられたら……。そんな甘美な誘惑に抗えないほどに俺は弱っていた。敬人の隣にいるのが俺でなくて良かった。世界で初めて愛した魂を自らの手で壊すことでしか満足できない怪物になってしまったのだから。
肌を焼くような日差しに眩暈がする。ここには罪を償う為の十字架はまだ用意されていない。今すぐこの檻から解放されてしまいたい。馬鹿げた考えだ。冷静に客観視するもうひとりの自分が嘲笑う。うるさい。これ以上もう何も考えたくない。屋上の手すりを乗り越えてふらりと空を舞う。これで何も考えなくて済む。どれほど楽だろう。簡単なことだ。上手く考えがまとまらない。この一本の糸が切れれば、俺は救われるのだろうか。それともこの糸に必死に縋りつけばいいのだろうか。教えてくれよ、敬人。
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