執筆中サンプル1の続き。だいぶ長いお話になりそうなためまだまだ時間がかかりそうですが・・ストーリーは全て決まっているので頑張って書きあげたい!(と去年から言っている・・・・・)
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その後のゲスト歌手がもはやオマケになってしまうほど、黒羽快斗のショーを観た者はすべて、彼に心を持ってかれてしまった。
もちろん青子もその1人だった。歌手が何を歌ったか聞かれても思い出せない。出演者控え室に向かいながら、さっきのマジックをひとつひとつ思い返していた。
「これさー、すごい激戦になるわ
……」
あかねが意外にも冷静につぶやく。
「だなー。やめとけば黒羽は。あいつこれから輪をかけてモテるだろーしな」
山吹くんまでそんなことを言いだす。
「だけどさぁ、4人では遊びに行こ!?ワンチャンあるかもしれないし、それ以前にふつうに楽しそうだし」
あかねが栗色のボブヘアーを揺らしながら山吹くんの顔を覗き込むと、山吹くんは「わかったわかった」と言ってあかねの頭を軽く叩く。
4人でって、ダブルデートというやつなのかな
……などと考えているうちに控え室となっている教室前に着いた。
山吹くんがノックをしながら声を掛ける。
「おーい黒羽、いる?」
「どーぞー」
なんだかすこし緊張する。魔法使いが人間のふりをしているところに会いにいくような気持ち。なんて、誰かに言ったらバカにされそう。
山吹くんに続いて中に入ると、小さめの教室の一角に椅子を繋げてひとり寝転ぶ黒羽くんがいた。他のスタッフは撤収に出ているらしい。
青いシャツの襟元を開けて長い手足がだらんと伸ばしている姿は、魔法使いの正体というより着ぐるみの中の人を見てしまったようなそんな感覚だった。
「わり、ちょっと起きれねー」
「いーよそのままで!マジで凄かった。もうそれ以上言葉出てこねーほど」
男子2人が仲良く話しだしたところにあかねがひょこっと顔を出す。
「もう、さいっこうだった!さいっこうにカッコよかった」
青子も全く同じ気持ちなので2人の横でうんうんと頷く。黒羽くんは片腕をおでこに乗せたままこちらに視線を向けて満面の笑みをつくった。流れた汗が西日でキラリと光るのが綺麗だと思った。それに、やりきった人の晴れ晴れとしたその笑顔に、心がキュッと締まるような息苦しさを感じた。なんだか、その知らない感覚がすこし怖くて、すぐに目を逸らす。
「あーところで、お疲れのところわりーけど。どっかの土日が空いてたら遊びに行かねえか。あかねと、青子ちゃんも一緒に」
ちら、と山吹くんが青子の方を見た。『青子ちゃん』と呼ぶことにすこしだけ照れているように見えて、思わずふふ、と笑ってしまう。
それから黒羽くんの方を見ると視線が重なったけれど、それはほんの一瞬だった。
「来週日曜なら空いてっけど」
黒羽くんが山吹くんに言う。
いきなり話が決まりそうでちょっとびっくりした。山吹くんに「どう?」と確認され、青子もあかねも大丈夫、と答えた。
「オレも平気。そしたら来週な。今日はお疲れ」
山吹くんが拳を黒羽くんの方に向けると、黒羽くんもおでこに乗せていた腕を上げて拳を合わせた。すかさずあかねも「いぇーい」といいながら拳を突き合わせる。青子はどうしよう、と思っていたら黒羽くんとまた目が合ってしまった。彼から差し出された拳を同じようにコツンと合わせた。
胸がまたあの息苦しさを覚えた。なんだかこの感じ、イヤだ。青子はこの人に近づかない方が良い気がする。
「あ!黒羽、このあとは?打ち上げでもしねぇ?疲れてて無理か」
山吹くんのさらなる提案にあかねが行きたい!と追随する。でもなんとなく断られるんじゃないかな、と思っていたら彼がむくりと起き上がった。
「んー、腹減ったから行く」
青子の心の奥底で、静かな静かな声が、うれしいって告げる。それはきっと、みんなでご飯に行けるのが楽しいからで、それ以上の意味なんて無いはずで。
「青子もいけるよね?」とあかねに聞かれて、笑って頷いた。
「じゃ、オレら外で撤収でも手伝いながら待っとくわ」
そう言って教室を出る山吹くんとあかねに続いてドアの方へと体を向けてから、ふと気になったことがあり足を止めた。
あなたはなぜ、怪盗キッドを演じたの?
聞いてみたい気がする。
あのコソ泥のファンなのだろうか。お父さんが中森警部だと言ったら驚くかな。
もう一度、黒羽くんを振り返ると彼もまた青子を見ていた。その瞳を目にしたら、わざわざ聞いてどうする?だから何?という気持ちが湧き上がってきて結局、言葉にはならなかった。
無言のまま軽くお辞儀をして教室からすでに出て行った二人を追いかけようとした時だった。
「あんた、怪盗キッド嫌いだろ」
背後から衝撃的な問いを投げかけられた。
――は?何を急に言い出すのこの人!?
振り返って真意を確かめようとすると、ドアのほうから青子を呼ぶあかねの声が聞こえてきてブレーキがかかる。
「
……べつに」とだけ返事して、すぐに教室を後にした。
この日は結局、この話題がこれ以上出ることはなかった。
帰り支度を終えた黒羽くんと合流して入れそうな店を探すが、街は同じように打ち上げする学生であふれていた。すぐに座れそうな飲食店は見つかりそうにない。
「ね、うちのカラオケ屋なら入れてもらえるかも。食事もあるし。全部レンチンだけどね!」
あかねがそう言いながら電話をかけ始めた。バイト先のカラオケ屋に融通してもらうつもりらしい。結果はすぐにでた。電話口を塞ぎながらあかねが早口で「今から入れるって!」というと、3人で「おお〜!」と笑い合う。あかねの要領の良さは本当に感心ものだ。
最寄駅から歩いてすぐのところにそのカラオケ屋はあった。受付をするあかねに呼ばれて黒羽くんがプランを検討している。その後ろで山吹くんと青子はお喋りしていた。
「青子ちゃん何歌うのー?」
「んー、あんまりカラオケ来ないんだけど
……あ、今かかってる曲とか」
「えー、いいじゃん。デュエット曲は? なんか一緒に歌おうよ」
「わかるのあるかなぁ
……」
なんだか急に山吹くんの距離感が近くなっている気がする。それはエレベーターに乗り込む時にも感じた。他のグループも乗ってきたとき、山吹くんに肩を抱き寄せられた。狭いから仕方がなかったのかもしれないけれど、急にそうこられると気持ちがついていかない。
どうしよう。山吹くんのことは嫌いじゃない。けれど、急いで仲良くなるのは違う気がする。その考えの方が間違っているのだろうか。
部屋に入ると、自然に黒羽くんとあかねが並んで座り、テーブルを挟んだ向かいに青子と山吹くんが座った。あかねは嬉しそうに黒羽くんと曲を選んでいる。話す顔の距離が近くて、2人は両想いなのかな、と考えたらまたあの息苦しさに襲われた。ダメ、この感じは意識しちゃいけない。
「青子ちゃんの歌聴きたい。さっきのにする?」
もう一台のリモコンを操作しながら山吹くんが青子の方に肩を寄せた。
「あー、どうしようかな」
この距離がイヤなわけではないけれど、気持ちの迷いが顔に出てしまいそうで心配だ。下手でもいいから、とっとと歌って盛り上げた方がラクかもしれない。そう思って青子はすぐに曲を入れた。
「きたー! 青子の歌めっちゃかわいいよ。てかうまいよ」
あかねがそんなことを言うから、マイク越しに「やややめてー!」と叫ぶと男性陣が笑いながら応援してくれる。エイやと立って熱唱すると、思いのほか盛り上がってめちゃくちゃ楽しい気分になった。右、左とステップなんかも踏んじゃったりして。我ながらなんて単純。
それから黒羽くん、山吹くん、あかねの順に回ったけれどみんな上手い。採点機能をオンにしてバトルをしてみたり、想像以上にカラオケ大会は盛りあがってしまった。
こんな感じで仲良くするだけなら、すごくいいのに
……とずっと考えていた。
「あ、電話だ! ごめん外出るね」
あかねが着信中のスマホを耳に当てながら出て行くと、ちょうど予約していた曲が一旦なくなった。そのタイミングで黒羽くんも「トイレ」と言って部屋を出た。
いきなり2人きりになってしまったことに、少し居心地の悪さを感じる。もし青子が山吹くんのことを好きなら、この状況を嬉しいって思うのだろうか。思えないのなら、やっぱりまだ恋愛からは遠いのかな
……。そんなことを思っていると、山吹くんの手が、ソファに置かれた青子の手に重なった。暖かいその感触は、優しくて、悪意は感じない。けれど、気持ちは怯んでしまう。
「青子ちゃんの手、ちっちぇー」
「や、山吹くんの手がおっきいんだよ」
「
……なんかさ、あかねと黒羽もうまくいきそうだよな」
「
……そうだね
……」
「このまま帰ってこなかったりして」
「え!?」
それは困る!このまま2人にされたらどうしていいかわからないから全力で困る!! そう思って目を丸くすると、山吹くんは笑いながら「冗談だよ」と言った。あー、ですよね
……。
重ねただけだった手が、きゅっと握られ、山吹くんの太ももの上に乗せられた。これにはさすがに戸惑って手を引っ込めようとした瞬間、ガチャリとドアが開いた。
黒羽くんの視線が握られた手に向けられる。青子は何も言葉が出てこない。黒羽くんが顔色を変えずに笑い混じりに言った。
「いちゃつくなら2人のときやれよ」
「戻ってくんのはぇーよ黒羽」
「小便にそんな時間かかるかっつーの」
山吹くんはまだ青子の手を離さない。黒羽くんには見られたくない気持ちがあるけれど、振りほどくのも失礼な気がして何もできない。どうすればいいかわからない。
「つーかさ、このあと別々にならねぇ?」
山吹くんがとんでもないことを言い出す。これ以上、一緒にいても青子は山吹くんのペースについていけそうにない。黒羽くんが断ってくれるとこを祈ったけれど。
「べつに、構わねーけど」
そんな返事をされてしまった。
他人任せじゃダメなんだ。
ちゃんと自分で意思表示しなきゃ、流されてしまう。
意を決して口を開いた。
「あの、ごめん! このあとはわたし、帰らないと
……お父さんが
……」
なんとなく、お父さんという言葉を出せば大丈夫な気がした、その読みは当たった。
「あ、だよね。遅くなっちゃうもんね」
山吹くんはあっさり引き下がった。
そこであかねが戻ってきたので、黒羽くんがお開きにすると伝えてくれた。あかねは不服そうだったけれど、山吹くんに窘められて不承不承店を出た。
それから幼馴染組の2人は同じ電車に乗って帰っていった。青子と黒羽くんは反対のホームでそれを見送った。
ほどなくして到着した電車のシートに黒羽くんと並んで腰掛ける。急に、しかも初めて2人きりになってしまった。何を喋ろうか
……キッドが嫌いかどうかの話をすべきだろうか、などと思案していると、先に黒羽くんが口を開いた。
「山吹、めっちゃいい奴なんだよ」
急に何を言い出すのだろう。
「うん、知ってる」
親友賛美かな?と思ってそう返すと、ワザとらしく溜息を吐かれた。
「思わせぶりな態度やめてくんねぇ? あいつはけっこう頑張ってるみたいだけど、あんた全然だろ」
どん、と胸を突かれる思いがした。
青子はべつに思わせぶりな態度なんてしてるつもりないのに。
この人、結構むかつく人かもしれない。性格悪いかもしれない!
反抗心から思わず聞いてしまった。
「そういう黒羽くんもあかねのことどう思ってるの」
「
……ふつーに可愛いし。あと一押しかな」
淀みなく吐き出された言葉に動揺してしまう。それが彼に伝わっていないことを祈りながら、必死に次の言葉を探した。
「なら、良かった。傷つけないでね」
幸いにもここで電車が到着した。
「じゃぁ、今日はお疲れ様」
「おう」
短い挨拶を交わして電車を降りた。振り返らずに階段を上って、改札を出たところで深呼吸をした。そうでなければ、これまでにないほどの胸の締め付けで息ができなくなりそうだったから。
はじめての気持ち。でもまだ知りたくない。
だって、彼は
――友達の想い人だから。
「なん
……で
……」
ふいにこみ上げてくるものを慌てて喉の奥に押し込めて、まっすぐ歩き始めた。
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以上、サンプルでした。
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