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ふるさと さくら
2024-01-15 23:30:32
7776文字
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C0Aオルフレ🧐🎹(フレオル🎹🧐要素あり)
あとでオルフレのエッチュエッチュになる予定です。フレオルの🎹とオルフレの🎹は別人ですが、🧐は同一人物なのであしからず。フレオルの🎹は故人です。
オルフレの🎹の腕がもげたり二人が戦ったりしても平気なくらいなんでも許せる人向けです
文明など、とうに滅びた過去の栄光だ。
そう呟いた誰かの声で目を覚ます。覚醒した世界に浮かぶのは、おびただしい菌糸の末端たち。赤黒く蠢く地表、そして
……
孔のように座す、私の主。
聞こえる────あの方の声が。
私が生まれた理由を告げる、静寂に揺れるあの方のお言葉が聞こえる。あの方、と表現するのが果たして正しいのかは分からない。あれは言うなれば災厄。意思など持たぬ、ただそこに在り続ける畏怖すべき大いなるもの。敢えて文明を築いた人間たちの言葉を借りるのならば、神とでも言うべきなのだろうか。
ともすれば、その災厄に付き従う私は『神の使徒』とでも名乗るべきなのかもしれない。ただし、その機会は永遠に訪れないだろう。恐らくそうやって対話すべき生命は、私という存在を認識する前にあの方の中に溶けて消えてしまうから。
なにせ分かってしまうのだ。かくいう私の器の原型さえも、そうやって主に飲み込まれたと『記憶』している。
……
ひとりきりの思考はここまでにしよう。あの方は思った以上に私を急かす性分らしい。さっさと新たな人類を取り込んで来いと、今もなお重厚なるコーラスが身の内に響いている。
「主よ」
目の内側、耳の内面、喉の最深部にまで蔓延っていた触手たちが退いていく。血の海のように満ち足りた水面から起き上がれば、初めて見る世界がそこには広がっていた。
菌糸の平原。地下深い、我々の根城。君臨せし我が主の姿を私は刮目し
……
擬態の飾りたる口元の覆いを解き、悠々と微笑んでみせた。
「お任せください。必ずや、あなたの礎を連れ帰ってみせましょう」
────今宵、新人類の住まう世界で新たな生命が誕生した。
その存在意義は、旧人類を招くための疑似餌。過去の幻影を生き写した冒涜の偽物であるそれは、文明を築いた旧人類からしてみればあまりに不気味でおぞましい。それなのに、沼の底から湧き出た支配者の落とし子は皮肉にも、美しい造形でできていた。
銀世界を切り取ったような髪を流し、宇宙に輝く星を見つめたような瞳で、化け物は泉を離れていく。旧人類の男性を模したそれは、意味を為さないガスマスクを口元に嵌めながら土を踏みしめた。彼と呼ぶべき性別を得た化け物は、愛おしそうに周囲を漂う触手たちを撫でていた。まるでそれらが兄弟だと言わんばかりの仕草を取りつつ、彼はこれからやって来る来訪者に対して名乗るべき名前を頭の中で反芻していた。
これより自分が名乗るべき名は、フレデリック・クレイバーグであるのだと。
洞窟を進む足音がひとつ。この大穴にやって来る人間は幾人もいたが、単身で乗り込んでくる人物はいなかったらしい。物珍しい訪問客だと思いつつ、フレデリックと名乗ることにした化け物は地上の光を背後に受ける人影に、朗々と呼びかけた。
「あぁ
……
まさか、また会えるなんて思ってもみませんでした」
口をついて出るのはもちろん虚偽だ。道の先にいる人物と、フレデリックは面識がない。会ったこともないのにそうやって嘘をつくのは、餌としての役目を果たすため。あの逆光の中で足を止めた哀れな人類が、この身を形作った『フレデリック』という人物を渇望しているからに過ぎない。
何も言わずに立ち止まったまま動かない人間をもっと誘い込むために、フレデリックは自ら地上への道に近づいた。そうすることで災厄の主との距離が開かれることに関しては、少しばかり心細さを抱かなくもない。だが、狩りには駆け引きが必要不可欠なのだ。あの人間を菌糸の海に連れ帰るには、多少の危険も許容しなくてはならない。
あの人間の名前は知っている。『フレデリック』が残した記憶に、きちんと書いてあった。だからそれも、余すことなく使ってやろう。
「オルフェウスさん。ずっと、ずっと会いたかった」
地上より降り注ぐ淡い陽光が陰っていく。人間が手にした懐中電灯が地面に転がれば、強烈な光を失った洞窟内は、ヒカリゴケのように輝く夜の明かりで満たされた。フレデリックと同じ星の紋章を胸に刻んだ調査員風の男────オルフェウスと呼ばれた青年が、じっとフレデリックのことを見つめているのが分かった。
その深淵よりもすさまじい暗黒の瞳を見た瞬間。どうしてか、怖気づいた態度を見せてしまったのはなぜかフレデリックの方だった。
「
……
ッ」
何だ。この男は。なぜ、私を視認してもなお正気でいられるのだ。
これを我が主に焚べることが本当に正しいのか、と思うほどに衝撃的な出来事だった。主の力は絶大のはずだ。ただの人間が、あの冒涜と幻想に満ちた力に敵うはずがないのに。それなのにどうして目の前にいる男は、今もなお意志ある視線で、私のことを睨みつけてくるのだろう。
それでも、とフレデリックは言葉を紡ぐ。これは私に与えられた使命だ。穴に吸い寄せられた旧人類を絡め捕り、大いなる主に貢ぐことこそが与えられた役目。それを果たせないのであれば、私に存在する意義など
……
「どうしたのですか、オルフェウスさん。そんなに思いつめた顔をして
……
ようやく私と会えたというのに、随分つらそうだ。あぁ、奥に。奥に私の小隊の仲間たちがまだ取り残されているんです。一緒に助けてくれませんか」
対話ができる状態ならば、偽りの懇願で引き込むしかない。フレデリックは未曾有の事態に陥る中で何とか打開策を編み出したが、それでもオルフェウスの鉄のような視線が揺らぐことはなかった。フレデリックのものとは違うペストマスクを模した防護装置は、さも不気味にこちらにくちばしを向けるばかりだ。
どうして。焦りがフレデリックの中によぎる。人間、オルフェウス。お前はこの男を求めてここへやって来たのではなかったのか。なぜ私を恨めしそうに見つめているのだ。その感情は、一体何だ。
「オル────」
三度目の呼びかけを紡ぐ間際のことだった。フレデリックの言葉は、最後まで奏でられることはなかった。どうしてそうなってしまったのか、最初はフレデリックにも分からなかった。だが遅れて感知した衝撃と爆発音が、オルフェウスが放った凶弾の存在を否応なしに知らしめていく。
「
………
」
岩壁にぶち当たった白い袖は、真っ赤な花を咲かせはしない。ちぎれて落ちたフレデリックの左腕は、ずるずると壁面より這い出した触手の群れにたちまち喰らわれる。そしてあるべき場所に還るのだと言わんばかりに、跡形もなく姿を消した。
対して、四肢の一片を吹き飛ばされたフレデリックの表情は驚愕に染まりきっていた。痛みに喘いで苦悶するというよりも、自身の状態が受け入れられないかのような動揺に支配され、フレデリックの冷静さはたちまち霞と化す。何せあり得ないのだ、こんなことは。
(腕が、再生しない)
欠損した瞬間には生え変わるはずの部位が、全く復活する気配がない。まるで毒素を注入されたかのように、じくじくと痛む破壊箇所が故障を叫び続けている。彼ら人類とは違う造りをしているがゆえに死には直結しないが、それでも味わうはずのない痛みは確実にフレデリックを形作る菌糸の糸束を苛んでいた。
「な、何をした」
思わず演じることすらやめてしまうほどの衝撃だった。狼狽しながら問いかけるフレデリックに対し、オルフェウスは冷ややかな視線のまま手にした銃器をひと撫でする。
「菌糸の化け物め。我々人類が、進歩しないままこんなところまでやって来るはずがないだろう。そんなことも分からないのか」
カツン、とオルフェウスの防護ブーツが靴音を鳴らす。まるで死刑宣告の鐘のように響き渡ったそれを聞いたことで、フレデリックはようやく自分が抱き続けている感情の正体を思い知った。
……
この私が、人間ひとりに恐れを抱いているだと?
何を躊躇うことがある。私には、あの偉大なる災厄の主がついているのだ。実力なら負けない。治癒が遅いくらいで、怖がる必要などないはずだ。だから、だから
……
「戦いは無益ですよ。あなたが本当にクレイバーグさんなら、今の一撃が致命傷足り得ることも瞬時に理解できたはず。私に向かうだけ野暮というものです」
そんなことは、分かっている。そう言いたい口を必死に噤みながら、フレデリックは敵意を滲ませ始めた兄弟たちと共に拳を握りしめた。しかし、しかしだ。たとえ分かっていようとも、為さなければならない使命というものがあるのだ。目の前の男が得体の知れぬ人物であろうとも、災厄の主が『こうあれ』と望んだ最大の武器を私は与えられている。それを駆使すればあんな男、造作もない。そう信じなければ
……
この震え出しそうな膝の慄きは止められない。
「菌糸研究
……
戚十一の残した研究成果ですよ。彼女はきっと、自らがいずれ避難所の外で帰らぬ人となることを悟っていたのでしょう。だから我らがミスカトニック避難所に人類の希望を残してくれた。この薬剤は彼女の研究成果に私の知識を書き加えたもの。この大穴で生まれたあなたのような化け物には分からないかもしれませんが
……
もはや我々は、あなたたち菌糸類に平伏するばかりの弱者ではない、ということです」
「
……
だから?」
だから何だというのかと、フレデリックは敢えて問いかけた。
「大層なご研究の成果を披露してくださったことには感謝せねばいけないのでしょうが。こちらも旧人類のデータを回収することに成功したのと同じです。先程腕を触手たちに飲ませたでしょう? 私の被弾は我が主にも確かに感知されている。ほら、見てください」
得体の知れない粘液を切断部から吐き出し続けていたフレデリックは、おもむろにその腕を掲げた。よく見ろ、お前の英雄的行為の無意味さを。そう言わんばかりに微笑むだけで、オルフェウスの目に対して強制的に徒労を焼き付ける。
虫のように絡みつく触手たち。彼らはフレデリックの傷跡を恭しく包み込み、きつく締め上げるように怪我の痕跡を結んでいく。目を背けたくなるような荒療治に、常人であれば発狂の片鱗も見せるのかもしれないが、恐ろしいことにオルフェウスはその光景を見てもなお眉の一本も動かすことはしなかった。
「う
……
ッ」
一方のフレデリックは、余裕綽々というわけにもいかず呻き声を上げている。主の『治療』は思ったよりも荒っぽいものだったのだ。ただし青ざめたまま主からの施しを受けることに耐え忍んでいれば、すぐに回復の兆しはやって来た。触手たちが剥がれていった腕の先には、もう既に指先まで完璧に再現されたフレデリックの肉体が存在している。
「
……
我々はあなたたち旧人類とは違う。この強靭な生命力こそが、次代の地球を統べるに相応しい生命の象徴。さぁ、何度やっても同じことですよ。その薬品入りの武器が尽きる方が、きっと私が息絶えるよりも早い」
嘲笑えば、同胞たちも同じようにオルフェウスに向かって咆哮するように身をしならせた。そうだ、この男はここで仕留めてしまった方がいい。幻覚で誘い込むことができないのであれば、無理やりにでも生け捕りにしてしまえばいい。幸いにして多勢に無勢だ。オルフェウスには勝ち目などない。
だが
……
どうしても、あの目だけはどうにも恐ろしい。捕らえる時は、あのカラスのような両目を潰してから引きずり込もう。そう思っていた矢先だった。
「あなたはふたつ、勘違いをしている」
冷徹なオルフェウスの声が洞窟に反響した。何を、と言いかけたフレデリックを制し、オルフェウスは場を支配するかの如く言葉を紡いでいく。
「ひとつは、私がここに来たのは何も菌糸病の根源を断つためではないということ」
オルフェウスが向ける銃口が、とある一点に狙いを定めた。その瞬間、フレデリックの背筋に悪寒が走る。「まずい」という危機感が信号を発して触手たちに指令を下すべく走り出したが、最初から意を決していたオルフェウスと狼狽するフレデリックとでは、判断の早さでそもそも勝負がついている。
ようやく恐怖の色を浮かべたフレデリックには一切の同情を見せないまま、オルフェウスは邂逅以降最も感情的な声で、菌糸の使徒が佇む足元へ、閃光を放った。
「ふたつめは────私の知るクレイバーグさんは、私のことを名前で呼んでくれたことなんて一度もない、ということだ
……
!」
言葉尻と共に弾ける爆発音。周囲の菌糸たちはたちまち恐れをなし、すごすごと壁面や地中に帰っていく。煙塗れになった洞窟内は、マスクがなければ呼吸をするのもままならないだろう。
発砲の間際、目を瞑っていたおかげでただひとり卒倒せずに済んだオルフェウスは、やや疲れた表情でモノクルを外した。靄は未だ晴れず、周囲の状況は赤外線を駆使したレンズでも見通すことができない。
「
……
やはり閃光弾は地中生物に効くようだな」
あのおぞましい菌糸類らが再び襲い掛かってくる様子がないところを見るに、しばらくは安全だと見ても良いのかもしれない。
薬品の実用実験は成功と見ても良いだろう。今回の収穫はこれでいい。
ただ────
「やはり、あなたは新世界とやらに吞まれてしまっていたか
……
」
ゆっくりと、踏みしめるように歩みを進めるオルフェウス。その先には、迎撃によりひっくり返った化け物が静かに横たわっていた。意識は途切れていないようだが、あまりの衝撃に起き上がることもままならないらしい。まるで仰向けになった昆虫のように無様な姿だったが、それも致し方ないのだろう。なぜなら
……
「やめろ。く、来るな。近寄る、な
……
」
見知った人物の顔で、化け物は怯えた声を上げている。自らが置かれた状況を、今更になって把握し始めたらしい。羽をもがれた蝶のような出で立ちに、オルフェウスは胸の焼けるような気分になった。
「まさか『親』の声が聞こえなくなって驚きましたか? そうでしょうね。あなたはもう、同胞の声を聴くことも、素晴らしい狂気の世界に戻ることもできない。私の目的は『あなた方菌糸類の末端端末を、根源と切り離すことができるのかどうか』を知ること。それを狙って成功するかどうかの実験を果たすのが望みだったのですから」
「私を、どうするつもりだ。もはや、主の声も聞こえない
……
助けを求めても元の形に再生することはできないだろう。さぁ、どうする人間よ。お前が求めた者を模した私を、復讐ゆえに殺してみせるか」
化け物の声色は、発言に対して震えていた。死の恐怖を目前にして、取り繕う余裕もなくなったのだろう。あからさまな偽物感に、オルフェウスの腹の奥は憤怒に猛る感覚を強いられた。
長く、オルフェウスが息を吐き出す。彼は横たわった化け物の側にしゃがみ、腰元からサバイバルナイフを取り出した。この鋭利な殺意で一思いに貫けば、このくだらない幻影を壊すことができる。
「
………
」
化け物も、オルフェウスの選択を理解したようだった。心臓が脈打つ位置に切っ先を突きつけられてもなお、純白の怪物は薄らと微笑んだままオルフェウスの手を見つめ続けている。
「殺してください」
化け物の声に、オルフェウスの呼吸が止まった。
目を見開いて菌糸でできた男を見やれば、少し苦しげな顔が口をたどたどしく動かしていた。
「私は、あなたを深淵に引きずり込むためだけに生み出された、過去を写しただけの存在だ。主の指令が果たせなくなり、還ることもままならなくなった今
……
もはや存在する意味などない。こんな場所でずっと横たわっているだけなら、今あなたに殺される方がよっぽどいい」
さぁ、と化け物の手が手袋越しにオルフェウスの指に添えられた。
「分かりますよ。彼の記憶も性格も、価値観すらも主に与えられたのだから
……
今思えば、私は模倣するにはとことん未熟でしたね。彼は、最期まであなたの愛に気づいていなかったのだから」
「
……
分かったような口をきくな」
剣先が揺れている。化け物は頭上を見上げて、はっと息を飲んでしまった。なぜならそこには先の冷静沈着な姿など皆無に等しいオルフェウスが、音もなく頬を濡らす姿があったのだから。
「偽物が、彼を語るな。こんなところまで、一縷の望みをかけて、私を愛してなどいない人を探しに来たなんて
……
よりにもよって、お前のような偽物に知られるなんて、思わなかった」
「では
……
殺しますか」
この私を。あなたの内に抱えた秘密を、無遠慮に踏み荒らした私という偽物の怪物を。言いながら、白い素手がオルフェウスを殺害に導こうと力を込める。
元より怪物は、主の期待に応えられず失敗したのなら、すぐにでも死んでしまいたいと考えていた。それがこの身に焼き付いた、思い出の人物であるのなら
……
それもまた僥倖だろうとさえ思っていたし、オルフェウスもそうやって過去と決別する道を選ぶものだと予想していた。
だから、まさかそうなるなんて。化け物もといフレデリックは、一切の考慮をしていなかったのである。
「オルフェウス?
……
あ、うッ!?」
身に走った痛みは、刺し傷ではなく腹部の殴打による鈍痛だった。体重を込めた拳の一手は息も絶え絶えだったフレデリックの意識を瞬く間に削ぎ落す。小さな悲鳴と共に今度こそ意識を手放した男を見下ろし、オルフェウスはゆっくりとその胴に腕を差し入れていく。
「我がミスカトニック避難所の、偉大なる外界探索の先駆者。その忘れ形見を、手放すわけにはいきませんから
……
ね」
ふと、ピピッという音がオルフェウスの耳に届く。それは本拠地たる避難所からの生存確認だった。孤独な調査員は、ヘッドホンのように大きな通信機器を耳元で起動した。そして美しい生命体を優しく抱き上げながら、本部の要請に応じた。
「はい。データは先程の通りです
……
ただし未知の生命体との戦闘接触があり、既存のままでは確実な対抗手段となり得ない可能性も
……
はい、はい。あぁ、それともう一つ報告が。あ、上に出るので少しお待ちを」
カツ、カツ、と大穴の降り口で立ち止まるオルフェウス。かつての先人はロープ伝いに降りたようだが、今は幾度と繰り返された探索成果により簡素なエレベーターが備え付けられるまでに至っている。彼は上昇の指示を機械に命じて乗り込むなり、すぐさま地上への帰還を果たした。
ノイズ混じりの音声が程なくして息を吹き返した。再び聞こえ始めた本部の声に、オルフェウスは歩きながら報告を続けた。
「生存者を一名発見しました。えぇ、あの大穴でね
……
奇跡でしょう? 私もそう思います。生存者の名前、お聞きになられますか。プリニウス夫人」
オルフェウスを単身ここまで連れてきた乗用車のエンジンをかけつつ、くったりと力を失った菌糸の落とし子を後部座席に座らせる。サイドブレーキを引きながら、元脚本家の男はまるで台本を読み上げるかのように通信相手へと語りかけた。
「フレデリック・クレイバーグ。えぇ
……
我々人類の偉大なる英雄です。バイタルは正常値、感染確認にも問題ありませんでした。拠点に連れ帰ってもよろしいですね?
……
はい。口裏合わせのご協力、感謝しますよ」
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