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いまち
2023-10-22 01:17:23
7239文字
Public
ぴよねじ
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ティナと仲間はずれのマジフト大会
いつものように授業を受けて、いつものように放課後を迎えて、いつものように教室を出て、いつもと違う馴染みのない階段を上った。
なんでも、学園長さんからとっても大事なお話があるらしい。だから、放課後に学園長さんのお部屋まで行くようトレイン先生に言われていた。
どういうお話かは聞いてないから、ちょっと心配かも。なんせ、ここ最近は怒られることばっかりだったんだもん。
また私が知らなかったことで怒られるのかな? そう思う反面、カボックへの帰り方が分かったのかも、って期待もちょっぴりあった。
ドキドキしながら階段を上がりきった先には「学園長室」と、それはそれは立派なプレートのついた、大げさなくらい大きなドアがあった。
なにを言われるんだろうとドキドキする胸を押さえて、ちょっとだけ深呼吸して息を整える。
「よし」
怖いことじゃありませんようにとお祈りしながら、真っ黒い扉をノックする。
「どうぞ、お入りください。鍵は開いてますよ」
すると、ややあって学園長さんの声が聞こえてきた。なんとなく、怒ってるような感じじゃなくてちょっぴり安心した。
「えと、失礼します」
ドアを開けると、何枚もの絵が飾られて、教壇よりもずっと重たい雰囲気の机がある、ちょっぴり怖い感じのお部屋だった。
机の側には学園長さんとトレイン先生が立っていて、入ってきた私をじっと見ていた。
ユウくんがいないってことは帰り方の話じゃないのかも? それに、クルーウェル先生やイデアさんらしい人もいないし、道具の話でもなさそう。
なら、なんの話だろ? 不思議に思いながら二人に近付いた。
「お邪魔します。あの、お話があると伺いました」
「あぁ、ご足労いただきありがとうございます」
相変わらずアヤシイ格好の学園長さんはそう言ってにっこり笑った。
……
と、思う。仮面をしてるから表情はよく分からないけど。
「では、さっそくお話させていただきますね」
コホン、と咳払いをして学園長さんは机にフロシキのような布包みを乗せた。形からして柔らくて平べったいもののようだから、間違いなく預けていた道具じゃない。
「今月末の寮対抗マジカルシフト大会の話はご存知でしょう?」
「えと、はい。伺ってます」
今朝のホームルームでトレイン先生がそんな話をしていた。その話をした時、教室じゅうの子が大騒ぎしていたのも覚えている。なんのことか全然分からないけど、ひとまず頷いた。
「よろしい。えぇ、えぇ、それでですね、当日貴女はどうしたいか伺おうと思いましてねぇ」
「えぇと
……
?」
学園長さんが何を言わんとしているのか分からなかった。そもそも寮対抗? マジカルシフト大会がなんなのかも分からない。マジカルシフトは部活案内でちらっと見た覚えはあるし、寮が絡むんだろうなーってのはなんとなく、想像つく。
けど、詳しいことはなにも分からなかった。そんなところに質問されても分からないに分からないが上乗せされるだけ。
「あのぅ、そもそも『マジカルシフトたいかい』? ってなんなんですか?」
「
……
あぁ、そこからですか」
「えぅ、ゴメンナサイ
……
」
「いえいえ、いいんです。ではご説明しましょう、私、優しいので」
「はい、お願いします」
頷くと、学園長さんはにっこり笑ってカギのような形をした杖をひと振りした。すると、机の上に部活案内に載っていたものと似た雰囲気の絵が現れた。運動着姿の男の子たちがホウキに乗って魔法を使っている様子だ。
「マジカルシフトはご存知でしょうか?」
「えと、名前だけなら」
「うぅん。そうですか
……
では、一からご説明しましょう。私、とーっても優しいので」
学園長さんの説明によると、マジカルシフトはフィールド上の格闘技なんて言われるようなスポーツ? で、ここツイステッドワンダーランドでも人気のある種目だそう。
……
格闘技ってことは戦いだよね? よく分からなくても物騒な感じがして少し怖いかも。
説明しながら学園長さんがまた杖を振ると、机の上の絵が変わった。今度は濃い緑色の背景に白い線の簡単な感じの絵だ。
「まず、ひとチーム7人で構成されるのですが
……
」
学園長さんの説明に合わせて、小さなお人形の絵が7体現れ、机の上をぴょんぴょん跳ねはじめた。学園長さんの説明に合わせてお人形が動くものだから、なにをするのかとっても分かりやすいかも。
学園長さんの説明によれば、マジカルシフトは7人でチームを組んで、光る円盤を取り合って、相手のゴール? に入れて入る点を競い合うものらしい。
激しい魔法のやりとりをするから、ケガをしないこともない。けど、決まったルールの上で行うものだから、そんなに危ないこともない、らしい。
「なるほど
……
」
「お分かりいただけましたか?」
「はい! ありがとうございます!」
「よろしい。では今度開催するマジカルシフト大会についでですが」
学園長さんが杖を振って、机の上の絵が消えた。代わりに「ナイトレイブンカレッジ寮対抗マジカルシフト大会」と書かれた大きなポスターが乗せられた。
「ここ賢者の島で行われる行事の中でも、特に人気のあるものでしてねぇ」
ちょっぴり自慢げな様子の学園長さんの説明によると、ナイトレイブンカレッジでは10月の末に寮同士でマジカルシフトで戦って、順位をつけるらしい。それをまる1日かけて行なう、それはそれはたいそうな行事なのだそうだ。
……
寮同士ってことは、寮が違うリドルさんやルークさんたちとも戦うってことなのかな?
お友達や知り合いと戦うのってイヤかも。もやもやしながら聞いていると学園長さんは続けた。
寮対抗マジカルシフト大会がある日は学園の外、さらにはよその国からたくさんのお客さんを呼ぶのだそうだ。そのため、私が生徒として学園内をウロウロしていると、とーっても困る、らしい。
そりゃあそうだよね。ここ、男の人しかいない学校だもん。よその人に見られたら「なんで女がいるんだー!」ってなっちゃうのは簡単に想像できる。
「
……
と、いうわけでして、貴女には当日、どうされるのか考えていただきたいんですねぇ」
そういうわけだから、大会の日は寮に篭っているか、お客さんのフリをして大会を見るか選んでほしいのだそう。お話をする学園長さんの隣でトレイン先生は険しい顔をしていた。
「女性だからといって生徒を除け者にするのはどうかと思いますがね」
「うっ。まぁ、どうしてもとおっしゃるのであれば、性転換薬で参加させることもできますがね。まぁ、キースリンクさんが出場できるかどうかはわかりませんけど」
「そういう意味ではないのだが」
学園長さんの横でトレイン先生はやれやれとこめかみを押さえている。
仲間はずれみたいなのは寂しいかもだけど、ケガするようなことはしたくないし、争いごとは怖いもん。そういう意味では出なくていいって言われてほっとした。
「えと、なんか怖いので出るのはちょっと
……
」
かぶりを振って断ると、学園長さんは露骨にほっとしたように口元を緩めた。
「あぁ、あぁ、そうですか。そうですよねぇ、うら若き女性があんな野蛮、いえ、危険な種目に出場するなんてあってはいけませんからね。あ、別に病院に連れて行かなければならないような大ケガをされたら面倒とかではありませんよ? 嫁入り前の娘さんの身を案じてなので。えぇ、えぇ、私、優しいので」
「はぁ
……
?」
「学園長
……
」
急に早口で喋りだした学園長さんにトレイン先生は大きなため息をついた。
学園長さんはほっとしたような顔をしてるから、断ってよかったんだよね? トレイン先生の反応を見ると、これでいいのかアヤシイかもだけど。
「
……
まぁ、学園長の言い方はともかく、危険が伴う種目には違いない。私としても、君のような女性にケガをさせるのは本意ではないからな、断ってくれて安心した」
「えぇと、ケガするよりは治す方がいいですねぇ」
ちゃんとは分かってないけど、ケガをするような危ないことなら、しなくていいならしたくないもんね。
とりあえずで頷くと、先生の眉間のシワが少し深くなった。怒られる気配を感じて、ちょっとドキッとする。
「勝手な治療はいけないと教えただろう? クルーウェル先生の調査の結果を待ちなさい」
「え、と、大丈夫です! わかってますので」
「ならよろしい」
トレイン先生は頷くと、ようやく表情を和らげた。けど、学園長さんは不思議そうに首をかしげている。
「えぇと、なんのお話でしょう」
「彼女が異世界から持ち込んだ道具を使わないよう言っていたでしょう」
「え、初耳なんですけど」
「
……
。後ほどクルーウェル先生から伺ってください」
「はぁ
……
?」
不思議そうに首をかしげる学園長さんにトレイン先生は「とにかく」と話を切って、私の方を向いた。
「出場しないのであればどうするかね? 寮で待機するか、客として見学をするか」
「えーっと
……
」
危ないこととなると、見るのもちょっぴり怖い気もする。けど、知らないことをそのままにするのもなんとなく、よくない気がする。
まる一日時間があるなら、お勉強やカボックに帰る研究をすればいいんだろうけど、一人で、となると寂しい気がしなくもない。
答えに迷っていると、トレイン先生はちょっぴり笑ってかぶりを振った。
「急ぎの用事がないのであれば見学しなさい」
「え、と」
「当日は出店も出ていてちょっとした祭りのようになるんだ」
「おまつり、ですか」
「あぁ。そこで息抜きをするのもいいんじゃないか?」
私の知ってるおまつりは神様やマナにお祈りすることだ。それがお店や息抜きとどう関係するんだろ?
そう思ったけど、異世界のおまつりは違うのかも。
わからないけど、トレイン先生からは楽しいことを勧めるような雰囲気があるから、頷いた方がいい気がする。ちょっと気になるもんね。
……
逆に、学園長さんからはちょっとだけ、ほんのちょっとだけイヤがる気配を感じる。どうしよう。
「むむ
……
」
「開会式まで代表選手以外の生徒たちには自由行動をさせている。その間、クドウたちと楽しむといいのではないかね」
「ユウくんたちと、ですか?」
「仲がいいと聞いていたが」
「はい! お友達です!」
「なら、見学してはどうだね?」
「えと、そうします!」
やっぱり分からないけど、ユウくんたちと楽しいことをするならいいのかも。試合が怖かったら見ないで耳を塞いじゃえばいいもんね。
そう思って頷くと、トレイン先生もにっこり笑って頷いた。
「よろしい。では後日、当日着る服と少額だが小遣いを支給しよう」
「え? あの、お洋服もお小遣いもありますよ?」
「そうは言うが、さすがに制服や寮服でうろつかれては困るのでね」
「えと、元々着てたお洋服があるので!」
制服とかを着ちゃいけないのはなんとなく分かる。だからってそれだけのためにわざわざお洋服を用意してもらうのは気が引けた。そもそも服は持ってるんだから、もらわなくてもいいもんね。
そう思っていると、トレイン先生は困ったように眉間に皺を寄せた。
「すまないが、君のいた世界とここでは服飾事情は異なる。それと、小遣いも受け取りなさい」
「えぅ、でも、ここに来た時にいただいたのがまだ残ってるので」
働かないで家族でもない人からお小遣いをもらうのはよくないと思う。
そう思っておもいっきりかぶりを振ると、トレイン先生は大きなため息をついた。
「ではこうしよう。キースリンク」
「はい
……
」
「先日、オンボロ寮の修繕を行っただろう? これは、それに対する報酬だ。受け取りなさい」
「はっ?」
「えっ」
トレイン先生の言葉に学園長さんはまた不思議そうに首を傾げた。
けど、それよりもトレイン先生が言ったことの方がちょっとだけ気になった。
私が修理したのはユウくんの住んでるお屋敷だ。先生、それをなんて言ったっけ?
「
……
オンボロ寮?」
「オンボロ寮の修理なんてさせたんですか!?」
私と学園長さんが口を出すと、トレイン先生はちょっと驚いたような顔をした。まるで、言っちゃいけないことを言っちゃったような顔だ。
「私は止めましたよ。しかし、彼女がどうしてもと言うのでね」
「な、な、な
……
!」
学園長さんはわなわな震えながら私とトレイン先生を交互に見た。
そんな態度を見れば、いけないことをしたんじゃないかって思えて、ちょっと落ち込みそう。
「う、ごめんなさい
……
でもでも、雨漏りも隙間風もなくなったってユウくんは喜んでくれたので!」
「屋根の修理なんてしたんですか!?」
「へ!? はい
……
」
「むむむむむ
……
」
あたふたと落ち着かない様子の学園長さんを見ると、ちゃんとトレイン先生の言う事を聞くべきだったのかもって気持ちになってきた。
たしかに屋根の修理は危ないからって、トレイン先生はイイ顔をしてなかった。それと今の学園長さんの反応を思うと、私がしたことは、私が思ってるよりよくないことだったのかも。って感じてしまう。
もっと怒られちゃうのかとドキドキしていると、学園長さんは大げさにかぶりを振った。
「素人修理で修繕費が嵩んだらどうしてくれるんですか!? それに、屋根から落ちてケガでもしたらどうすれば
……
!!」
「そう思うのならさっさと手配すればよかったんだ」
「あの、ケガとかはしなかったので
……
」
「そういう問題じゃありません! まったく! そういうことはね、きちんと私に話を通してから」
「もう済んだ話です」
「んぐぅ!?」
トレイン先生が話を切ると、学園長さんはしょんぼりと肩を落とした。
あのお屋敷は傷んでたけど、元々の建物がしっかりしてたから、屋根の上を歩いても滑って落ちたりとかはしなかったと思う。それに、あれくらいの修理じゃケガはしないんだけどな。
でも、心配かけちゃったのかも。反省して学園長さんにごめんなさいをすると、学園長さんはしょんぼりしたまま「いいんです」なんてまた肩を落とした。
「えぅ
……
」
「学園長は放っておきなさい」
トレイン先生は呆れ顔をしてそう言うけど、学園長さんは落ち込んでるみたいなのにほっといていいのかな?
学園長さんは気になるけど、それよりも気になるのはトレイン先生の言葉だ。
「あの、先生、オンボロ寮って、ユウくんたちのお屋敷のことですか?」
「んんっ!? あぁ、まぁ、通称ではあるが、そう呼ばれている」
そう言って、トレイン先生は私から目を逸らした。
オンボロ寮って名前はちょこちょこ聞いてたし、それに対して「ひどい言い方をするなぁ」なんて思ってた。けど、まさか先生たちからもそう呼ばれてるとは思わなかった。
そんな呼び方をするようなところに住まわせるなんて、って思わないこともないけど、私が口を出せることでもない。
いまいちすっきりしない気持ちでいると、トレイン先生は軽く咳払いをして、私を見た。そして、ずっと机の上にあった布包みを手渡してきた。
「えと、これは?」
「当日着る服と小遣いだ」
「お洋服、ですか
……
」
「取り急ぎで悪いが、私の娘が着なくなったものだ。クリーニングには出したが、気になるならランドリーで洗っておきなさい」
「そうじゃなくて、その、悪いですよぅ
……
」
「気にしなくていい。どうせもう着ない物だ」
トレイン先生はそう言うけど、トレイン先生自身を見れば、娘さんのお洋服がどんなものか想像できてしまう。
きっと、すごーくしっかりした、立派な、お高い服なんだ。もしかしたら、くれるっていうお小遣いより高いものかも。そう思うと着ない服とはいえ、もらうのは気が引けちゃうかも。
包み越しに感じる布地の柔らかさにヒヤヒヤしていると、トレイン先生はまた呆れたような顔をした。
「そんな顔をするんじゃない。君の趣味は知らないが、似合うと思い取り寄せたんだ」
「えうぅ
……
でもでも、高いお洋服、ですよね?」
「そうでもないな。たしか、君くらいの歳にアルバイト代で買ったものだ。合わせても1万マドルもしないだろう」
「うー
……
」
「いずれにせよ、クローゼットに眠らせるよりは君が着た方が服も喜ぶ。趣味が合うのなら着なさい」
先生はそう言うものの、悪いような気がしちゃう。けど、ここは素直に受け取っておいた方がいいんだよね?
気は引けるけど、どんなお洋服なのかって気になる気持ちもいっぱいあった。生地の柔らかさといい、お嬢様気分になるようなオシャレなお洋服なんだろうな、って勝手な想像ができちゃうんだもん。
「わかりました。その、ありがとうございます」
「よろしい。話は以上だ、下がりなさい」
「えと、はい。失礼します」
いまだにがっくりした様子の学園長さんをほっといていいのかな? とは思うものの、どう声をかけていいのか分からないから、言われた通り、布包みを抱えてお部屋を出た。
(マジフト大会かぁ)
寮同士で競い合うなんてちょっと怖いかも。これでエースくんたちと仲が悪くならないといいなぁ。なんて思いながらこれからどうしようか考えた。
貰ったお洋服はとっても気になるけど、開けるのはちょっと怖いかもだから心の準備ができてからにしたいかも。
なら、補習もないし、トレイさんがお菓子をくれるかもだから部活に行こうかな?
ついでに、誰かからマジフト大会について詳しく聞けたらいいかも。そう思って、実験室へ向かった。
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