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いまち
2023-07-25 01:37:57
3401文字
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トランプ兵のみるところ・Ⅱ-②
蛇足その1
オリ主↑原作キャラ↓みたいなのは書きたくねーなと思いつつ、ションボリをバネする♠は書きたいなと思った次第。
「
――
還らせたまえ!」
聞き慣れない言葉が並んだ呪文を詠唱して、警棒が振り下ろされた。
どこかからか強い風の音がして、遅れて、バラの木が弾けた。そして何が起きたのか分からないまま、俺たちの周りは緑色の光に包まれた。
光の中心であいつは古くさい試験管を取り出してそれを振る。すると何がどうなっているのか、緑色の光がその試験管の中に吸い寄せられていった。
もう何がなんだか分からない。緑色の光が見えなくなると、俺たちの足元は青と紫に光っていた。
寮長もダイヤモンド先輩も、この光がなんなのか分からないらしく、厳しい目で光を避けるように後ずさった。
俺にはそれすらできなかった。
あいつに押し付けられた妖精を抱えながら、芝に広がる青い光に足を浸していた。水のようにゆらゆら揺れる光はワケの分からないもので、足は浸っているものの、感触はない。
「デュースくん、ありがとね」
「あぁ
……
」
何食わぬ顔で青い光を横切って、あいつは俺から妖精を取り上げた。
そして片腕で妖精を抱いて、もう片方の手で緑色に光る試験管を傾けて、その光を妖精に振りかけた。
「んしょ、っと」
その様子がなんだか母親が赤ん坊にミルクをあげるみたいだなって、働かない頭で思った。そんなのまともに見た事ないから想像でしかないんだが。
それからキースリンクはチリチリと鳴き声を上げる妖精と二言三言、話をした。
動物言語の一種なのだろうけど、俺には何を言ってるのかさっぱり分からない。けどあいつは俺たちと話すのと同じようにニコニコ笑って、なんでもないように話していた。
「寮長、キースリンクはなんて言ってるんですか?」
「分からない」
「えっ」
俺には分からなくても、寮長なら分かるだろうと思って聞くと、鋭い目で二人を見つめていた。睨むのとは違う、観察するような目だ。
「妖精族は独特の言語を使うんだ。ボクたち人間には聞き取ることができない」
「そーそー、お話するには特殊な魔法道具がいるらしいよ?」
「そうなんですか
……
」
そんなもの、あいつ持ってたか? 俺に声をかけてきた時、あいつは手ぶらだった。
持っていたものといえば、さっきの試験管とよく分からないゴツゴツした木の実だけ。それらしい魔法道具なんて見ていない。
となると、あいつはその魔法道具なしであの妖精と話をしてるってことになる。
そう思った途端、もやもやしたイヤな気持ちが喉元につっかえた。寮長ですら分からない妖精の言葉を、スマホも知らないような人間が知ってるとは思いたくなかった。
あいつはこの世界のことなんてまるで知らないんだから、妖精の言葉なんて分かるわけがない。
そう思おうとしている自分に気付いて、自分自身がひどくイヤな人間になった気がして、少し気分が落ち込んだ。
話が終わったらしいあいつは俺たちに困ったような顔を向けてきた。なのに俺は目を逸らすことしかできなかった。
年下の、何も知らないような女の子に負けたような気がしてしまったから。
ついそう思って、目を逸らした先にある、あいつの腕章が目についた。
緑色の腕章は高尚な精神をモットーとした、ディアソムニア寮生の証だ。この学園でも選りすぐりの生徒が集まる寮、そんなところにあいつはいるんだ、って、今更になって意識してしまった。
前だって、寮長の首輪を消すなんてとんでもないことをしていたはずなのに。それなのに、どうして俺はあいつを下に見ようとしたんだ。
気付いて、考えて、胸が気持ち悪くなってきた。
悪い方、悪い方に考えが引きずられそうになっていると、そっと肩を叩かれて、考えが止まった。
「ね、デュースちゃん」
見ると、ダイヤモンド先輩が俺に笑いかけていた。先輩の顔を見て、急に視界が開けた。そうなると、あいつと寮長の姿が見えないことに気付いた。
「え、あ、」
ぼーっとしている間に何があったのか。出遅れた気分になって、また落ち込みそうになっていると、ダイヤモンド先輩は気が抜けたように「たはは」と笑った。
「なんか、すごいもの見ちゃったね?」
「
……
はい」
「デュースちゃん大丈夫? ぼーっとしてたみたいだけど。あの光に当てられちゃったカンジ?」
そう言って先輩は俺の顔を覗き込んできた。笑顔ではあるけど、目は真剣そのものだ。
そこにまた、負けたような気分になった。そりゃあそうだ、ダイヤモンド先輩はノリの軽い人だけど、なんだかんだで面倒見はいい人なんだ。
たとえ自分が驚いていても、こうやって人を気遣える余裕を持てる人なんだ。
「大丈夫です。なんというか、驚いただけなので」
「ならいいけど。でも、体調がおかしくなったらすぐ保健室に行きなね?」
「はい、ありがとうございます」
「
……
んじゃ、オレらも出よっか」
「あ、はい
……
えぇと、どうやって?」
「オレが上から案内するから、デュースちゃんは歩いてね」
「ありがとうございます!」
「いいって。
……
ホントは、オレもリドルくんみたいに二人乗りできたらよかったんだけどね」
たはは、と笑いながら言ってはいるものの、ダイヤモンド先輩の態度はどことなく、後ろ向きに感じた。
もしかして、この人も自分より上の相手に対して負けたような、悔しいような気持ちになることがあるのかもしれない。
普段の態度からそんな気配、これっぽっちも感じたことはないけど。
飛んでいくダイヤモンド先輩の後をついて迷路を歩いた。思ったより奥に来ていたようで、歩いても歩いても出入り口に着かない。
「デュースちゃん大丈夫? 疲れない?」
「いえ、全然! なんなら、もっとペース上げてくれていいです!」
「タフだねぇ」
「体力には自信あるんで」
正直、ペースを上げてくれればそっちに集中できるぶん、余計なことは考えなくて済むから気は楽だ。けど、ダイヤモンド先輩は、ゆっくり歩くくらいのスピードで飛んでいる。
ゆっくり長い間飛ぶなんて楽じゃないだろうに。そう思ったけど、きっと、これもダイヤモンド先輩の気遣いなんだろう。
ふざけているような人だけど、ちゃんと人のことを見ている。目の前のことすらまともに見られない俺と違って。
……
そう考えて、頭の中がまたもやついた。
「ね、デュースちゃん」
「はい」
「卑屈になっちゃダメだよ」
「は
……
え?」
言葉の意味が分からなくて、なんなのかと先輩を見上げる。心なしか寂しそうな目で俺を見ていた。
「えっと、どういう意味ですか?」
「デュースちゃんはデュースちゃんのいいトコがあるんだからさ」
「へ!?」
そう言って、先輩はホウキの高度を下げて、俺の隣に来ると頭をぐちゃぐちゃに撫で回して、また飛び上がった。
さっきの言葉といい、意味が分からなくてもう一度先輩を見上げた。何故か先輩はニコニコ笑っている。
「ちょ、なんなんですか!?」
「なんとなく? あぁ、そろそろ出口だよ」
なんでもないような顔をして、ダイヤモンド先輩は前に目を向けた。
誤魔化されたような気はするけど、先輩もこれ以上話をするつもりはないようだから、話はこれで終わりなんだろう。
先輩の言葉はよく分からなかったけど、なんとなく、応援されたんだというのは分かった、と、思う。それならいつまでもグズグズするわけにはいかないだろう。
「ティナちゃんたちはパーティー会場に行ったみたいだから、オレらも行こっか」
「はい! あの、ダイヤモンド先輩」
「ん?」
「ありがとうございます!」
「んー? なんのコト?」
すっとぼけたように笑うダイヤモンド先輩を見て、なんとなく、この人には敵わないなって、そう思った。
けどそれは、アイツや寮長に感じるような薄暗いものとは違って、不思議と心地いいものだった。
そんなものだから、さっきまでの落ち込んだ気分はすっかり晴れた。
ダイヤモンド先輩の後をついて歩きながら、もし、アイツが寮長に叱られて落ち込んでいるようだったら元気付けてみよう。って、そう思った。
……
そうは思ったものの、俺もまた寮長の説教を受けてたものだから、もう一度、へこみ直してしまった。
しきりに謝ってくるアイツの顔を見ながら、人を元気づけるのって難しいんだな、と、ぼんやり思った。
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