いまち
2023-07-23 20:01:47
6631文字
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雛の巣作り

書きたいとこだけ書いたやつ。
〇りたい盛りにおあずけ食らいっぱなしの生活力マイナス右大将殿とママ🐣。
~あらすじ~
なんやかんやで400年ちょっと前(卵様が生まれる前)の茨の国にタイムスリップしてしまった🐣、なんやかんやで右大将殿と恋仲になってほにゃほにゃまで済ませてしまうとかなんとか。
とりあえず雰囲気で読んどいて!

 長い遠征も終わり、久方ぶりの王都に帰ってきたリリア。
 女王へ敵方の動向や持ち帰った荷の報告を済ませ、隊員たちをそれぞれ帰せば束の間の休暇をとることとなった。
「えと、私はどうするんですか?」
 持ち帰った荷こと遠征中に拾った人間の娘は困り顔でリリアを見上げた。隊員が見つけ、怪しいながらも同行を許した娘は存外良い働きをした。
 さらに妖精族への理解も深いため、マレノア姫およびマレフィシア王からもたいそう気に入られ、先ほど正式に茨の国への在留そしてリリア率いる隊への同行を許可されたのだった。
 しかし、身一つでこの国に来た娘には当然この国で暮らすための拠り 所はない。ここから一週間の休暇の間どこで過ごせばいいのか不安なのだろう。
 先の謁見にて女王から王城への滞在を許可はされていたのだが、それはリリアにより却下されていた。
 遠征中に恋仲となり契りを結んだ娘とリリアではあるが、娘はまだリリアの考えが理解できないでいた。いくらなんでもその辺にほっぽり出したりはしないだろうなと少しばかりの不安があった。
 そんな娘の内心なぞ知る由もなく、リリアは自身の棲家へと足を進めていた。王城の宿舎に部屋を与えられてはいるものの、羽を伸ばすには住み慣れた我が家が一番なのだ。
 そして、王都のはずれにある我が家であれば、人の目も耳も届かないため、思う存分娘を抱き潰すこともできるという下心もあった。右大将とて、もうすぐ300歳の覚えたての若造なので。
「あのぅ、リリアさん、どこに行くんですか?」
「俺の家だ。ちぃと狭いが堅っ苦しい城よかマシだからな」
「リリアさんのおうちですか?」
 リリアの言葉に緊張しきっていた娘の顔はほころんだ。400年後の未来から来た娘はリリアとシルバーの住む家のことはよく知っていた。
 元は空き家だったというその家は、親子二人がゆっくり時を刻んだのがよく見える、それは温かみのある家で、娘はその雰囲気が大好きだったのだ。
 当然、娘の中のリリアの家はそんなアットホームな雰囲気だ。しかし、娘はひとつ忘れていた。娘が知るリリアの家は400年の時が経ち、子を持った後のリリアの家だ。はちゃめちゃに国じゅう大陸じゅうを駆け回っている独身男の家ではない。
「ここだ」
「はぇ?」
 そんなことにも気付かぬまま、ノコノコピヨピヨ着いていった先は粗末な小屋だった。なんなら基礎すら怪しい掘っ立て小屋やもしれぬ。
 自身が知る家とのギャップに娘は固まった。辛うじて雨風をしのげる程度の補修はされているが、あまりに絶望的な見た目だった。
 娘がナイトレイブンカレッジに通っていた頃、初めてオンボロ寮を訪れた際、そのあまりの惨状にひどく驚き落胆した。今まさに感じているのも同じ気持ちだった。
 リリアはドン引きしていることにも気づかず、固まる娘の腕を引き小屋へと連れ込んだ。

「ぴっ!?」
 外観が終わっていれば、中もまた大概だった。まずえらく散らかっている。物の数こそ少ないものの、それらが乱雑に床に放られていた。衣服は一応洗ってはあるようではあるが、ホコリや虫の死骸にまみれていて意味をなしていない。
 床には寝床であろう寝藁が積まれ、これもまた雑にシーツで包まれていて粗末な毛布が丸まっている。長らく放置されていたようでかび臭く、シーツの下がどうなってるかなぞ想像したくない有様だった。
 こうなれば当然、部屋そのものもひどいものだった。よほど長く放置されたのか埃が積もり、部屋のそこかしこに蜘蛛の巣が張っている。なんなら部屋の隅にはネズミが我が物顔で巣を作っていて子育てに勤しんでいた。
 ――こんなところに寝泊まりするくらいであれば野宿の方がずっとマシだ。
 そう思い、青ざめる娘をよそに、リリアは魔石器を壁に立てかけ、いそいそと甲冑を脱いだ。そしてぼんやり立ち尽くす娘をしっぽりパラダイスへ誘おうと、無防備な背に抱き着いた。
 ――途端、リリアの視界が反転した。
 遅れて娘に投げ飛ばされたのだと気付き、反転した世界の娘を見上げた。
……です」
「あ?」
「お掃除とお片付け! します!」
「はァ!?」
 いつもの緊張感のないのほほんと顔は一変、猛禽類のように目を鋭くさせた娘はとてつもない迫力を纏い、リリアと部屋を睨み付けていた。
「こんなとこ、人の住む場所じゃありません! キレイにしますよ!」
 いや、俺妖精だし。なんて軽口を叩けば爆弾でも投げてきそうな勢いにさすがのリリアも気圧され、けれどせめてもの抵抗をとむぃっと唇を尖らせた。
「住めるからいいじゃねぇか」
「住めませんよ! こんなとこ! 病気になったらどうするんですか!」
 けれど娘の圧が勝った。
 そんな弱くねーし。とは思いつつ、逆らったらあかん圧を感じたリリアはひっそり肩を竦めた。

+++++

 片付けると決めてからの娘は早かった。
 転がったまま不貞腐れるリリアに掃除道具を買いに走らせ、掃除道具に魔法でかりそめの命を吹き込み掃除をさせ、小屋の中の物を日用品もゴミもまとめて外に放り出し、小さき命の集合住宅と化していた寝藁を消し去った。
 我が物顔で居座る者たちを追い出し、壁を床を天井をこれでもかと磨き上げ、と、しているうちに、ようやく娘が一息つける程度に片が付いた。
 時間にして二時間、あっけない戦いだった。元より家具のない部屋だったのが幸いしたのだろう。収納とは名ばかりの粗末な木箱と、テーブルと椅子代わりの丸太しか家具らしいものがなかったのだ。
 娘がえいやと木箱を外に放り出し、水魔法で洗い、丸太だったカビとキノコのゆりかごは寝藁と同じく娘の術により跡形もなく消し去られた。
 なお、娘が汚れと戦っている間、リリアは邪魔だと窓辺に追いやられ、むぃっと唇を尖らせながら甲冑に手入れ用の油を擦りこんでいた。
 開始早々二十歳そこそこの娘に戦力外通告をされてしまった茨の国王宮近衛兵右大将(もうすぐ300歳)がやったことといえば、ぷいぷい頬を膨らませる娘に尻を叩かれ、箒とハタキを買いに雑貨屋へ走っただけだ。
 娘の気迫は異常だった。リリアがちょっとでも口を出せば二倍五倍になって返ってくる。遠征中は常に笑顔で食事支度をしていた姿はつゆと消えていた。そのあまりの豹変ぶりに連れ帰る娘を間違ったのではないかと疑ったほどだ。
 けれど、そんな烈女も掃除が一区切りつき、城下へ食事を摂りに行く頃には、リリアの見知ったほのぴよ娘に戻っていた。それがまたリリアの理解を越えていた。
「お前さん、なんなんだよ……
 それこそ、思わずこんなことを聞いてしまうほどに。
「まぁ、人間ですねぇ?」
……はぁー」
 ぽえぽえした顔で川魚のムニエルを口にする娘にリリアは大きなため息を吐いた。
 いっそ娘がおとなしくしているうちに宿屋にしけこんでしまおうか。チキンソテーをつつきながらリリアはもう一度ため息をついた。そんなリリアを見て、娘もまた困ったように首を傾げた。
「もしかしてお疲れでした?」
「誰かさんのせいでな」
「はぁ……? えと、じゃあ、急いでキレイにしますので、もうちょっとだけ我慢してくださいね!」
「そうじゃねェんだよなぁ……
 ただいちゃつきたいだけなのに。そのための寝床すらなくなってしまったのだ。どうしてこうなった。そんなことを胸いっぱいにし、すっかり落胆するリリアを見つめながら、娘は「あ」と、小さく声を上げた。
「そういえば、寝るとこなんですけど」
「お前さんがキレイさっぱり消してくれた寝床がなんだって?」
「あんなところで寝られません! えと、ベッドを作ろうと思ってるんですけど、そのぅ、一人用のを二台と、二人用のを一台作るのだと、どっちがいいですか?」
「は?」
 わずかに頬を赤らめながら問うてくる娘に、リリアの落ち込んでいた気持ちはV字回復を見せた。
 ベッドを作る、などという寝言に多少の引っ掛かりは覚えたものの、娘が納得する程度に片が付いた部屋にベッドがあれば、しっぽりパラダイスは実現可能だ。そう思い、つい口元が緩むリリア。
 一方で娘は「やっぱリリアさんもちゃんとしたベッドで寝たかったんだ!」などとほのぼのと勘違いをしていたのだった。

 食事を済ませ、小屋に戻る二人。道中話し合った結果、ベッドは二人用の物を一台作ることとなった。
「それじゃ、リリアさんベッド作るので、ちょっとこの木、切ってもらっていいですか?」
「作るっつってもよ、そう簡単に出来るモンじゃねぇだろ? どうすんだ?」
「それが簡単にできちゃうんですよ。……じゃじゃーん!」
 にこにこ笑いながら娘が取り出したのは魔法の工具であるトンカチだった。材料を揃え、完成形をイメージしながらひとつ振るえば望み通りの家具を作れるというシロモノだ。
 それは以前、リリアの家の惨状を目にしたレヴァーンとマレノアが、もう少しマシな部屋にしろとリリアに押し付けた物だった。けども、当の本人は「住めりゃいいじゃねぇかめんどくせぇ」と、その辺に放置していた。
 それを娘が見つけたのだ。娘はナイトレイブンカレッジに通っていた頃、友人の監督生がこれで家具を作っていたのを見たことがあったため、これだと思い手に取っていたのだ。
……と、いうわけで材料があれば作れるんです。なので、木、切ってきてくださいね」
 ボロのシーツと毛布に洗浄魔法をかけながら、娘はリリアに笑いかけた。当のリリアは存在そのものをキレイさっぱり忘れていたため「なにそれぇ」とワケの分からん魔法道具に顔をしかめた。
「しゃーねェな……
 けども、しっぽりパラダイスのため、魔石器を振るいばっさばっさと近くの木を切り倒し、娘に渡した。
「おい、これでいいんだろ?」
「わぁ! ありがとうございます! これだけあればタンスとかも作れそうです!」
 えへへー、と、嬉しそうに笑う娘にリリアもまた口元を緩めた。主に下心で。
「じゃあ、このお洋服とか全部洗って畳んで下さいね!」
 しかしリリアの笑みは一瞬で引っ込んだ。娘からかつて部屋の中に放置していホコリまみれの衣類を押し付けられ、またも顔をしかめた。
「もう洗って――
「こんなばっちいんじゃ洗ってないのと一緒です!」
「むぎゅ」
 聞く耳を持たない娘にリリアは大人しく従うことにした。逆らっても無駄だと散々分からせられてしまったので。
「はーぁ……
 魔石器をブンブン振って小娘に言われるまま服を洗う。間違っても人に見せられない光景だ。
「あーぁ……
 不服ながら魔法で服を畳み、娘が洗っておいた木箱にぽぽぽいっと放り込んだ。今のところタンスはできていないようなので。
「おい、終わったぜ」
 まだトンカチを振るっているであろう娘に声をかけようと、リリアが小屋の中を覗く。そこにはトンカチ片手にでっけぇベッドでスヤスヤピヨピヨ眠る娘の姿があった。
……は?」
 人に働かせてなにしとんじゃとリリアはちょっとばかりイラっとした。
 けれどベッドで無防備にすやぴよ眠る娘は据え膳以外の何物でもなく、散々お預けを食らい、持て余していたリリアにとっては渡りに船、ちょっとでもしっぽりパラダイスを味わってやろうじゃないか。そう思うのに時間は掛からなかった。
 邪な思いを腹に、リリアはできたてほやほやのベッドにそうっと近付いた。
 しっぽりパラダイスまであと三歩、二歩、一歩――そこまできて、リリアの脳天に衝撃が走った。
「あぎゃっ!?」
「むにゃ?」
 突如鳴り響いた轟音とリリアの悲鳴。それに娘は目を覚ましたらしい。床に踞るリリアを寝ぼけ眼で見つめていた。
 轟音の正体は雷だった。室内にそんなものが落ちてきた原因はリリアの足元に刺さっている稲妻を象った針だ。
 これは娘が作った魔法道具で、針を刺した箇所に雷を落とすものだった。その威力たるや、巨大な猪でさえも気絶させるほどだ。
 とはいえ、リリアは野良の猪ではない。かの国の近衛兵であり、しょっちゅう雷を落とされていた身だ。防具を外し、油断しきっているところに受けはしたものの、大きなダメージにはなっていない。
「てめ……何しやがる!!」
「うぇ?」
 相変わらず寝ぼけた顔をする娘の眼前に針を突き出すリリア。娘は不思議そうに針を見つめると、思い出したように「あぁ」と小さく頷いた。
「ホウキとかにかけた魔法がこっちにもかかってたみたいですね」
「はァ!?」
「リビングアイテム……えと、物にかりそめの命を付与する魔法です。ばくだんやおくすりに使うと、私が危なくなった時に飛び出すんです、けど」
 説明しながら娘はじとっとリリアを見上げた。
「リリアさん、私になにかしようとしました?」
「ぐっ」
 まさにナニをしようとしていたリリアは言葉に詰まった。娘の目は「テメェ、掃除もしねぇで何考えてんだオラ」と囁いている。……と、リリアは勝手に解釈した。
「ぐぬぬ……
……なんでもいいですけど、お洗濯は終わったんですか?」
「んなモンとっくに終わってる。ほら」
 洗濯物を詰め込んだ木箱を見せると、娘は嬉しそうな笑みを浮かべてリリアの頭をよちよちと撫で回した。
「えらいですねぇ」
「ガキ扱いすんじゃねぇ!」
「いつものお返しです。じゃあ、タンス、すぐ作っちゃいますね」
 言うが早いか、娘はベッドから降りると、手つかずの木材を小屋の隅に寄せ、トンカチを振り下ろした。
 ぽこん、と小気味いい音を立て、木材が光に包まれる。すると、引き出しが五段ある、元の木材そのままの色味のタンスに変わった。
「じゃーあ、洗ったお洋服はここにしまってくださいね」
……へいへい」
 楽しそうにトンカチを振るう娘を目にして、嫌だと言えるわけもなく、リリアは大人しく衣類をタンスに放り込んだ。仕分けもなにもあったものじゃない、下着も外套もごちゃまぜの、文字通り詰めただけだけど。
 詰められるものはすべて詰め込んで、やることもなくなったリリアはベッドに寝転び、せっせとトンカチを振る娘を眺めていた。
 なにが楽しいのか、娘は整理棚を作り、テーブルを作り、椅子を四脚作った。そこで、リリアは首を傾げた。二人で住む家に、果たしてこんなに椅子は必要なのかと。
「おい、椅子多くねぇか? そんなにいらねェだろ」
「いります」
 リリアの問いに娘は即答した。それもこれも、娘は400年あとの時代から来た身であるがためだ。いつか出会う息子と、その弟弟子のための席であるが、当然、そんなことを言えるはずもなく娘は曖昧に笑った。
「マレノアさまやレヴァーンさまが来た時に必要ですもん」
「んなことしたら姫様が居座るだろ! やめろ!!」
 苦々しく顔をしかめるリリアに娘はまた笑った。
「やです。そうでなくても、家族って増えるものですから」
……ふぅん」
 娘の言葉の意味をさして考えずにリリアは適当に相槌を打った。
 娘はそんなリリアに苦笑し、もうひとつトンカチを振った。リリアが切り倒した木はもう小枝しか残っていない、そのわずかな小枝は大ぶりな背負いカゴと背負子に変わる。それにもまた、リリアが首を傾げた。
「どうすんだ、それ?」
「明日使うんです。暖炉とお台所も作りたいので、石とか粘土とか集めようかなって」
……は?」
 にっこり笑う娘にリリアは固まった。
 明日? まだ何か作るって? まだ足りないと抜かすのかこの娘は?
「お休みが終わるまでに、ちゃんとしたおうちにしましょうね」
 そう言って朗らかに笑う娘に、リリアはしっぽりパラダイスの夢がブチ壊される音を遠くに聞き、絶望した。

 そして絶望のまま休暇は終わった。しっぽりパラダイスのしの字程度しか楽しめなかった。休暇の間は娘に言われるまま、ひたすら木を切り倒し、石と粘土を集め、夜はくたびれて眠る娘の乳に顔を埋めるだけで終わってしまった。
 こんなはずじゃなかったのに。ションボリムラムラする気持ちとは裏腹に、娘が整えた家での生活は恐ろしく快適だった。それにまた腹が立って、次の休暇こそは足腰立たなくなるまで抱き潰してやると腹の奥で燻る情欲に誓った。