いまち
2023-06-13 00:42:45
10054文字
Public
 

15話・ティナの道具とお説教


 お昼も食べて、午後の授業も、ホームルームも終わった。

「先生、あの、お伺いしたいんですけど……

 後片付けをするトレイン先生に声をかけて、ユウくんのお屋敷のお片付けや修理を手伝いたいから、道具とかは借りられないか聞いてみると、先生は渋い顔をした。
 なんでも、古い建物の修理を女の子にさせるわけにはいかない、らしい。
 けど、建物の簡単な修理くらいであれば、カボックにいた時に少しはやったことはある。屋根や壁の穴を塞ぐくらいはしたい。そうお話すると、先生はよくよく気を付けることを条件にオッケーを出してくれた。
 工具は植物園の管理小屋にあるらしい。先生から管理人さんに話を通してくれるそうで、必要な時は植物園に取りに行くよう言ってくれた。

「女性がそんな仕事をするべきではないと思うのだがね」
「えと、ちゃんと気をつけて作業します!」

 やっぱり、あまりいい顔をしなかったけど。でも、いいって言ってくれたし、いいんだよね。
 明日は植物園に道具を取りに行ってからユウくんのお屋敷に行けばいいかな。前に買ったグリムくんへのツナ缶と、時間もかかるかもだから、お昼ごはんも用意した方がいいかも。
 そんなことを考えていたら、教室に誰かが入って来た。どことなくイライラしたような足音が近づいてきて、誰だろうと思って見ると、クルーウェル先生だった。先生は怒ったような、厳しい目で私を見ていた。それにトレイン先生が不思議そうに眉を寄せた。

「どうかしたのか?」
「キースリンク、話がある。来い」
「うぇ?」

 クルーウェル先生はじいっと私を睨みながら、いつかのように腕を掴んできた。
 怒ってるみたいだけどなんなんだろう。そうされる覚えがないものだからびっくりした。トレイン先生は眉間に皺を寄せながらクルーウェル先生の腕をそっと掴んだ。

「やめなさい! 女性に乱暴などと」
「あぁ、すみませんね。なに、この仔犬が問題を起こしたので話を聞きたかったんです」
「問題だと?」

 今度は帰り支度をしていたセベクくんが手を止めて、睨みながらこっちに来た。

「ジグボルト、君までどうしたんだ」
「僕はその人間の監督を任されています。この人間が問題を起こしたとなれば僕の監督責任になるため、話を伺いたい」

 セベクくんは私をじぃっと睨みながら先生たちに言った。どうしよう話がややこしくなりそう。
 トレイン先生はため息をついて、小さくかぶりを振った。

「二人とも落ち着きなさい。彼女が怯えてしまう」
「えっ」

 驚きはしたけど怯えてはない。とはいえ、トレイン先生は私に気を使って、こう言ってくれてるんだろうと思って頷いておいた。

「えと、びっくりしました。その、問題って言われても何がなんだか、です」
「こう言ってますが。ですが、彼女が問題を起こしたとなれば私も話を伺いたい」
……分かりました」

 クルーウェル先生はやれやれとかぶりを振るとセベクくんに目を向けた。

「ジグボルト、今回はお前の監督不行き届きにはならん。確認の上、必要であればドラコニアにはこちらから伝えるからお前は寮へ帰れ」
「ぐ……承知しました」

 セベクくんはどことなく悔しそうに答えると、荷物を持って教室を出て行った。教室を出る間際、それはそれはおっかない顔で私を睨んだ。
 セベクくんがいなくなると、教室には私たちだけ。クルーウェル先生は教室を見回して「いいか」と呟いた。

「トレイン先生、この後ここの教室は使わないんだったな」
「あぁ」
「なら、ここで話をさせていただいてよろしいか」
「構わない。キースリンク、いいな?」
「あ、はい。だいじょーぶです」

 私としてはどこでもいいから頷いた。それよりも、先生の言ってることの方が気になる。
 ヘンなこととか、した覚えはないんだけど。でも、先生の怒りっぷりから察するに、何かしちゃったんだろうというのは察せられた。

「では聞こう。キースリンク、お前うちの仔犬たちに何をした?」
「へ!? わんちゃんですか?」

 クルーウェル先生はじっと私を見てるけど、意味がわからなかった。
 なにかするもなにも、ここにきてからわんちゃんなんて見ていない。

「あの、なんの話ですか? わかりません」
「クルーウェル先生、それでは伝わらないだろう」

 トレイン先生が呆れたように言うとクルーウェル先生は「まどろっこしいな」と呟いた。

「トラッポラ、スペード、クドウ、それにグリム。こいつらに覚えはあるな?」
「えと、はい。ユウくんたちがどうかしたんですか?」
「どうもこうもない。お前があの4人に妙な薬を使ったと聞いたから、確認したかったんだ」
「なんだと!?」

 いつものはもの静かなトレイン先生にしては珍しい大声で、驚いたような顔で私を見た。

「え? え? ヘンなおくすりなんて使ってないですよ! その、ケガしてるみたいだったら、私のおくすりを使っただけで……
「薬を使ったことには違いないな」
「えぅ……そうですけど」

 トレイン先生は私に呆れ顔を見せると、クルーウェル先生に向き直った。

「それで、彼女の薬がどうだと言うんだ。私もA組の授業は行なったが、別段変わった様子は見られなかったが」
「逆だ。何でもないから驚いたんだ。先生も、昨日の事件はご存知だろう?」

 クルーウェル先生の言葉に、トレイン先生は難しそうな顔で頷いた。話の流れから察するに、事件って、ハーツラビュルの寮長さんが大暴れしたことかな?
 クルーウェル先生はじぃっと私を見ながら説明してくれた。
 先生が言うには、クルーウェル先生はユウくんたちのクラスの担当で、朝の時点でケガまみれだったユウくんたちが、帰る頃にはケガが治っているのを見て、とても驚いたらしい。
 それで、不審に思った先生がユウくんたちから私のおくすりでケガが治ったという話を聞いて、その確認をとりにきたんだそうだ。

「お前の世界ではどうだか知らないが……

 なんでも、この世界にも傷薬やケガを癒す魔法はあるけど、決して簡単なものではないそう。使うにしても取り決めは多くて、おいそれと使っていいものではないらしい。
 そして、効果の高いものは副作用なんかもあるから、ユウくんたちに使ったおくすりが安全なものか確認をとりたかったらしい。
 ……そうなんだ、前にリリアさんがケガを直してくれた時は、簡単に傷が塞がったし、リリアさんもなんでもないように使ってたから、そういうものだと思ってた。
 たしかにカボックでも治癒の魔法は難しいものではあった。神様にたくさんお祈りして、厳しい修行をしてようやく身に付けることができるものだと聞いていた。この世界でも同じようなものなのかなって、ぼんやり考えていると、クルーウェル先生はまたじっと私を見ていた。

「それで、お前の使ったという薬はどういうものなんだ」
「えっと……

 怖い顔をするクルーウェル先生にみんなに使ったお薬――リフュールポットの説明をした。
 水の源素を水のマナに加工してもらったもので、疲れや傷を癒すおくすりであること。回復力はそんなに強くなくて、ちょっとした傷を治すくらいの効果しかないこと。副作用はないこと。飲んだとしても、人の身体にはお水を飲むのとそうそう変わらないこと……そんな、私にできる範囲の説明をした。
 この前私が使っていた錬金術の話をしたことが幸いしたらしく、クルーウェル先生は納得したような顔を見せた。

「なるほどな。副作用はないと」
「はい。その、絶対とは言えませんけど……
「そうは言っても異世界の物だからな。その薬はまだあるのか?」
「あ、はい。もうひとつ持ってます」
「ならそれを提出しろ。本当に問題がないのか、こちらで調べる」
「えっ」

 先生の言うことは分からなくもない。よく分からないおくすりを使われたとなれば心配になるし、ほんとに安全な物なのか調べようとするのも当然のことだと思う。
 そういうことであれば渡すのは、ちょっぴり気は進まないけど構わない。……けど、錬金術士以外には使えないおくすりを先生が調べることはできるのかな?
 それがひっかかって答えあぐねていると、先生たちは少し、厳しい目を向けてきた。

「えと……
「キースリンク、問題がないのであれば提出しなさい」
「問題はないんですけど、でも」

 渡さないであらぬ疑いをかけられても困るから、このおくすりに限らず、私がいた世界の錬金術で作った道具は錬金術士以外の人には使えないことを説明した。
 それがなぜなのか、なんて理屈は説明できないものだから、先生からは余計怪しまれてしまった。

「よくもまぁ説明できないものを使おうと思えるな」
「えぅ……そのぅ、『習うより慣れだ』ってパパが言ってたので」
「なんであれ、やましいことがないのなら提出しろ」
……わかりました」

 大事なものだけど、先生に余計な心配とかかけるわけにはいかないもんね。調べてもらえば、危ないものじゃないって分かってもらえるかもだし。
 そう思うことにして、フロシキに包んでたもうひとつのリフュールポットを先生に渡した。

「えと、これがユウくんたちに使ったおくすり……『リフュールポット』って言います」
「これが異世界の薬か」
「ふぅん、遮光瓶には入れないのか」
「そですね。錬金術で作った物は劣化しないんです」

 実際、何百年も前の物もそのままの状態で残ってたりするとは聞いていた。クルーウェル先生は納得していないような顔をしながら、リフュールポットをコートの懐にしまい込む。

「それで、この薬以外にも異世界の道具は持ち込んでいるのか?」
「えと、はい……

 そりゃあそうだ。カボックの外は魔物がウヨウヨいるから、退治用のばくだんだってある。ここに来る前はパパがたくさん押し付けてきたから、いつもより多いくらい。
 正直に答えると、先生たちはまた険しい目をした。

「それらは没収だ。すべてこちらで確認する」
「え」
「明日の朝にお前の部屋まで回収に行く。すべて提出しろ、いいな」
「そんな」
「当然だ! お前の持ち込んだ道具のせいで、他の生徒に万が一のことがあっては困るからな」
「う……

 こうもはっきり言われてしまえば頷くほかない。大事な道具だから気は進まないけど、そうも言ってられないもんね。
 明日の朝ごはんを食べ終わった頃に寮まで取りにくるから、ちゃんとお部屋で待っているように。と、釘を差されて、ようやくお説教から解放された。

「えと、それじゃあ失礼します」

 難しそうに顔をしかめる先生たちにお辞儀をして、そっと教室を出た。よかれと思ってしたことになのに、こんなことになるとは思わなかった。
 これ以上怒られたら怖いから、今日はさっさと寮に帰ろうかな。部活に行こうと思ってたけど、出歩くよりは、明日先生に渡す道具の整理をした方がよさそうだもんね。 
 でも、先生はどうやって調べるつもりなんだろ? リフュールポットは私たちでなきゃ蓋は開かないし、割って中身を出したとしても、薬液はただの水になる。
 ばくだんだってそうだ、導火線に火を点けても火はつかないし、火の中に放り込んでも熱くなるだけ。
 不思議に思いながら、すっかりひと気のなくなった廊下を歩く。傾きはじめた陽が眩しい。

 寮に帰って、まずは持ってきた道具を出した。
 リフュールポット、ゼーレジェム、マナポット、ウロボロス、ガッシュの丸薬にトファナヴァッサ、フラム、レヘルン、喚雷針、エアロナーゲル、パルティア、ラルバの鍵……
 どれもこれもカボックを出る時にパパから押し付けられた道具たちだ。このためにコキ使われたマナたちを思うとちょっとだけ、同情する。
 改めて広げてみると、よくもまぁこんなに持っていられたなって、我ながら少し呆れた。結構な量を持ってたけど、これ、ほんとにクルーウェル先生に渡して大丈夫かな? 量が量だけに、持って帰るのは大変かも。
 とはいえ、全部渡しなさいって言われたからには渡さないとだよね。出したそれらを先生が来たときにすぐ渡せるよう、机に並べた。

「そうだ」

 渡した後、先生が困らないようにメモも付けておこうと思い付いた。私にはどれも馴染みのある物だけど、先生にはなにがなんだか分からないはずだもんね。
 そうと決めればさっそく書こう。ノートを開いて、それぞれの絵と、名前と、調合に必要な源素と、効果を書き出した。
 なんでもかんでも書く必要があるかは分からないかもだけど、物を調べる時は情報は多い方がいいママも言ってたもんね。

「えっと、リフュールポットは水素で、おくすりで……

 いつもあまり考えないで作って、使っていた物のことを言葉にするのは思っていたより難しかった。考えてみれば、元々の使い方とは違う使い方をしているものもずい分ある。
 今は持ってないけど、メテオールはそれのいい例だ。もともとは貴重な源素を採取するために星を呼び寄せる道具だったらしい。でも、私もパパも、魔物をせん滅する時にしか使ってない。こんな使い方をしたら大昔の錬金術士に怒られるかも。って、今さらながらに思ってしまった。
 そんなことを考えながら、思い出し思い出し書き出していて、あとはひとつだけ、というところで手が止まる。

 ラルバの鍵。

 変わった形の鍵のように見えるそれは、時の源素だけで作られたものだ。
 14ある源素の中で時素は特に希少なもので、この鍵は数ある錬金術の道具の中で特に危険なものだった。
 次元を割って、その渦に魔物を巻き込む鍵。巻き込まれてしまえば、ぷにぷにだろうが、凶暴な狼だろうが、頑強な機械兵だろうが、危険なドラゴンだろうが関係なく、その世界からいなくなってしまう。ある意味ではラナフレームとは真逆の道具だ。

……

 いくら錬金術士しか使えない道具とはいえ、これを渡すのは抵抗がある。
 もし調べる過程でまかり間違って発動なんかして、この世界に悪影響を及ぼしてしまったら……? つい考えて、次いでぞっとした。ばくだんであればケガをするだけで済むけど、鍵だけはどうしようもない。
 みんなの安全のためと動いてる先生をそんな目に遭わせるわけにはいかない。

……ごめんなさい」

 だから、洗面台の戸棚の中に隠した。先生の言う事を聞かないのはとても悪いことだと思う。けど、他の物とは桁違いに危険なこれを渡すわけにはいかなかった。
 罪悪感で胸がぞわぞわするのを感じながら、道具のメモ書きをしたページを破り取って、なくさないようレヘルンを文鎮代わりにして畳んで置いた。

 それからご飯を食べて、お洗濯をして、お風呂に入って、今日習ったことの復習をした。
 後ろめたいことがあるものだから、どうにも気持ちがソワソワして頭に入らない。

「むぅ……

 結局、あまり身に付かないまま、床に就いた。こんな調子で来週からのほしゅーはちゃんと受けられるのかな? そう考えると、ちょっぴり憂鬱かも。

 朝起きて、いつもより人の少ない食堂でご飯を食べた。眠そうにしている子もちらほらいたけど、夜更かしとかしてたのかな? お休みの前に夜更かしするのって楽しいもんね。
 そんな寮の人たちをぼうっと見ながら、少しだけ早くご飯を食べて部屋に戻る。ソワソワしながら待っていると、ほどなくして、大きな金属製のカバンを持ったクルーウェル先生が来た。

「えと、オハヨウゴザイマス……
「あぁ、おはよう。それで、持ってきた道具とやらは?」
「えぇと、用意してます」

 机の上の道具を見て、先生は頷いた。

「good boy! 上がらせてもらっていいな?」
「あ、はい。どうぞ」

 言ってから、ベッドに脱ぎっぱなしのパジャマがそのままのことに気付いた。幸いなことに先生は道具にしか興味がなかったようで、私の机にカバンを置くと、並べた道具をじぃっと見つめていた。
 ……けど、あからさまに険しい顔だった。表情から察するにまた怒られるんだろうなと想像がついた。最近怒られてばかりなものだから、
 あまり怒られたくないなぁと心の中でビクビクしながら、パジャマをお布団の下に隠して先生に近付いた。

「えと、説明とかいりすますよね?」
「その前に一つ聞きたい」
「なんですか?」
「これはなんだ?」

 そう言って先生が私の目の前に突き出したのはフラムだった。なにもかにも、見たままだと思うんだけど。
 ……とは思ったけど、先生はいいおうちの人っぽいし、ばくだんで魔物退治とかしたことないのかも。だったら、分からないのもしょうがないかもしれない。そう思い直した。

「えと、ばくだんです」

 答えると、先生が見たことがないくらい目を見開いた。

「Bad Boy!! なんて物を持ち込んでいるんだ!!」
「ぴっ!?」

 怒鳴り声と共に、先生のムチが床を鳴らした。

「そんな危険な物、持ち込んでいたのならきちんと報告しないか!」
「ご、ごめんなさい。その、聞かれなかったので……
「聞かれなかった、じゃない! 間違えれば逮捕されたかもしれないんだぞ!!」
「え、と、たいほ? ってなんですか?」

 聞くと先生は少しばかり、怯んだように見えた。先生は大きくため息をつくと、苦々しそうな顔でこめかみを押さえた。

「悪さをして捕まることだ。お前、そんなことも知らないのか?」
「えっ! 私捕まっちゃうんですか!?」
「場合によっては、だ!」

 そして先生は怒り顔のまま、この世界ではばくだんのような危ない物は、特別な許可がないと使うどころか、持ち歩くことすら許されていないのだということを教えてくれた。
 特にこの学園では色々な国の人がいて、マレウスさんみたいな王族や、イイお家のご子息さまなんかもいるから、危険物でケガなんかをさせた日にはそれはそれは大変なことになってしまう、らしい。
 それを聞いて、昨日先生がおくすりを使っただけで、あんなに怒った理由も分かった気がした。よく分からないお薬を大事な生徒に使われたとなれば、不安にもなるかも。
 先生はきっと、身体に合わなくて大変なことになった、とか、副作用でひどいことになった、とか想像してしまったんだと思う。そういうのって毒を盛られるのと変わらないもんね。
 私は自分のおくすりは悪影響を及ぼさないものだと知ってるけど、先生は知らないんだもん。考えて、先生にいらない心配をかけてしまったのだと、改めて気付かされた。

……ごめんなさい」
「分かればいいんだ。それで、持ち込んだのはこれで全部だな」
「はい、一応……
「一応?」
「えと、同じ物、いっぱい持ってるんです」

 カボックの外に出るにはばくだんのひとつやふたつじゃ間に合わない。フラムやレヘルンなんかは使う源素も少ないからそれこそ、普段からたくさん持ち歩いていた。
 だから、ここに来た日も当然、持ち歩いていたことを説明すると、先生はまたも顔をしかめてしまった。

「どれほど持ち歩いていたんだ?」
「えーっと、ばくだんが17個、おくすりが12個ですねぇ」
……重複分は置いておいていい。ただし、間違ってもこの部屋から出すな、いいな!」
「えぅ、わかりました」

 それから先生は道具をひとつひとつ見ながら、そうっと鞄の中にしまっていった。
 道具がカバンの中に消える度、自分の中の大事な物が削り取られるような気分になった。使う気はなかったとはいえ、ばくだんもおくすりも私の身を守る手段だったものだ。だから、それらを持って行かれて、持ち歩くなと言われると心許ない気分になる。
 先生は最後に私が書いたメモをポケットにしまうと、道具を部屋から出すなと改めて釘を刺して、部屋を出て行ってしまった。

「はぁ……

 空いてしまった机の上がとても寂しい。とはいえ、落ち込んでる暇はない。
 思ったよりも時間を食っちゃったから、早くお弁当を作って、ユウくんのお屋敷のお片付けに行かないとだもんね。

 気を取り直してキッチンへ行くと、ユーレイさんたちが朝ごはんのお片付けをしているところだった。
 邪魔にならないように、隅の方で作業をしようと場所を借りる。

「あのぅ、お伺いしたいんですけど……

 それから、ユーレイさんに道具の場所や使っていい材料を聞いて、さっそくお弁当を作った。この前、ユーレイさんに教わったばかりのツナサンドだ。ロールパンを焼いて、具材を作って挟むだけ。
 キッチンのお手伝いをしているという火の妖精さんが手伝ってくれたおかげで、パンはすぐに焼けた。
 作ったのは、ママが若い頃にパパのために作ったというロールパン。同じレシピで作ってるのに、私が何度作っても、ママのようにできなくて不思議だった。ママは「ティナも大好きな人ができたら作れるようになるよ」なんて言ってたけど、よく分からない。
 焼きあがったパンをお皿に並べて、冷ましてる間に挟む具材を作った。ユーレイさんから材料をもらって、キュウリとツナ缶をマヨネーズで和えたもの、それと同じようにキャベツとハムを和えたものの二種類。ユーレイさんが教えてくてたものだ。

「あぁ! それはダメだよぉ!」
「うぇ?」

 湯がいたキャベツを絞っていると、突然ユーレイさんの大声がキッチンに響いた。なにがあったのかと声のした方を見ると、寮の人が私のパンを食べていた。その人もユーレイさんに驚いたのか目を丸くしている。
 ユーレイさんは困り顔で私が作ったパンだと説明すると、その人もまた驚いたような顔になった。

「え、そうなの!?」
「えぅ、はい。お弁当作ろうと思ってて」
「ごめん! オレ、知らなくて」

 その人は慌てたようにきょろきょろしながら、しきりに頭を下げていた。食べられちゃったのはちょっとがっかりかも。でも、多めに作ってたから、三人分のお弁当にするには十分な量は残ってる。

「えと、大丈夫です。」
「ほんとごめん、オレ、朝飯食いっぱぐれてて」
「え、そうなんですか?」
「うん。だからといって言い訳にはならないが、その、ごめん」
「えっと……

 それじゃあお腹が空いてるはずだよね。お腹が空いてる時に、誰のものでもないパンがあれば、そりゃあ食べちゃうってものだ。私だって知らなかったら食べると思う。
 びっくりしたけど、別に怒ってるわけじゃないし、そういうことなら分けてもいいかも。そう思って、その人にかぶりを振った。

「そのぅ、いいですよ? えと、よかったらもふたつどうぞ」
「いいのかい?」
「はい。お腹が空いてるのって辛いですもんね」

 きょとんとした顔をするその人に、小皿にパンを二つ分けて渡した。男の子だから二つでも足りないかもだけど、これ以上あげちゃったら、私たちのお弁当がなくなっちゃうもんね。
 それはいいんだけど、このままじゃサンドイッチ用の具が余っちゃう。だから、その人にはちょっと待ってもらって、急いで和え物を作って、小皿に盛ったそれをその人に渡した。

「よかったらこれもどうぞ」
「えっ」

 その人は、しきりに頭を下げて、けども、ありがとうって嬉しそうに笑った。そんな顔を見れば、いいことをしたようで、私も気分がいい。やりとりを見ていたらしいユーレイさんもニコニコしている。

「キースリンクさんも人がいいねぇ」
「えへへ……

 ちょっぴり嬉しくなりながら、サンドイッチを仕上げて、ユーレイさんから借りたお弁当箱に入れて、バスケットにしまい込んだ。
 それから、運動着に着替えて、お弁当とこの前用意したグリムくんへのお詫びのツナ缶を持って、植物園に向かった。
 先生が話を通してくれていたからか、管理人さんに声をかけると、建物の修理に必要だというお道具箱を貸してくれた。
 意外にも、中に入ってる道具はなじみのある物ばかりでちょっとだけ、安心した。

「木材が必要なら都合できる物もありますので、遠慮なく相談してくださいね」
「ありがとうございます! えと、お借りしますね」
「はい。17時前にはお返しください。道具の手入れはこちらで行いますので、汚れてもそのままにしてくださいね」
「わかりました」

 管理人さんにお礼を言って、植物園を出る。両手は荷物はいっぱい。前から歩いてくる人にぶつからないよう、気を付けながらユウくんのお屋敷へ続く、荒れた道を進んだ。