いまち
2023-06-13 00:41:40
9579文字
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14話・ティナの魔法と昨日のそれから


 朝、さっそく昨日作ったスカートをはいて登校した。新しい服はやっぱりウキウキする。それがイイものなら猶更。その上動きやすいものだから、それもまた嬉しくてつい駆け足になってしまった。
 まだひと気の少ないメインストリートの空気は、少し湿っぽくてつんとしている。運動場からは賑やかな声が聞こえてきて、なんだかちょっと楽しそう。一昨日部活の見学に行った時、授業が始まる前に練習をするって話を聞いたから、それなのかな?
 そんなことを考えていた、今日こそ入部届を出さないいけないことを思い出した。昨日は授業が終わってすぐヴィルさんとスカートを作ってたから、出せずじまいだった。届け出は今日までだって言ってたし、朝のうちに出しておこうかな。
 それに、エースくんたちの様子も見に行かないとっていうのもある。決闘の結果は正直どうでもいいけど、ケガは心配だもんね。
 お薬も用意してきたから、二人がケガをしているようなら使おう。もちろん、使う機会がないに越したことはないんだけど。
 歩く度にたぷたぷするお薬の音を聞きながら、カボックとは違う朝の空気を横切って教室に向かった。

「おはよー」

 いつものように教室の隅で本を読んでるイグニハイドの子に声をかけると、その子もいつものように顔を上げて、けど、いつもと違う顔になった。口は半開きで目を丸くしながら私のスカートをじっと見ていた。

「え!? あ、それ……
「えへへ、昨日作ったの」

 色はともかくかわいくできたから、自慢したい気持ちがいっぱいあった。だから、気付いてもらえて嬉しい。

「ね、似合うかなぁ?」

 だから、ちょっぴり調子に乗って、形がよく分かるよう、裾を広げてその子に見せた。すると、いつもの子はきょろきょろ見回して、困り顔で頷いた。

「ん……その、かわいい、んじゃないかな」
「えへへー、ありがと!」
……オレにはよく分かんないけど」

 その子は目線を本に戻すと、そう小声で付け足した。
 考えたらそれもそうだ。つい酒場のおじさんたちへのノリで自慢しちゃったけど、ここの子たちはそうじゃない。小さい頃から私を知っるわけでもなければ、お友達とも言い辛い。
 それなのに、感想の無理強いみたいなことをするのはよくないよね。反省しつつ、誉め言葉はそのまま受け取っておくことにした。

「んと……

 朝のうちに済ませたいことはいくつかある。入部届を出すとか、エースくんたちの様子も気になる。それにヴィルさんにお礼も言いたい。
 メインストリートや廊下を歩いた感じでは、まだ寮にいる子の方が多そうだ。だとしたら、エースくんやヴィルさんはまだ来てないのかも。だったら、先に入部届を出しに行けばいいかな?
 ちょっと考えて、まずは先生の所に行くことにした。先生たちのお部屋からここまでは離れてるから、行って戻ったくらいにはちょうどいい頃合いかもしれない。
 そうと決まればさっさと行こう。フロシキから入部届を出して、書き洩らしがないか確認した。今日の日付、私……じゃなくてパパの名前、所属クラスと寮、それとサイエンス部に入りたいということ。
 それらをきっちり確認して教室から出た。出る間際、いつもの子がまたじっと私のスカートを見ていたのに気付いた。
 私が見ているのに気付くと、慌てたように本に目を戻したけど。もしかして、ハデな色のせいでヘンに思われちゃってるのかな?

 先生に入部届けを出して、そのままヴィルさんの教室へ行こうとすると、どこからともなく妖精さんが寄ってきた。この前お話した風の妖精さんだった。

「ティナー!」
「妖精さん、おはよー」
「会いたかったわ! ほら、あなたも!」

 妖精さんは私の腕に抱き着いて、もう一人の妖精さんに声をかけた。
 見ると、柱の影にいかにも水といった見た目の、水の源素をたっぷり蓄えている妖精さんが見えた。妖精さんじとっとした目で私を見ていたものの、風の妖精さんに呼ばれてゆっくり、私の目の前に来た。

「この子から聞いたの、あなたがティナなのね」
「えと、はじめまして。ティナ・キースリンクです」
……うん」

 水の妖精さんは大人しい子なのか。あまり口数は多くなさそう。同じ水を司るものでも、いっつもお説教してきたニンフとはずいぶん違う。
 風の妖精さんはそんな水の妖精さんのことを気にするでもなく、私から離れて水の妖精さんに腕を絡めると、とっても嬉しそうな笑顔を見せた。

「ティナ、まだ授業は始まらないでしょう? 遊びましょ」
「えぅ、ごめんなさい。これから人に会わないとなの」
「そんなぁ、じゃあじゃあ、お喋りは? ダメ?」

 申しわけないなと思いつつ断ると、風の妖精さんはしょんぼりしてしまった。
 対して水の妖精さんがきょとんと首を傾げている。

「誰に会うの?」
「えと、ヴィルさん。って知ってるかなぁ?」
……ヴィルは少し前に寮に帰ったわ。身支度してから来るから、会うならあの子の教室の前で待ってるといい、と、思う」
「へー」

 ぽつぽつ話す水の妖精さんに風の妖精さんはニコニコしながら相槌を打った。
 教えてくれるのはとてもありがたい。

「そうなんだ。教えてくれてありがと!」
「ん……

 水の妖精さんは小さく頷いた。妖精さんにお礼を言って、ヴィルさんの教室へ向かおうとすると、妖精さんたちもついて来た。おしゃべりしたいから、と風の妖精さんは笑って、それに水の妖精さんが頷いた。
 ヴィルさんのことを教えてくれたし、邪険にするのも悪い。それに、妖精さんとおしゃべりをするのは楽しいもんね。いいでしょ? と笑う妖精さんに私も頷き返した。

「じゃあ、一緒に行こっか」
「えぇ! ほら、あなたも!」
……うん」

 それから、二人となんてことないおしゃべりをしながら、三年生のフロアまできた。こっちもあまりひと気はない。それでも、ヘンな目で見られることには変わりなかった。
 上級生にジロジロ見られるのはちょっと怖いかもだけど、妖精さんとおしゃべりしてるせいか、意外と気にはならなかった。

「ヴィルの教室はこっちよ」
「ありがとー」

 水の妖精さんについていくと、3-Cとお札がついた教室に着いた。
 覗いてみたけど、ヴィルさんはまだ来てない。そのままおしゃべりしながらヴィルさんを待っていると、ぽつぽつ人がやってきた。そして案の定、ヘンなものを見る目を向けられた。
 ヴィルさんはまだ来ないのかなぁ、なんて思いながら人の流れを見ていると、ケガをしている人が多いような気がした。
 やっぱり三年生ともなると、危険な実験とか魔法とかするのかも? 他人事のように思いながら待っていると、見覚えのある美人がこっちに向かって歩いて来た。
 見間違いようがなくヴィルさんだ。やっぱりというか、今日も目が眩みそうなほどキレイ。
 声をかけようとすると、ヴィルさんも私に気付いたようで、怪訝そうな顔をしてこっちに来た。

「アンタ、なんなのそれ?」
「えっ?」

 開口一番、ヴィルさんは私のスカートを睨み付けている。やっぱり、このハデな色のことを言ってるんだろう。
 正直、私もどうかと思う。いくらなんでもハデすぎるもんね、この色。

「えと、リリアさんが塗っちゃったんです。戻してくださいってお願いしたんですけど、聞いてくれなくて」
……あぁ、リリアならやりそうね」

 ヴィルさんは呆れ顔でため息を吐いた。
 それから私の頭から爪先までじいっと見て難しそうな顔で頷いた。

「奇抜だけど、それほど悪くないわね。良くもないけど」
「そー、ですか?」
「えぇ。それで、着てみてどう? サイズは合ってる?」
「ちょうどいいですねぇ、ご飯を食べても苦しくなかったので!」
「なら良かったわ。それで、こんなところで何をしてるの? マレウスなら隣の教室よ」
「えと、ヴィルさんにお礼を言いに来たんです。スカートのこと、ほんとにありがとうございます!」

 お礼を言うとヴィルさんは少し驚いたように眉をひそめて、それからくすくす笑い出した。

「あらあら、ご丁寧にありがとう。でも、それを言うのはもう一着作ってからじゃない?」
「そうかもですけど、すっごく嬉しくて……えへへ」
「ま、気持ちは受け取っておくわ」

 お話していると知らない人が私たちを見ていることに気付いた。メガネをかけた大柄な人で、ほっぺに木のようなマークのお化粧をしている。そして、この人もまた顔や手にずいぶんと傷を作っているようだった。
 その人はヴィルさんをじっと見ていた。もしかしてヴィルさんに用事があるのかも。だとしたら、長々とお話するのは悪いよね。改めてお礼を言って、妖精さんたちと一年生のフロアに戻った。

 教室に戻って、お仕事に行くという妖精さんと別れると、ホームルームまでそんなに時間がない。エースくんたちのことも気になるけど、様子を見に行くヒマはなさそうだった。
 それなら、またお昼ごはんの時にでも一緒になればいいかな? そんなことを考えながらフロシキを解いていると、辺りの様子がどことなく違う気がした。
 不思議に思って見回すと、妙にくたびれている子たちがいた。その子たちは固まって、疲れたような顔をしながらお喋りをしている。よく見ると、その子たちも三年生のフロアにいた人たちと似た傷をあちこちに作っていた。

……バーブロ……って本当……るんだな」
「マ……オレ、……ぬかと思……
「でもさ……から、……かったよ」
「お前はのん……なぁ」

 その子たちは、ヒソヒソと話をしながらため息をついていた。何かあったんだろうなというのは察せられるけど、漏れ聞こえてくる話からは、なにがあったのかてんで分からない。
 私が知らないだけで、大変なことでもあったのかな? 教室を見回すと、その子たち以外にもケガをしている子は多かった。
 なんかあったにしても、多すぎる気がする。寮にいた時もこんなにケガしてる人、いたかなぁ?

「んー?」

 思い出していると、何かが頭に引っ掛かった。けど、考えても思い付かない。すっきりしないまま、ご機嫌な様子のセベクくんがやってきて、予鈴が鳴った。
 なにが引っ掛かってるのかは気になるけど、思い付かないなら仕方ない。そっちは一旦諦めて、セベクくんに声をかけた。

「ね、ね、セベクくん」
「なんだ」

 相変わらずのしかめっ面に妙な安心感を覚えながら、昨日言い損ねた話をした。ここの生活も慣れたから、これからはセベクくんのお手伝いがなくても(多分)大丈夫なこと。
 それを伝えると、セベクくんはちょっぴり驚いたような顔をしたけど、すぐに得意そうな顔になった。

「ふん! ようやく貴様のお守りから解放されるわけだな!」
「お守り……そうかもだけど」

 露骨に嬉しそうにするセベクくんに、改めて昨日かばってくれたことと、今までのお礼を言った。けど、セベクくんは「リリア様の命に従っただけだ」なんて言って、あまり聞いてる感じはない。
 言いたいことは言えたし、まぁ、いいよね。そう思うことにして座っていると、鐘が鳴って、トレイン先生が教室に入ってきた。
 やろうとしていたことは大体終わった。けど、一番の気がかりだけがそのままで、なんとなく落ち着かない。早くお昼にならないかなって思いながら、午前の授業を受けた。

 二人の事が心配で、いまいち集中しきれないままお昼になった。持ってきたおくすりのひと瓶をポケットにねじこんで、大食堂へ向かった。
 すれ違う人たちにもケガ人が多いものだから、エースくんたちは大丈夫なのか心配になる。つい早足になるのを感じながら、開けっ放しになっている食堂のドアをくぐった。

 すっかり見慣れた人混みの中、エースくんたちがいないか探した。二人はいつもユウくんといるし、ユウくんはよくグリムくんを肩に乗せている。だから、どこかに青白い火が見えないかと目を凝らす。
 探しながら、ユウくんのことも考えた。できるなら、今日こそお屋敷のお掃除の話をしたい。明日は授業はないそうだから、今度こそ約束を取り付けたい。あの感じだと雨漏りとかもしてそうだし、修理道具とかいるかなぁ……なんて考えていたら、ようやく人垣の中からグリムくんの耳を見つけることができた。

「すみませーん、ちょっと、通してください!」

 見失わないようにグリムくんの耳を見ながら人垣を掻き分けながら進む。
 ここにもケガをしている人はわんさかいた。見ていると、やっぱり何かが引っ掛かる。それと、少しだけ物足りなさも覚えた。なにか見落としてる気がする。けどもやっぱり、なんなのか思い付かない。
 もやもやしながら歩くうちに、ユウくんたちの姿が見えてきた。ユウくんとグリムくん、そしてやっぱりエースくんとデュースくんもいた。

「ユウくーん!」

 声をかけると、四人はこっちに振り向いた。見つかってよかったと思うのもつかの間、ユウくんたち四人もまた、揃って傷だらけになっていた。グリムくんにいたっては後ろ頭がチリチリに焦げている。

「え……

 今朝からケガをしている子をよく見たものだから、なんとなくそんな気はしていた。けど、改めてそんな姿を見てしまえば、動揺もする。
 びっくりして動けないでいると、ユウくんがこっちに顔を向けた。それにつられるように、エースくんたちも傷だらけの顔を見せてきた。

「ティナもお昼?」
「あ、うん。じゃなくて、そのケガ!」
「あー……

 エースくんとデュースくんがケガをするのはわかる。昨日は寮長さんと決闘するって言ってたから、「こてんぱんにやられちゃったのかな」って思うだけ。
 でも、ユウくんまでケガをするなんて、どうしちゃったんだろ? 聞いていいのかよくないのか、迷っているとユウくんが「後で説明するよ」と困ったような顔をした。

「うん。えと、じゃあ、一緒にご飯食べよーね?」
「うん」
「二人もいーい?」
「おー」
「僕は構わない」
「よかったぁ。じゃあ、私もご飯とってくるね」

 何があったのか聞けることにほっとしつつ、私も自分のご飯を取って、先に席に着いているユウくんたちと合流した。
 昨日と同じように五人で席に着いて、改めてエースくんたちと向かい合う。さっきはケガに気を取られて気付かなかったけど、よく見たら二人からも、ユウくんたちからもお仕置きの首輪がなくなっていた。

「えっ!?」

 首輪がなくなったってことは、寮長さんとの決闘に勝ったってこと? そう思ったけど、とてもじゃないけど昨日のあの作戦で勝てたとは思えない。

「ティナ、どうしたんだ?」

 理解できずに固まっていると、デュースくんが困ったような顔をしていた。そうだ、決めつけはよくないよね。考えられないけど、二人がすっごく頑張って勝ったのかもだし。
 でも、そうだったとしたら、なにかがしっくりこない。もし寮長さんに勝ったのだとしたら、その割にみんなして大人しすぎる気がする。
 エースくんやグリムくんなんかは、そんなことがあったら、ものすごくはしゃぎそうなものなのに。やっぱり、ちゃんと謝って外してもらったのかな? でも、そうだとしたらケガをしてる理由が分からない。

「えと、昨日の決闘はどうなったのかな、って」
「あー……

 分からないから聞いてみると、エースくんは複雑そうに顔をしかめた。こんな顔をするってことは、少なくとも勝ったわけじゃないんだなって、なんとなく思った。
 口ごもるエースくんの代わりに口を開いたのはユウくんだった。

「二人は負けたよ。一瞬だった」
「やっぱり」
「ちょー! 『やっぱり』ってなんだよ!」
「だって、あの作戦じゃ無理があるもん……じゃあなんで首輪を外してもらえたの? 謝ったの?」

 重ねて聞くと、三人はまた困ったような顔をした。グリムくんだけは嬉しそうにポークソテーを飲み込んでいる。

「リドルが闇落ちバーサーカーになって、それどころじゃなくなったんだゾ」
「闇? バー? どゆこと?」

 意味の分からない言葉を並べられてちょっと困った。そもそもリドルさんって誰だろ? グリムくんはそれ以上説明する気はないようで、今度はエビフライにかぶりついていた。
 どういうことかと思ってエースくんたちに目を向けると、呆れたような、うんざりしたような顔でかぶりを振った。

「あー、平たく言うと、ウチの寮長が大暴れした。ってこと」
「うえ? えぇっ!?」

 やっぱり意味がわからなかった。
 ユウくんの話では決闘自体はあっという間に決着がついたらしい。けど、それなのに暴れるってどういうことなんだろ? 二人に追い討ちをかけたとか? でも、決まり事に厳しいという寮長さんがそんないじわるというか、ひどいこと、するのかな?
 いまいち信じられなくてデュースくんを見ると、デュースくんも小さく頷いた。

「その、大変だった」
「エースくん、また寮長さんにケンカを売ったの?」
「してっ、ねー、こともない……いや、オレだけじゃねーし! や、でもきっかけは、いやいや、うーん……

 よく口の回るエースくんにしては珍しく、歯切れが悪い。それはつまり、負け惜しみかなんかして、また寮長さんを怒らせたのかも。
 そう考えて、今日こんなにケガ人がいる理由もなんとなく分かった。ケガをしていたのは、きっと、寮長さんの大暴れに巻き込まれた人たちだ。
 誰がケガをしてるかなんてちゃんとは見てなかったけど、三年生のフロアにいたメガネの人もデュースくんみたいなマークのお化粧をしてたから、たぶん、ハーツラビュルの人。
 本当に、なにをどうしたらこんなに大勢を巻き込む惨事になるのか分からない。とはいえ、首輪がなくなってるところを見るに、それだけじゃないことも分かる。

「でも、仲直りできたんだよね? よかったねぇ」
「気色悪い言い方すんじゃねぇ!」
「? 仲直りしたから首輪を外してもらったんじゃないの?」
「そうだよ」

 なぜか認めたがらないエースくんをよそにユウくんは頷いた。それが気に食わないのか、エースくんはユウくんを睨みつけている。

「はぁ!? オレはまだ許してねーし!」
「うんうん。仲直りできてよかったねぇ」
「聞けよ!」
「エース、うるさいぞ」
「はぁ!?」

 エースくんは顔を真っ赤にして怒ったような顔をしてるけど、その実、口元は緩んでいた。
 ちゃんと仲直りできて丸く収まってるならそれに越したことはない。ちょっぴりよくないこともあったようだけど、ユウくんも笑ってるから、それもうまいことおさまったんだろうな。
(ならイイかな)
 やいやい言い合う四人を見ながら、ポケットに入れたおくすりに触る。
 もしエースくんが悪さに悪さを重ねていたら、使うかどうか迷ったところだった。けど、そうでないならこれを使おうって気になれる。
 今となっては貴重な、マナ調合で作ったおくすりだから大事に使いたいもんね。

 決闘のせいか、寮長さんが暴れたせいかは知らないけど、4人とも結構なケガをしている。顔も、手も、多分、見えないところも傷だらけなんだろというのは簡単に想像がついた。
 こんなことになってるんなら、もっとイイおくすりを持ってくればよかったかも。ちょっぴり後悔しつつ、ポケットからおくすりを出した。フラスコに似た瓶の中で、赤い薬液がたぷたぷ揺れている。
 水の源素で作った回復薬、リフュールポットだ。本来は飲み薬だけど、ケガしたところに塗れば傷薬としても使える便利なもの。味だって、この前先生に貰ったおくすりと比べればずっといい。

「ティナ?」
「なんなんだゾ?」

 リフュールポットに4人は不思議そうに首を傾げた。そんな気はしてたけど、この世界にも、ユウくんのいた世界にも、こういう錬金術の道具はないらしい。

「んとね、私の世界のおくすり。みんなケガしてるから使おうかなって」
「異世界の薬ぃ?」
「マズいもんはヤんだゾ!」
「その、大丈夫なのか?」

 みんなの反応はとてもじゃないけどイイものとは言えないものだった。グリムくんにいたっては毛を逆立てていて、怖がれているのがまるわかり。ちょっと悲しい。
 そりゃあ、異世界のものってなったら不安に思うのも分からなくもない。でも、効果はちゃんとしたものだ。ヘタに説明するよりはさっさと使っちゃった方がいいかも。
 ポケットからマジカルペンを取り出して、リフュールポットを頭の上に放り投げて、魔法をかけた。カボックにいた時にもよく使っていた、マナの力を増幅させる魔法だ。いつもはばくだんの範囲を広げることだけに使ってたから、おくすりに使うのはちょっと新鮮かも。

「広がれぇ!」

 異世界でもちゃんと使えるか心配だったけど、成功したみたい。魔法をかけた薬液は水の力を増幅させて、私たちの周りに降り注いだ。見ためこそ赤い液体だけど、その実は水の源素を固めたものだから、濡らしたり、汚したりする心配はない。
 見ると、おくすりを受けて、4人の傷は塞がった。強いおくすりじゃないから、深い切り傷は治せない。けど、腫れは引いたし擦り傷のような小さな傷は塞がった。グリムくんのチリチリだった毛もふさふさに戻っている。

「え?」
「痛みが、え?」
「オメー、なにしたんだゾ!?」
「だから、おくすりを使ったの」
「いやいやいや! どんな薬だよ!」

 エースくんは驚いたような顔をしてるけど、そんなに驚くことかなぁ? この世界のおくすりだって十分すごいと思う。一昨日先生からもらったおくすりだって、味はひどかったけどとってもよく効いたもん。

「えと、私のいたとこの錬金術で作ったおくすり?」

 どんな。って聞かれてもこう答えるしかない。作り方と使い方は教わってるけど、くすり自体の成り立ちとかは知らないもん。

「そーゆーワケじゃ……まぁいっか」

 エースくんは納得してないような口ぶりだけど、諦めたようにため息をついた。
 イイことしたなって、ちょっとだけいい気分になってると、ユウくんに肩をつつかれた。

「ティナ」
「ん?」
「ありがとう。自分、傷薬とか買えないからすごく助かった」
「どういたしまして! えへへ……

 まっすぐにお礼を言われて、ちょっとくすぐったい。なんとなく照れくさくて、話題を変えることにした。

「えと、話は変わるんだけど、明日ってユウくんのお屋敷に行ってもいーい?」
「えっ?」
「ほら、お屋敷のお掃除。手伝うって言ったでしょ」
「あぁ。うん、大丈夫」

 今日までなかなか予定が合わなくてフられてたけど、やっと頷いたユウくんにほっとした。
 ようやくあのひどいお屋敷のお掃除ができるんだもん。お屋敷がキレイになれば、ユウくんもグリムくんもゆっくり休めるし、病気とかにもかかりにくくなるはずだもんね。
 それから何時からお屋敷に行くか、修理が必要なところはあるか、道具とかはどこにあるのか、なんて話し合いをした。
 エースくんたちも手伝ってくれないかって聞いてみたけど、昨日の後片付けをしなきゃいけないのだと断られてしまった。
 ……そんなに色々しなきゃいけないなんて、寮長さんどんな暴れ方をしたんだろ。ちょっと気になるかも。