いまち
2023-03-17 00:25:31
4718文字
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セベクの異世界カチコチおつかい記(とちゅー)

私だけが楽しいやつ。
ビオラ:ティナのママ。魔技師でキースリンク家の大黒柱。
クレイン:ティナのパパ。錬金術士。

~やっつけあらすじ~
 なんやかんやあって元の世界に帰ったティナ。しかしマナたらし体質を持つティナを妖精sは諦めなかった。若様が望まれるので! と使命感を胸に、ティナをTWLに連れ戻そうと単身レガルザインへ向かうセベク。そこからなんやかんやでキースリンク家に住み込み、カボックで仕事をしつつTWLへ戻れ戻れと隙あらば刷り込んでいるのであった。ティナに戻る気があるかは知らん。

+++++

「それじゃあ、今日はこれをお願いね」
「うん、わかった」
 採取用のカゴを背負ったティナはビオラから材料のメモを受け取った。
 そんな母娘のやりとりを横目にセベクは帳簿片手に倉庫内の棚卸しをしていた。本来であれば、キースリンク家の誰かがやる仕事ではある。
 が、几帳面なビオラは店の支度に忙しく、長男はとっとと学校へ向かい、クレインとティナは非常に大らかな仕事をするため、傍から見ていたセベクは大いに苛立った。結果、二人から仕事を取り上げせっせこ帳簿にペンを走らせていた。
 そんなセベクの横暴ともいえる態度にキースリンク家の面々は「わぁ、ありがとー」と実にのほほんとしたものだった。住んでいた村ごと一夜ですべてを失ったていたり、世界を救ったりした人間は逞しく、16歳のオトコノコが吠えてものほほんとしていられるのだった。
 そんな暢気な娘とその製造元にイラつくことはあるも、居候の身でどうこう言えるわけもなく、セベクは淡々と仕事を進めていた。そんな中、店からビオラが声をかけてきた。
「セベクくん、それが終わったらティナと一緒に採取に行ってくれる?」
「分かった」
「えっ!?」
「なっ!」
 ビオラの言葉にティナと掃除中のクレインの声が重なった。
「ママ! セベクくんにアーレキア洞窟は無理だよ!」
「そうだ! 二人きりでそんな遠出なんて許さないぞ!」
「なんだと!?」
 慌てふためきながらビオラにかぶりを振る父娘。まるで自身を否定するような二人の物言いに反発してしまうセベク。騒がしい中、ビオラだけが動じず涼しい顔で首をかしげた。
「だって、鉱石が多いとティナ一人で運ぶのは大変でしょ? それにクレインくん、今日はおじさんのお手伝いじゃない」
「一人でもへーきだもん!」
「セベクをノーマンさんのところにやればいいだろ!」
「なんなんだ貴様ら! 僕を馬鹿にしているのか!!」
「そんなんじゃないけど、でも、無理だよぅ……
 もにょもにょ口ごもるティナにセベクの堪忍袋の緒はブチ切れた。
 クレインの、娘の身を案じる気持ちは分からなくもない。セベク自身のその気は綿毛の先ほどもないものの、未婚の男女が二人きりでひと気のない場所に出向くのはあまりよろしいとは言えないことは、良識の一つとして把握していた。
 けれど、ティナのそれは完全にセベクを侮ったものだ。少なくともセベク自身はそう捉えた。
 実際、ティナの向かう採取地はセベクの身に優しいとは言い難い場所なので、ティナの言う事は間違っていない。けれど、セベクにそれを知る術はなかった。
 ぷっちんしてしまったセベクは即、棚卸を済ませると帳簿をビオラに叩きつけ、魔法で身支度を済ませ、ティナの背負いカゴをもぎ取った。
「あっ」
「そのアーレキア洞窟とやらはどこだ?」
「話が早くて助かる。えぇとね……
 ビオラの話と、酒場に掲示されていた地図を照らし合わせ、セベクは頷いた。
「行くぞ! モタモタするんじゃない!」
「え、あ、ちょ!?」
 困り顔のティナの腕を引いて、セベクは店の隅にある「妖精の輪」と呼ばれる転移装置に足を踏み入れた。
 妖精の輪の中は半次元上の世界で、そこを軸に同じ時間、同じ世界の別の場所へ移動することができる。
 輪の中に住む鍛冶の妖精への挨拶をそこそこに、セベクはティナの腕を引きながら洞窟より一番近い街、アコースと呼ばれる港町へ向かった。
 到着早々、ティナは困り顔でセベクを見上げた。
「やっぱり、セベクくんはここで待ってて? えも、採掘場で原石とか集めててくれないかなぁ?」
「冗談じゃない!」
「えぅ……だって、ほんとにセベクくんには無理だよ。火山だし、その、寒いし」
 ティナの「寒い」の言葉にセベクはわずかに顔をしかめた。セベクは寒さに弱い。けれど、すぐ考え直した。この地方の北部は結構な豪雪地帯だと聞いている。
 しかし、これから向かう洞窟は地図上ではそこまで北にはない。今いる街の気温は高く、ここから歩いて行ける距離で動けなくなるほど冷えるとは、到底思えなかった。
 そんなものだから、ティナはこの世界のことをよく知らぬセベクを侮ってバカにしている。と、セベクはそう思ってしまった。
「いい加減にしろ!! リリア様の教えを賜った僕が!!! 火山ごときに怯む訳がないだろうがッ!!!!!」
「えぅ……
 痺れを切らしたセベクは困り顔をするティナを引きずりながら街を出ようとした。が、ティナは留まり、その前に用があるとセベクを引き止めた。
 それなら、とセベクは渋々ティナの用とやらが済むのを待った。パン屋でいくつかのパンを買い、採掘場へ出向き、そこの商店の女性に先ほどのパンを渡し、代わりに鍵を受け取った。
「お待たせ。じゃあ行こっか……
「ふん!」
 気乗りしない様子のティナをよそにセベクは不機嫌そうに洞窟へ向かう街道に足を向けた。

 アコースは港町であり、人も物も金もよく動く場所だ。ゆえに、餌を求める獣に金品を奪おうとする盗賊がよく出てくる。そこにパンの美味しい匂いをさせた若い男女が歩いていれば、当然、そういった輩に目を付けられる。
 とはいえ、そこは幼い頃から戦いの術を身に付けてきた二人だ。立ちふさがらとする敵を剣で、魔法で、爆弾で、適当にあしらいながらあーはいはいと先へ進む。足止めにすらなっていなかった。
「あれなら寝ているシルバーの方がまだ手ごたえがあるぞ」
……
 リリアの教えを発揮でき、少し機嫌を持ち直したセベクにティナはまたも困り顔をした。街と洞窟の間にある小火山、ヴィラント・パスの中を通り抜ければ目的地は近い。

 どうにかしてセベクを止められないものか……ティナのぴよぴよおつむで考えたところで答えは出ず、あっと言う間に目的地であるアーレキア洞窟に着いてしまった。
 セベクは内部に一歩踏み入ると辺りを見回した。山の中をくり抜くようにあるそこは、洞窟というわりに中は広く、人の手が加わっているように組み入っている。そして、火山に囲まれているだけあって、そこかしこに溶岩の沼ができていた。そして、道中とは比べ物にならない魔物の気配。
 水溜り感覚で溶岩溜まりがあり、弱いとはいえない魔物がいる。心配性のティナが渋るの無理はないと、それとなくセベクは納得した。
 けれど、納得しきってはいなかった。溶岩溜まりは危険ではあるものの、先の小火山と比べればぬるいものだ。それに、入り組んでいるわりに見通しがよければ、奇襲だってされにくい。考えた結果セベクは、自身でも十分対応できると踏んだ。
 次いで、ならなぜティナはあんなにも渋ったのか考えた。ティナは子供の頃から魔物退治をしていたということもあり、急襲を受けてもなんなく対応していた。それに、先の小火山でも溶岩に怯むでもなく普通に歩いていた。
 そんなティナが渋るとなると何があるのだろう? 周囲と、ティナとを見比べながらセベクは考えた。
……やっぱやめとく?」
 一人考え込むセベクにティナは期待の籠った目を向ける。が、セベクはそれに睨み返した。
「冗談じゃない! 与えられた仕事を全うしないでどうする!」
 セベクの大声が洞窟内に反響する。
「うー、あんま大声出さないよぅ……
 ティナとしては、このままこの辺でセベクに鉱石を拾ってもらうのが一番だった。けども、まるで聞く耳を持たないセベクにすっかり参ってしまった。それでもどうにか諦めて、ティナはセベクに向き直った。
「んとね、ここで探すのは宝石の原石と銀鉱石。見たことはあるよね?」
「あぁ。あの虹色の石か」
「うん、コメートっていうの。それを4個と、銀色レジエンっていう石が最低10個。あとはフェスト石も適当に拾ってね」
「あの脆い石だな。わかった」
「えと、私は奥に行くから、セベクくんはこの辺で――
 拾っててね。ティナがそう言うより先にセベクは睨み返した。
「なぜそんなに僕を拒む!」
「だって、セベクくんには無理だもん」
「それがなにかと聞いているんだ! 僕には無理だと散々言ってくれているが、その理由を言え!!」
 セベクの剣幕に怯むティナ。そんな二人の間に人間の頭ほどの大きさの青い服を纏った精霊が割って入った。ティナが契約している水のマナ、ニンフだ。
「ティナをいじめないでください!」
「なッ!? 誰がいじめなぞ!」
「ティナが困ってるでしょう? じゅうぶん、いじめですぅ!」
 かわいらしい顔でセベクを睨みながらニンフは続けた。
「ティナがおつかいを頼まれたのはこの先の『竜の間』、素人さんが入っていいところじゃないんですよぅ?」
「竜の間……?」
 竜と聞き、セベクが思い浮かべたのはマレウスの姿だ。ならばたしかに事情を知らぬ者がおいそれと入っていい所とは思えない。
 半ば納得しつつ、けれど竜と聞き、興味を惹かれてしまった。異世界とて竜に纏わることに触れれば主のためとなるやもしれん。ならば一目見るだけでも叶わぬものか、と、セベクは考え、困り顔をしながらニンフを見るティナに声をかけた。
「その竜の間とは男子禁制なのか?」
「んーん、そうじゃないけど」
「貴様のような錬金術士しか入れないだとかの制約は?」
「ないよ。でも……
 ふるふるかぶりを振りながら答えるティナにセベクは口の端を吊り上げた。
「なら僕も行こう。竜に纏わるものであれば、マレウス様への土産話にしたい」
「や、だから……
 したり顔で話すセベクにティナはすっかり困惑し、ニンフはやれやれとかぶりを振った。
「ティナ、もう諦めましょう。この人、聞く気なさそうですよぅ?」
「えう……でも、無理ならちゃんと言ってね?」
「ふん! 無理などあるものか!」
 観念したティナにセベクはいよいよ得意げな顔を見せた。その横でニンフは呆れ顔でかぶりを振っている。
「んと、じゃあ、こっちね」
 気乗りしない様子のティナの後を一人と一体はついていった。

 洞窟の奥まで歩き、さらに下へ下へと下った先に岩で出来た扉があった。
「えっと、ここが『竜の間』ね」
 言いながらティナが手をついたのは、どう見てもただの岩盤である。が、その岩の中心に明らかに人の手で取りつけられたらしい金属板がある。扉という割に取っ手らしきものはなく、金属板には小さな穴が開いているだけだ。
「なんだこの岩は」
「ちょっと待ってね」
 ティナはセベクに断ると、採石場の店主から受け取った青銅製の鍵を金属板の穴に差し込んだ。すると、軽い地響きと共に、岩盤はゆっくりと左右にスライドしていった。
……魔法か?」
「わかんない」
 奇怪な光景ではあるが、セベクは魔法を常としている国の住人。常識では考えづらいことも受け入れるだけの頭はあった。
「それで、この中に目当ての物があるんだな?」
「うん。でも、辛かったらちゃんと言ってね?」
「くどいぞ!」
 ティナのなおも侮ったような態度にセベクは今日何度目とも分からぬ怒鳴り声を上げた。