いまち
2022-10-30 15:58:03
10298文字
Public のえぴよ
 

後輩のお部屋にお邪魔するっておはなし

まさかの新章突入()。レガルザインのお話し少々(゜ω゜

 期末試験も近い今日この頃、ティナちゃんに誘われてディアソムニアのティナちゃんのお部屋へお邪魔することになった。
 名目上は期末試験を前に、不安があるというティナちゃんのお勉強を見るため。実際はお友達同士で遊ぶためなんだけどね。もちろん、ティナちゃんのお勉強を見るつもりはある。なんせ、私はノエ姉なのでね!

 そして放課後、よその寮にお邪魔するということで、寮服に着替えて、きっちりメイクを直して鏡でチェック。他寮、しかもこの名門校のヒエラルキートップであるディアソムニア寮にお邪魔するのだから、下手な恰好で行くわけにはいかない。靴にくもりなし、ネイルもヨレも欠けもない、髪も結い直したから乱れなし。うん、ボーテ。
 それから、去年の教科書とノートをクリアバッグに入れる。ディアソムニアは王子様である会長がいるからか、警備が厳重だと聞いている。もしかしたら荷物検査があるかもしれないものね、見られて困らないよう持ち込まなければいけない。

……よし!」

 他寮、それもディアソムニアへ向かうとなると緊張する。心の祭壇のアズールくんにお祈りして、気合を入れて、寮から鏡舎へ、そしてディアソムニアへの鏡に飛び込んだ。

 重たい空の下に堅牢な城……もといディアソムニア寮があった。寮章を掲げる門には黒々と鋭い茨が茂り、何人たりとも通さないという圧があった。なるほどね、シンプルに怖いわ。さすがディアソムニア。

「ノエルさーん!」

 寮章を見上げていると、ティナちゃんが元気な声と共に駆けてきた。制服姿にいつものリュックを背負っている。
 ……まさか授業が終わってからずっとここで待ってたのかな?

「ティナちゃん!」
「えへへ、いらっしゃいです」

 行きましょう、とニコニコ笑うティナちゃんと一緒に立派な造りの石橋を渡る。入口前は跳ね橋になっていて、それにもまた圧を覚えてしまった。見上げると、ポムフィオーレとは違う威圧的な城塞がそこにあった。大きな窓から象徴ともいえる緑色の明かりが漏れていて、恐ろしくも神秘的な空気を纏っていた。

「ただいまです」

 入りしな、見張りをしているのだろう寮生にティナちゃんはにっこり笑って挨拶した。その子は「おかえり、キースリンク」なんてほんのり顔をほころばせた。わかるよ、ティナちゃんってかわいいものね、声を掛けられたら嬉しくもなるというものだよね。
 なんて思っていたら、入ってきた私をそれはもう怪訝な目で見てきた。そうだよね、こんなにかわいい子が他寮生を連れてくるとなると、不審に思うものだよね。……悲しい。

「キースリンク、そいつは……
「お友達です! お勉強を見てくれるっていうのでお願いしたんです」
……

 見張りの子は私を怪しんでいるのを隠す様子もなく、露骨に怪しいものを見る目を私に向けてきた。……辛い、こういう扱いは自分の寮だけでも十分なのに! 悔しいからその子にビニールバッグを突き付けた。

「本当です。そのための去年の教科書とノートを引っ張り出してきたんですから」
「む……分かった、通るといい」

 ものすごーくイヤそうな顔をされたけど、無事通ることができた。……本当に警備が厳しいんだな、ディアソムニア寮。

「えぅ、ごめんなさい。いつもはこうじゃないんですけど……
「大丈夫だよ。ここには王子様が住んでるんだから、警戒するに越したことはないからね」
「そう言っていただけるとありがたいです……えっと、こっちです」

 ティナちゃんに案内されながらディアソムニアの廊下を歩く。
 ポムフィオーレのように大きな窓はあるものの、うっすら翳っていて、それが重厚にかつ不思議めいている。あちこちに緑色の炎が灯っているから暗さは感じない。
 いつだかティナちゃんがポムフィオーレに来た時のように、つい辺りを見回してしまう。頑強な壁、堅牢な窓、これだけであれば武骨な要塞だ。けれど、高い天井に施された茨の意匠、ブラケットを咥えるドラゴンの像、シックなアンティークゴールドの燭台を見ると、なるほどやはり、高貴で優雅とうたわれるかの魔女の優美さを思わせてくれた。
 ……は、いいんだけど、すれ違う人たちに睨まれてる気がする。気のせいかと思ったけど、三人、四人からジトジト睨まれれば、さすがに気のせいとは思い難い。ディアソムニアって排他的な寮だそうだから、そのせいかな?
 なんとなく居心地の悪さを覚えながらついて行くと、着いた先は寮の二階の奥まった部屋だった。

「ここが私の部屋です」

 ドアノブにマジカルペンをかざして、開けられたドアの中は一人用の個室のようだった。
 天蓋つきのベッド、どことなく砦を思わせるデスクセットと整理棚、天板にドラゴンの飾りを付けたクローゼット。ポムフィオーレのものと比べるとシンプルな雰囲気の家具だ。
 他には部屋の真ん中に小ぶりな丸テーブルと椅子が二脚、向かい合って置いてある。お客さん用かな? 私以外にもお友達がいるみたいだし、部屋に招待とかするのかなぁ……って考えて、ちょっとだけジェラシー。いや、私が一番仲がいいと思うけどね? なんせほら、ノエ姉だから!
 ……ってついつい考えてしまったけど、どう考えても元からお部屋にあったものだよね。ティナちゃんのことを笑ったりするつもりはないけど、ティナちゃんの経済状況でこんな立派なテーブルセットを買えるわけがないもの。

「お茶を淹れてくるので、ちょっと待っててください」

 そう言って、ティナちゃんは戸棚からディアソムニアらしからぬ、ピンクの花柄がかわいらしいティーポットを取り出すと、それを持って部屋を出て行ってしまった。
 おかまいなんていいのに、そうは思ったものの、ティナちゃんは出て行ってしまった後だ。仕方なくテーブルセットの椅子に掛け、不躾とは思いつつも部屋の様子を眺めた。
 とはいえ、異世界から身一つで来たというだけあって、この部屋には最低限の家具しかない。当然といえば当然なのだけれど、なんというか、こう、もったいないという気持ちになってしまった。かわいい女の子のお部屋なのだから、さっきのポットのようなかわいいものを飾りたい欲求がむらむらとわいてくる。
 かわいい小物とか、ちょっとしたインテリアとか、渡したら受け取ってもらえないかな? 前に一緒にお買い物に行った感じだと、ティナちゃんも女の子らしいかわいいものが好きみたいだし。鏡付きのメイクボックスとか、スタンドミラーとかあるとメイクもしやすそうだよね。
 この感じの部屋にはどういう物が合うかなぁ、なんて考えながら見回していると、ベッドの天蓋に隠れるようにして、何かが壁に立てかけてあることに気付いた。

……なんだろ?」

 気になってよく見ると、かわいらしい杖のようだった。黒を基調とした部屋の中で黄色と青で彩られたそれはいやに浮いて見える。
 いっそう気になって近寄ってよくよく見ると、魔力を帯びていることが分かった。大きな三日月を象った黄色いフレームに、幾何学模様を描くように青い宝石がはめ込まれ、フレームに囲まれるように大きな青い宝石が据えられている。アニメの魔女っ子なんかが持っているようなかわいらしい杖だった。
 けれど、細かい傷や、丁寧に磨かれているであろう形跡から、ずい分と使い込まれているのが分かる。
(異世界の杖だ……
 考えるまでもなく、ティナちゃんが異世界から持ってきた杖だ。気付くと同時に、いけないことをしているような気になってしまった。かわいい杖だし、付いている宝石はとても気になるけれど、部屋の主が不在なのに、こんな家探しみたいな真似をするなんてとてもはしたない真似だ。
 それでもやっぱり気になるから、ティナちゃんが戻ってきたら聞いてみようかな? そうすることにして椅子に戻ろうとするとポットを抱えたティナちゃんが戻ってきてしまった。

「ノエルさん……?」
「あ、ごめん! ちょっと、気になっちゃって」

 ティナちゃんは驚いたような顔をしたけど、すぐいつもの笑顔に戻った。持ってきたポットをテーブルに置いて、私の横を通ってベッドの脇から杖を取り出した。

「私の杖です。カボックではこれで魔物退治とかしてたんです」
「ま、魔物!? っていうか、カボックって?」
「私が住んでた街の名前です」
「あ……

 しまった。普段から時折寂しそうにしているティナちゃん、帰りたくても帰れない故郷の話は私の中では避けるべき話題としていた。根掘り葉掘り聞いて、寂しがらせるなんて絶対してはいけないことだから。どうしよう、話題を逸らした方がいいかな、内心焦る私にティナちゃんは落ち着いた様子で続けた。

「私のいた所では魔物って結構いるんです。だから、お仕事で魔物退治とかしてたんですよ」
「え、えぇ!?」

 こんなにかわいい女の子に魔物退治をさせるなんて! ……一瞬だけそう思ったけれど、不思議と腑に落ちてしまった。だって、ティナちゃん強いんだもの。
 いつかの授業で狼に襲われた時、サバナクロー生と決闘をしたという時、ティナちゃんは臆することなく戦っていた。この学園でしょっちゅう起きる小競り合いやカツアゲなんかじゃない、正真正銘の命をかけた戦いを。こんな、まだまだ親の庇護の元で暮らすべき歳の女の子が、だ。
 そんな子にどう声をかけていいか分からなかった。だって、何を言っても薄っぺらくなりそうなんだもの。自立しているわけじゃない、親のお金でなに不自由なく暮らしてた私に一体何が言えるというのか。

「持ってみますか」
「え…………

 見ると、ティナちゃんが杖を私に差し出している。とってもかわいい杖だし、持ってみたい気持ちはないこともない、けど、私なんかが触っていいのだろうかと思ってしまう。
 躊躇っていると、ティナちゃんがはっとしたような顔をして、しょんぼりと俯いてしまった。

……嫌ですよね」
「へ!?」
「魔物を殴ったりした杖ですし、気持ち悪いですよね、ごめんなさい……
「いやいや、そうじゃないって! その、大事な杖なんでしょ? 私なんかが触っていいのかな、って思っちゃっただけだから!」
「いいですよー。大事な杖ですけど、とっても丈夫なので!」

 そう言って押し付けられた杖を思わず握った。木製らしいその杖は丁寧に磨かれていて、ささくれなんかはまるでない。握り心地はとてもよくて、しっくり手に馴染む触感だ。よほどいい木材を使っているのか、見た目よりも重たく感じる。据えられた宝石からは、魔法石とは違う力を感じる。
 軽く振ってみるとなんだか寮長にでもなった気分だ。そうか、寮長たちはこんな気分で杖を持っていたのか。
 これから先、味わえないであろう感覚にうっとりしていると、ティナちゃんはこの杖の説明をしてくれた。

 なんでも、この杖はその昔、ティナちゃんのお母さんがお父さんのために作った杖で、さらにそれをティナちゃんが譲り受けた物、なのだそうだ。
 なるほど、それならとってもとっても大事な物なわけだ。誇らしげに話すティナちゃんを前に私の背筋は凍り付いた。

「って、そんな大事な物を簡単に人に渡しちゃダメでしょ!」
「ノエ姉なら大丈夫だと思ったので」
「ありがとね!?」

 無邪気に笑うティナちゃんにしてやられてしまった。もう! この子は本当にかわいいんだから!

「えと、それより、持ってて大丈夫ですか?」
「大丈夫って?」

 少し不安そうな顔をしてティナちゃんが聞いてきた。大丈夫、ってなんだろう? 持った感じはなんともない。ブロットが溜まる気配も、体力が奪われるという感じもない。

「なんともないけど、どうかしたの?」
「いえ! なんでもないんならいいんです!」

 ティナちゃんはあからさまにほっとしたようにかぶりを振った。
 一体、この杖になにがあるんだろう? まさか呪いのアイテムとか!? ……いやいや、ご両親の愛の結晶なんだからそれはないか。気にはなるけど、持ってみて満足したし大切なもののようだから、杖は戻すことにした。そうっと元の壁に立てかける。……やっぱりこうして見るとかわいいな。ティナちゃんが持ったらきっと、もっとかわいいんだろうなぁ、なんてつい想像してしう。

 ティナちゃんの意外な話を聞いて少しばかりぼうっとしていると、ティナちゃんは申し訳なさそうに着替えをしたいと言ってきた。まだ制服のままだものね、寮にいる時は寮服を着るものだし、問題ないのでそう伝えると「すぐ着替えますね」と、いそいそとクローゼットから寮服を取り出した。

 ――瞬間、私のかわいいものレーダーがその中を捉えた。

 クローゼットの中で畳まれているピンクとうす黄色の布地、明らかに女の子ものの衣類を見逃す私はいない。

「ね、ティナちゃん。そのピンクのってお洋服?」
「そうですよー。ここに来た時に着てた服です」
「異世界のお洋服……
「見てみますか?」
「え、いいの?」

 もちろんです! そう言ってティナちゃんは脱いだブレザーをハンガーにかけた。
 見たくないわけがない。異世界の服飾事情は気になるし、なによりかわいいティナちゃんの、かわいいお色の、きっとかわいいお洋服だよ? 気にならないわけがないじゃない。

「どうぞ」

 ティナちゃんに差し出されたそれを受け取る。生地は厚手のコットンかな? かわいい色合いのわりにしっかりした触り心地だ。黄色いのは上着かな?

「着てみますか?」

 ティナちゃんはにっこり笑ってそう言うものの、いかんせん、私とティナちゃんでは体型が違いすぎる。いつぞやに寮服を交換した時ではないけれど、着るのは無理なんじゃないかな……このお洋服自体は見るからにかわいらしい雰囲気だから、着てみたいという気持ちは大いにあるのだけれど、ティナちゃんの大切なお洋服だろうし、見るだけに留めておこうと思った。決して、胸部の差異を目の当たりにしたくないとか、そんな理由ではありません。

「ううん、見せてもらえるだけでいいよ」
「そうですか……

 残念そうなティナちゃんに少しだけ心が揺らぐものの、鋼の意志で堪える。こっちにだってね、見栄ってものがあるのでね!
 そんなものは心の隅に放っておいて、ティナちゃんのお洋服を広げた。
 うす黄色のうさみみフードのついたケープ、かわいい。裾に白いフリルをあしらったチョコレート色のミニスカート、かわいい。手首から手の甲まで覆うひし形の手袋、ベルトがついていて留め具に同系色の宝石がついてる、かわいい。
 ……そして、濃淡二色のピンク色の、不思議な柄が入ったトップス。裾が花びらのように広がっていて実にかわいらしい、腰からは皮製の二対のベルトが伸びていて、何かを取り付けるのであろうアタッチメントらしきものと、付けていたであろう形跡がある。実用的だなぁと思った。それはいい。
 けど、この形状はなんなんだ。トップスに袖はなく、胸から上が実に無防備、というか布地がない。いわゆるベアトップというやつだ。そのためか、背中側がコルセットのようなレースアップになっていて、可愛らしい雰囲気なのに妙な色香を漂わせている。はっきり言おう、えっちだ。
 だって、ティナちゃんがこれを着るんだよ? この、豊かなお胸を持つティナちゃんがだよ? グラビアアイドルのようなスタイルのティナちゃんが、こんなボディコンシャスなお洋服を着たらどうなってしまうんだ。とんでもない事案だよ!

「ティナちゃんは、その、元の世界ではこれを着てたんだよね?」
「はい! ママが作ってくれたお気に入りです!」

 念のため聞くと、一切の曇りがない笑顔で返されてしまった。そうかそうか、ティナちゃんのお母さんのお手製か。ティナちゃんの言動を見るに、服飾工場とかそういうものはなさそうだから、手作りだというのは、まぁ、分かる。とっても嬉しそうにこの服を見ていることから、とっても気に入ってるんだろうというのも察せられた。
 ……ごめんなさい、ティナちゃんのお母さん。ご息女をヨコシマな目で見てしまった私をお許しください。
 異世界のお母さんにこっそり謝って、改めて、ティナちゃんのお洋服を広げて見た。
 セクシーなトップスではあるものの、花びらのようにカットされたふんわり広がった裾、健全でかわいらしいスカート、愛らしさをぎゅっと詰め込んだケープ、それらを合わせてみれば、セクシーよりもキュートが勝のではなかろうか。
 全体的にふわっと愛らしい色合いのお洋服、その中でシックなチョコレート色のスカートが、こう、きゅっと締める差し色になって、とってもかわいいのではないのだろうか。メイクにファッションはポムフィオーレ生のたしなみ、考えていたらものすごく気になってしまった。気になってしまえば、もう確認するしかない。

「ねぇティナちゃん」
「なんですか?」
「これ、着てたんだよね?」
「はい!」
……ちょっと、着てるところを見せてもらっていいかな?」

 恐る恐る聞いてみると、ティナちゃんは満面の笑みを見せて「いいですよ!」と快諾してくれた。本当に、良い子だなぁ。
 そして慣れた様子で袖(はないけど)を通すティナちゃん。想像していたとおり、ボディコンシャスなトップスはティナちゃんの魅力を何倍にも強調している。編み上げから匂い立つ色っぽさ、くっきり描かれる悩ましげなボディライン、歳不相応な色気を優しい色のケープに隠して、その裾から覗くのはお花を思わせる裾とフリルがキュートなミニスカート。
 スカートは裾から覗くフリルの重さからか、広がりすぎず、愛らしいシルエットを作っている。しかしそれだけとどまらない。ふんわんしているにも関わらず、ケープの留め具、トップスに付けられたベルトが硬質な「強さ」を匂わせている。
 ティナちゃんのお洋服はかわいいだけではない、芯の通った強さを思わせてくれた。この服は、間違いなくティナちゃんの強さと愛らしさ、そのすべてを知り尽くした者の手によって作られたものだ。……そりゃあ、お母さんなんだから当然なんだけどね?
 たまらずベッド脇の杖を持たせてみれば、もはや勇ましさすら覚える。見れば見るほど、異世界から迷い込んできた女の子のよう。実際、異世界からきた子なんだから、そう思うのは間違ってるんだけどね。それでもつい思ってしまったのだ。

「かわいいなぁ……
「えへへ……お気に入りなので、そう言ってくれると嬉しいです」

 この世界の服とはまた違う魅力に見とれていると、ティナちゃんは照れくさそうにはにかんだ。そんな姿も実にかわいい。
 そしてちょっとだけ、このお洋服のこととか、ティナちゃんのおうちの話を聞いた。お母さんやお爺さんのお店のお手伝いをしていた、とか、錬金術を教えてくれるお父さんの話とか。話している間のティナちゃんは寂しがってるとか、ホームシックになっているような感じはまるでなかった。
 それどころか「カボックに興味を持ってくれて嬉しいです」とまで言い出すほどだ。私が思っているより、この子は自立心が強いのかも。そんな様子にほんの少しだけほっとした。

 それからお勉強をしようと改めて寮服に着替えた。私のせいで時間を浪費してしまったので、魔法でさくっと済ませた。うん、ディアソムニアの寮服を着たティナちゃんもいい。かわいいもかっこいいも着こなせるなんて、なんて魅力的な子なんだ。
 色々着せ替えしたいなぁ……なんて煩悩を頭の隅に追いやってティナちゃんの勉強を見た。
 元いた世界では爆弾や薬の調合をしていたことがあり、召喚術に似た錬金術を使っていて、普段から野山で採取をしていたということから、実技教科はそんなに心配はなさそうだった。
 現に、錬金術はものすごく相性のいい子がいるそうで、実習では毎回クルーウェル先生から褒められているのだそうだ。
 ……ティナちゃんと相性がいいだなんて、どういう子だろ? ティナちゃんと合うくらいだから、きっとその子もかわいい良い子なんだろうなぁ。私もアズールくんとの相性は悪くないけどね! ……まぁ、錬金術の相性だけでお友達ですらないんだけど、ぐすん。
 それはそれとして、ノエ姉を差し置いて相性がいいとは実にけしからん気がするので、今度紹介してもらおう。そして可愛がってやろう。と、こっそり思った。

「やっぱりペーパー試験かなぁ……
「えうー……

 実技教科は問題ない、やはりネックは文系教科、それと一般教科だった。
 そりゃあ、知らない世界の歴史や地理なんて簡単には覚えられないだろう。ティナちゃん自身の学力も、ここでいうところのエレメンタリースクール程度でしかないようで、四則計算からしてちょっと怪しいところがある。
 前途多難かも、そう身構えて教えてみると案外そうでもなかった。
 計算問題は公式の読み解き方を教えてみれば、すんなり理解できたようで、サクサクと正解を導き出していた。……っていうか、計算速度がおかしい。二桁の掛け算を暗算ですっとできるってどんな頭をしているんだ。気になって聞いてみると数字の計算のコツはお母さんから教わったそうで、そのお母さんはさらに早いのだそう。あまりそんなイメージはないけど、理数系が強いんだなぁ。ちょっと意外に思った。
 教えてみるとティナちゃんはすんなり物を覚えてくれた。たまに引っ掛かるところはあるものの、覚え方のコツや引っ掛かった部分を分解して説明すると、それとなく理解はできたようだ。素直だからなんだろうね。ただ、そのせいで引っ掛け問題には少し弱いようだったから、引っ掛け問題にありがちな問題文を見せて「こういう問題は引っ掛けの可能性があるから気を付けて問題文を読んでね」と教えておいた。

 そうやって、休憩を挟みつつミドルスクールまでの基礎を教えていると、夜の7時前になっていた。
 思ったより長居してしまったらしい。ティナちゃんもそれに気付いてか驚いた顔をしたのち、お夕飯を食べて行かないかと誘ってくれた。

「えぇ、悪いよ」
「全然です! お勉強も教えてもらったので、その、お礼になるかは分からないんですけど……

 どうですか? とかわいらしく聞かれて頷かない私はいなかった。ラウンジに行くかほんの少し迷ってしまったけれど、ティナちゃんの手料理の味を思い出して、つい、頷いてしまった。
 しょうがないじゃない、ティナちゃんのお料理ってとっても美味しいんだもの。……それに、先日の外出があったから今のお小遣いも少しばかり、心もとないのだ。ざっと計算したところ2ゼリー飲料生活ぶんくらい。だから、その、ここでご馳走になるのは非常に助かってしまうのだ。私はそんな情けない懐事情をそっと胸にしまって頷いた。

「それじゃあ、ごちそうになっちゃおうかな」
「えへへー、それじゃあ、腕によりをかけて作っちゃいますね!」

 ちょっと待っててください! と嬉しそうに部屋を出て行ったティナちゃんを見送って、私はやることもなくマジカメを開いた。ラウンジのアカウントは特に新情報なし、さすがに試験も近いから、新メニューを開発している場合じゃないんだろう。「ご相談、承ります」の控えめな投稿のみだ。
 アズールくんなら試験勉強をしながら新メニューの開発だってできるだろう。でも、調理や接客するスタッフ、それに試験勉強に集中したい私たちのために控えているんだろう。なんという気遣い。
 それに、アズールくんもお勉強をしなきゃいけないだろうに、相談事も受け付けているなんて、どこまで慈悲深いんだろう。さすが慈悲の精神の体現者、なんて貴いんだろう。深い深い慈悲の精神に涙が出そうだ。
 勤勉で慈悲深いアズールくんはいいとして、試験前にも関わらず遊んでいるような投稿が多い。みんな余裕があるんだなぁ、なんて思いつつ、いいねを付けながら眺めていると、ドアを開ける音と共にふんわりいい匂いが漂ってきた。

「お待たせしましたぁ」

 はい、ティナちゃんの美味しいお夕飯です。今日はお魚のムニエルとライス、それとショウガのスープだった。すっかり胃袋を掴まれてしまった私は流れるようにお夕飯を頂き、ついでに食後のお茶までいただいてしまった。
 おしゃべりをしながらお食事をしているうちに、時刻は夜の八時。さすがに女の子のお部屋にいていい時間でもないからお暇することにした。

「ティナちゃん、ごちそうさま! お夕飯ありがとう、とっても美味しかったよ!」
「えへへー、こちらこそ、お勉強教えてくれてありがとうございます!」

 ティナちゃんに寮の鏡まで送ってもらい、私も寮に帰った。せめてドリンクだけでもとラウンジに行こうと思ったのだけど、この時間はまだお夕飯時、そんな稼ぎ時にドリンクの注文だけではラウンジ的にはありがたい客ではないだろう。
 悲しいけれど、今日のアズールくんは我慢することにして、また明日にでも埋め合わせしよう。ビニールバッグの持ち手を握って私はため息と共にポムフィオーレへの鏡をくぐった。