いまち
2022-10-29 12:58:33
8960文字
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10話・ティナと寮長副寮長

いろいろ。まじでいろいろ。副寮長は概ね料理上手なのになんでディアソだけこうなった、感。

 ポケットに入れたままの宝石が気になりつつ食堂に行くと、ユウくんたちはご飯を食べているようだった。ユウくんとグリムくんが隣り合って座って、向かい合うようにしてエースくんとデュースくんがご飯を食べている。
 リリアさんたちにあぁ言ったあとだから、ちゃんといてくれてほっとした。お話しが思ったより長引いて、もしかしたら先に食べ終わってて、もういないかもって思ってたもんね。
 待っててくれてるのかもだし、ご飯を取りに行く前に声をかけようと4人のいる席へ向かう。相変わらず人が多い席の間をぶつからないようにそうっと歩いた。

「ユウくん! エースくんとデュースくんも、こんにちはぁ」
「オレ様もいるんだゾ!」
「グリムくんもこんにちは」
「ティナ、遅かったね」
「あはは、ちょっと寮長さんの所に行ってたから……えと、遅くなったけど、一緒にご飯食べていいかな?」

 聞くとユウくんは「もちろん」と笑って頷いた。けど、エースくんとデュースくんはどうにも浮かない顔をしている。ついでに、エースくんの首輪はあの後もしっかり戻ったらしく、今日も重たそうにぶら下がっている。

「えっと、迷惑だった?」
「あー、いや。全然いいけど」
「そーぉ……? えと、じゃあご飯とってくるね?」

 エースくんはそうは言ってくれたけど、もしかして迷惑だったかな? 「はいよ」って送ってくれたエースくんに対して、デュースくんは固い表情で俯いたままだ。……やっぱり昨日のことで怒ってるのかも。迷惑なようなら、これっきりにした方がいいのかも。
 そんなことを考えて、ちょっと寂しくなりながらお料理の並ぶテーブルへ向かった。
 お外でお話しをしたせいか身体が冷えちゃったから、温かい物が食べたいかも。そう思って、お野菜がたっぷりのスープと、ガーリックトースト、お魚のフライ。それと、デザートにイチゴのムースをもらった。これ、パパのお友達のねこのお姉さんからよくもらってたんだよね、懐かしくてつい取っちゃった。
 先生からもらったお薬のせいか、あまりお腹が空いてる感じはしないから少なめだ。後でお腹が空いたらどうしようって思わないこともないけど、残りの授業はあと一時間だけだから、お腹が空いたら寮でなにか作って食べればいいかな?

 ご飯を持って4人のいる席に戻ると、ユウくんはグリムくんを膝に乗せて席を空けてくれた。改めて前にしてみると、やっぱり、2人は元気がないようだった。エースくんは首輪が付いたままだからかな、とは思うけど、デュースくんはどうしたんだろ。なんかイヤなことでもあったのかな?

「えと、二人ともなんかあったの? 元気ないけど」
……べっつにー」
「いや……

 聞いてもどうにも歯切れが悪い。どう見てもなにかある。不思議に思いながらガーリックトーストを齧っていると、ユウくんがこっそり教えてくれた。
 なんでも、エースくんは今日のハーツラビュル寮でのパーティーで、寮長さんに悪さをしたことについて謝るつもりらしい。それで、今から緊張してるんだろう、ということだった。ユウくんが苦笑交じりに言うとエースくんは怒ったように顔を背けた。

「緊張なんてしてねーし」
「うんうん、わかるよ。ごめんなさいするのってちょっぴり勇気がいるもんねぇ」
「だから、してねーっつーの!」

 ムキになってるみたいなエースくんの言葉を聞き流して、「ハーツラビュルでは月に何回かパーティーをする」って話をリリアさんから聞いたことを思い出した。
 楽しくしてる時だと、普通の時に謝るよりは許してもらいやすそうだもんね。ちょっぴりズルいエースくんらしい考え方かも、そう思ってちょっと感心した。エースくんが何をしてお仕置きされてるのか分からないし、聞こうとは思わないけど、ちゃんと謝って許してもらえたらいいなと思った。魔法を使えないのは授業で困りそうだし、首輪を付けながらの生活は辛そうだもんね。寝る時とか、どうしてるんだろ。

「ね、ね、エースくん」
「ん?」
「許してもらえるといいね」
……どーも」

 そっぽを向いたまま、なんとも気のない返事だけど、エースくんの表情は和らいだようだ。デュースくんは相変わらず暗い顔をしてるけど。

「あれ? そしたらデュースくんはどうしたの? 悪さはしてないんだよね?」
「えっ!? あ、いや、僕は……

 少し驚いた顔をして、デュースくんはきまりが悪そうに言い淀んだ。どうしたんだろう、寮長さんに怒られてるのはエースくんで、デュースくんには関係ないと思うんだけど……そう考えてはたと気付いた。もしかして、エースくんの心配をしてるのかも。
 二人は仲良しみたいだし、デュースくんはエースくんと違って真面目そうだもん。エースくんのことを、自分のことのように悩んだりしてるんだろうな。そうかそうか、お友達を気に掛けてるんだね。その気持ちもよく分かる。納得して、そんな二人の関係が微笑ましく思えた。

「そっかぁ、エースくんが心配なんだねぇ」
「え!? あぁ、まぁ、そんなところだ」

 思ってたらうっかり声に出てしまった。でも、合ってたみたい。よかった。

「えー、デュースやっさしー」

 ニヤニヤと茶化すようなエースくんにデュースくんはむっと顔をむつけた。照れ隠しかな? でも、さっきまでの暗いような顔ではなくなった。やいやいやり取りする二人を見て、仲良しのお友達がいるっていいなぁ、って羨ましく思った。
 そんな二人をよそに、グリムくんは「オレ様はエースがどうなってもいいんだゾ」なんて言いながらチキンソテーにかぶりついた。

「それよりもごちそうが楽しみなんだゾ! 子分もそう思うだろ?」

 そう言ってニコニコ笑うグリムくんは、ソースでべとついた口元をユウくんに拭われがら同意を求めた。ユウくんは曖昧に笑うだけでなにも言わない。
 ごちそう、ってことはグリムくんとユウくんもパーティーに参加するってことかな? ユウくんに聞くと「なりゆきで」と苦笑いしながら頷いた。寮でのパーティーだけど、寮の人以外も参加していいんだ。ハーツラビュルって厳しいところだと聞いてたから、ちょっと意外に思った。

 ……パーティーでごちそうかぁ、ちょっと羨ましいかも。

 ここに来た時もディアソムニアでパーティーはやってたけど、あの時食べたのはリリアさんお手製らしいビーフシチューとは名ばかりのよく分からないものだった。気絶するようなものすごい味で、この世界の食べ物は私に合わないじゃないかと思ったくらい。結局、それは勘違いだったからよかったんだけど。
 あの時のお料理と違って、ここの食堂のお料理はとってもおいしい。なら、ハーツラビュルのパーティーのお料理もきっとおいしいんだろうな。どんなお料理が並ぶんだろう? 想像だけでもわくわくしちゃう。

「あ……

 ついごちそうに気をとられたけど、ユウくんがパーティーに行くのなら、今日はユウくんのお屋敷に行けないってことかも。お掃除しに行こうと思ってたけど、ユウくんがいないんじゃ勝手に上がるわけにはいかないよね。
 ちょっぴり残念に思いつつ、まぁいっかと思い直して、4人とお話しをしながらご飯を食べた。

 ハーツラビュルのパーティーの話をしたものだから、話題は自然と寮のことになった。エースくんたちのハーツラビュルのこと、私のいるディアソムニアのこと。
 よその寮なんて気にしたことはなかったけど、お話を聞く感じではハーツラビュル寮はディアソムニア寮とはずい分と違うらしい。ディアソムニアは寮の外に茨が茂ってるけど、ハーツラビュルにはキレイなバラ庭園があるのだそうだ。そんなお庭を見て過ごせたらきっと毎日が楽しいんだろうな。キレイなお花って見るだけでもわくわくするもん。
 寮の中は壁や床が色んな色でにぎやかで、廊下や階段、果ては家具までもがぐにぐに曲がっているとか。家具が曲がってるってどういうことだろ。全然想像がつかない。けど、ディアソムニアとは全然違うのはわかった。
 そんな2人の話は聞いててとても楽しかった。逆に4人も私の話を面白そうに聞いてくれた。

「だってさ、ディアソムニアってめちゃくちゃ謎じゃん」
「そうかなぁ?」
「そーそー」

 エースくんが言うにはディアソムニアは特殊な寮で、寮の人たちも近寄り辛くて、他の寮の人たちからすると、なかなかに謎に思われているのだそうだ。昔ここに通ってたというエースくんのお兄ちゃんも、ディアソムニアだけはよく知らなかったらしい。
 けど、いざ話してみると、二人の寮とそれほど変わってるわけではなさそうだった。談話室も、キッチンも、お洗濯機とかもハーツラビュルにもあるらしい。二つを比べるとバラのお庭がないのと、寮の中の雰囲気くらい。置いてあるものとかはそんなに変わらないような気がする。

「変わってるといえば副寮長さんのお料理かなぁ?」
「料理?」
「うん」

 私が入学式の日にリリアさんのお料理を食べて気絶した話をすると、エースくんはそれはそれはおかしそうにゲラゲラ笑い出した。
 なんでも、ハーツラビュルの副寮長さんはとってもお料理が上手だそうで、パーティーのお料理も副寮長さんが中心になって作っているのだそうだ。エースくんは自慢げにそんな話をすると、ニヤニヤしながら「オレ、ディアソムニアじゃなくてよかったわー」とまで言いだした。
 たしかにリリアさんのお料理には問題があるかもだけど、それを補ってあり余るくらい親切だからいいもん。そうは思うけど、美味しいお料理と聞いて、ちょっと悔しいって思っちゃった。リリアさんには悪いけど。
 エースくんは得意げな顔をしてるけど、首輪をつけながらそんなこと言っても、ちょーっと説得力に欠ける気がする。ユウくんも同じことを考えてるのか、うっすら苦笑いを浮かべて、グリムくんは「でも人使いが荒いんだゾ」と小さく呟いた。二人とも会ったことがあるのかな?

「むー……
「へへ」
「でもでも、こっちの寮長さんは首をはねたりしないよ?」
「いや、首はねなくても十分! おっかねーから!」

 そう言ったエースくんの顔は青ざめている。そんな顔をするのも、まぁ、分からないこともない。マレウスさんって、なんとなーく怖いような雰囲気があるもんね。
 でも、怖いのは雰囲気だけで、お話ししてみると全然そんなことないんだけどな。意外と子供っぽいようなところはあるけど、王子様なだけあって鷹揚っていうんだっけ? 大らかな感じがする。リリアさんやセベクくんもマレウスさんのことを慕ってるようだし、そんな様子を見てると、いい王様になるんじゃないかなって思う。いい王様がどういうものか、全然分からないけど。
 ついでに、王子様なんて縁がなかったからどう接していいのかも分からないけど。

「そんなことないよー」
「いや、あるから」

 私たちのやり取りを黙って聞いてたユウくんが思い出したように「そういえば」と口を開くと予鈴が鳴った。

「あっ」
「やっべ!」

 楽しくて、ついつい長話しすぎちゃった。慌てて食器を下げて、急いでそれぞれの午後の授業に向かった。
 結局、デュースくんとはあまりお話しできなかったな、とか。ユウくんは何を言いかけたんだろ、とか。気になったけど、また会った時に考えればいいかな。次の授業はなんだっけ? 思い出しながら教室へ向かった。

 午後の授業も終わって、先生のお話しも終わるともう放課後だ。これからどうしよう? ユウくんのお屋敷のお掃除に行こうと思ってたけど、ユウくんがいないんじゃ勝手に行くわけにもいかないもんね。
 どうしようかなーと、教科書をフロシキに包みながら考えた。
 リリアさんたちからもらった宝石をサムさんに買い取ってもらおうかとも思った。けど、キレイな宝石だからすぐに売ってしまうのももったいない気がする。

「えへへ……

 思い出して、もらった宝石を取り出した。つるつるに磨かれた緑色の宝石は照明の明かりをうけて、コメートのような虹色に光っている。キレイなものが手元にあるのって嬉しいもんね。
 やっぱり持っておこうかな。すぐ売りなさいって言われたわけでもないし、取っておいて、どうしてもお金に困った時とかに売ればいいかな。うん、そうしよう。……とはいえ、傷を付けたりなくしたりしたらもったいないから、部屋に置いておこう。そして、今日のフルーツ缶は諦めよう。
 お部屋に宝石を置いたらあとはどうしようかな。今日習ったことの復習とかしようかな? 図書館にどういう本があるのか見に行くのもいいかも。
 それと「ぶかつ」がなんなのか誰かに聞かないとだよね。先生に聞けばよかったんだけど、もう教室を出てっちゃった後だ。これは明日でもいいかな? 決めるまではまだ余裕があるみたいだもんね。
 それなら、今日はもう寮に帰ろっかなぁ……そんなことを考えながら、教室に残ってる子たちにバイバイを言って校舎を出た。

 校舎を出るとひと際強い風が吹いた。今って秋なのかな? 暖かいけど風は冷たい。見上げた空は高くて薄い雲が広がっている。
 気持ちのいい空を見て、ユウくんたちが参加するというパーティーの話を思い出した。こんな日にバラがいっぱい咲いてるお庭でパーティーをするなんて、きっと楽しいよね。どんなごちそうが出るのかは分からないけど、ユウくんもグリムくんも美味しいものをいっぱい食べられるといいな。
 エースくんにはあぁ言ったけど、美味しいお料理を作ってくてる副寮長さんがいるというのは、やっぱり、ちょっと羨ましいと思ってしまった。リリアさんに不満があるわけじゃないんだけど、あのお料理(?)だけはいただけない、かもだもんね。
 ごちそうのことを考えながら鏡舎に入ろうとすると、道の先に妙な物が転がっているのが見えた。植え込みに隠れてよく見えないけど、あんなもの、昨日はなかったと思う。気になって近付くと植え込みから人の足のようなものが生えていた。

「うえぇ!?」

 一瞬だけ「植え込みに落とし物かなんかして拾ってるのかな?」なんて思ったけど、見えている足は、つま先がお空を向いている。見間違いようがなく仰向けに転がっている姿勢だ。
 どう見てもただ事ではない。ヒヤヒヤする気持ちを抑えようとしながら、急いで植え込みの後ろに回ってみると、そこには何度も見た銀色の髪のお兄ちゃんに似た人が倒れていた。

「あのぅ、大丈夫ですか?」

 顔色は悪くないけど、こんなところで倒れてるなんて、大丈夫なわけがない。そう思いながら、一応声をかける。けども、返事どころか起きる気配もない。

「えっと、大丈夫ですかー?」

 具合が悪い人にそうするのはよくないとは分かりつつ、近付いて、そっとその人の肩をゆるす。キレイな銀色の髪が陽に照らされてキラキラ瞬いた。けど、うんともすんとも言わない。
(まさか!)
 最悪の事態を思い付いてしまい、怖さに胸がぎゅっとなるのを感じながら口元に手を当ててみた。……一応、息はしてるみたい。生きているようでほんの少しだけほっとした。

「えと、しっかりしてください!」

 声をかけながら、頭を揺さぶらないようにそっとほっぺを叩く。それでもやっぱり、なんの反応もない。
 顔色は悪くないし、熱もない。呼吸も乱れてなければ弱くもない。それだけなら場所はともかく、寝てるだけかと思えた。けど、なにをしても目を覚まさないのはとてもじゃないけどお昼寝とかそういうものには見えない。
 これは私の手に負えない。どうすればいいのかと考えて、ケガをした時や具合が悪い時に行くお部屋があると教わったのを思い出した。そこに治療してくれる先生がいるって聞いてたから、そこに運べばいいかも。
 でも、運ぶのはともかく、そのお部屋がどこにあるのか分からない。誰かに聞こうにも、困ったことに辺りにひと気はいない。人を呼びに行こうにも、倒れてる人をそのままにしておくわけにはいかない。

「えと……誰かー! 誰か、助けてください!!」

 だから思い切り声を上げた。あわよくば、起きてくれればとも思って。
 これで誰か来てくれれば……そう思いながら辺りを見回すと、白っぽしい影がこっちに向かって走ってくるのが見えた。

「なんだなんだ、どうしたんだ!?」
「あっ」

 来てくれたのは明るいグレーの髪をバンダナで包んだ、よく日焼けをした男の子だ。高そうなアクセサリーをたくさん付けている。その子も驚いたような、焦ったような顔でこっちの植え込みを覗き込んできた。

「どうした、困りごとか?」
「あの……

 私たちを見ると、バンダナの人は急に笑顔になった。困りごとも何も、見たままだ。人が倒れてるっていうのに、なんで笑ってられるんだろ? 妙なズレみたいなものを感じるものの、その人のあまりにもにこやかな笑顔にちょっとだけ、安心もしてしまった。

「この人が倒れてて、その、助けてください!」
「なんだって!? って、シルバーじゃないか」

 バンダナの人は一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐまた笑顔に戻った。……この人、シルバーさんっていうんだ。初めて知った。
 名前を知ってるってことは知り合いなのかな? それならちょっと助かるかも。その人はシルバーさんと私を見ると「心配いらないぞ」と、にかっと笑って続けた。

「シルバーはよく居眠りをしてるんだ」
「居眠り? でもでも、全然起きないんですよ!?」
「あー、まぁ、驚くのも無理はないかもしれないな。一度寝ると、なかなか目を覚まさないんだ」
「そうなんですか……?」

 居眠りするにしたって、こんなところで、こんなに深く眠るものなのかな。信じられない気持ちでバンダナの人を見ると、それはそれは力強く頷いた。とても頼り甲斐がありそうな雰囲気だ。けども、なにをしても起きなくて、今こうしてる間も目を覚ます気配のないシルバーさんを見ると、これご「居眠り」だなんてとても思えなかった。

……でも、そろそろ起こさないと授業に間に合わないんだよなぁ」

 バンダナの人は困ったようなジェスチャーをしながら呟くと、「そうだ!」と顔を上げた。そしておもむろに腰に刺していたマジカルペンを取り出した。エースくんたちとは違う深い赤い色の魔法石がついている。
 その人が「よっ」と小さくペンを振ると、腕章くらいの大きさの水の塊が出てきた。なるほど、お水を飲ませたら目を覚ますかも。納得しながら見ていると、その人は水の塊をシルバーさんの顔の上に……落とした?

「うぇ!?」

 ぱしゃ、と水が弾ける。当然、シルバーさんの顔はびしょ濡れだ。いきなり何をするのかと驚いてバンダナの人を見ると、いたずらっ子のような笑顔。起こすにしたってなんて乱暴な起こし方なんだろ。驚く私をよそに、その人は「おーい」と声をかけながらシルバーさんの傍らにしゃがみ込んで、水滴の跡がついた肩を揺すった。

「ん……?」
「起きたか、シルバー」
「カリムか……あぁ、起こしてくれたのか。すまない」
「え? え? あの、大丈夫ですか?」
「? お前は……?」

 シルバーさんはのっそり起きて、まだ寝ぼけたような目を私たちに向けている。びしょびしょなのにまるで気にするふうもない。なにをしても起きなかったのに、これで起きるものなのかな? なんだか騙されたような気分かも。
 そう思う私をよそに、カリムさんはシルバーさんと私を交互に見た。

「お前が居眠りしてるって、この子が教えてくれたんだ。えぇと、なんて言ったっけ?」
「えと、ティナ・キースリンクです」
「ティナか! オレはカリム・アルアジーム。スカラビアの寮長だ、よろしくな!」

 そう言ってバンダナの人ことカリムさんはにっこり笑った。マレウスさんやリリアさんとは違う、けども安心させてくれるような、元気いっぱいの明るい笑顔だ。よく日焼けした肌といい、お日さまを感じさせる人だなって、なんとなく思った。
 そっか、カリムさんは寮長さんなんだ。たしか、スカラビアって賢い人たちが多いんだよね。そんな寮の寮長さんなら、こんな咄嗟のことに対応できたのも納得かも。

「カリムさん、ですね。あの、ありがとうございます」
「気にすんなって、困った時はお互い様だろ!」
「キースリンク、カリムもすまない。助かった」

 すっかり目を覚ましたらしいシルバーさんがハンカチで顔を拭きながら立ち上がると、授業始めの鐘が鳴った。鐘の音を聞いて、カリムさんが驚いたように目を丸くした。そういえば、授業に行く途中だったんだっけ?

「いけね! じゃあなティナ! シルバー、急ぐぞ!」
「あぁ」

 そう言って二人は魔法薬学室へ向かって走って行った。
 ……いきなりのことばかりで頭が追い付かなかったけど、シルバーさんは大丈夫なんだよね? あんなに元気に走れるんだから、どこか悪いということはなさそう。それなら、カリムさんが言った通り、ほんとに居眠りだったんだと思う。道端であんなに深く眠っていたことに疑問は残るけど。

……いっか」

 遠ざかっていく二人の後ろ姿を眺めながら、そう思うことにして私も鏡舎に向かった。もし何かあっても、寮長さんと一緒なら大丈夫だよね、きっと。

 歩きながら、ちょっとだけ考えた。王様のようなマレウスさん、ルールに厳しいというハーツラビュルの寮長さん、それに明るいカリムさん。一口に寮長さんって言っても色々なんだなぁ。
 それに、お料理上手なハーツラビュルの副寮長さん、不思議なお料理の腕のリリアさん。副寮長さんも色々だ。スカラビアの副寮長さんはどうなんだろう? スカラビアもよくパーティーをしてるみたいだから、やっぱり上手なのかな? そんなことを考えながら寮に戻った。