いまち
2022-09-16 21:54:22
3382文字
Public のえぴよ
 

後輩の武勇伝を聞き出すっておはなし

ぶった切ったお話をリサイクル。

 お話しているうちにティナちゃんはすっかりいつもの調子に戻ったようだった。楽しそうに、かわいらしくおしゃべりしている様子を見て、ふと、疑問が過った。
 ティナちゃんはこの通り普通の女の子だ。いくら爆弾を投げたところで、そう簡単に降参するんだろうか? それも、ただでさえプライドの高い生徒が集まっているこの学園の中でも、屈指の負けず嫌いが揃うサバナクロー生がだ。
 他寮に比べて魔法の腕は劣るサバナクローとはいえ、仮にも名門魔法学校に通う身だ。留年しない程度の防衛魔法も治癒魔法も使えるはずだ。そんな上級生が三人揃ってディアソムニア生とはいえ、女の子一人に降参するって、いったい何をしたらそんなことをできるんだろう? よく絡まれる身としては、後学のためにも知っておきたいのと、純粋に興味があったから聞いてみることにした。

……ところで、ティナちゃん。どうやってサバナクロー生を降参させたの?」
「え? えぇと、まず氷のばくだんで三人の動きを一気に止めたんです」
「氷の爆弾って、もしかして採取の実習授業の時の?」

 以前、採取の授業中に狼に襲われたことがある。その時、ティナちゃんは狼を氷漬けにしていた。あの時は魔法でそうしたのだと思っていたけれど、あれは爆弾だったってことなんだろうか。
 聞くとティナちゃんは「はい」と頷いた。

「私、元の世界では魔法でばくだんの範囲を広げたり、強化したりしてたんです。それで、とびっきり広く、強くしたばくだんを投げて、動けなくしたんです」

 なるほど、いきなりそんなことをされれば怯んで動きが鈍くはなりそうだ。けど、「氷」というのが気になった。いくら強化したとはいえ、氷は氷だ。火の魔法で簡単に溶かせてしまう。火の魔法は基礎中の基礎、多少の得手不得手はあるとはいえ、誰でも使える。そう考えているのが伝わったのか、ティナちゃんは「それで」と続けた。

「怯んだ隙に麻痺して動けなくなるまで雷のばくだんを投げたんです。それから念のため氷のばくだんで拘束して、あとは降参するように頼み込んだんです!」

 ティナちゃんはあっけからんと言ってのけるけど、そう簡単にできるものなのかな?
 そう思って、以前、採取の授業で狼に襲われた時の事を思い出した。
 藪から狼が飛び出してきた時、ティナちゃんはきょとんとしながら狼に背を向けていた。なのに、次の瞬間には狼は氷漬けになって、ティナちゃんの足元に転がっていた。
 あの時は混乱していてよく分からなかったけど、今思えばあの時のティナちゃんの反応速度はとんでもない速さだったのではないと思う。その速度をもってすれば、いくら瞬発力に長けた獣人といえどティナちゃんに負けてしまうのではないか、と。だって狼だよ? 食物連鎖の頂点に近い狼を瞬殺しちゃうんだよ? そりゃあ、獣人ごとき(って言ったら悪いけど)じゃ敵わないよ。……そう考えて思わず納得した。
 見た目はかわいい女の子だけど、なんだかんだいってもディアソムニアに振られるだけある。ティナちゃん、元の世界ではなにをしてそんな強くなったんだろ。それとも、ティナちゃんのいた世界ではこれが普通なのかな。

……そういえば、脅したって言ってたけど、なんて言ったの?」

 普通、ティナちゃんの爆弾攻撃だけで白旗ものだと思うけれど、件のサバナクロー生はそれでも首を縦に振らなかったそうだ。恐るべき強情さだ。そんな彼らを屈服させたとなると一体どう脅したのか、ティナちゃんのかわいらしい雰囲気からはまるで想像がつかないだけに、ものすごく気になってしまった。
 ティナちゃんは「あはは」と苦笑いすると「えぇと」と首を傾げた。うん、かわいい。

「『還元しちゃうよ!』とか『隕石落とすよ!』って脅しちゃいました。その、実際に見せて」

 そう言っていたずらっぽく舌をぺろっと見せるティナちゃん。かわいいけどやったことがかわいくない気がするよ。還元、は分からないけど隕石を落とすって相当高度な魔法だと思うんだけど、ティナちゃんそんなことができたのか……異世界人、恐るべし。

「ねぇ、ティナちゃん。前も言ってたけど『還元』ってなに?」
「え、教えてませんでしたっけ?」
「うん」
「えぅ……ごめんなさい。えと、私の世界の錬金術って物の中に含まれる源素っていうのを取り出して、マナ――ここで言うところの妖精さんに組み替えてもらってばくだんやお薬を作るんです。それで、物の中から源素を取り出すのを『源素還元』って言うんです」
……なんだか、すごく高度なことをやってたんだね」

 だからティナちゃんは妖精と会話ができるのか、と、ちょっと納得。

「えと、ちょっとやってみますね」

 そう言うとティナちゃんは腰に下げた糸をちょっとだけ切り取って手のひらに乗せた。

「見ててください」

 そう言うとティナちゃんの手にあった糸が淡く光り、どこかで聞いた風の音がしたかと思うと次の瞬間には消えていた。何が起きたんだろ? あ、もしかして手品とか? 不思議に思っているとティナちゃんは二本の試験管を取り出した。それぞれがオレンジとレモンイエローの淡い光を放っている

「イイ糸なんですね、とてもいい源素がとれました」
「え、消えたけど?」
「はい。源素還元したものはそのままなくなります。その代わり、源素としてこの試験管の中に集まるんです」
「それを、あの人たちに使った……?」

 だとしたら彼らは試験管の中に……ぶるっ、なんて恐ろしい。あれ? でも普通にいたよね? どういうことだ?  不思議に思っていると、ティナちゃんは慌てたようにかぶりを振った。

「使ってないですよ! 使っちゃうぞ、って脅しただけです!」
「だ、だよね! そんな恐ろしいこと……

 こんなかわいい良い子のティナちゃんができるわけないよね! 脅すのも大概だけどさ。
 いや、そもそも嫌がらせるする方が悪いな。許してはいけない。めちゃくちゃ反省してるようだったけど。

「そうですよ。消したのはレオナさんから許可をもらったマジフトのゴールだけです!」
「んん?」

 マジフトのゴールってあれだよね、あの、マジフト場にあるでっかいの。あれを、消した? え、レオナ先輩もなんて許可出してるの? こっわ!

「えと、さっきも言った通り、全然降参してくれなかったんです。だから、見てたレオナさんに『どうしたらいいんですか?』って聞いたんです。そしたら『マジフトのゴールを一つやるから好きに脅しかけろ』ってアドバイスをくれて……

 話を聞いてキングスカラー先輩、なんか微妙に甘くない? なんてちょっと思ってしまった。けど、夕焼けの草原って結構なフェミニスト国らしいからそうもなるのかな。ティナちゃんはこの通り、かわいい女の子だもんね。
 ……まぁ、そう甘くするならそもそも嫌がらせを止めるべきだと思うけど、結局はナイトレイブンカレッジのサバナクロー生、ってことなのかな。

「だから、マジフトのゴールに隕石を落として、隕石ごとゴールを還元したんです……それで『降参してくれないと同じことしなきゃいけないから降参してください!』って頼み込んで……それでどうにか、です」

 まさかの隕石とのダブルパンチに開いた口がふさがらない思いだった。そりゃあ、爆弾漬けにされた上にそんなのを見せられたら、よっぽどの命知らずじゃない限り首を縦に振るよね。誰だって命は大事に思うものだ。
 まさに、能ある鷹は爪隠す。副寮長はティナちゃんを雛鳥なんてかわいい呼び方をしてたけど、もうすでに立派な鷹なんだよなぁ……なんて言ったら「鳥じゃないです」なんてほっぺを膨らませそうだけど、思ったものは仕方ないよね。
 それからの話を聞くと、脅しかけた後、降参した彼らにティナちゃんは持っていた薬で彼らの治療を行ったのだそうだ。自分に嫌がらせをしてきた相手にそんなフォローまでするなんて、ティナちゃんは本当に良い子なんだなぁ……そりゃあ、あの三人もあんなに懐くってものだよね。
 納得して、ティナちゃんとのお話をつづけた。時間はまだある、今日までお話できなかった分を取り戻すためにも、いっぱいお話しないとね。